1つ!フィーネの元から逃げのびた雪音クリス。しかし、その疲労から路地裏で気を失う。そこにたまたまそれぞれ通りかかった小日向未来と火野映治。二人はクリスを介抱するべく映治の家へと運び込む。
2つ!目が覚めたクリスは見ず知らずの映治と未来に困惑するものの自分を助けてくれた二人に心を開き始める。しかし、そこにアンクが帰宅。映治の正体に気付いてしまう。
そして3つ!ノイズの発生を知ったクリスは映治の家から飛び出し、未来もそれを追って行く。未来同様にクリスを追いかけようとする映治にアンクはメダルを渡し自分の元へクリスを連れて来ることを約束させるのだった。
Count the Medals!
現在、オーズの使えるメダルは――
人気のない商店街の中を駆け抜け、クリスは膝に手をついて立ち止まる。
ここまで全力で走ってきたことで病み上がりの身体にこたえたのか軽く咳き込みながら荒い息を吐く。
「私のせいで…関係のないやつらまで……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
クリスは悲痛の面持ちで叫び、膝をつく。
彼女の目からあふれた涙がアスファルトにポタポタと流れ落ちる。
「あたしがしたかったのはこんなことじゃない……けど、いつだってあたしのやることは……いつもいつもいつも!!うぅっ…うぅっ…うぅっ…!」
両手をつき、嗚咽を漏らすクリス。
そんな彼女の周囲にぞくぞくとノイズが現れ取り囲んでいく。
「あたしはここだ……!」
ゆっくりと立ち上がったクリスはその両目に涙を溜めてノイズを睨みつける。
「だから!関係ないやつらのところに行くんじゃねぇ!!」
クリスの言葉に答える様にノイズたちは自身の身体を弾丸へと変え、彼女を襲う。ノイズたちの攻撃を躱しながら
「Killter Ich――ゴホッゴホッ!?」
聖詠を口にしたクリス。しかし、その言葉の途中で咳き込み遮られる。
その隙を見逃さず上空に飛んでいた鳥型ノイズがその身をドリルのように変形させクリスに向けて飛来し――
「セイハァァァァァ!!」
それを遮るように響き渡った声とともに近くの建物の屋根から飛び込んできた人物が飛来するノイズを切り裂く。
そのままクルリと身を捻ってクリスの目の前に降り立った人物は彼女を背中に庇うように立ってノイズへ身構える。
「てめぇ、オーズ!」
「よかった、間に合って……」
目の前の背中を睨みつけて言うクリスに振り返らないままオーズが心底安堵した様子で言う。
「何しに来やがった!?お前の助けが無くてもあたしは――」
「っ!」
クリスの言葉を遮って飛び退いたオーズはクリスを抱えて足をバッタのそれに変化させて大きく跳躍する。直後先程二人のいた場所にノイズの弾丸が襲う。
すぐ近くのビルの屋上に降り立ったオーズ。
「っ!離せ!」
そんなオーズの腕から無理矢理抜け出すクリス。オーズもそれに抵抗することなく素直に離す。
「なんなんだよ……」
クリスは呟く様に言う。
「なんであたしを助けるんだよ!?あんたはあたしを利用したかっただけなんだろ!?だったら――」
「ごめん」
クリスの叫びを遮ってオーズは頭を下げる。
「やっぱり俺の正体を隠して君に名乗るべきじゃなかった。ちゃんと自分の正体を明かして君の力になるべきだった。でも、怖かったんだ。俺がオーズだってわかったら君は俺の手を取ってくれないと思ったんだ」
そう言ってオーズは顔を上げる。と、ベルトからメダルを抜き取り変身を解く。
「でも、これだけは信じてほしい。俺が君を助けたのは君を利用するためじゃない。君を助けたかったからだ。この気持ちに嘘はない。君を助けたのも、アンクに連絡しなかったのも、君を助けたのはオーズとしてじゃなく、〝火野映治〟として、君の力になりたかったからなんだ」
「あんた……」
「だから、俺のことを信じてほしい。オーズとしてじゃなく火野映治としての俺の手を掴んでほしい。もしも掴んでくれるなら、アンクに手出しはさせない。俺は全力で君を助けるから」
「っ!」
映治の伸ばす手にクリスは迷いを見せる。映治が嘘をついているようには彼女には見えなかった。彼が心から自分を思ってくれていると感じたからだ。
「…………」
クリスは迷った様子で、しかし、その手を上げようとし
「キャァァァァァァ!!」
「「っ!?」」
突如響き渡った悲鳴に揃って顔を強張らせる。
周囲に人影はない。恐らくここから少し離れた、だがそう遠くないところでまだ逃げ遅れた人物がいたのだろう。
「っ!」
「…………」
今にも飛び出したい気持ちを抑え、しかし、葛藤を見せる映治の様子をクリスは数秒見つめ
「Killter Ichaival tron」
「っ!」
聖詠とともにクリスの身体を光が包む。
その身を黒と赤の鎧で包んだクリスはアームドギアのボウガンを構えて放つ。と、上空を飛び交っていた鳥型ノイズの群れがその矢によって炭へと変わる。
「ご覧の通りだ!あたしのことはいいからあんたはさっさとさっきの声のところへ行きな!ここいらのノイズはあたしが相手する!」
「で、でも君はまだ……」
「ああ、そうだな。本調子とは言えねぇ」
心配げな映治の言葉に頷いたクリスは、だから、と続ける。
「これが済んだらさっきのやつ、もっと食わせろ」
「え……?」
「腹一杯食って寝りゃ少しはマシになんだろ」
「そ、それじゃあ!」
「勘違いすんな!」
嬉しそうに微笑む映治を睨みながらクリスはアームドギアを映治に向ける。
「あんたのことを完全に信用したわけじゃない。でも今のまま何のあてもなく逃げ回っててもいつか限界が来る。だから、あんたらのことを利用してやる」
「うん、今はそれで十分だよ」
睨むクリスの視線を受けながら、しかし、映治は心底嬉しそうに笑う。
「チッ……調子狂うな……」
「すぐ戻るから!何かあったらこれで呼んで!」
頭を掻きながら呟くクリスに映治は赤いタカのカンドロイドを渡す。
「あぁもうわかったからさっさと行け!」
「うん!」
シッシッと追い払うように手を振ったクリスに頷いた映治は再びベルトにメダルを入れ
「変身!」
その身をオーズへと変える。
「それじゃ、行って来るね!」
そう言って足をバッタ状にしたオーズは先程の悲鳴の聞こえた方へと跳んで行ったのだった。
○
商店街のはずれにある崩れかけの廃ビルの中、そこには三人の人間と一匹のノイズがいた。
そのノイズはタコのような見た目をしていてたくさんの足をくねらせながら鉄骨に絡みついていた。
一方その場にいる人間のうち、ひとりは女性、商店街の中にある「ふらわー」というお好み屋の店主。気絶しているらしく倒れ伏しきつく目を閉じている。
そして、彼女の他にいる二人の人物、それは小日向未来と立花響だった。
彼女たちはコソコソと口をお互いの耳元に寄せ合って話している。
そんな中、彼女たちと離れたところでガラリと瓦礫が崩れる。
ドンッ!
と、崩れた瓦礫をタコ型のノイズが触手を瞬時に伸ばして攻撃する。
「「っ!?」」
ノイズの行動に二人は顔を強張らせる。
このタコ型ノイズ、どうやら音に反応しているらしく、彼女たちは先程から携帯のメール機能を使って会話をし、お互いの耳に口を寄せて相談している。
気絶している「ふらわー」の店主のおばちゃんを連れて音を立てずにこの場から逃げるのは困難。しかし、かと言ってシンフォギアを纏って戦おうとすれば否応なしに聖詠と歌によってノイズの標的になるだろう。
この困難な状況に二人は身動きが取れずにいた。しかし、この状況で二人――とりわけ未来は諦めていなかった。
未来が何かを提案するとそれを慌てた様子で響が止めようとする。が、未来は首を振り、響に何かを告げて立ち上がり――
「私!もう迷わないッ!!」
そう叫んだ未来は駆け出す。そんな未来に向けてノイズが触手を伸ばす。
駆け足で響達の元から離れ廃墟から出ようとしたとき
≪スキャニングチャージ≫
どこからともなく聞こえた音声とともに
「はぁぁぁぁぁ!!」
高らかな叫び声とともに廃ビルの崩れた壁の向こうから〝それ〟は現れ
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!セイヤァッ!!!!」
タコ型ノイズへとキックを叩き込む。
そのまま地面に着地したその人物――オーズの背後で炭と化し爆発する。
「っ!未来!!」
突然の乱入者に呆然としていた響は慌てて親友の元へ駆け寄る。
生き残ったことを喜び合う二人。そんな二人を優しく眺める様に見つめる。
少し前に響とのことに悩んでいた未来を見ているオーズ――映治にとって今響と微笑み合う未来の笑顔はとても眩く見えた。
満足そうに頷いたオーズは踵を返す。
「オーズさん!」
そんな彼を響が呼び止め、オーズは振り返る。
「オーズさん!ありがとうございます、未来を助けてくれて!」
「…………」
響の言葉を受け、オーズは数秒彼女を見つめ、右手でサムズアップして響へ向ける。
「っ!」
そんなオーズに響も笑みを浮かべ同じようにサムズアップし返す。
それを見たオーズは頷き踵を返し――
「あ、あの!」
と、今度は未来が呼び止める。
「もしかして……映治さん、ですか……?」
「え、未来!?」
「…………」
未来の言葉に響は驚きの顔でオーズと未来を何度も見比べ、そんな二人の視線を受けオーズは何も言わずに視線を向け
「っ!」
そのまま何も答えず跳び上がり去って行った。
○
「――てっきり俺のところには連れて来ずに逃がすと思ったがなぁ」
ソファーに深く腰掛けてニヤリと笑いながらアンクは言う。アンクの視線の先にはクリスが立ち、彼女を庇うように映治が立つ。
「で?ここに来たってことは正直に話す気になったか?」
「…………」
アンクの視線を受けクリスは黙って睨み返す。
「まず教えろ、あの襲撃の時、お前かカザリか、もしくはあのフィーネとかいう奴が俺のコアメダルを拾ったな?」
「…………」
「おいガキ!てめぇ俺たちに匿われてぇなら質問に答えろ!いつまでも黙ってると窓から蹴り落とすぞ!!」
「アンク!」
立ち上がり詰め寄ろうとしたアンクを映治が遮る。
「おい映治、いい加減にしろ!これ以上邪魔するなら――」
「そうだよ……」
アンクが映治の胸倉を掴んで睨む。と、それを遮ってクリスが呟くように言う。
「……何?」
映治から視線を外しクリスへ視線を向けたアンクは問う。
「だから、そうだって言ったんだよ」
言いながらクリスはアンクが座っていたソファーに今度はクリスが座る。
「あの時、あいつがしたあのバカでかい攻撃から逃げる時、あたしの方に吹き飛んできたものをあたしが拾ってフィーネに渡した」
「やっぱりなぁ!」
クリスの言葉にアンクが嬉しそうに笑う。
「てことは俺のコアメダルはあの女のところか……よし、ガキ、案内しろ!あの女から今すぐ俺のメダルを取り戻す!」
「意味ねぇよそんなもん」
「はぁ?」
クリスの言葉にアンクが眉を顰める。
「どう言う意味だ?お前があの女に渡したんだろ?」
「ああ。で、それをあたしが昨日持ち逃げした」
「………はぁ!?」
「え、待って。てことは今アンクのコアメダルは……?」
驚きで叫ぶアンクと呟く様にクリスを指さしながら言う映治。
「チッ!なんだよ、最初からそう言えよ!」
舌打ちしながらアンクは右手をクリスに差し出しながら詰め寄る。
「おら、さっさと出せ。返せ俺のメダル」
「………無理だ」
「なんだと?」
クリスの言葉にアンクが眉を顰める。
「おい、ガキ。どういうことだ?」
「も、もしかして、渡したらすぐアンクが君をどうにかするって思ってる?だったら安心して。さっき約束した通り俺がそんなことさせないから!」
「…………」
映治は言うがクリスは答えない。
「ほらアンク!お前もちゃんと約束しろ!メダル渡したからってこの子に手を出さないって!」
「チッ!わかったよ!約束してやる!これでいいだろ!?さっさと出せ!」
「…………」
アンクは苛立たし気に頭を掻いてから舌打ちをしながら言うアンク。しかし、クリスは黙ったままそっぽを向く。
「なんだ!?これ以上どうしろって言うんだ!?俺たちだけじゃなくあの女やカザリ達からも守れってか!?てめぇ図々しいにもほどがあんだろ!」
「クリスちゃん、君のことは俺が守るから、アンクにコアメダル渡してやってくれないか?頼むよ」
「…………」
怒るアンクを宥めながら映治が頼む。そんな二人を見ながらそっぽを向いたままクリスは
「………持ってない」
「「は?」」
「だ、だから!今は持ってないんだよ!」
「「………はぁぁぁ!?」」
クリスの言葉にアンクと映治が揃って驚きの声を上げる。
「おいふざけんな!さっきテメェ、あの女のところからパクって来たって言ったじゃねぇか!」
「確かに逃げるときに咄嗟にフィーネんところから盗って来たよ!でも、今は持ってないんだよ!」
「テメェそんなバカな話が――」
「逃げ回ってる途中で落としたんだよ!」
「「…………」」
クリスの言葉に呆けた顔をする二人。そんな中アンクが俯き肩をワナワナと震わせ――
「テメェふざけんじゃねぇぞ!人のもん勝手に持って行ってあげく落としただぁ!?」
「しょ、しょうがねぇだろ!あたしも逃げるのに必死だったんだよ!」
「知るか!」
クリスと睨み合いながら叫んだアンクは机の上に置いてたタブレット端末を手に取り操作し地図を開く。
「おい、テメェどういう道順で逃げてた!?」
「んなもんいちいち覚えてねぇよ」
「死んでも思い出せ!でなきゃここで殺す!」
「そもそもこいつらにどこで拾われたかも知らねぇのに」
言いながらクリスは映治に視線を向ける。アンクも映治をギンッと睨む。
「あぁ~……クリスちゃんを見つけたのは確か――」
言いながらアンクのタブレット端末上の地図を指さす。
「ここか……で?あの女の本拠地は?」
「それなら……ここだな」
クリスは地図の上を指で示す。
「てことはここからここまでで……チッ」
地図の上の二つの場所とその間を行ったり来たりして見ながら舌打ちをしてズンズン歩いて行く。
「おい、どこ行くんだよ!?」
「メダルを探しに行く!誰かに拾われる前に探し出さねぇと!」
映治の問いに答えたアンクはそのままバタンッと大きな音を立てて閉じて出て行った。
「…………」
「フンッ」
呆然とそれを見送った映治。クリスは鼻を鳴らしてソファーに寝転ぶ。
「あぁ~……えっと……」
そんなクリスに映治は何かを言おうとして、しかし、口を噤む。
「………なんだよ?」
そんな映治に鬱陶しそうにクリスが訊く。
「うん。なんて言うか、もしかしたら一緒に来てくれないかなぁって思ってたから、来てくれて嬉しかった」
「なんだそりゃ?」
映治の言葉にクリスは寝転んだまま言う。
「言ったろ?あたしは安全を確保したいんだ。だからあんたについて来たのもあくまで利用するためだ。あんたのことはまだ信用してねぇ」
「そっか……でも、今はそれでいいよ」
「フンッ」
優しく微笑む映治にクリスは調子が狂ったようにそっぽを向く。
「で?」
「え?」
クリスがそっぽを向いたまま何かを促すが、映治は首を傾げる。
「ほら……さっきのやつ!麦粥?キュケオーン?食わせてくれるんだろ!?」
「あぁ~」
クリスがそっぽを向いたまま言う言葉に納得したように頷く映治。
「もしかして気に入った?」
「はぁ!?んなわけねぇだろ!?いいからさっさと準備しろよ!」
「はいはい」
叫ぶクリスの言葉に映治は嬉しそうに微笑みながらキッチンに向かうのだった。