神父様のグランドオーダー   作:武装神父隊隊員

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Chapter-4

「う...ん...」

 

ふと目を覚ますと、そこは炎に包まれた都市だった。 何と言うか、アンデルセンの記憶...第九次空中機動十字軍遠征(レコンキスタ)が行われた、あの日の英国首都(ロンドン)...に酷く似ていた。何もかもが焼ける匂いが立ち込めている。

 

「酷いな、これは...」

 

そんな言葉しか出てこない。 人ひとり居ない—いや、居たとしても既に焼かれるか、崩壊した建物の下敷きになって死んでいるのは、想像するのに易くない事だ。

あまりにも酷い状況に、手が自ずと胸の前で十字を切った。

 

「ううっ...」

「マシュ...⁉︎」

 

ふと視線を下げれば、藤丸さんに折り重なる様に倒れていたマシュが身体を起こしていた...のだが、問題はその格好だ。

 

「その格好は...いえ、聞く必要もありませんね...」

「...そうみたいですね」

 

ぴっちりとしたノースリーブの様な黒と紫色の上着に、これまたぴっちりの黒と紫色の短パン。 そして極め付きは彼女の持った大きな盾。

 

「今の状態は?」

「先輩の手の甲に令呪が浮かび上がっているので、先輩がマスターかと...」

「そういう事ではなく...曲がりなりにも今のマシュは彼らの言う所の《サーヴァント》なのですから、魔力供給は大丈夫ですか?」

「問題ない、と思います...」

 

彼女がそう言うと、倒れ伏していた藤丸さんが起き上がった。

 

「ん...へ? ここ、どこ?」

 

そんな事は知らないし、むしろこちらが聞きたい。 とにかく、とんでもない災害のど真ん中にいるっていうのは分かる。

 

「藤丸さんは大丈夫ですか?」

「は、はい。 それよりもここ、どこなんですかー⁉︎」

「...もしかして、冬木市?」

 

マシュはそう呟く。

 

「どういう事です?」

「先輩が部屋から出た後のミーティングで、今回のレイシフト先が発表されたんです。 それがこの特異点、冬木市じゃないかと」

「...ここを修正する訳ですか」

 

今ここに来ているのは、自分、マシュ、藤丸さんを含めて4人。 知らない1人とは近くにいなかったので、その人は別の場所に出てきたのだろう。

 

「さながら炎上汚染都市、か...ともかく行動するべきですかね」

「ええっ⁉︎」

「カルデアとは繋がらない、特異点の原因を回収しないと人理は復元しない、後の1人を探す...これらの観点から、行動を起こす利点はあると思いますよ」

 

そう言って周囲を見回して目立つ建造物を探す。 目に付くのは大きな橋と教会くらいだ。 取り敢えず今は情報が欲しい。

 

「少しした所に教会が見えます。 そこまで移動しましょうか」

「分かりました」

 

 

——————

 

 

「着きましたね...」

「うへぇ...」

 

移動中に何かただならない気配がしたが、それに遭遇する事はなかった。

ただ、協会に着いたは良いものの既に他の場所から延焼しており、とてもじゃないが休める状況ではない。

 

「取り敢えずここを起点に霊脈を探して、観測基準点を作りましょう。 多分Dr.ロマ二もこちらを観測しているはずです」

「そうしましょうか...よし」

 

聖書からページを数枚引き抜いてピックと共に飛ばし、町の各所に結界を作り上げる。

 

「《我に求めよ。 さらば汝に諸々の国を嗣業(しぎょう)として与え地の果てを汝の物として与えん》」

「神父様?」

「各所に結界を作って、大きな霊脈を探してみます...」

 

そうして結界が成立すると霊脈の状態や周りの状況が感覚として流れ込んできたが、あまりにも霊脈の汚染度が高く気分が悪くなってくる。

 

「アンデルセン神父、どうしたの?」

「霊脈が汚染されてますね...」

「ええっ⁉︎」

「マシュ、どういう事なの?」

「先輩、下手をするとサークルが設置できないんです」

「じゃあ、ロマニとも連絡がつかないの?」

 

だからと言っていつまでも連絡が取れないのも問題だ。

 

「ここにも霊脈って走っているんですよね?」

「そうですが...」

「ならアンデルセン神父の結界で一時的に霊脈を浄化すれば良いんじゃ?」

 

それが出来れば言うこと無しなのだが...まあ、やってみる価値はありそうだ。

 

「...やってみましょうか」

「神父様⁉︎」

「やってみる価値はありますよ。 私は戦闘だとあまり役に立ちませんからね。 適材適所という物です」

 

再び聖書から数枚ページを引き抜くと、今度は星の形を意識してページを地面に固定し結界を作り出す。

 

「《我に求めよ。 さらば汝に諸々の国を嗣業(しぎょう)として与え地の果てを汝の物として与えん。 その怒りは速やかに燃ゆベければ。 全て彼により頼む者は幸いなり》」

 

先ほどの結界よりも強度を強めるために、詠唱を一段階延ばす。 結界陣の形と詠唱の強化により結界の強度が増し、汚染されていた霊脈が結界の内部だけ浄化される。

 

「...うまくいきましたね。 マシュ」

「わかりました。 サークル、展開します」

 

マシュが盾を地面に付け、霊脈と接続しサークルを展開する。 特に異常は見られない。 どうやら成功したようだ。

 

「...展開、完了しました」

「なら後は...」

『聞こえますか、アンデルセン神父!』

「聞こえてますよ」

 

サークルが展開されるやいなや、ロマ二から通信が入る。

 

『良かった。 無事に召喚サークルを展開出来たんですね』

「ええ。 ですが特異点を修復するにも戦力が足りません。 そちらから追加で戦力を送る事は可能で?」

『それが...マスター候補全員が重傷な上に意識不明で、Aチームに至っては全滅している状況です』

「という事は...」

『はい...今はそこにいる、藤丸さんしかマスターとしての戦力がいないんです』

「まさに人類最後、か...」

 

はっきり言って、まだ彼女に人類最後のマスターとしての決意はないだろう。 いきなりこんなものを背負わせるのは酷だ。

 

「それと気になることが1つ」

『何ですか?』

「そちらで観測したレイシフトの反応は?」

『えっと...今の所で、はっきりとしているのはマシュ、藤丸さん、そして神父の3つです』

「...多分、あともう1つ反応があるはずです。 それの捜索を」

『わかりました』

 

そう返答されると通信が切れた。

戦力はこれ以上増えない。 そして現状唯一戦力になり得るのはマシュと自分の2人、そして特異点を修復するだけの力を持つのは藤丸さんただ1人。

酷な事だが、聞かねばなるまい。

 

「アンデルセン神父—」

「藤丸さん、私はあなたに問わねばなりません—」

「えっ?」

「神父様、まさか—」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「—あなたに、人の理を救う覚悟はありますか?」


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