神父様のグランドオーダー 作:武装神父隊隊員
「失礼します、オルガマリー所長」
扉をノックすると共に、中からの返事を待たずに扉を開ける。 急いでいる事だし、多少の無礼は許されるだろう。
「ちょっと、返事をする前に開けないで貰えるかしら? アンデルセン神父」
「これは失礼しました。 レフ教授からの言いつけ通り、最後のマスター候補を連れてきましたので」
「レフが? わかりました。 ありがとうございます」
「いえ、これで失礼させていただきますね。ほら藤丸さん、マシュも」
何が始まるのか困惑する藤丸さんと、自分も参加するのかと驚いた顔を見せるマシュを部屋へ入れる。
最後に一礼して部屋を出る。
「アンデルセン神父」
背後から呼び止められると、そこには魔神柱の野郎が立っていた。
「...なんでしょうか、レフ教授?」
「いや、貴方には彼女たちをこちらに連れてくるよう頼んだので、そのお礼でね」
「それだけですか。失礼します」
「まあそう言わないでくれ」
レフはそう言うとチョイチョイと自分の隣を指差す。 少し来いと言う事だろう。 わざわざ魔神柱の隣に行くほど、自分はMではないのだが...
「...何用です?」
「いや、単なる世間話だ」
「はぁ...? 貴方はまもなく始まる、レイシフトのミーティングに参加するのでは?」
「おっとそうだったな、これは失敬。 だがもう少し待っていてほしい」
「...?」
思わせぶりな事を言うと、レフは部屋へと入って行った。一体何が起きるんだ...?
———————
5分くらい経っただろうか。
結果はすぐに現れた。 レフが藤丸さんを連れて部屋から出てきたのだ。
「...レフ教授に、藤丸さん?」
「すまないアンデルセン神父、彼女を部屋まで案内してくれないか?」
「はぁ、中で何があったのですか?」
「藤丸さんは極度に疲れていたので、居眠りをしてしまってね。 オルガマリーに叩き出されたのさ」
確かに彼女は少し辛そうだ。 別段嘘でもないのだろう。
「わかりました」
「頼んだ」
短く了承すると、レフはまた部屋の中へと入っていった。 すると藤丸さんは、さっきまでの眠たくて辛そうな顔が嘘のように覚めていく。 凄いねこの子、演技派女優になれるよ。
「...さっきのは演技かな?」
「はい。何かあそこに居たら危なそうだなぁ、と...」
「多分、間違いではないと思いますよ」
「あと、あの教授さんが何か変だなぁ、と感じました」
「...それも、あながち間違いではないですね」
「えっ、どう言う事ですか?」
「...移動しながら話しましょうか」
驚いた彼女にまたついてくる様に促すと、壁の地図を見つつ彼女の部屋へ移動する。
「えーっと、神父様で良いですか?」
「好きな様にどうぞ。皆んなかなり自由に呼んでいますが」
とは言っても実際にカルデアで呼ばれる時は、『アンデルセン神父』か『神父様』なのだが。
「どうしてあの教授さんが変だというのが、正しいのですか?」
「...説明しようとすると難しいですね。 簡単に言ってしまえば、彼は人間ではないからです」
「人間ではない...?」
「【カルデアス】や【シバ】については聞きましたか?」
「ざっくりと、ですけど」
「僕が思うに、あれらは人の叡智を遥かに超えているのです」
自分も初めて見た時は驚いたものだ。 人の叡智を遥かに超越した、人が逆立ちしても作れない物。 だからそれを作成したレフの存在を疑問を持ち、正体を掴めた訳だが。
「...」
「疑問を持つのもわかります。 ですが貴方があの部屋から出てきたのは、正しい行動でした」
そう話していると、彼女の部屋の前へ辿り着いた。
「ここが貴方の部屋です。 任期完了まではこの部屋で寝泊まりしてもらいます」
「...わかりました。何か私、変な道を選んじゃったかなぁ...?」
彼女の言わんとしている事もよくわかる。 だがここに着任してしまった以上、泣き言は言っていられないのだ。
彼女は気を切り替える様に頭を振ると、部屋の扉を開ける。そこには...
「あれ?」
「...えっ?」
「...なぜここにいるのです、ロマ二」
中にはサボリ魔が転がっていた。 おかしいなぁ? あなたは救護室にいるはずだぁ?
「あ、ちょっ、なんで、アンデルセン神父、待って、お願いします!」
「...これはダ・ヴィンチさん案件ですねぇ。こってりと絞られてきますか?」
「い、いやぁ〜そんな事は...三十六計逃げるに如かず!」
「藤丸さん!」
「はい!」
ロマ二が走って部屋を出て行こうとする。
自分が何を言わんとしているのかはっきりわかったであろう彼女は、急いで扉を閉めてロックをかけ封鎖した。
「あっ!」
「さて...ここで何をしていたのです?」
「............した」
「ん?」
「...サボってましたぁ!」
「素直でよろしい。 昨日からの勤務お疲れ様です。 少しは大目に見てもらいましょうか」
「えっ」
「それよりも早く部屋を明け渡してください。 今日からこの部屋は藤丸さんの部屋なので」
「あ、え、はい。 えーっと君が...」
「藤丸立香です。よろしくお願いします!」
「そうか。君が最後のマスター候補なんだね。僕はロマ二=アーキマン。 ここで医者をしているんだ。 よろしくね」
2人ともぺこりと頭を下げ合って挨拶をする。 やっぱり挨拶って大事だなと実感した。
「そういえばレイシフトってもうすぐ始まるんじゃ...」
「そうみたいだね」
「でもなんで立香ちゃんはここにいるの?」
「実は入ってくる時に疲労が溜まってたみたいで、所長からミーティングに叩き出されちゃって...」
「容赦ないなぁ...僕らにももうちょっと優しくしてくれれば良いのに」
ならその勤務態度を見直すべきだ、と言いかけてやめた。 さっき自分から大目に見ようと言って、すぐに否定するのは良くないだろう。
「ここは人類を守るために必要な組織ですからね。 そうも言ってられないでしょう?」
「そう言えば、神父様はなぜここに入ったのですか?」
「それ、僕も知りたいんだよねぇ...聞こうとしても聞けない雰囲気出してるし」
「そうですね...僕がここに来たのは」
ズドォォォォォォォン‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎
「!」
「きゃっ!」
「うわっ⁉︎」
話そうとした瞬間に爆発が起きた。 まさか...
「爆発!?」
「神父様が言っていた事って...!」
「藤丸さん、ロマ二」
「今のは...司令室の方だね」
「司令室...⁉︎そんな!あそこにはマシュが!」
「まさか特Aレベル危険事項とは...レフの野郎、やってくれるじゃないか...ロマ二!」
「は、はいっ!」
「工房からダ・ヴィンチさんを連れて電源室へ! 電源室の状況確認と予備動力の起動、最低限の電気供給の確保を!」
「了解!」
「藤丸さん!」
「はい!」
「司令室へ向かい、状況確認と避難の誘導、怪我人の応急手当を!」
「で、でも、私、応急手当なんて...!」
「怪我人にはこれをページを一枚ずつ貼ってください」
そう言って腰の後ろ側にベルトで吊っておいた聖書を手渡す。
「《恐れをもて主につかえ、おののきをもて喜べ》」
「神父様?」
「この聖書は法儀式済みの紙が使われています。怪我人に貼れば、一時的な応急処置が自動で行われますから持って行ってください!」
「わ、わかりました! でも神父様は⁉︎」
「僕は礼拝堂からもう一冊、聖書を持って来ます。確保したらこちらもすぐに司令室に向かいますので! 急いで!」
「はい!」
ロマ二と立香が部屋から駆け出し、振り分けた持ち場へ向かったのを確認すると、自分も礼拝堂へと走った。