翳りは月の乙女序章   作:エナフィーナ

1 / 1
花はただ揺れて

星空が舞う夜、三人の乙女が舞い、空の石を集めて国を救う…。

 

 

アデスにはそんな言い伝えがある。

 

騎士団長、レインはそんな言い伝えなと最初から信じていなかった。彼女を見るまでは。

 

 

広い室内の扉がノックされる。

 

「入れ」

 

 

レインの声と共に若い女性が入ってくる。長い髪を結いあげた白装束の女性。水色のガウンが印象的だ。

 

 

「レイン」

 

 

女性…カスミが歩み寄ってくる。なんとなく嫌でレインはけん制しながら振り返った。

 

「なんです? 要件は手短に」

 

立ち止まってカスミはその言葉に苦笑した。

 

「相変わらずだね。だから孤独なんだよ。まあいいわ。残り二人が見つかったそうね。…月の乙女もね」

 

 

訳アリの笑顔を浮かべるカスミ。

 

レインは顔をしかめて言った。

 

 

「それだけなのでした退出を。私は一人が…」

 

言いかけて口を閉ざした。

 

「どうしたの? 私の精霊でも見た? 」

 

 

「いえ…」

 

そう言ってレインは再び背を向けた。どうもこれが彼の癖らしい。騎士でありながら背中を向けるとは。

 

「じゃあね、またね」

 

カスミが部屋を出る。再び静寂に包まれる部屋にレインは一息ついた。人が苦手なのは昔からだ。だが事実なのだから仕方ない。

 

レインはテーブルに置かれてる書類に目を通した。

 

白の乙女、カスミ 黒の乙女葵 月の乙女葉月

 

 

彼女達がこの国を救うという話だが…。

 

「ただの言い伝えでしょう、馬鹿馬鹿しい」

 

そう言った時、レインが激しく咳き込む。ややあって顔を上げた彼の表情は憔悴しきっていた。

 

「早くしなければ…身が持たない…」

 

彼の呟きが部屋に吸い込まれた。

 

+++

 

アデス城門に葉月がいた。周りはアンティーク細工に囲まれ、詳しくはわからない

ガラス細工が並べられていた。

 

「うーん…ここに入れという手紙来たけど…入れないな」

 

 

仕方ないので、裏手に入ることにした。それなら入れると軽く考えていた。それが

どうなるとも知らずに。

 

人気ない道を歩き、それらしき裏門が見えてきた。

 

「あ、あっちから入れるかな? 」

 

門に手をかけた時、後方から鋭い声がした。

 

「そこの者、何をしている?! 」

 

「え…いけなかった…? 」

 

 

振り返ると、アデス城の近衛兵が立っていた。

 

「不審者は全てひっ捕らえる! 」

 

近衛兵が号令をかけ、10数名あっという間に集まってきた。

 

「いやああああ!」

 

 

葉月は城の川沿いに向かって走った。捕まれば死刑と聞いているからだ。それだけ

この国は罪人には厳しい。

 

「捕らえよ!!」

 

全力で走っても、訓練された兵には敵わない。葉月は城の川へ身を投じた。

 

後方で「川だ!!」

 

という声が聞こえたが、他はわからない。

 

息ができず、求める手が空振りになる。究極の苦しみの中で、何かが近づいてきた。

 

直後、葉月は川から引き上げられ、誰かに抱きかかえられていた。

 

葉月が激しくむせる。

 

「全く、こんな騒動を引き起こすとは…。近衛兵も問題ですが、貴女もですよ」

 

 

(え…苦しいの収まった。魔法? )

 

顔を上げると、端正な顔立ちの若い男がすぐそばにいた。彼が抱き抱えていた

ようだ。

 

「フォスト卿!! その者は賊で…」

 

近衛兵の言いかけにフォスト卿と呼ばれた男が言った。

 

「彼女は「月の乙女」です。本来はお前達など、触れてはならない存在ですよ!! 」

 

 

「な……これは…申し訳ございません」

 

近衛兵が列になって深く頭を下げた。

 

「彼女は私が連れて行きます。どこへ行くか、わかりませんからね」

 

「はっ」

 

「はー…はい? 」

 

葉月はそのままフォスト卿に抱きかかえられたままスッと姿を消した。

 

 

瞬間移動だ。

 

 

この時、彼女の何かが大きく変わろうとしていた。

 

+++

 

次に見えたのはどこかの室内のようだ。優美な装飾が飾られている。何かの会議室というより貴族が使う部屋

に思えた。ベッドがあるからだ。

 

「綺麗な部屋ー」

 

思わず声にした葉月。しかしフォスト卿の返事がない。

 

 

先ほどのことをまだ怒っているのかと思ったら、彼は手を額に当てた。

 

 

「しまった…間違えた…」

 

「はい? 」

 

彼は言った。

 

「ここは私の寝室です。空間移動はまだ慣れてないので」

 

 

「………ほぇ…」

 

男性の寝室など、入った記憶がない。思わず目が点になる。

 

「ドウイウイミデスカ」

 

ロボット語の彼女に彼が急かすように言った。

 

 

「すぐ出ましょう。誤解ができると…」

 

言いかけた直後、扉が盛大に開かれる。

 

 

「みーーつけた」

 

二人が扉の方を見ると、カスミがにんまり顔で立っていた。

 

そのあと、レイン・フォスト卿が言い訳とカスミがふざけるというやりとりが

しばらく続いた。

 

カスミはよく人をからかうらしい。

 

 

気持ちを改めてレインに案内されたのは、ピンクが基調の室内だった。葉月好みの部屋だった。

 

「あー可愛い! 」

 

「気に入りましたか。しばらくここで生活してもらいます。構わないそうで」

 

レインが説明をする。

 

「はい。住むのは大丈夫です」

 

悲しむ家族がいない葉月は遠慮なく言った。

 

 

「午後に黒の乙女、葵が到着予定です。それまではごゆっくり」

 

 

礼してレインが去る。静かになった室内で、葉月がベッドに転がった。

 

 

「家族なんかいないもん」

 

そうつぶやきながら、疲れから彼女はしばらく眠りに落ちて行った。

 

+++

 

眠る葉月の耳元で、聞きなれた友人の声がした。妙に近くに聞こえる。

 

「はーづーきー」

 

「うーーーん…」

 

 

まだ寝ていたい。私はよく寝る女…と心で呟いて気づいた。

 

「葵?!」

 

ガバッと起きると部屋に葵がいる。長い髪に赤い服の葵だ。

 

「鍵開いてたよー。危ないって」

 

ケラケラ笑う葵にボーゼンの葉月。

 

「葉月、明日なんか説明あるみたい。なんだろうね」

 

「説明? なんだろ。難しい話は苦手だな」

 

 

葵はせっかくなので城内を見ていくという。どうするかと聞かれた葉月は

しばらく部屋にいると答えた。

 

「色々部屋飾りつけたいからね」

 

「わかった、なら私行くわ。じゃあまたね」

 

手を振って葵が部屋を出る。

 

 

「飾り付け…ああそうか。買わないと。やっぱり葵と行けばよかったかな」

 

少し考えた末、葉月は部屋を出て、店を探すことにした。お金は受け取っている。

 

廊下を出て、適当に歩く。が、似た道が多くすぐ葉月は迷子になった。

 

「うう…あ、あそこにいるの…親衛隊だ。ちょっと苦手だな」

 

親衛隊は近衛兵の上位の兵で、感情を持たないと言われ、戦力は国を亡ぼすと

言われるほどらしい。人ではないようだ。

 

 

「やりすごそう…。近衛兵の二の舞にはなりたくない」

 

隠れる葉月の肩を、何者かが掴んだ。

 

「ひっ!」

 

そのままずるずると目隠しされ、どこかへと連れて行かれる葉月。

 

軽い足音を彼女はかすかに聞いた。

 

+++

 

「うう…」

 

しくしく滝涙の葉月にようやく塞がった手が離れ、開放された。

 

「さあ、もういいですよ」

 

笑い声と共に姿を見せたのはインペリアルナイトの一人、

クローバーだった。彼は友人の一人だ。

 

「もう、悪ふざけを…」

 

ため息をついて葉月がすぐ傍ある椅子に座る。

 

「まあまあ。貴女のことだから迷子でしょう? ウロウロしていましたから」

 

「インテリア系の店探しに」

 

「ああ、そうでしたか。雑貨屋は反対方向ですよ」

 

クローバーが道案内するという。

 

「ありがとう」

 

「いえ、私も暇なので」

 

「そう、それで…」

 

 

言いかけた時、遠くで爆発が聞こえた。その直後に警報が鳴り響き、親衛隊の指示の声が室内に流れた。

 

「賊ですかね…」

 

流石に真剣な表情のクローバーが剣の柄に手を置きながら、葉月に離れるなと告げた。

 

「侵入? 」

 

近衛兵の出来事を思い出しながら、クローバーに尋ねる。

 

「魔物ですよ。まあゴブリンとか雑魚クラスなんですが…。最近はスキュラも現れています。

魔法使うやつは近衛兵では対処が厳しいですから」

 

国の事情だろうか。その時荒々しい足音がした。

 

「クローバー!!」

 

扉が勢いよく開かれる。長い黒髪の騎士、ネスだ。

 

彼と、葉月の目が合う。

 

「葉月…」

 

そう呟いたネスが剣を葉月の方向に向けた。

 

「きゃっ…!!」

 

葉月が手で頭を守る。

 

音は後方でキーッと鳴って途絶えた。

 

「ネス!」

 

クローバーの押し殺した声がした。淡々としたネスの声が聞こえる。

 

「ゴーストだ。お前達には見えないだろうが。とにかく姫が結界を張った。これで魔物は来ないはずだ」

 

 

「幽霊…? 」

 

葉月がようやく手を離してネスの方を見る。

 

冷たい黒の瞳が葉月を見た。警戒のようにも、伺ってるようにも見えた。…クローバーの恋人。

 

「……」

 

 

+++

 

あれから二時間後、騎士団長、レインの部屋に葉月がいた。

 

「ゴーストは闇の司祭か騎士にしか見えません。私達は気配を察する程度です。色々思うことはあるかと

思いますが、あれはあれで貴女を気にかけていましたよ。巻き込まれるのですから」

 

「白雪姫」がこの国を守り、結界を張っている。だが最近その結界が崩れているという。

 

「わが国アデスは、血を流し過ぎたのかもしれません。城下町より郊外は殺人は日常茶飯事ですから」

 

レインの説明に、葵、カスミも同席している。ネス、クローバーはいない。任務にあたっている。

 

葵がレインに尋ねた。

 

「フォスト卿…魔物と戦うの? 戦力ないんだけど」

 

「いずれ「乙女」として力が覚醒するはずです。その時は戦えるはず」

 

「レイン、いきなり「戦う」は厳しいよ」

 

カスミが真面目な顔して言う。彼女は一歩魔力を身につけているが、葉月、葵には力はまだなかった。

 

「『厳しい』のではなくやってもらいます」

 

冷たいレインの言葉に、葉月が絶句する。隣の葵がため息をついた。

 

 

「噂通りだね。融通聞かないって」

 

やれやれという様子で葵が呟いていた。

 

「お好きなように」

 

葉月がぽつりと言った。

 

「死ねと? 力も何もないのに? あんまりでは? 」

 

「貴方達には護衛をつけます。パートナーをお好きなように選んでください」

 

「ふぇー」

 

葵が諦め半分に肩を落とした。

 

「大丈夫? 」

 

カスミの言葉に、葉月はただうなずくしかなかった。

 

+++

 

あれから葉月は自室に戻り、暗くなっていた。残り二人はもうパートナーを決めたらしい。

 

葵はクローバー、カスミはネス。

 

だが葉月はまだ決められなかった。何人か声をかけてくれたが、決めてに欠けていてどうしても決めることができなかったのだ。

 

「銃で…自分で戦おうかな」

 

が、それは無謀と言われるのは目に見えていた。

 

フォスト卿は最初の印象はよかった。川から助けてくれたのだから。しかし実際は融通が利かない頑固な性格だった。加えて厳しい性格。

 

考えていた時、扉がノックされた。

 

「…はい」

 

今は一人にしてほしかったが一応返事をする。開けると立っていたのは女性親衛隊、ジャンヌだった。神妙な面持ちで彼女は言った。

 

「護衛の件について、時空の王から話があるそうです」

 

「え…」

 

『時空の王』は神に近い存在と聞いている。彼が何か言うのだろうか。

 

「説教ですか? 」

 

「内容までは…すみません」

 

行くしかなさそうだ。今すぐ来てくれと言われたので、葉月はジャンヌと共に時空回廊へ向かった。その先に王が居るという。

 

アメジストの廊下を渡り、しばらくして巨大な扉が見えた。宝石と銀の細工が施された扉。

 

「陛下、ジャンヌです。葉月様をお連れしました」

 

しばらくして男の声がした。やや高い声だ。

 

「入れ」

 

緊張の面持ちの葉月の前に、扉が静かに開いた。

 

謁見の間に通される葉月。ジャンヌは入り口で待つという。

奥に進むと玉座に座る男が見えた。紫の瞳がこちらを見る。紫の長衣には所々にアメジストが施されていた。

「よく来た、葉月。さて、要件を言う。護衛についてだが…月の乙女であるお前は非常に貴重な存在だ。よって、この国の一番の手練れに護衛してもらう」

「手練れ、ですか」

誰なのだろう。親衛隊と言えば…。

「半分予想していると思うが、騎士団長に護衛してもらう」

「えっ!!」

思わず周りをきょろきょろする。時空の王の前では失礼なのはわかっているが。

(あれ、護衛の兵がいない。居ると思ったのに)

謁見の間には、葉月と王、出入り口のジャンヌしかいないのだ。ただ単に姿が見えないだけだろうか。

「さあ、話はこれで終わりだ。本来はお茶でも飲みながら会話したいところだが、こちらも色々あるのでね」

「あ、はい」

慌てて頭を下げる。

王が奥の方へスッと消えた。空間移動だろうか。

出入口のジャンヌと共に謁見の間を出た葉月。少々、どこか寂しさを覚えながら。

(ここ、いつも一人なのかな)

しかし相手は異質な存在。これ以上の散策は無理だった。

「行きましょう」

ジャンヌに促されて葉月は自室へ戻った。

+++

謁見の間から帰って一週間が過ぎた。あれからレインには会えず、

葵達も常に出かけていて会話がない。一日に数回ジャンヌが面会

に来る以外は、人とは会ってない状態だ。

 

「うー暇だ。よし!」

 

時刻は夕方。もうジャンヌは来ない。先ほど来たばかりだからだ。

 

「夜中にこっそり出かけよう…」

 

何かあるかもしれない。このままひきこもるのはまっぴら御免だ。

 

 

ほったらかしのフォスト卿が悪い。

 

「もう寝よう。おやすみ…」

 

真夜中の12時。目覚めた葉月は色々荷物の支度をした。

 

「さて、行くぞ」

 

裏手の方から抜ける。先日近衛兵に呼び止められた場所だ。

 

「警備手薄だな…」

 

夜中はむしろ警備が厳重という考えは違っていたのか。

 

川を渡り、森へと抜ける。気分はわくわくしていた。

 

「冒険だー!」

 

小声で言う。しばらく歩いていると、洞窟が見えた。

 

「入ってみよう。明かりあるし。護身用の銃あるし」

 

暗い洞窟に、何か地下に続く階段が見える。

 

「階段だ。行ってみよう」

 

下ると、大きな広間に出た。水晶の結晶でできた洞窟で、淡く光っている。

 

「うわあ、綺麗!!こんな所あるなんて地図には書いてないよ。凄い!」

 

 

しばらく辺りをきょろききょろしていると、前方に何かいるのに気づいた。

 

「魔物?! 私も戦え…あれ…人? 鎖に繋がっているけど…」

 

奥の方に黒衣に金髪の美丈夫が鎖に繋がられいた。一見、ケガはない。

 

葉月がおそるおそる近づく。

 

「魔物には見えないし…罪人ではなさそうだし」

 

彼の頬に、手を当てて何気なく鎖に触れた時、硝子が砕ける音がした。

 

「え? え? 」

 

男に繋がっていた鎖が砕けていく。そして、彼が目を開けた。

 

「うわっ! 」

 

敵かどうかわからないので、男から下がる。彼が残った鎖を引きちぎる。

 

「君は…そうか…」

 

男が呟く。

 

「に…逃げよう」

 

葉月は来た方向にダッシュで逃げた。階段を上がり、洞窟を抜ける。

 

森を走る途中、彼女が転倒した。

 

「うっ…痛い…。結構派手にやった。痛い…」

 

泣きたくなる。こんなはずではなかったのに。男が縛られていたのは想定外だ。

 

木にもたれていると、後ろから声がした。

 

「大丈夫かい? ああ、ケガしたのかい」

 

振り向くと先ほどの男がいた。

 

「えっ!」

 

そう思う間もなく、男が何か呟く。何かの呪文のようだ。

 

ケガした足の痛みが消えていく。癒しの呪文らしい。かなり高度な使い手のようだ。

 

「名乗るのが遅れたね。私はルシアーノだ。よろしく、月の乙女」

 

男…ルシアーノが微笑む。天使のような雰囲気だ。

 

「は…葉月です…」

 

かろうじてそれだけ言った。一応礼は言わなければと思った。

 

「葉月か。いい名前だね」

 

ここまでの彼の印象は悪くない。地下に繋がれている以外は。

 

礼を言おうとした葉月の後方…城の方からレインの声がした。

 

「葉月、どこです!!」

 

まずい、抜け出したのが見つかったと葉月が思った時、ルシアーノが言った。

 

「見つかるとまずいのかい? けれど探しているみたいだよ」

 

「城…抜け出したんで…退屈で…」

 

その言葉を聞いたルシアーノがくすくす笑う。

 

「それは大変だ。けれどあの声は騎士団長だね。説明しとかないと大変だよ」

 

 

さて、どうする。レインの元に戻るか…ここに留まるか。ルシアーノは放っておいて

大丈夫そうだ。ならば…。

 

「私、戻ります。ありがとうございます」

 

そう言って戻ろうとした刹那、身を強引に何かに引き寄せられた。

 

「葉月!!」

 

顔のすくそばに、レインの顔があった。

 

「離して!」

 

葉月が抵抗するが男の力には敵わない。

 

「なぜ抜け出して…」

 

レインが言いかけて、ルシアーノの存在に気づく。

 

「…誰です? 」

 

葉月がポツリと言った。

 

「地下で繋がれていた人…」

 

「地下?」

 

レインと周りの親衛隊がルシアーノの方を見る。彼は冷静だった。

 

「ふむ…君は知らないみたいだね。ならば王に伺うといい。伝承にあるはずだから」

 

 

レインがルシアーノの方を見つめ、彼は急に咳き込んだ。

 

「レイン?!」

 

葉月が驚く。ルシアーノが言う。

 

「ああ、これはよくない。よくその体で耐えたものだ。葉月、私に捕まって」

 

「え? うん…」

 

ルシアーノが直後に光の爆発を起こした。

 

親衛隊が次に目を開けた時、葉月、レイン、ルシアーノの姿は消えていた。

 

+++

 

時刻は夜明け。

アメジストが輝く。一つ一つが「命の欠片」だ。ベッドにレインが横たわっている。今は眠っていた。

 

「うーん…これで大丈夫のはずだけどね。どうかなー。治療は専門外だから」

 

時空の王が、レインを診察して呟く。

 

この場には葉月、葵、カスミがいた。隣の部屋にネスとクローバーがいる。

 

「病気だったの…この人…」

 

ならもっと早く言ってくれと葉月は言いたかった。

 

「治るんですか? 」

 

葵が王に尋ねる。

 

「もちろん。…と言いたいがレインは特殊だからね。常識が通じない。どうなるやら」

 

カスミが考えながら言った。

 

「あの天使の力は借りれない? 」

 

カスミの言葉に王が答える。

 

「あの天使は私の眷属じゃないが、…この際だから儀式を初めていいだろう。ここまで運んだのは彼だしね」

 

 

王が呟く。

 

「ふむ…隣国、メタリアに何か答えがあるらしいね。私はこの国から動けないけど…メタリアか。…」

 

 

葉月が尋ねる。

 

「何か問題あるんですか? 」

 

王が言う。

 

「メタリアはすこぶる治安がよくない。女性なら尚更ね。君達を差し向けるのはさすがに許可できない」

 

 

「うーん、色々物騒らしいからなぁ」

 

葵がレインを見つめながら言う。

 

その時、扉が叩かれた。王が言う。

 

「入れ」

 

入ってきたのはネスだった。

 

「陛下、隣国メタリアより騎士が使いとして到着しました。どうなさいます? 」

 

「騎士? …円卓の騎士、ガウェインか。話は通じるけど…。まあいい。通せ」

 

そう言って王が部屋から退出した。ネスもあとに続く。

 

残されたのは三人と眠っているレインだけだった。

 

「円卓の騎士…何か手掛かりあるかも」

 

カスミが言う。葉月が尋ねる。

 

「円卓の騎士ってと、どんな人? 」

 

カスミが説明する。

 

「王に使える騎士。メタリアでは三人しかいないんだって。確か数年前、一人が意識不明になって今は

二人だけとか」

 

「そのうちの一人が今来たのか。タイミングいいなー」

 

葵が首を傾げる。

 

 

「会ってみないと…わからないよ」

 

葉月が呟く。

 

「まあそうだけどさ」

 

葵が何か言いかけた時、部屋にクローバーが入ってきた。

 

「葉月、ちょっといいですか」

 

「え…」

 

クローバーに不意に呼ばれ、戸惑う。

 

「円卓の騎士、ガウェインが貴女との面会を希望しています」

 

「え…」

 

この時、まだ意味は葉月はわからなかった。

 

+++

 

時空の謁見の間に、一人の見慣れぬ騎士がいた。

 

名をガウェインと言い、黒衣の老婆に言われた物を渡しに来たという。

 

「ガウェインと申します。本日はこちらをお持ちしました」

 

彼が差し出したのは、月の形をした石のような物だった。王が受け取る。

 

「これを渡せと? 黒衣の老婆の助言は無視できないな…」

 

噂では黒衣の老婆は予知能力があるという。

 

「葉月、これはお前がレインに使うべきだ。天の神の力を感じる」

 

王に言われ、葉月が受け取る。

 

「これを…レインに…」

 

葉月が呟く。

 

考えた末、レインに使うことにした。使える予感がした。

 

王に促され、レインの寝ているベッドのある部屋に向かう。

 

ベッドに横たわるレインの上に石をかざし、祈る。無意識に呪文が出る。石が輝き、雨となってレインの上に降り

注いだ。

 

「レイン…」

 

葉月が呟くと、レインが目をゆっくりと開けた。視線が合う。

 

「は…づき…」

 

手を額に当て、起き上がるのを葉月が止める。

 

「まだ寝てて」

 

後方でルシアーノが来るのがわかる。

 

「気づいたかい。体はもう大丈夫みたいだね」

 

そう言って彼は微笑んだ。

 

「あなた、天使だったの…」

 

葉月の問いにルシアーノが笑う。

 

「人に見えたかい? まだまだだね」

 

ベッドのレインがかすかに言った。ルシアーノが音も立てずに退室する。

 

「さっきは…すみません…」

 

「ううん…いいの」

 

レインが、無言で葉月の手を握った。

 

 

+++

 

 

「さて、ゲストはそろったかな」

 

王が呟く。後方にルシアーノが控えている。

 

「陛下…」

 

神妙な面持ちでルシアーノが言う。黙って王がそれを聞く。それは、この世界についての会話であり、

誰もその会話に気づかないまま時間が去るのである。

 

+++

 

ガウェインはしばらく国に滞在するという。

 

「間に合ってよかったですよ」

 

笑いながらガウェインが言った。他にいるのはネスとクローバーだ。

 

ネスが言う。

 

「プラチナは元気か」

 

「ええ。相変わらず性格悪いですけど」

 

「今日…久々の太陽ですね」

 

クローバーの呟きに、ネスが言った。

 

「そうだな。ずっと曇りだったからな」

 

ガウェインが笑う。

 

「良い日になりそうで」

 

 

+++

 

廊下に、カスミ、葵がいた。

 

「言ってなかったけど、私魔法道具使えるようになったよ」

 

葵が言う。カスミが笑顔になる。

 

 

「それはいいね。使い手少ないから、いいよ」

 

「しかし色々探索したから、しばらく休みたいよ。一カ月くらい」

 

その言葉にカスミが笑う。

 

「休みすぎー!」

 

 

+++

 

 

星が巡り、力集う時、『神』が目覚める…

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。