戦姫絶唱シンフォギア~希望の歌姫と欲望の王~   作:大同爽

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戦姫絶唱シンフォギア~希望の歌姫と欲望の王~、前回までの3つの出来事

1つ!シンフォギア『イチイバル』を纏った雪音クリスの猛攻に対し、守りに徹するオーズと立花響。そんな彼らを救ったのはシンフォギアを纏って現れた風鳴翼だった。

2つ!復活した翼の攻撃に追い込まれるクリスの元に終わりの名を持つ謎の人物、フィーネが現れ、彼女へ用無しと告げる。姿を消すフィーネを追ってクリスもその場を後にした。

そして3つ!クリスを追って探し回る映治。しかし、会うことは叶わず、クリスは再びフィーネの元に行くも、ネフシュタンの鎧をまとったフィーネにノイズを差し向けられ、クリスはその場からとあるものを持ち出して逃げ出したのだった。



Count the Medals!
現在、オーズの使えるメダルは――





015~雨とお粥と拾いモノ~

 その日の天気はどんよりと暗雲が空を覆い、シトシトと冷たい雨が降っていた。

 傘をさして歩く少女――小日向未来はまるで自分の今の気分のようにどんよりとした天気の中とぼとぼと商店街の中を歩く。

 天気のせいか、はたまた登校には早い早朝の時間帯のせいか、商店街の中は彼女以外の人通りはない。

 先日、親友――立花響の秘密を知ってしまった彼女はいまだその現実を受け入れられずに親友とのぎすぎすした関係に悩まされていた。

 響がノイズと戦っているということを自分に秘密にしていた。その理由も機密が絡んでいたり、自分を危険に巻き込まないため、ということは十分にわかっている。それでもそれだけでは割り切れないのが感情というモノだ。

 憂鬱な気持ちのまま俯き加減で歩いていた未来は、ふと、視界の端に目を止めた。

 それは降る雨が地面を流れ道路わきの排水溝に流れていく光景、その水がススか炭か何かで黒く濁っている。

 何気なくその流れてくる後を追って視線を巡らせると、それはすぐ横の建物と建物の間の細い路地からで――

 

「っ!」

 

 そこには、人が倒れていた。

 未来は慌てて駆け寄る。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 駆け寄り抱き起してみると、その人物は自分と年の変わらない、長い白髪を二つに束ねた少女だった。

 見たところ大きなケガをしている様子はないが苦悶に歪む表情で瞼は固く閉じられている。呼吸は荒く、触れた体は熱を帯びかなりの高熱らしい。

 彼女について何か手掛かりはないかとあたりを見渡す、と――

 

「これは……?」

 

 ふと、地面に落ちていた〝それ〟に目が留まった。

 首を傾げながら〝それ〟を拾い上げた未来は――

 

「あれ?未来ちゃん?」

 

「っ!?」

 

 自分を呼ぶ声に慌てて顔を上げる。そこにいたのは――

 

「おはよう。早いね」

 

「映治さん!」

 

 ニコニコと優しい笑みを浮かべたエスニック調の服の黒髪の青年――火野映治が傘を片手に立っていた。

 

「どうしたの、そんなところ――っ!?」

 

 言いかけた映治は未来のそばに誰かが倒れていることに気付く。

 

「この子は!?君の知り合い!?」

 

「い、いえ……私も今たまたま通りかかって……」

 

「そっか……とにかくこの子を休めるところに――っ!?この子は……!」

 

「知り合いですか?」

 

「……いや、俺が一方的に知ってる…って感じかな」

 

 未来の言葉に言い淀みながら答えた映治は

 

「とにかく運ぼう。ここからなら俺のうちが近い。手伝って!」

 

「は、はい!」

 

 言いながら映治は白髪の少女を抱き上げ背負う。

 未来も慌てて立ち上がり

 

「あ、これ……」

 

 自身が先ほど拾ったものをどうしようかと迷った様子で一瞬見て

 

「着いて来て!こっち!」

 

「は、はい!」

 

 映治に呼ばれ、慌てて未来は〝それ〟をポケットに仕舞い込み後を追うのだった。

 

 

 ○

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 目の前のベッドに眠る少女――雪音クリスが荒い息を吐くのを見ながら映治は目の前の洗面器に入った水で湿らせたタオルで額や頬に浮かんだ汗を拭き、再び洗面器の水で洗いある程度絞ってから額に乗せる。

 先程、映治が未来が彼女を見つけた場に居合わせたのは正直偶然が半分、必然が半分だった。

 一昨日の夕刻にクリスを追いかけた映治だったが、夜に一度目撃証言を得るも、その後結局彼女を見つけることは出来なかった。

 その次の日も映治は彼女の行方を捜しまわった。アンクも自分のメダルの行方の手掛かりになるということで協力的だった。

 彼のセルメダルの一部を使いカンドロイドも使って探し回ったがその日も結局見つけることは出来なかった。

 そんな中、深夜探索中のカンドロイドの一つがノイズの発生を知らせてきた。そのカンドロイドから送られて来た映像には一瞬ではあったが、クリスの姿が映っていた。

 慌ててその現場に行ってみたもののその場にはノイズの痕跡はあってもクリスの姿は無かった。

 それから再び手分けして探し回るアンクと映治。そんな時、一人で探し回っていた映治のもとに再びカンドロイドが知らせにやって来た。カンドロイドの案内に従ってその場に行ってみたところ、そこで未来とクリスにあったのである。

 

「くっ……!」

 

 と、クリスの口から苦悶の声が漏れ

 

「くはっ!はぁ……!はぁ……!はぁ……!」

 

 目を覚ましたクリスが身を起こし荒い息を吐く。

 

「っ!?」

 

 自分の置かれている状況が飲み込めない様子で部屋の中を見渡すクリス。

 

「大丈夫かい?よかった、目が覚めて……」

 

 映治はそんなクリスに優しく微笑みながらホッと息をつく。

 

「あんた……一体……!?」

 

「あぁ、俺は……火野映治」

 

「ここは……?」

 

「…………」

 

「おい、聞いてんのか?」

 

「っ!ああごめんごめん」

 

 一瞬何か言葉に詰まった様子の映治に怪訝そうに訊くクリスに慌てて頷く。

 

「えっと、ここは俺の家だよ。倒れてる君を見つけて運んだんだ」

 

「そうか……」

 

「少しはマシになったかもしれないけど、あまり無理しない方がいいよ。ああ、それと――」

 

 洗面器の水を変えようとタオルと一緒に片付けながら映治は何でもないことのように

 

「ずぶ濡れのままだと身体によくないから着替えさせたから」

 

「はぁ!!?」

 

 映治の言葉にクリスは慌てて自身の身体を見下ろす。

 映治の言葉通りその服は自分の着ていたはずの服とは違うTシャツにジャージ姿だった。

 

「おいこれどういうことだよ!?」

 

「へ?あっ!ちょっ!待って!今水持ってて危ない!こぼすから!!」

 

「いいから言え!寝てるあたしに何しやがった!?」

 

 詰め寄るクリスに慌てて映治がどこかに洗面器を置こうとワタワタとするが関係ないとばかりにさらに叫ぶ。

 

「な、何もしてない!」

 

「嘘つけ!あたしを裸に剥いてアレコレしたんだろッ!?」

 

「ホントにしてないから!君を着替えさせたのも俺じゃなくて――」

 

『ただいま戻りました~』

 

 と、扉の向こうからドアを開ける音ともに声が聞こえ

 

「すみません、遅くなりました……あ、よかった!目が覚めたんだね!」

 

 と、部屋に入ってきた未来が嬉しそうに微笑む。

 

「この子!この子がやってくれたから!」

 

「え?え?え?」

 

 慌てて自身を指さす映治に未来は困惑した様子で二人を交互に見る。クリスもそんな様子に「まあ女に着替えさせられたなら……」といった様子で一応は納得したようだった。

 

「それで?あたしの服は?」

 

「あぁ、それならさっき洗濯して、そろそろ乾燥機も終わる頃だと思うけど――」

 

 と、クリスの問いに映治が答えたところで

 

 ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ

 

 低く小さな、しかし、確かな存在感のある音が響いた。

 

「「…………」」

 

「~~~~/////」

 

 映治と未来の視線を受けてクリスの顔が真っ赤に染まる。そんなクリスを見ながら映治は優しく微笑み

 

「……とりあえず、着替えたら御飯にしようか」

 

 

 

 ○

 

 

 

「はぐっ!はぐしゃぐっ!んぐっ!はぐはぐっ!」

 

「「……………」」

 

 目の前で豪快に食事をするクリスに映治と未来は自身の皿には手を付けずにその様子を苦笑いを浮かべて見ていた。

 洗濯・乾燥も終えた服に着替えたクリスとともに未来と映治はリビングに移動し、あらかじめ映治が用意していた料理を食べ始めたのだが

 

「……んだよ?」

 

 そんな二人の視線にクリスが首を傾げて手を止める。

 

「はいコレ。さ、未来ちゃんも冷めないうちにどうぞ」

 

「は、はい」

 

 笑顔でティッシュの箱をクリスに手渡しながら言う映治の言葉に未来が頷きスプーンを取る。

 怪訝そうな表情のクリスに映治は自身の口の周りを指さして示す。

 その意味に一瞬分からなかったクリスだったが

 

「っ!」

 

 自分の手で触れたことでやっと意味に気付いたクリスはひったくるように映治の手からティッシュの箱をひったくり口の周りを拭く。

 

「あ、美味しい」

 

 そんなクリスを微笑まし気に見ていた未来は自分も皿から救い口に運び思わず声を漏らす。

 

「これ美味しいです!初めて食べましたけど、なんて料理なんですか?」

 

「『麦粥』だよ。ヨーロッパの方に旅してた時に現地の人に教えてもらったんだ。俺に教えてくれた人は『キュケオーン』って呼んでたけど。病み上がりには消化にいいものの方がいいと思ってね。甘い味付けだし栄養的にもいいしね」

 

「へぇ~」

 

 興味深そうな様子で頷いた未来は再び食べ始める。

 美味しそうに食べる二人を見ながら映治は微笑み自分も食べ始める。

 

「………なぁ」

 

 と、クリスが手を止め、恐る恐るといった様子で口を開く。クリスの様子に映治と未来は手を止めて視線を向ける。

 

「その……ありがとう……」

 

「……ん。どういたしまして」

 

「うん」

 

 クリスの言葉に映治と未来は微笑んで頷く。そんな二人を見ながらクリスは少し俯き

 

「何にも、訊かないんだな……」

 

「……ん~、訊かない方がいいかなって。よく知らない人からあれこれ訊かれるの、嫌でしょ?」

 

「まあ……」

 

 苦笑いで言う映治の言葉にクリスはゆっくりと頷く。

 

「私は……そう言うの苦手みたいだから」

 

 と、未来はぽつりとつぶやくように言って悲し気に微笑む。

 

「今までの関係を壊したくなくて……なのに、一番大切なものを壊してしまった……」

 

「それって、誰かとケンカしたってことなのか?」

 

「うん………」

 

 クリスの問いに未来は頷く。

 映治は未来の言うそれが誰の事なのか察し、その意味をなんとなく推察する。

 あの日、お好み焼き屋で別れた直後、未来の帰った方向で大きな爆発音がした。行ってみればそこでは響とクリスが戦っていた。そのことから、なんとなく未来がシンフォギアを纏って叩く響の姿を目撃している可能性について、少し頭の片隅には浮かんでいた。

 だから、彼女のケンカの原因は恐らく……。

 そこまで考えたところで――

 

「ケンカ、か……あたしにはよく分からねぇな」

 

 映治が口を開くより先にクリスが口を開く。

 

「友達とケンカしたことないの?」

 

「……友達いないんだ」

 

「え?」

 

 問いに答えたクリスの言葉に未来が驚きの声を漏らす。

 

「地球の裏側でパパとママを殺されたあたしは、ずっと一人で生きて来たからな。友達どころじゃなかった」

 

「そんな……」

 

「…………」

 

 クリスの言葉に未来は言葉を失い、映治は押し黙る。

 

「たった一人理解してくれると思った人も、あたしを道具のように扱うばかりだった。誰もまともに相手してくれなかったのさ」

 

 クリスは吐き捨てる様に憎々しげに言う。

 

「大人は、どいつもこいつもクズぞろいだッ。痛いと言っても聞いてくれなかった。やめてと言っても聞いてくれなかった。あたしの話なんてこれっぽっちも聞いてくれなかった」

 

「…………」

 

「……ごめんなさい」

 

 映治は黙って、しかし、人知れずこぶしを握り締め怒りに震わせ、未来は謝罪する。

 

「……なぁ、お前そのケンカの相手ぶっ飛ばしちまいな」

 

「えっ?」

 

「どっちがつえぇのかはっきりさせたらそれで終了。とっとと仲直り。そうだろ?」

 

「…………」

 

 ニッと笑ったクリスに未来は驚きに目を瞬かせ

 

「……できないよ、そんなこと」

 

「フンッ、わっかんねぇな」

 

 首を振る未来に鼻を鳴らして肩を竦めながらクリスはコップに口を付ける。

 

「……フフ」

 

 と、そんな中で映治が笑みを漏らす。

 

「なんだよ?」

 

 そんな映治にクリスが眉を顰める。

 

「いや……なんて言うか、君は、口は悪いけど優しいなぁって思って」

 

「はぁ!?あたしのどこが!?」

 

「ううん。優しいよ」

 

 と、未来が微笑みながら言う。

 

「ありがとう、気遣ってくれて――あ、えっと……」

 

 言いながら未来は彼女の名前を知らないことに気付き

 

「クリス。雪音クリスだ」

 

 仏頂面で名乗るクリスに未来は微笑み

 

「私は小日向未来」

 

「俺は……あ、さっき名乗ったね。でも改めて、俺は火野映治」

 

 未来も名乗り、映治も改めて自己紹介をする。

 

「それでさ、クリスちゃん。これは俺からのアドバイスだけどね――」

 

 映治は優しく笑みを浮かべ

 

「きっと君はこれまで世界のいろんな悪いものを見て来たんだと思う。そんな君には難しいのかもしれないけど、それでも、もっと人を、人の善意を信じてもいいと思うよ」

 

「はぁ!?」

 

 映治の言葉にクリスが顔を顰めるが、それを手で制して映治が続ける。

 

「俺も世界中いろんなところに行った。たくさんの悪意を見て来たし君の言う通りの人種もたくさん見た。そう言うのをどうにかしたいってあがいて、でも、上手くいかなくて……」

 

「あんた……」

 

「映治さん……」

 

 少し遠い目をして言う映治。その顔はどこか疲れたようにも見える。

 

「でもさ、それでも、諦めたくないじゃない?世界には悪意しかないなんて、そんな悲しい考え方、したくないじゃないか。人はちゃんと心を通わせられるって、分かり合えるって信じていたいじゃない」

 

「「……………」」

 

 どこか憂いの見える笑顔で言う映治の言葉に二人は押し黙るが

 

「だから、まずは俺たちと友達になろう?」

 

「はぁ!?何言ってんだお前!?」

 

 映治の突然の言葉にクリスは驚きの声を上げる。

 

「人の善意を信じるのが難しいならまずは目の前にいる俺たちの伸ばした手を掴んでほしい。まずはそこから始めてみない?」

 

 映治は言いながらクリスに向けて手を伸ばす。映治の隣では同じように未来が手を伸ばす。

 その光景にクリスは少し迷いを見せ――

 

「おい、映治。テメェこれはどういうことだ?」

 

 と、背後のこの部屋の扉から聞こえた声に三人が視線を向ける。

 そこには長い金髪の人物が立っており――

 

「あ、アンク!」

 

「別行動してから一つも連絡をよこさねぇからおかしいと思って戻ってみれば……おい、映治、なんでこのガキどもがここにいる?なんでこいつを見つけたのに黙ってた?」

 

「い、いや、アンク。これはな?」

 

 クリスを指さしながら怒りに眉を顰めているアンクに映治は言い淀みながら宥めようと立ち上がり――

 

「なんで……なんでここにこの女がいんだよ!?」

 

 が、今度はクリスが驚きに立ち上がり叫ぶ。

 

「この女がここにいるってことは……まさか、あんたが、オーズ……!?」

 

「っ!」

 

「オーズ……?」

 

 クリスの言葉に映治が言い淀み、話の見えない未来が首を傾げる。

 

「あたしを騙したのか!?耳障りの言い台詞であたしを!?」

 

「っ!ち、ちが――」

 

「何が友達だ!?騙してあたしを利用しようとしてたんじゃねぇのか!?あんたも他の大人と変わらねぇ!ずるくて汚くて――」

 

「ベラベラ勝手にしゃべってんじゃねぇよ」

 

 クリスの言葉を遮ってアンクがクリスの胸倉を掴む。

 

「何にしても僥倖だ。これ以上あっちっこっち探し回らなくて済む」

 

「ちょっと!確かに勝手に上がり込んだのはいけなかったかもしれませんが、そこまでしなくても!」

 

「うるせぇ!部外者は黙ってろ!」

 

「キャッ!」

 

「おいアンク!」

 

 止めに入った未来をアンクが突き飛ばす。映治は未来が転ぶ前に受け止める。

 

「アンク!この子たちは俺が勝手に連れて来たんだ!俺の客に手を上げるな!」

 

「知るか!今は俺がこのガキと話してんだ!」

 

 睨む映治に睨み返したアンクはクリスに視線を戻し

 

「教えろ。お前この間の襲撃の時に俺のメダル拾ったんじゃねぇのか?どこにやった!?」

 

「ぐっ!」

 

 アンクの言葉にクリスが苦し気に苦悶の声を漏らし

 

「アンク!」

 

「あぁん?」

 

 と、そこで映治がアンクの腕を掴む。

 

「その辺にしておけよ。それ以上その子に乱暴するなら、さすがにお前でも許さない」

 

「あぁん?」

 

 掴む手に力を籠めるとアンクはクリスを離して映治を睨む。

 

「なんだ?このガキに惚れたか?乳繰り合うのは後にしろ。俺のメダルの方が優先だ」

 

「そんなんじゃない。ただこの子にこれ以上嫌な目にあってほしくないだけだ」

 

 アンクが掴む手を振りほどいて一歩出ようとするが、映治はさらに強く掴みその歩みを阻み、自分の背後にクリスを庇うように立つ。へたり込むクリスに未来が駆け寄る。

 

「チッ、今日はやけに突っかかるじゃねぇか。そんなにこのガキが大事か?」

 

「ああ、大事だ」

 

「その為に俺を――〝俺の身体〟を痛めつけるのか?」

 

「っ!」

 

 アンクがニヤリと笑いながら言う言葉に映治はさらに睨む視線を深め――

 

 ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!

 

 突如鳴り響いたサイレンにハッと四人が窓の外に視線を向ける。

 

「チッ、邪魔が入ったか。めんどくせぇ」

 

「な、何だ……?」

 

 忌々しそうに吐き捨てるアンク。怯えた表情の未来。嫌そうに、しかし、どこかホッとした様子の映治。そして、一人サイレンの意味が分からない様子で首を傾げるクリス。

 

「なんだ?何の騒ぎだ?」

 

「何って、ノイズが現れたんだよ!警戒警報知らないの!?」

 

「っ!?」

 

 未来の言葉にクリスは唇を噛む。

 

「とにかく非難を!この近くにシェルターがあるからそこへ――」

 

「っ!」

 

 映治の言葉が終わる前にクリスが立ち上がり駆け出す。

 

「あっ!待って!」

 

 映治の制止も聞かずにそのままクリスは玄関から外に飛び出す。

 

「クリス!」

 

 慌てて未来と映治も後を追って駆け出すが――

 

「っ!」

 

 映治の手をアンクが掴む。

 

「何だよアンク!?これ以上邪魔するって言うなら――」

 

「……ほらよ」

 

 睨む映治にアンクが何かを差し出す。それは――

 

「お前これ、メダル?なんで?」

 

「あのガキに死なれちゃ大事なメダルの手掛かりが無くなる。引き摺ってでも連れて来い」

 

「アンク……」

 

「勘違いすんじゃねぇ。お前のためじゃない、俺のためだ」

 

「……ああ」

 

 アンクの言葉に頷いた映治はオーズドライバーを腰に装着。アンクから受け取ったメダルをドライバーにセットし

 

「変身!」

 

≪タカ!トラ!バッタ! タ・ト・バ!タトバ!タ・ト・バ!≫

 

 映治の掛け声とともにオースキャナーから高らかに声が響く。直後映治の身体がオーズタトバコンボの姿に変わる。

 

「じゃ、行って来る!」

 

 言いながら映治はそのままベランダの方へ歩いて行き

 

「あ、彼女はちゃんと保護して連れてくるけど、さっきみたいな事したら許さないからな!?」

 

「チッ!ちんたら言ってねぇでさっさと行け!」

 

 舌打ちしながら促すアンクに背を向け、映治は今度こそマンション20階のベランダから外へと飛び出して行った。

 


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