前話はプロローグなので、ここからがホントの一話です。
あの事件から二年がたった。
この二年の間には色々あったけど、この春、私は晴れて女子高生となる。
私の通う学校の名前は「私立リディアン音楽院」。ここには憧れのあの風鳴翼さんが通っている。できることなら何かの偶然で出会えないかと思って受験勉強も頑張った。
ただ、私が翼さんに会いたいのはただの憧れだけでじゃない。
私は、あの二年前のことを少しでも知れたらと思っているのだ。
あの日私の見た光景、大量のノイズに向かって不思議な衣装と武器で戦うツヴァイウィングの二人の姿。私を救ってくれたのは確かにあの二人だった。しかし、あの事件から目覚めた私が見たニュースではあのライブ会場にいたたくさんの人が亡くなったこと、その中にはあの時戦っていた奏さんも含まれることだけで、戦っていた二人のことについては何も触れられていなかった。
さらに、あの日ノイズではないよくわからない怪物やそれと戦っていたさらによくわからない人のことも、何一つ情報はなかった。
だから私は知りたいのだ。
あの日何があったのか。
あの日の真実を、私は知りたいのだ。
知りたいのだが――
「立花さん!!」
「っ!」
目の前の先生の叫び声に私はビクリと肩を震わせる。
「あ、あのぉ…木に登ったまま降りられなくなった子猫がいましてですね?」
「それで?」
「きっとお腹を空かせてるんじゃないかと――」
「立花さん!!!!」
「たはぁ~疲れたぁ~!!」
入学初日の授業を終えて寮の部屋に帰ってきた私は床に倒れこむ。
「入学初日からクライマックスが百連発気分だよ~……私呪われてる~……」
「半分は響のドジだけど残りはいつものお節介でしょ?」
「人助けと言ってよ~、人助けは私の趣味なんだから」
愚痴る私に言う幼馴染にして同室の未来に私は唇を尖らせて言う。
「響の場合度が過ぎてるの。同じクラスの子に教科書貸さないでしょ、普通」
「私は未来から見せてもらうからいいんだよ~」
未来の言葉に私は笑って言いながら
「あ、そう言えば『人助け』と言えばね?」
私はふと今朝の一件を思い出す。
「今日木に登って降りられなくなった子猫がいたんだけどね」
「今朝先生に怒られてたやつね」
「うっ……それはまあそうなんだけどね」
未来の言葉に私は朝の先生の剣幕を思い出して顔を顰める。
「まあとにくその時にね、実は猫と私を助けてくれた人がいてね」
「それは誰か先生?」
「ううん、用務員さん」
興味を持ったらしい未来の問いに私は首を振りながら答える。
「子猫が思ったより高いところに登っててね、猫を抱っこしたままだとなかなか降りられなくてほとほと困り果ててたんだよ」
「もう、考えなしなんだから……」
「でね!その場にたまたま通りかかったらしいその用務員さんが脚立持ってきてくれて無事に降りることができてね!しかもその子猫の後の面倒も見てくれるって引き取ってくれたんだよ!」
「へぇ~、そんなことがあったんだね」
未来が感心したように言う。
「なんて言うか響に負けず劣らずなお人好しだね」
「そう?」
「うん。それで?どんな人だったの?」
「うんとね、歳は聞かなかったけど、たぶんそんなに離れてないと思う。20代前半くらいかな~?」
「へぇ?思ったより若いんだね。もっとおじさんを想像してたよ」
「でしょ?私も気になったんだけど時間もなかったし、用務員さんだからまた会う機会はあるかなぁって思うし」
「まあね。じゃあ名前とかも聞いてないの?」
「それは聞いておいたよ」
未来の問いに私は頷く。
「えっとね…映治さん、火野映治さんって言うんだって」
○
とある山中、真夜中ともいえる時間に飛び交う複数のヘリからの光に照らし出され、それらはいた。
――ノイズ。
人類共通の脅威とされ、人類を脅かす認定特異災害。
13年前の国連総会で特異災害として認定された未知の存在であり、発生そのものは有史以来から確認されていた。
歴史上に記された異形の類は大半がノイズ由来のものと言われ、学校の教科書にもその存在が記されているなど、知名度自体はそれなりに高い。
空間からにじみ出るように突如発生し、人間のみを大群で襲撃、触れた人間を自分もろとも炭素の塊に転換させ、発生から一定時間が経過すると自ら炭素化して自壊する特性を持つ。また、一定範囲以内に人間がいなければ、周囲を探索したりはせず自壊するまであまり動くことはない。
現在のあらゆる兵器ではノイズに対処することができない。そのため、ノイズが発生したことが確認されればすぐさま避難誘導が行われる。
この山中でも付近一帯の民家には避難指示並びに自衛隊や特異災害対策機動部による避難誘導も行われた。
現在も少しでもノイズの被害を減らそうと対策組織による迎撃が行われているがそれらは一切の成果を上げていない。
――そんな光景を少し離れたところから見ている二人の人物がいた。
「ノイズが出たって聞いて来てみたが……ヤミーや他のグリードの気配はしないな。とんだ無駄足だったな」
木にもたれかかって面倒くさそうにため息をつく人物が言う。
白に右腕の袖だけ赤いパーカーを着て夜にもかかわらず真っ黒な野球帽を目深に被りパーカーのフードまで被っており、フードの脇からは収まりきらないボリュームのある金髪が左右に流して出されている。
「無駄足って……相手がノイズならあの人たちの装備じゃ太刀打ちできないだろ」
フードの人物の言葉に隣にいた人物が呆れたように言う。
その精悍な整った顔つきにエスニック調な服装の青年はフードの人物に手を差し出す。
「あぁ?なんだこの手は?」
「〝メダル〟だよ!ノイズに対抗できる力があの人たちにはないんだから俺たちが戦うしかないだろ!」
「ハンッ!ノイズ倒してもセルメダル一枚だって手に入らねぇんだ。戦うだけ無駄だ」
青年の言葉を鼻で笑いながらフードの人物は踵を返す。
「あっ!ちょ、待てよ〝アンク〟!」
慌てて青年もその後を追いかける。
「お前そんな――」
「慌てんな、バカが」
言いかけた男の言葉を遮ってアンクと呼ばれたフードの人物が足を止め振り返る。
「どうせ俺たちが出なくたってそろそろ……っと、言ってたら来たようだぞ」
「え?」
アンクの言葉に青年が促された方に視線を向ける。
そこには一基のヘリがノイズたちへ向けて飛んでいくのが見え
「――Imyuteus amenohabakiri tron」
どこからともなく済んだ歌声が聞こえる。
と、同時にノイズの中でも一番大きな二足歩行して進んでいたものの前にヘリから何かが落ちる。
それは光を放ちながら地面へと降りていく。
「おら、行くぞ。何の得にもならねぇノイズ退治に加えてあいつらにまた絡まれたら面倒だろ」
「でも――」
「あいつらはそれが仕事なんだ。任せときゃいい」
言いながらアンクは再び歩き出す。
「あっ!……たく……」
青年はため息をつきながらアンクの後を追いかける。
「………ところで、映治」
「なんだよ?」
と、アンクが隣の青年をちらりと見ながら言う。
それに映治と呼ばれた青年は首を傾げながら応える。
「ずっと気になってたが……お前なんで猫なんて連れてんだ?」
「ニャ~」
と、アンクの言葉の直後に、まるで自分が話題に出たことを理解しているように映治の腕の中に抱かれていた白い子猫が鳴く。
「あぁ、これは今朝木に登って降りられなくなってるところを女の子が助けててな。俺も手伝ったんだよ」
「それをなんでまだ連れてんだよ。まさか飼うつもりじゃねぇだろうな?」
「え?ダメか?」
呆れたように言うアンクの言葉に映治が訊く。
「好きにしろよ。少なくとも俺は面倒見ねぇ」
「なんだよ、お前も一緒に世話しようぜ?ほら?可愛いだろ~?」
「ハンッ!さらさら興味ないな」
「ちぇ~こんなに可愛いのに。なぁ?愛想ないやつだよな~?」
「ニャ~」
映治の言葉に答えるように子猫が鳴く。
「そう言えば、あの木に登ってた女の子……どこかで見たような……」
ふと、映治は今朝の少女を思い出して足を止める。が――
「おい、映治!何してる行くぞ!」
「あっ!わかったよ!」
急かす声にため息をつきながら思考を中断し先を行くアンクを追いかけるのだった。