あれから数日経ち俺は理事長の言う通り千歌たちの手伝いをした。もちろん生徒会の仕事もしっかりとこなし忙しい毎日を過ごしている。ダイヤさんから聞いた真実も頭の中で整理してどうすればいいのか考えながら、俺は千歌達と沼津駅周辺でチラシ配りをしているとルビィちゃん達に遭遇してチラシを渡すとルビィちゃんから一つの疑問をぶつけられた。
ルビィ「グループ名は何ですか?」
この一言で俺も頭を抱えた。
それもそのはず。ライブの事で頭がいっぱいで一番大事なグループ名を完全に忘れていたのだ。
その一言を頭の片隅に残してチラシを配っているがイマイチ集中できていなかった。その日はチラシを配り終えて解散になったが、俺に出来ることは少ない。
家に帰り自分のベッドに寝転がり考える。
グループ名は俺が考えるよりも実際に活動する千歌達が考える方がいい。
だから、俺は練習メニューや体調管理などしか手伝うことができない。それ故に千歌達に作詞、作曲、グループ名を考えて貰わなくてはいけないのでかなりの負担になってしまう。
優馬「俺に出来ることって何も無いんだな…。」
そう呟き俺は意識を手放した。
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翌日
千歌達は嬉しそうな表情をして俺を迎えに来た。
千歌「ゆうくん!!聞いて聞いて!!」
優馬「わかった、聞くから落ち着け。曜と桜内さんもおはよう。」
曜「おっはヨーソロー!!」
梨子「おはよう!」
千歌もそうだが、二人も嬉しそうな表情をしていたので俺は聞いてみた。
優馬「何かいい事でもあったか?」
俺が聞くと千歌は大きく胸を張って答えた。
千歌「ふっふっふ。聞いて驚かないでよ?実は…グループ名が決まりました!!」
優馬「そうか、よかったな。」
千歌「アレ?なんか反応薄くない?」
優馬「そんな事ないぞ?すごい嬉しい。それでなんていう名前なんだ?」
千歌「Aqoursって名前だよ!えへへ、いい名前でしょ!!」
千歌が踏ん反り返りそうなほど胸を張りドヤ顔で答える。
優馬「Aqours…か。」
俺は千歌からその名前を聞き少し驚いた。
まさかな…。
千歌「どうしたのゆうくん?もしかして、おかしかった…?」
優馬「ん?いや、そんな事ないよ。いい名前だ。俺は好きだぞ?」
梨子「千歌ちゃん…まるで自分が考えたみたいに言ってるけど違うからね?」
優馬「どういうこと桜内さん?」
俺はそのまま桜内さんに聞き返した。
千歌「わわっ!?梨子ちゃん言わないでよ!」
千歌が慌てて桜内さんに近づき口を封じる。
曜「実は朝練でトレーニングしながらグループ名を考えてたんだけど、たまたま浜辺にAqoursって名前が書かれてて千歌ちゃんがこれにしよう!って言って決まったんだ!」
優馬「へぇ…。偶然か…?」
俺は小さく呟く。
曜「優?どうしたの?」
優馬「あっ、いや、何でもない。とにかくグループ名は決まって良かった!これからは曲作りとダンスがしっかりできるから頑張って行こうな。」
3人「「「うん!!(ええ!!)」」」
3人は元気よく返事をして頷いた。
優馬「よし!じゃあ、今日も今日とて頑張りますか。」
俺たちは足並み揃えて学校へ向かった。
学校を終えて千歌達は町内放送をするため役所へ向かい俺は同伴する事にした。俺は何もしないがあくまで同伴のつもりだ。
千歌達が放送を開始して俺は頭を抱えた。
グダグダ過ぎ…。
そんなこんなで浦の星女学院非公認スクールアイドル『Aqours』が誕生した瞬間を目の当たりにした。
役所から帰っている最中俺は半ば呆れた声で聞く。
優馬「アレは流石に酷いと思うぞ…?」
千歌「だって梨子ちゃんが!!」
梨子「千歌ちゃんが突拍子も無い事言うからでしょ!?」
曜「アハハ…まぁまぁ。」
言い争う二人を宥める曜に加勢して俺は千歌の頭にチョップをかます。
優馬「てい!」
千歌「あいた!もうゆうくん何すんの!?」
優馬「無性に千歌の頭にチョップしたかったから?」
千歌「何で疑問形!?酷いよ…。」
優馬「まぁ、何にせよ明日はライブだ。今日はゆっくり休んで明日に備えよう。当日体調が悪かったなんて言ったらシャレにならないからな。」
ようちかりこ「「「はーい。」」」
こうして俺たちは家に帰りゆっくりした。明日で運命は決まる。不安なせいか夜はいつになく心臓が鼓動が早く眠る事が出来なかった。三人に偉そうに言ったのにこれじゃあ俺の方がよっぽどガキだな。
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ライブ当日
俺はいつも通り早起きをして身支度を整える。ゆっくりは眠れなかったが寝覚めはいい。
俺は兄貴の仏壇の前で線香に火を灯し供える。
優馬「兄貴。今日は千歌と曜がスクールアイドルとして初めてライブするんだ。あんなに熱中してる千歌と曜が見れて俺は嬉しい…。兄貴もそう思うだろ?新しく桜内さんって言う女の子も入ってこれからって時なんだ。だから兄貴も応援しててな。よかったら見に来てくれよ。」
遺影の兄貴に向かって俺は今の気持ちを伝える。もちろん兄貴からの返事は無いけど応援してるって言っている気がした。
優馬「じゃあ、行ってきます。」
俺は立ち上がり玄関へ向かい外に出る。天候は生憎の雨。なんだか嫌な感じだ。
どうか成功しますように…。
俺は心の中でそう呟き学校へ向かった。
学校へ到着するとよいつむトリオが準備を進めててくれた。
優馬「みんなおはよう。今日はありがとな。」
いつき「気にしないで!!」
よしみ「千歌達の晴れ舞台!!」
むつ「絶対成功させようね!!」
優馬「おう!最高の舞台にしてやろう。今日はよろしくお願いします。」
三人ともそんなかしこまらないでよと笑い準備に取りかかってくれた。俺も千歌達の様子を見に行く事にする。
優馬「千歌、曜、桜内さん準備は出来た…か…。」
俺は舞台袖のカーテンを開けて確認を取ると三人ともまだ着替え中で下着姿であり、俺は自分自身焦ると思っていたが意外と落ち着いていた。
曜「あっ…。」
千歌「やっ…。」
優馬「すまん、悪いとは思ってる。」
俺は一応謝った。そして後ろを振り返ろうとしたタイミングで桜内さんがプルプルしていたのが目に入る。
梨子「い、いやーー!!!」
叫び声と共に平手打ちが繰り出されバチンと子気味のいい音を立てた。
そして俺は意識を手放した。
※※※※
優馬「う、ううん…。」
俺は意識を取り戻して起き上がろうとすると頭に柔らかい感触があった。俺はそれを確かめるため頭の後ろに手を回す。
曜「ひゃっ!?///」
優馬「ひゃっ?」
可愛らしい悲鳴が聞こえてその正体が曜である事は直ぐにわかった。
曜「優!!いきなり変なところ触らないでよ!?///」
優馬「曜か。どうりでいい匂いがしたし肌がスベスベだと思った。」
曜「なっ///なっ!?///何言ってんの!!///」
優馬「素直に感じた事だけど?嫌だったか…?」
曜「そ、そんな事、むしろ嬉しい…。な、何言ってんだろ私…///」
恥じらいを見せている曜を見つつ俺は上体を起こす。
優馬「とりあえず曜、ありがとう。それからごめんな。」
曜「もういいよ!私たちも悪かったし。」
優馬「桜内さんもごめんね。わざとじゃ無いんだ。本当にごめん。」
俺は頭を下げて桜内さんに謝罪する。
梨子「わ、私の方こそいきなり叩いちゃってごめんなさい…。」
桜内さんはシュンとした表情を浮かべ俯いている。
俺はそんな彼女の頭の上に手を置いて優しく撫でる。
優馬「俺が気を使わなかったのが悪いんだ。君のせいじゃ無いよ?ホラ顔上げて?」
桜内さんがゆっくりと顔を上げる。その顔は少しだけ赤く染まっているように感じた。
優馬「千歌も悪かったな。」
千歌「ふん!!千歌の頭も撫でてくれないと許してあげない!!」
プンプンと腕を組み怒っていた。
優馬「そうか…残念だな…。これで千歌との関係も終わりか…。」
俺は神妙な面持ちで千歌に向かって冗談を言った。
千歌「えっ…。やだ。やだよ!!ごめんねゆうくん…だからそんなこと言わないで…。」
千歌は涙目になり俺に謝ってくる。
やべ、やりすぎた。
俺は千歌の方へ歩み寄り頭の上に手をポンと置く。
優馬「嘘だよ。意地悪してごめんな。許してくれ。今更俺らの関係を断ち切るなんて出来ないだろ?ホラ、涙拭いて。なっ?」
俺は頭を撫でている手とは逆の手で千歌の涙を拭う。
千歌「うん…グスッ…。ギュってして…。そしたら許してあげる。」
千歌はハグを要求してきて俺に向かって両手を広げ待っている。
優馬「はいよ。」
俺は千歌にそっとハグをする。ハグして千歌の体が震えていることに俺は気づいた。でも、すぐにその震えは無くなった。
千歌「ゆうくんに抱きしめられるとすごく安心する…。さっきまで緊張してて震えが止まらなかったけどその緊張が嘘みたいに消えてくよ…。」
優馬「そうか。そりゃ良かった。今日の為に頑張ってきたんだ。絶対うまく行く、俺が保証する。」
しばらくして千歌が俺から離れていき元通りの千歌になった。
すると今度は曜が何だか顔を赤くしながら俺の方をチラチラと見ている。
優馬「どうしたんだ?」
俺は曜に声をかけてみる。曜はしどろもどろしながら何かを伝えようとするのだが、うまく言葉に出来ていなかった。
でも、俺は曜が何をしたいのか直ぐにわかり、手を広げて笑顔を見せる。
すると、オドオドした表情の曜だったけどパァーッとした表情に変わり嬉しそうに俺の方へ、トトトッと近づいてきてハグしてきた。
曜俺の胸に顔を埋めグリグリしてくる。俺はそんな曜の頭を撫でながら笑みをこぼす。
優馬「曜も不安だったよな。でも今まで頑張ってきたんだから大丈夫。」
曜「うん!!優がいるんだもん!!不安もどっか飛んでっちゃったよ!!」
ニパァと笑い笑顔を見せてくれる曜に俺も笑顔で返す。
そんなこんなで下着を見た件については許してもらえた。だが、桜内さんは相変わらず緊張しているようで体が少し震えていた。
優馬「桜内さん大丈夫?」
梨子「やっぱり緊張しちゃって…。ごめんね…。」
優馬「何で謝るの。緊張するのは当たり前だしまだ時間はあるからゆっくり落ち着こうね?」
梨子「うん…。」
不安な表情を浮かべる桜内さんに千歌と曜が近づく。
千歌「梨子ちゃんもゆうくんにギュってしてもらおうよ?」
梨子「えっ!?///」
曜「そうだよ!!優にギュってしてもらったら緊張も和らぐかもしれないよ?」
優馬「おいおい。人に強要するのは辞めなさい。」
俺は二人の頭にチョップをかまし黙らせる。
千歌「イタ!?うぅ…ゆうくんにギュってしてもらうと安心するから言ったのに…。」
優馬「それはお前だけだろ?」
曜「そんなことないもん…。優はお日様みたいにあったかくて優しい匂いがするの…だから梨子ちゃんも落ち着くかなって…。」
優馬「まぁ…千歌と曜がそう言ってくれるのは嬉しいけど。桜内さんにその感情を押し付けるのはよくないからこれからは気をつけような?」
ようちか「「うん…。」」
優馬「ごめんね桜内さん。二人も悪気があるわけじゃないし許してあげて?」
俺がそう伝えると桜内さんは何か決心した様な表情をしていた。
優馬「桜内さん?」
梨子「神崎くん…いや、優馬くん!!その…私も…あの…その…ギュってして…欲しい…な?///」
優馬「えっ?別に無理しなくてもいいんだよ?」
明かに無理をしている様に見える為、俺は念のため確認を取る。
梨子「ううん…。無理なんてしてないよ?私も、優馬くんにギュってしてもらいたいの。ダメ…かな?///」
上目遣いで俺の顔を覗き込み、桜内さんは俺に自分の意思だという事を伝えてくる。
優馬「わかった。桜内さんがいいなら、喜んで。」
俺が桜内さんの事をギュッとすると桜内さんも俺に身を委ねてくれた。
梨子「梨子…って、呼んで?」
桜内さん。いや、梨子が望む事なら俺は喜んでその要求を飲む。
優馬「梨子、大丈夫。梨子が作った曲はとっても素敵で心に響く曲だよ。俺も千歌も曜もついてる。だから、自分に自信持って。梨子は1人じゃない。」
俺は梨子の事を優しく抱きしめながら伝える。梨子も徐々に落ち着きを取り戻し体の震えも止まっていた。
梨子「ありがとう、優馬くん…///二人の言った通り、優馬くんにギュってしてもらうと不思議と安心する…。何だか元気を貰えて、胸が暖かくなる。」
優馬「そっか…。梨子の事、勇気付けられたんだったら嬉しいよ。」
俺は梨子に優しく笑いかけ頭を撫でながら言う。頭を撫でられている梨子は恥ずかしそうに、でも嬉しそうに笑ってた。
まぁ何にせよ、三人を元気付ける事はできた。後は、三人が全部出し切るだけ。
優馬「さぁ、もうそろそろ時間だ。みんなで円陣でもしなよ!」
俺は最後に提案した。それにみんなも同意してくれて、円陣を組むことになった。
千歌「いいね!実は私、考えてたんだ!!」
曜「私もやりたいであります!!」
梨子「そうね!やりましょうか!」
そう言って三人は肩を組む。しかし、何故か三人が円陣を組み始めない。
優馬「おいおい、どうしたんだ?」
俺は疑問に思い聞いてみた。
千歌「ゆうくんも!!」
優馬「えっ?」
千歌の言葉に俺は驚いた。
曜「当たり前じゃん!!優がいなきゃ始まんないよ!」
梨子「そうよ!!優馬くんも大切な仲間なんだから!!」
三人は笑顔で俺に向かって手を伸ばしてくる。俺は一瞬戸惑ったけど、少しだけ笑いながら三人の手を取り円陣に参加する。その手は暖かくて優しさに満ち溢れていた。
兄貴…。
俺たちの幼馴染たちは本当に優しい子だよ。それにまだ知り合って日は浅いけど、梨子も本当に優しい子だ。そんな三人がこれから晴れ舞台に立つ。どうか、近くで見守っててくれ。
“頑張れよ”
俺の頭の中にそんな声が聞こえた。
俺は思わず笑みを溢して心臓を抑える。千歌たちは心配そうに見つめてくるけど、俺は兄貴が頑張れって言ってると千歌たちに伝えた。
三人もその言葉に嬉しそうに笑った。
優馬「それじゃあ、千歌。掛け声頼むぞ。」
千歌「うん!!いっくよー!!Aqours!!」
「「「「サンシャイン!!」」」」
こうして俺と…いや、俺たちとAqoursの奇跡の物語が始まった。