1つ!天羽奏に瓜二つの協力者、アンクによってもたらされたメダルによってコンボの力を発揮するオーズ。その圧倒当的な力を発揮しカザリと猫ヤミー、鎧の少女を退けることに成功する。
2つ!現場に現れた弦十郎はオーズへの同行を申し出るも、それを拒否したオーズはアンクとともに去って行ってしまう。
そして3つ!鎧の少女、グリードのカザリとの戦闘によるダメージで傷ついた翼は限界を迎え、倒れ伏す。一連の出来事に何もできずただ見ているだけだった響は、自分の無力さを痛感するのだった。
Count the Medals!
現在、オーズの使えるメダルは――
落ちていく。
どこまでも、どこまでも落ちていく。
それを私は受け入れ、ただ身を任せて落ちていく。
と、私の傍らを掠めて何かが舞い上がっていく。
「っ!」
私はそれを知っている。
慌てて私は目を開き見上げる。
気付けば落下は止まり、私は浮いていた。
私の目の前、少し先に懐かしい背中が浮かんでいた。
ふんわりとした腰まであるボリュームのある赤毛。
その人物がゆっくりと振り返る。
その顔は悲しげな表情に曇っていた。
「片翼だけでも飛んで見せる!どこまでも飛んで見せる!」
私はその人物――奏に向けて叫ぶ。
しかし、奏は悲しげな表情のままだ。
「だから!笑ってよ奏!」
そう言って手を伸ばす私。しかし、先ほどまでの軽やかさはなく、まるで深い海の中にいる様に体の周りを目に見えない何かが包んでいる。
「やめとけ」
と、どこからともなく声が聞こえる。
「奏!私はもう一度奏に笑ってほしい!」
その声に答えず、ただただ目の前の奏に向けて手を伸ばし、もがく。
「だから、やめとけって言ってんだろ」
再び聞こえた声とともに誰かが私の肩を掴む。
「っ!誰だ!?私の邪魔を――」
唇を噛んだ私は邪魔をする誰かに叫びながら手を振り払って振り返り
「っ!?」
息を飲んだ。そこにいたのは――
「誰か、だ?」
私の問いに答えるように口を開いたその人物は――奏だった。
しかし、私の知る奏とは違う。
温かみを感じる赤毛は金髪に。いつも優しく向けられていた眼差しも、笑みも、私の知らない冷たく嘲るような笑みに。
何よりも違うのは見せつける様に私に向けられるその異形の右腕だった。
「そんなもの、見りゃわかんだろ?」
○
リディアン音楽学院の屋上でベンチに座りながら響は物思いに耽る。
「奏さんの代わりだなんて……」
呟きながら思い出すのは昨夜のブリーフィングでのこと
「コンボ……ですか?」
「ああ」
翼が病院に運ばれた後、施設に集まって行われたブリーフィングにて響は今回オーズが使った力について聞かされた。
「以前にも話した通り、グリードのコアメダルはそれぞれに三種類。そして、オーズが一度に使う力も三種類。バラバラのメダルではなく、同じ属性のメダルを使えば」
「これまでとは計り知れない力を発揮する、それがコンボよ」
弦十郎と了子の説明に響は納得したように頷く。
「と言っても、これまで我々がオーズのコンボを目にする機会はなかった」
「オーズはこれまで、いくつかの力を発揮しているところは見ていたけど、私たちの前ではほとんどメダルを変えることは無かったの。てっきり力を変化させるには何か条件があるのかと思ってけど」
「恐らく、〝彼女〟がメダルを管理しているのだろう。これまで戦闘中にメダルの交換を行わなかったのは、頑なに〝彼女〟の存在を我々から隠していたためだったんだな」
弦十郎の言う〝彼女〟が誰のことを指しているのか、その場の全員はすぐに理解する。
「奏ちゃんに瓜二つの謎の少女。以前から推測されていたオーズの協力者の存在、彼女こそがその人物なんでしょうね」
「何故奏と同じ顔なのか?何故オーズに協力しているのか?あの腕は一体何なのか?……彼女には謎が多すぎる。が、面が割れた以上、探しやすくはなった。彼女の存在からオーズへとたどり着けるかもしれん」
疑問を一つずつ上げながら、弦十郎は言う。
「協力しているといえば――」
「グリードと協力関係にある謎の少女と、二年前に失われた『ネフシュタンの鎧』……」
友里の言葉に頷きながら弦十郎が続ける。
「気になるのは彼女のねらいが響君だということだ」
「それが何を意味しているのかは全く不明」
「いや」
了子の言葉に弦十郎が首をふる。
「個人を特定しているならば、我々『二課』の存在も知っているだろうな」
「内通者、ですね」
「なんでこんなことに……」
藤尭と友里が呟くように言う。友里の言葉に答えられる者はおらず、少しの間が空く。
そんな中最初に口を開いたのは
「私のせいです……」
響だった。
「私が悪いんです。二年前も、今度のことも。私がいつまでも未熟だったから、翼さんが……」
俯く膝の上で握った手を見つめる響。
現在、この場に翼はいない。先の戦闘にて負ったダメージで、現在も翼は日本政府の息のかかった病院にて治療を受けている。
あの戦闘で彼女はシンフォギア最大の力、『絶唱』を使おうとした。
奏者への負荷を厭わず、シンフォギアの力を限界以上に打ち出す技、しかし、それは幸か不幸かグリードのカザリの介入によって未遂に終わった。
しかし、代わりにそのカザリとの戦闘によるダメージで翼は今も意識を取り戻してはいない。
一命はとりとめたものの、今もまだ予断を許さない状況のようだ。
「シンフォギアなんて強い力を持っていても、私自身が至らなかったから……」
響の言葉にその場の誰もなんと声をかけていいかわからず、ただ黙って聞いていた。
響はゆっくりと立ち上がり、大人たちに背を向ける。
「あのオーズの協力者、奏さんそっくりなあの人を見た時、翼さん泣いてました。翼さんは強いから戦い続けて来たんじゃありません。ずっと、泣きながらも、それを押し隠して戦ってきました。悔しい涙も、覚悟の涙も、誰よりも多く流しながら、強い剣で…あり続けるために……ずっとずっと…一人で……」
言いながら、徐々に響の言葉は嗚咽まじりになっていく。肩を震わせる少女は顔を上げ、振り返る。
「私だって守りたいものがあるんです!だから――!!」
「悩み事?」
「っ!?」
突如かけられた言葉に響は慌てて顔を向ける。
そこにはツナギ姿の映治が立っていた。その手にはスコップやバケツなど様々な園芸道具があった。
「映治さん……」
「一人?仲良しの未来ちゃんは一緒じゃないの?」
「え、えっと……」
「最近一人でいることよく見かける気がするけど」
「そ、そんなことないですよ!私ひとりじゃな何もできませんから!その、この学校にだって未来が進学するから私も一緒にって決めたわけですし!」
「ふ~ん、そっか」
響の言葉に頷きながら映治はベンチの後ろの花壇に植えられた植物にかがみこむ。
屋上ではあるものの、縁の柵の周りにグルリと囲うように花壇になっている。そこには青々とした植物が植えられている。
「それで?本当は何かあったの?」
「え?」
「なんか響ちゃん、無理してる様に見えるからさ」
「……すごいですね」
「ま、これでも世界中いろいろ旅して、いろんな人に出会って、いろんなものを見て来たからね」
響の言葉に映治は微笑みながら答える。
「その……今は一人で考えたい…です……これは、私が考えなきゃいけないことだから……」
「そっか」
響の言葉に映治は頷き、深く追求することなく作業を始める。
「ただ、さ」
目線は手元に向けながら、映治は呟くように口を開く。
「つらいとき、悲しいとき、自分ひとりじゃどうしようもないときは誰かを頼っていいんだよ?」
「映治さん……」
振り返り、優しく微笑む映治の顔に何かを感じた響は少し逡巡し
「その……映治さんにもあったんですか?そういう経験が……」
「……………」
響の問いに映治は少し考え
「……うん、あったよ」
微笑みを浮かべたまま頷く。
「だから、今は充電期間かな」
作業を続けながら映治は言う。
「充電期間?」
「うん。今は旅よりも大事なこともあるし、それが片付いたら、また……」
少し上を見て呟いた映治はすぐにニッコリと微笑む。
「まあ、俺のことはともかくさ」
言いながら映治は立ち上がる。
「響ちゃんも、誰かを頼ってごらん。どうしようもなくなる前にね」
「誰かって?映治さんとか?」
「ハハハ、俺でよければいくらでも力になるよ。それに、君には君のことを思ってる一番の親友がいるでしょ?」
そう言って映治は響に向けていた視線を背後へ向ける。
つられて響は映治の視線をたどって行き、屋上への出入り口に向ける。そこには――
「未来……」
親友である未来が立っていた。
「……さてと、肥料持って来るの忘れちゃったし、取って来ようかな」
「え、映治さん?」
困惑する響をよそに映治はすたすたと歩き去って行く。
が、屋上へのドアをくぐったところで足を止め、ドアの陰に一瞬隠れる。
そのまま少し様子をうかがうと、未来と響は何かを話しているようだった。
その様子は朗らかで、先ほどまで悩んでいた響の顔に笑顔が浮かんでいる。
「……………」
その様子に人知れず笑みを浮かべた映治はそのまま階段を下りて行くのだった。
○
「ついに現状に変化が出たようだね」
鴻上ファウンデーションの最上階に構える会長室で街を見下ろしながら鴻上は言う。
「二年前に行方をくらませた『ネフシュタンの鎧』を携えた謎の勢力の介入。加えてグリードのカザリとの協力関係……」
「なかなか厄介なことになりそうですね」
鴻上の言葉に秘書の里中が言う。
「そうだね。下手をすればこれまでの勢力図が一変するかもしれない……」
里中の言葉に頷きながら鴻上は振り返る。
言葉とは裏腹に鴻上の顔には笑みが浮かんでいた。
「だからこそ、そろそろ二課からの打診に答えるのも一興かもしれないね」
「打診、ですか?」
鴻上の言葉に里中が首を傾げる。
鴻上がその疑問に答えず、視線を足元に向ける。里中もそれにつられて床に視線を向ける。
と、二人の足元の床がスライドし、収納の空間が現れる。ガラス張りのそこに入っているのは大量のセルメダルだった。
「セルメダルの追加ですか?」
「研究に使うそうだ。全部で5000枚。そして――」
言いながら鴻上はポケットから白い手のひらに収まるほどの指輪でも収まっていそうな箱を取り出す。
「人類のため、研究のためのメダルは惜しむべきではない」
言いながら箱のふたを開ける。
そこには足元のセルメダルとは違う、フチを金で装飾された紅いメダルだった。メダルには孔雀が尾羽を広げたようで
「このメダルがこの現状を変える引き金となるだろうね」
そう言って笑みを浮かべる。
そんな光景を窓の外から見ているものがあった。
それは赤いタカカンドロイドが抱える緑のバッタカンドロイドだった。