戦姫絶唱シンフォギア~希望の歌姫と欲望の王~   作:大同爽

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すみません、昨夜更新したのになぜか途中からになっていました。
先程誤字脱字がないかあらためて読み返そうとして気付きました。
申し訳ありません。
あらためてちゃんとしたものを更新します。(2020.3.22)



戦姫絶唱シンフォギア~希望の歌姫と欲望の王~、前回までの3つの出来事

1つ!立花響と小日向未来は友人の板場弓美、安藤創世、寺島詩織の三人に仲直りをしたことを報告。三人は二人の仲直りを心から喜ぶのだった。

2つ!三人の友人たちから火野映治に学内で非公式のファンクラブがあることを聞き、彼女たちは改めてオーズ=映治の疑惑について語るのだった。

そして3つ!雪音クリスの言葉に乗っ取って探すもののメダルを見つけられなかったアンクはフィーネとカザリに向けての襲撃計画を立てる。その襲撃に映治とクリスも参加することとなったのだった。



Count the Medals!
現在、オーズの使えるメダルは――





018~大人と夢と高い塔~

「……なんだよこれ……?」

 

 その惨状を見てクリスは呆然と呟いた。

 そこはクリスの案内でやって来た森の奥のフィーネのアジトとなっていた屋敷。しかし、その中は酷い状態だった。

 一番奥の広い大広間は特に酷かった。ガラスはすべて割れ、そこら中に血塗れの死体がいくつも転がっていた。

 朝、予定よりも早い時間にアンクにたたき起こされた俺とクリスは揃ってアンクが渡して来たタブレット端末の画面に映る映像に驚かされた。

 今日の十時に乗り込むはずだったフィーネのアジトに複数の武装した人影が近づいて行く様子がそこには映し出されていた。

 慌てて準備した俺たちは急いでアジトに乗り込んだ。もちろん何が起こるかわからないので俺はオーズのタトバコンボに変身した状態で、クリスもいつでもシンフォギアを纏えるようにしている。そして、今に至る。

 

「この顔つき……日本人じゃなさそうだな?」

 

「たぶんアメリカ人だよ。でもなんだって武装した人間がここに?」

 

「何がどうなってんだよ……?」

 

 死体を見ながらこの現状に至った原因を探ろうと見渡す俺とアンク。クリスも呆然とあたりを見渡しながら呟く。と――

 

 ガタンッ

 

「「「っ!?」」」

 

 背後で聞こえた物音に俺たちは揃って警戒をしたまま慌てて振り返る。

 そこにはガタイのいい赤毛の白いスーツのズボンに赤いカッターシャツの男が立っていた。確か二課の人間だ。前にクリスちゃんと響ちゃん、風鳴さんが戦ったときに最後にやって来た人だ。

 

「っ!違う!あたしたちじゃない!やったのは――」

 

 クリスが慌てて言うが、それより早く黒服にサングラスに拳銃を構えた男たちが駆けこんでくる。

 

「っ!」

 

「待って、アンク!」

 

 アンクが右腕を変化させ構えるが俺は慌ててそれを制す。

 

「くっ!」

 

 クリスも身構えるが俺たちをよそに黒服の男たちは周囲に倒れる死体たちに駆け寄る。

 

「???」

 

 困惑しているクリスに例の赤毛の男が歩み寄りクリスの頭に手を置く。

 

「誰も君らがやったなんて疑っちゃいない」

 

「っ!」

 

 男の言葉にクリスが驚いた顔をする。

 

「全ては君や俺たちのそばにいた彼女の仕業さ」

 

「彼女?」

 

 男の言葉に俺は訊く。そんな俺、そして俺の隣に立つアンクに視線を向ける。

 

「こうしてちゃんと会って話すのは初めてだな」

 

「…………」

 

「何て呼べばいいかな?」

 

「とりあえず俺のことはオーズでいいです。彼女はアンクです」

 

「そうか。俺は『特異災害対策機動部2課』で指令をしている、風鳴弦十郎だ」

 

 男――弦十郎さんはそう言って俺たちの方に一歩歩み寄る。

 

「君たちが彼女を保護してくれたのか?」

 

「このバカが勝手に連れて来ただけだ。俺はこんなガキのお守りなんて御免だ」

 

 クリスを示しながら言う弦十郎の言葉にアンクは肩を竦めながら答える。

 

「彼女の身柄は俺たちが保護するべきだった。それを代わりに救ってくれたこと、心から礼を言いたい。ありがとう」

 

 そう言って弦十郎さんは俺たちに頭を下げる。

 

「あなた、なんで……?」

 

 俺の問いに弦十郎さんは顔を上げる。

 

「ヴァイオリン奏者の雪音雅律とその妻、声楽家のソネット・M・雪音が難民救済のNGO活動中に戦火に巻き込まれて死亡したのが8年前。残った一人娘も行方不明となった」

 

「…………」

 

「そのガキのことか」

 

 押し黙る俺をよそにアンクがクリスを指さしながら言った言葉に弦十郎さんが「ああ」と頷く。

 

「その後、国連軍のバルベルデ介入のよって事態は急転する。現地の組織に囚われていた彼女は発見され、保護。日本に移送されることになった」

 

「ケッ!よく調べてるじゃねぇか。そう言う詮索反吐が出る」

 

 鼻を鳴らしてクリスが言う。

 

「当時の俺たちは適合者を探すために音楽界のサラブレットに注目していてね。天涯孤独となった君の身元引受先として手を上げたのさ」

 

 だが、と弦十郎さんは言葉を区切る。

 

「君が帰国直後に消息不明になった。俺たちも慌てた。2課からも相当数の捜査員が駆り出されたが、この件に関わったもののその多くが死亡、あるいは行方不明という最悪の結末で幕を引くことになった」

 

「それで、あなたはどうしたいんですか?」

 

 俺は弦十郎さんに問いかける。

 

「俺は、その子を救いたかった。引き受けた仕事をやり遂げるのは、大人の務めだからな」

 

「ハッ!大人の務めと来たか!余計なこと以外いつも何もしてくれない大人が偉そうに!」

 

「…………」

 

 吐き捨てる様に言うクリスに弦十郎さんは押し黙る。と――

 

「風鳴司令!」

 

 黒服の一人が声を上げる。

 

「……どうした?」

 

「これを!」

 

 黒服の示すところを見る弦十郎さん。俺とアンク、クリスもそこに視線を向ける。

 そこには死体の一つに一枚の紙が貼られ赤い血の文字で「I love you SAYONARA」と書かれている。

 黒服の男がその紙をはがそうと手を触れ――

 

「ッ!待った!はがしちゃだめだ!」

 

 タカの力によって強化された俺の視界がその罠に気付く。が、俺の言葉は遅かったようでその黒服の人物はすでに紙を引っ張っていた。

 

「っ!」

 

 俺はすぐさま動き、近くにいた人たちを庇う。

 視界の端でクリスとアンクを弦十郎さんが庇ったのが見えた。直後――

 

 ズドドンッ!

 

 あたりを爆発が襲う。

 爆発の帆脳と煙が晴れた時、周囲は瓦礫の山となっていた。俺が庇った人も少し離れた場所にいた人も怪我はないようだった。

 見ればクリスとアンクを抱えた弦十郎さんがその右手に降って来たであろう瓦礫を掴んでいた。

 

「どうなってんだよ……?」

 

「衝撃は発勁でかき消した」

 

「そうじゃねぇよ!」

 

 弦十郎さんの言葉にクリスは腕を振りほどいて弦十郎を睨む。アンクもさっさと距離を取っている。

 

「なんでギアを纏えない奴があたしを守ってんだよ!?」

 

 クリスの言葉に手で防いでいた瓦礫を放って弦十郎が向き直る。

 

「俺が君を守るのは、ギアのあるなしじゃなく、お前よか少しばかり大人だからさ」

 

「大人!?あたしは大人が大嫌いだ!死んだパパもママも大嫌いだ!」

 

「っ!」

 

 クリスの言葉に俺は息を飲む。

 

「とんだ夢想家で臆病者!あたしはあいつらと違う!戦地で難民救済?歌で世界を救う?いい大人が夢なんか見てんじゃねぇよ!」

 

「大人が夢を、ねぇ……」

 

「本当に戦争を失くしたいのなら、戦う意思と力を持つ奴を片っ端からぶっ潰して行けばいい!それが一番合理的で現実的だ!」

 

「それは、違うと思うよ」

 

 叫ぶクリスちゃんに俺は思わず口を開く。

 

「暴力に対して暴力でぶつかっても、何の解決にならないよ。それじゃあ争いが余計に大きくなっちゃう。泣く人が増える。惨めな人が余計に惨めになる」

 

「それは……」

 

 俺の言葉にクリスちゃんは言い淀む。

 

「いい大人が夢をって君は言うけど、俺は逆だと思う。大人だから夢を見るし、夢に焦がれるんだよ」

 

 俺はクリスちゃんに歩み寄りながら言う。

 

「確かに子どもの時に夢見たことが時を経て現実を見ることはある。でも同時に夢を現実にするためには、夢をかなえるための手段が見えてくるんだ」

 

 言いながら俺はクリスちゃんの目の前に立つ。

 

「君のご両親はなんの根拠もなく、ただの無茶で戦地に向かったんじゃない。そこがこの世の地獄だってわかってて、自分たちの歩む道が茨の道だってわかってて、それでも焦がれる夢を目指したんだよ」

 

「なんでそんなこと……」

 

「君に見せたかったんだよ。夢をかなえる瞬間を。夢は叶うんだって言うことを、証明したかったんだ」

 

「っ!」

 

「君は嫌いだって言ったけど、君のお父さんもお母さんも君のことを愛してたんだ。だからこそ自分たちをそばで見ていてほしかったんだ。君が誇れる親でいるために」

 

「うっ…うぅ……!」

 

 俺の言葉にクリスちゃんが嗚咽を漏らす。俺はそんなクリスちゃんを優しく抱きしめる。

 

「うぅ!うわぁぁぁぁぁ!!」

 

 クリスちゃんは抱きしめる俺の胸に顔を埋め声を上げて泣いた。その姿はこれまでの強い彼女ではなく、年相応の少女の姿だった。

 

 

 ○

 

 

 爆発で瓦礫の山となった場所をあらかた捜索した黒服さんたちは慌ただしく乗ってきた車に乗り込んでいく。

 そんな中で最後まで俺たちと対面していた弦十郎さんは口を開く。

 

「君たちの事、味方と思っていいんだな?」

 

「はい。少なくとも、俺たちはあなたたちと敵対する意思はありません。でも、すみません、今はまだ……」

 

「構わんさ。敵じゃないということがわかればな」

 

 俺の言葉に弦十郎さんは微笑む。

 

「その子の事、君たちに任せてもいいだろうか?」

 

「任せてください!」

 

「チッ」

 

 弦十郎さんの言葉に俺は大きく頷きその隣でアンクは嫌そうに舌打ちをする。

 

「今はまだ、君たちも君もそれぞれの道を進んでいるかもしれない。だが、その道はいつか俺たちの道と合流すると信じている」

 

「いままで戦ってきた者同士が、手を取り合えるていうのか?世慣れた大人がそんな綺麗事言えるのかよ?」

 

「ホント、ひねてるなぁお前……」

 

 クリスちゃんの言葉に弦十郎さんは苦笑いを浮かべ

 

「ほれ」

 

 携帯機器をクリスちゃんに投げて寄越す。

 

「限度額以内なら公共交通機関は使えるし自販機で買い物もできる。何かあればそれを使え。中には俺へ直で繋がる連絡先が登録してある。何かあれば頼ってくれ」

 

 そう言って弦十郎さんは車に乗り込む。と――

 

「『カディンギル』!」

 

「え?」

 

「フィーネが言ってたんだ。それが何かはわからないけど、そいつはもう完成してるみたいなこと言ってた」

 

「『カディンギル』……後手に回るのは終いだ。こっちからうって出てやる」

 

 クリスちゃんの言葉に弦十郎さんは真剣な表情で言うと、俺たちに手を振り去って行った。

 それを見送りながら俺はアンクに視線を向け

 

「なぁ、お前は何か知ってるか、『カディンギル』について?」

 

「確か古い言葉で『高みの存在』のこと。そこから転じて仰ぎ見るほどの高い塔のことを言ったりするな」

 

「塔……」

 

 俺はアンクの言葉に腕を組む。

 

「クリスちゃんの話ではそれはもう完成してるんだよね」

 

「ああ。フィーネはそう言っていた」

 

 俺の問いにクリスちゃんは頷く。

 

「……でも、そんな高い塔、人目に着かないように作れるものなのかな……?」

 

「……………」

 

 俺の言葉が聞こえているのかどうかわからないがアンクは考え込むように腕を組んで目を瞑る。

 

「何かが気になる……さっきのあの男の言葉、フィーネはこのガキだけじゃなく奴らの近くにもいた……そして、『カディンギル』…空を仰ぎ見るほどの塔……」

 

「塔か……何かで隠しながら作る、なんてことも難しいだろうし、いったい何のことなんだろうなぁ……」

 

「隠しながら作る……?」

 

 俺が頭を掻きながら言うと、アンクは俺の言葉を繰り返すように呟く。が、結局この時は結論は出ないのだった。

 


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