Fate/Glass Moon   作:パンda

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プロローグ -side A- 1

「はぁ―――はぁ―――は、」

 

 

 

 

子供のころ、

オオカミから追われる獲物(エサ)のように、私は走っていた。

 

 

 

 

 

どくどくと鳴る心臓。

 

 

外に出て遊ぶことがあんまり無かったから、息はすぐに乱れた。

 

 

走る途中、木の枝に引っかかり傷を負ったけど気にならなかった。

 

 

「はぁっ、は、あ――――――!」

 

 

体が痛い。

肺が痛い。

足が痛い。

 

 

これ以上走るのは止めてくれと、体が訴えている。

 

 

「う、あ、あ――――――あっ」

 

 

足がもつれ、みっともなく転んだ。

 

 

あんまりにも痛いので、涙が出た。

 

 

口の中に土と草の味が広がる。

 

 

「――――――」

 

 

仰向けに寝転がったので、空が見える。

 

 

私の気持ちとは裏腹に、空は快晴だった。

 

 

何だか腹立たしかったので、空に向かって掴んだ雑草を投げ捨てる。

 

 

 

……自分の顔にかかった。

 

 

 

「…………は、ぁ」

 

 

ため息をつく。

 

 

心臓が、まだうるさい。

 

 

 

 

『妻は失敗したようだ』

 

 

父が言っていた言葉を思い出す。

 

 

あの人は、ひどくつまらなそうにそんな言葉を口にした。

 

 

無くなったモノに感慨など抱かず。

 

 

当たり前のように、私を見下ろしながら。

 

 

『志保、次はお前の番だ―――』

 

 

そんなことを言ってきた。

 

 

 

 

「はぁ―――――なんか、もう」

 

 

どうでもいいや、と呟く。

 

 

 

いなくなった母親のことも。

 

 

私達をモノのように扱う父親のことも。

 

 

儀式のことも。

 

 

魔術のことも。

 

 

根源というモノのことも。

 

 

自分自身の、命のことも。

 

 

 

「……このまま、消えちゃおっかな」

 

 

目を閉じながらぼやく。

 

 

逃げるのも疲れた。

 

 

走るのを諦めた獲物は、捕らえられ、喰われるのが世の常であり―――。

 

 

 

 

 

「よっこいしょっと」

 

 

 

 

 

どっかりと、私の隣にトランクが無遠慮に降ろされた。

 

 

びくりと体を起こす。

 

 

 

 

「ありゃ、こんな所で何してるの、お嬢ちゃん? 危うく蹴り飛ばされる所だったわよ?」

 

 

 

 

ずけずけと、目の前の女の人は言ってきた。

 

 

私の気持ちとは全く関係なく、そんな事を言ってくる女性に腹が立った。

 

 

「蹴り飛ばされるって……誰に?」

 

 

「馬鹿ね、ここにはあなたと私しかいないんだから、私以外に誰がいるっていうの?」

 

 

当たり前でしょ? と腕を組んで言ってくるその態度に、ますます腹が立つ。

 

 

 

―――よく見れば、目の前の女の人は、女の私でもびっくりするぐらい、キレイな人だった。

 

 

 

「……おばさん、誰?」

 

 

だけどその時の私は意地悪な気分だったので、悪意を込めて言う。

 

 

「こらっ」

 

 

ゴツンと、額を小突かれる。割と痛い。

 

 

「いきなり人を捕まえておばさんはないでしょ?」

 

 

いきなり子供を蹴り飛ばそうとする人に言われたくは無かったが、黙ってしまう。

 

 

「―――で? 何でお嬢ちゃんはこんな所で泣いてるの?」

 

 

気軽に。まるで友達に話し掛けるかのように、その人は聞いてきた。

 

 

「………」

 

 

私はぽつりぽつりと、自分のことを話す。

 

 

自分の家が古くからの魔術師の家系だと言うこと。

 

 

昔からある魔術を専門としていたこと。

 

 

その儀式に母が失敗し、消えてしまったこと。

 

 

……そして、自分も同じ運命をたどるということ。

 

 

魔術のことは誰かに話しちゃ駄目だと、何度も母に言われてきたが、もうすぐ消えてしまう私にとってはどうでもいいことだった。

 

 

「ふうん、そっか。それで闇雲に走ってここまで来たってきた、と」

 

 

ぽふ、と頭を撫でられる。

 

 

……びっくりした。この人は私が言った話を子供のつくり話だと馬鹿にせずに、信じてくれるようだ。

 

 

「……でも、どうでもいい」

 

 

どうせ自分ももうすぐ消える。意味などない。

 

 

―――いや、それを言うなら全てのモノに意味なんてない。

 

 

私たちが最後に迎えるのは死だけ。

 

 

どんな人も、最後には死んじゃうわけだし。

 

 

 

 

だったら、この胸の痛みにも、何の意味もない―――

 

 

 

 

「ねぇ。君は生きたい?」

 

 

唐突に、目の前の女の人は聞いてきた。

 

 

「……生きたいわけ、ないでしょ。だって意味ないんだから」

 

 

顔をうつむいて言う。

 

 

「それは嘘ね」

 

 

きっぱりと、目の前の女の人は言ってきた。

 

 

「心にもない嘘は、聞いている人を不快にさせるわよ。お嬢ちゃん」

 

 

「なんで……嘘だって―――」

 

 

優しく頭に手を添えられ、こつんと額をつけられる。

 

 

蒼い目が―――私を見つめている。

 

 

 

 

「生きたくないと言うのなら―――何で貴女はここまで走ってきたの?」

 

 

 

 

「―――あ」

 

 

彼女の言葉で、ようやく理解した。

 

 

私は走るのが嫌いだ。

疲れるし、気持ち悪くなるし。

 

 

そんな私が、なんでがむしゃらに走り始めたか―――。

 

 

 

……きっと悔しかったのだろう。

 

 

 

何もできなかった無力な自分が。

 

 

 

大好きだった母親を助けられなかった自分が。

 

 

 

このまま何も残ず、消えていく無価値な自分が。

 

 

 

だって、まだ―――。

 

 

 

 

まだ私は、自分の意思で戦ってすらいないのだから―――。

 

 

 

 

「死にたく……ないなぁ」

 

 

涙がこぼれた。

 

 

 

悔しい気持ちで胸がいっぱいになる。

 

 

 

 

「ようやく、自分の気持ちが言えたわね」

 

 

 

 

 

すくっと、女の人は立ち上がる。

 

 

「よし、それなら私に任せなさい」

 

 

「え?」

 

 

 

「あなたの願い、叶えてあげる。

……それに、どうやらそれが私がここに来た意味のようだしね」

 

 

 

「あなた―――誰?」

 

 

ニッと笑い女の人は答えた。

 

 

 

 

 

 

「私はね、魔法使いなの―――」

 

 

 

 

 

その人が、実はとんでもない有名人だと知ることになるのは、もうちょっと後の話。

 

 

 

それが、私と先生との出会い。

短かったけれども、不条志保(ふじょうしほ)にとって、忘れることの出来ない大切な思い出―――。

 

 

 

 

   ◇     ◇

 

 

 

『先輩。先輩、起きて下さい』

 

 

かわいらしい声が耳に響いた。

瞑っていた目を開ける。周りはぼんやりと明るくなっていた。

 

 

「……わかった、わかったわよ、起きるから後5分―――」

 

 

『ほら、朝ごはん冷めちゃいますよ?』

 

 

「でも、せっかくいい夢観てたんだからさぁ―――」

 

 

『もう、起きないと遅刻しちゃいますよ?』

 

 

「もうちょっとだけ、夢の続きでも―――」

 

 

 

 

 

『―――これだけ言っても起きないんですね。ユルサナイ―――』

 

 

 

 

 

「起きる! 起きるから―――‼」

 

 

がばっと体を起こし、スマホに入れた目覚ましアプリを終了させる。

 

 

「はぁ……時々ホラーっぽい口調で起こすのよね、このアプリ」

 

 

目覚まし時計の音にも長年聞き続けたので耐性ができてしまっているのか、最近無意識に目覚まし時計を止めてしまう日々が続いていた。

 

 

で、購入したのがこの『可愛い後輩が毎朝起こしてくれる』目覚ましアプリ。

 

 

毎回セリフが固定じゃ無いというのがこの目覚ましの優秀な所か。

だが、ヤンデレっぽい声で起こすのがちょっと怖い。

 

 

画面に今日の日付が表示される。

 

 

「そっか―――来ちゃったか、この日が」

 

 

胸に不安と期待がない交ぜになって押し寄せる。

 

 

時刻は六時半。

朝の準備には余裕で間に合う時間帯だ。

 

 

「……よし」

 

 

それじゃあ、この平穏な一日を、噛みしめるように味わおう―――。

 

 

 

   ◇     ◇

 

 

扉を出て、鍵を閉める。

横を見ると、隣の部屋の扉が開き、スーツを着た中年の男性がいそいそと出たところだった。

 

 

「パパ、いってらっしゃい!」

 

 

玄関にちらりと、幼い女の子が笑顔で父親を見送っているのが見える。

 

 

「………」

 

 

普通なら見ていて微笑ましい光景なのだろうが、私としては少々複雑な気持ちになる。

父親を笑顔で送り出す、か。

私にはそんな記憶は無かったなぁ。

 

 

羨ましいというわけではないが、知りたいという気持ちはある。

 

 

「っと。意味のない感傷はやめやめ」

 

 

親子の部屋を軽く会釈して通り過ぎた。

 

 

マンションから外に出て振り返り、貼り付けられている看板を見た。

『オオガワマンション』という文字が彫られている。

 

 

このマンション、10階建てで、造りは良質、家賃がお手頃でバス停から近いと長所が数多く存在するが、ある一点であまり利用者がやってこない。

 

 

曰く、『このマンションには、幽霊が出る―――』

なんでも、過去に交通事故で死んだ住人が、夜な夜なマンション内をうろつき、生者を引きずり込もうとするとかなんとか。

 

 

いや、交通事故ではなく殺人事件を起こした一家だっけ?

住人の中には、怖いもの見たさで契約する人も少なからずいるらしいが―――。

 

 

「まぁガセだったんだけどね」

 

 

念のためマンション内を上から下まで調べたが、怨霊・ゴーストの気配は全くなし。

きっと何処か似た名前の、別の建物の噂が移ったのだろう。

 

 

少し、このマンションの大家に同情してしまう。

 

 

 

バスで揺らされること30分。

目的地である学校に辿り着く。

私立・幌萌月(ホロモツク)学園。

 

 

「……やっぱりちょっと寒いな」

 

 

10月も終わり、そろそろ秋から冬へと移り変わる頃。

関東ではまだ温かいのだろうが、こっちはめっきり寒くなった。

なにせ日本でも北部に位置する地方だ。息も薄っすらと白くなっていた。

 

 

ぽん、と肩を軽く叩かれる。

「おはよ、シホっち。元気?」

 

 

話しかけてきたのは、同じクラスにいる滝川絵美(たきかわえみ)。

誰にも話しかける気さくな態度と人懐っこい笑顔から、人気があるらしい。

 

 

「おはよう滝川さん。今日は冷えるね」

「んー、そう? 別にこの時期にこれくらいなら普通―――と、シホっちは今年にこっちに引っ越してきたんだっけ? 確か前は関東?」

「うん、そんな感じ。でもまさかここまで冷え込むとは思わなかった」

「ふふん、甘いねー。あと1か月もすればちらちらと雪降ってくるわよ」

「おお、まじか」

恐るべし、北の大地。

 

 

「やっぱ問題になるのは雪かきなんだよねー。うち無駄に広いからさ。家族総出で雪かきするはめになるの」

たはは、と彼女は困ったように笑った。

 

 

お互いに歩きながら、会話を交わす。

他の生徒もちらほらと見える。

 

 

「あ、そういえばシホっち、聞いたことある? 狼の話」

 

 

 

ふと、下駄箱で靴を履き替えている際、滝川さんはそんなことを言ってきた。

 

 

「? いや、聞いたことないけど……」

 

 

「それがね、ここ最近、街で狼の遠吠えのような鳴き声が夜に聞こえてくるんだって。

珍しいよね、熊が山から下りてくるのは聞くけど、狼って」

 

 

狼という言葉で、昔読んだシートン動物記に出てくる狼王を思い出す。確かに、海外ならともかく、日本じゃあ狼を見たという事は珍しいのかもしれない

 

………………………ってちょっと待った。

 

 

「え、熊、来るの?」

「? そりゃあ来るでしょ」

「危なくない?」

「危ないわよ。ヒグマだし。あ、対策としては目をそらさないことね。死んだふりは無意味だから、逆効果だし」

「……ううむ」

改めて、恐るべし、北の大地。

 

 

 

教室に着いたのはホームルームの15分前。

もうすでに半分近くの生徒が席に着いていた。

「……自習でもするか」

1時間目の世界史の教科書をパラパラとめくった。

 

 

 

昼休み。教室が賑やかになる。

私は鞄から弁当箱を取り出した。

 

 

「シホっちー。一緒に食べよー」

 

 

滝川さんが顔を覗かせる。

 

 

「ええ。いいわよ」

 

 

お互いに弁当箱を開く。

 

 

「シホっちって、料理は自分でやる方?」

「うん。これも自分でつくったやつ」

「偉いねー。私は母さんがつくるんだけどさ、家は兄弟多くて。時々手を抜かれたり、アンタも手伝いなさい! って怒られるんだよねー」

「まぁ、料理っていうのは慣れよ、慣れ。変なアレンジを加えない限りは、何回もやっていけば上手くなるから」

「うーん、とりあえずレシピから探すか……」

滝川さんはスマホを取り出し検索する。

 

 

「まずは簡単なものからね。それと余りレシピを過信しすぎないこと。レシピ通りやっていっても味が塩っぱかったりすることあるから」

「じゃあ、これなんてどう?」

滝川さんの画像を見ながら、お昼は過ぎていく。

 

 

これが世に言う、学生同士の会話というやつなのだろうなと、私は他人事のように思った。

 

 

ある程度会話が弾んでいると、滝川さんは聞いてきた。

 

 

 

 

 

「そう言えば、シホっち。聖杯戦争って知ってる?」

 

 

 

「―――」

 

 

 

どくんと。心臓の鼓動が聞こえた。

 

 

 

一瞬、箸を落としそうになってしまう。

 

 

静かに息を吐く。

 

 

「シホっち?」

滝川さんが怪訝な表情でこちらを見る。

 

 

「え? ええ、何の話だっけ?」

 

 

「だから聖杯戦争。ほら、最近トレンドにもなってる()()()()()()()()のこと」

 

 

「ああ―――――――――――知ってるわよ、勿論」

 

 

「聖杯という万能の願望機を求めて、古今東西の英雄達が闘う! って、なんかストーリーがカッコいいよね」

 

 

「滝川さんは、そのゲームやってるの?」

 

 

「うん。私的に一番のお気に入りは、やっぱりアーサー王かな。金髪イケメンで王子様だし。でもクーフーリンも捨てがたいなぁ。兄貴って感じがするし。

でも、過去の英雄を召喚して闘わせる、なんてそんな発想よくでてきたよね」

 

 

「ええ、本当。どこから出てきたんでしょうねぇ……」

 

 

席を立つ。

 

 

「飲み物買ってくるね」

 

 

教室を出て、突き当たりの自販機がある踊り場まで歩く。

 

 

「……それにしても」

 

 

自販機にお金を入れながらぼやく。

今のは本当に驚いた。

一般人から聖杯戦争という言葉が出て来るとは。

 

 

「闘う前にこれじゃあ、参っちゃうな―――」

 

 

 

「何だよ、聖杯戦争を辞めたいのか? そりゃありがたい、腑抜けのマスターなぞ倒しても意味ないからな」

 

 

 

後ろから声がする。

 

 

「あら、こんにちは仁宮(にのみや)くん。女の独り言を聞くなんてマナーがなってないわね」

 

 

振り返り、皮肉たっぷりに言ってやる。

 

 

そこに立っているのは一人の男子生徒。目つきは鋭く、偉そうにふんぞり返っていた。

 

 

「……教会からの連絡だ。聖杯の顕現が確認された。間違いなく本物だそうだ」

 

 

「ふうん、あっそ。ガセじゃ無かったんだ」

 

 

「当たり前だ。四度目以降、何度も亜種聖杯戦争は繰り広げられたが、どれも失敗。聖堂教会もうんざりしていたが、ようやく重い腰を上げて調べたみたいだな」

 

 

「それで、その栄えある土地を管理しているのが、貴方の所だったってわけ?」

 

 

「……月織の土地は、お前ら魔術師が価値なしとして今まで見もしなかった土地だ。

だが今回の件で連中は認識を改めるだろうな」

 

 

「回りくどいわね、ようは土地が一流だから自分も一流の魔術師だって言いたいわけ?」

 

 

缶のプルタブを開き、ミルクティーを一口飲む。

 

 

「喚んだのか?」

 

 

「ん?」

 

 

「サーヴァントだ。席はまだいくつか残っているが、お前は何を喚ぶつもりだ?」

 

 

「……はぁ」

 

 

ため息をついてしまう。

こいつは何を言っているのか。

 

 

「あなたね、敵対する相手にわざわざ手札をさらすバカがどこにいるっていうの? 触媒の横取りでもするつもり?」

 

 

「まさか、お前が喚ぶ英霊なぞ、そう大したものでもあるまい」

 

 

……しかしこいつ、いちいち突っかかってくるなー。

 

 

「そういうあなたは何を召喚するのかしら? よっぽど自身があるみたいだけれど?」

 

 

「答えると思うか」

 

 

「……忠告しておくけどね、強力な能力を手に入れた奴ほど慢心しやすいものなのよ。せいぜい、油断しているところを後ろからサクッと刺されたりしないようにね」

 

 

普通だと思っている奴の方が、特別な奴よりよっぽど扱いづらい―――と先生は言っていたっけ。

 

 

 

その場を去る。

 

 

「期限は明日まで…か」

 

 

言われずともわかっている。

召喚は今夜、行う予定だ。

 

 

   ◇     ◇

 

 

学校が終わり、マンションへと帰宅する。

 

 

マンション内のエレベーターに乗り、指定のボタンを押した時、見知った顔が入ってきた。

 

 

「あ」

 

 

「……む」

 

 

エレベーター内に、私と彼の二人きりになる。

 

 

「………」

 

 

「………」

 

 

お互いに黙ってしまう。

 

 

見知った顔……というか、同じクラスなので、見る顔ではあるが、会話したことは一度もない。

 

 

いや、授業の時にニ、三回は会話を交わしたことがあるだろうが、そんなのは会話とは言わないだろう。

 

 

向こうとしても何を言えばいいのか、気まずそうに頭をかいている。

 

 

そんなことをしている間に、エレベーターが到着した。

 

 

私の方が部屋が下なのか、先に降りる。

 

 

 

「不条って、ここに住んでたんだな」

 

 

 

後ろから声が聞こえた。

 

 

振り返れば、もうエレベーターの扉は閉まっていた。

 

 

……ひょっとして、挨拶のつもりだったのだろうか?

 

 

 

 

こちらも、さよならの一つぐらい返すべきだったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

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