戦姫絶唱シンフォギア~希望の歌姫と欲望の王~   作:大同爽

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ミラアルク「さぁ、始まるザマスよ!」

エルザ「行くでガンス!」

ヴァネッサ「ふんがー!」

真面目に始めなさいよ!――って!おまえらまだ登場しないだろ!






000~目覚めと地獄と命の歌~

 ――それはまるで、地獄のような光景だった。

 

 

 

 ほんの数分前までは夢のようなライブが行われていたそこは、一瞬にして悪夢へと変わった。歓喜と喜びと幸福に包まれていたそこは、悲鳴と恐怖と絶望に満ちていた。

 

 

 

 逃げ惑う人々、瓦解する会場、そこら中で人間を追い回すノイズ、ノイズによって炭化させられたさっきまで人だったもの、そんな場所で命がけで歌い槍と剣を振るう二人の少女たちがいた。

 二人の名は天羽奏と風鳴翼。今日のライブのメインであったツヴァイウィングの二人である。

 そんな二人がぴったりとしたボディースーツと鎧を身に纏い、奏は槍を、翼は剣を振るい、力に満ちた不思議な歌を歌いながらノイズを攻撃し炭へと変えていく。

 

 

 

 そんなどこか現実味の無い光景を少女――立花響は呆然と見ていた。

 

 

 

 早く逃げなくてはいけない、それはわかっているのに、足がすくんで動けない。ただその光景を呆然と見ているしかない。

 しかし、そんな少女の前に

 

「死ニタク……ナイ……」

 

 〝それ〟は現れた。

 

「死ニタクナイ……」

 

 〝それ〟はその場にいる何にでもない、これまでに少女の見たこともない存在だった。

 

「死ニタクナイ……死ニタクナイ……」

 

 うわ言のように繰り返す異形の〝それ〟は、明らかに人でも、ましてやノイズでもない。人間のような形をし、日本の足で立つ緑の異形な存在、それを強いて何かに例えるとするなら〝カマキリ〟であろうか。

 

「あぁ…ああ………」

 

 目の前に突如として現れた未知のそれに響はへたり込む。

 そんな響を見据えカマキリの異形は

 

「死ニタク…ナイ……」

 

 ゆっくりとその右手――両手には供え付けられた鎌――を掲げ

 

「死ニタクナイィィィィ!!」

 

「っ!?」

 

 その鎌が振り下ろされる。その恐怖に響は目を瞑る。が――

 

≪タカ!トラ!バッタ! タ・ト・バ!タトバ!タ・ト・バ!≫

 

 どこからともなく聞こえてきた歌とともに

 

ガギッ!

 

 甲高い音が響き、自分に届くはずの刃は一向に自身へと触れることはない。

 恐る恐る目を開けた少女の目に映ったのは

 

「くぅっ!」

 

 さらに異形の存在が自分と怪物の間に入っていた。

 カマキリの怪物が振り下ろした鎌をその謎の存在が受けていた。

 

「大丈夫かい!?」

 

 鎌を受け止めながら響へ振り返ってそれは叫ぶ。

 そいつは不思議な存在だった。

 翼を広げたタカのような赤い顔、トラのように伸ばされ爪で鎌を受け止める黄色い腕、バッタのような節の模様のついた脚、そして、胸には大きく円形のレリーフのようなものがあり、円の中で上から赤いタカの模様黄色いトラと緑のバッタを模したマークが収まっている。

 

「え…あ…あの…はい……」

 

「ならよかった!じゃあ早く――」

 

「生キタイ!!オ前ガ死ナ!!」

 

「逃げるん――だ!!」

 

「ぐあっ!」

 

 気合の声とともにその謎の人物はカマキリの化け物を弾き飛ばす。

 

「さあ行って!」

 

「は、はい!」

 

 謎の人物に促され響は慌てて身を翻して走り出そうとする。

 しかし――

 

「きゃぁぁぁ!?」

 

 響の足元が崩落し、下へと落ちる。

 

「うぅ!」

 

 落ちた衝撃に顔を顰めながら体を起こすが

 

「痛っ!?」

 

 打ち付け擦りむいた脚の痛みに響が顔を顰める。

 と、そんな響に気付いたノイズが数匹走り寄ってくる。

 

「あぁ!!」

 

 恐怖に再び目を閉じた響。が――

 

「はぁっ!」

 

 奏の振るう槍によってノイズが炭へと変わる。

 

「駆け出せ!!」

 

「っ!」

 

 奏の言葉に我に返った響は痛む足を引き摺ってよたよたと進む。

 しかし、そんな響と奏に向けてノイズたちは自分たちの体を槍のように細く飛び掛かってくる。

 そのノイズたちを食い止めるため奏は槍を高速で回転させて防ぐ。が、少しづつ奏の纏う鎧にヒビが入る。

 まるで勢いを増すように巨大な芋虫のようなノイズが口のような部分から粘液のようなものを吐き出す。

 

「っぐぅ!」

 

 奏が苦悶の声を漏らす。

 ダメ押しと言わんばかりにさらにもう一匹の芋虫のようなノイズが粘液を吐く。

 

「うぅぅぅぅ!!うわぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 それに負けぬように奏はより槍を回転させる速度を上げる。しかし、それに槍が耐え切れなかったようで砕けた鎧の破片が回転の勢いのまま後方へ吹き飛び

 

「カハッ!?」

 

 破片の一つが響の胸へ突き刺さり、その胸から血が噴き出す。

 響の体がその勢いに吹き飛ばされ崩れ落ちる。

 

 

 ○

 

 

 

「おい!……ぬな!!目…開け…くれ!!」

 

 誰かの必至な声が聞こえる。

 でも、私はそれに応じることができない。

 体に力が入らない。

瞼が重たい。

胸元から暖かいものが溢れ、反対に体の芯から冷えていく。

指先がしびれたように上手く動かせない。

 

「生きるのを諦めるな!!!」

 

 その必死な言葉が胸に響いた。

 私はその声にこたえるようにゆっくりと瞼を開ける。

 

「…………」

 

 そのまま視線を上げてみれば、そこには先ほどまで私を庇って槍を振るっていた人物、天羽奏さんがいた。

 奏さんはまるで救われたのは自分だとでも言わんばかりの優しい笑みを浮かべていた。

 が、直後に奏さんは悲し気に顔を俯かせ、私をゆっくりと支えながら瓦礫を背もたれに座らせる。

 

「……いつか……心と体、全部空っぽにして、思いっきり歌いたかったんだよな……」

 

 そう言いながら奏さんはわきに置いていた槍を拾い上げ、ゆっくりと歩み出す。

 奏さんの正面には大量のノイズが待ち構えている。

 そんなノイズたちに向けるように奏さんはその手の槍を空へと掲げる。槍の端が崩れるのも気にせず、奏さんは息を吸い込み

 

【――Gatrandis babel ziggurat edenal 】

 

 透き通るような歌声がその場に響く。

 

【 Emustolronzen fine el baral zizzl 】

 

「いけない奏ぇっ!!!歌ってはダメェェェ!!!」

 

 遠くで奏さんの相方の翼さんの叫び声が聞こえた。

 

【 Gatrandis babel ziggurat edenal 】

 

「……歌が聞こえる」

 

 優しくも悲しい、まるで命を燃やすような力のこもった歌が……

 

【 Emustolronzen――】

 

 そして、一層力を込めて奏さんが歌おうとしたとき

 

「危ない!!」

 

 誰かの叫び声とともに

 

「がはっ!?」

 

 どこからともなく飛んできた斬撃が奏さんの背中を襲った。

 そこまでが限界だった。

 私の瞼はまた徐々に重くなる。視界も少し霞んできた気がする。

 

「――ほう?こいつはいいもん見つけた」

 

 と、耳元で誰かの声が聞こえた。

 

「だ…れ……?」

 

「なんだ、まだ喋れるのか。死にかけのクセにな。まあいい、どっちにしろ関係ないな」

 

 私の問いに答えずその人物は何か呟いている。

 

「さて、さっさと――」

 

「待て……!」

 

「あぁん?」

 

 と、さらに誰かが言う。その声は前の人物とは違い、ひどく弱々しいものだった。

 

「その子に…何する気だ……?」

 

「関係ないだろ。他人の心配するより自分の心配したらどうだ?お前、こいつよりもよっぽどヤバいだろ」

 

 あとからの声の問いに最初の人物の声は嘲る様に言う。

 

「いいから…答えろ……!その子に何する気だ!?」

 

「見りゃ分かんだろ。見ての通り俺は物入りでなぁ。こいつはそれにぴったりってわけだ」

 

「そんなこと…させるか……!」

 

「ハンッ!死にかけは黙ってそこで見てろ」

 

 弱々しい中にしかし力強く言われた言葉に嘲るように答えた声。そこから私に向って何かが近づいてくる気配がする。

視界の隅に赤黒い腕が見えた。鳥の羽のようなものが生え、タカや何かのような鋭い爪のあるその手は、人間のものとは思えない。

きっとあのカマキリの化け物と同じようなモノだろう。

 あぁ、そうか……たぶん私は死ぬのだろう……。

 

「――おい、何してやがる?」

 

 先ほどまでの声がどんどん遠くなっていく。

 

「その手…放せ。じゃ…だ……」

 

「その子はも…一度…生き…としてる…だ……」

 

「今にも死……なやつは黙って…ろ」

 

 私のそばでされている会話の内容がよく聞こえない。どんどん声が遠くなっていく。

 

「そ…子に手を…すな……!」

 

「だったらど…する?おま…が……りになるか?」

 

「そ…だ……」

 

「ほう?」

 

 会話の内容は聞きとれないが、最初の声がどこか感心したように、興味を持ったように声を漏らす。

 

「おも…ろい…その…とば……れるなよ……」

 

「もちろ…だ……」

 

「いいだ…う。契や…せ…立だ……」

 

 私の意識が持ったのはそこまでだった。

 そのまま瞼は重く下りてくる。意識は深い闇の中に落ちていくようで――

 

「名前も知らない誰か……」

 

 意識が消えゆくその前に

 

「―――――」

 

 何か言われた気がした。

 そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に目が覚めた時、私は病院のベッドの上だった。

 

「私…生きてる……?」

 

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