戦姫絶唱シンフォギア~希望の歌姫と欲望の王~   作:大同爽

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戦姫絶唱シンフォギア~希望の歌姫と欲望の王~、前回までの3つの出来事

1つ!ついにフィーネのアジトに乗り込む火野映治とアンク、雪音クリスだったが、そこにフィーネたちはおらず、そこには大量の死体が転がる惨状が広がっており、同時に現れた特異災害対策本部二課の指令の風鳴弦十郎とその部下たちと遭遇した。

2つ!クリスたちを疑わなかった弦十郎たち。しかし、彼らを爆弾が襲うも映治や弦十郎の活躍により事なきを得る。大人に守られたことに困惑し、大人を――夢を見続けた両親を嫌いだと叫ぶクリスに映治は優しく諭すのだった。

そして3つ!オーズたちの正体を詮索しないばかりかクリスへ便宜を図ろうとする弦十郎にクリスは『カディンギル』という情報を教える。しかしその言葉以上の情報はクリスにもなく、映治とアンクもその正体はつかめずにいるのだった。



Count the Medals!
現在、オーズの使えるメダルは――





019~助っ人と陽動と不穏な知らせ~

「――飛行タイプの超巨大ノイズが四体!?」

 

 隣でクリスちゃんが朝に弦十郎さんからもらった通信機器を耳に当てて驚愕の声を上げる。

 フィーネのアジトから撤収し今後のことについて話していた時、突如ノイズへの警報が鳴り響いた。

 驚く俺たちへ――厳密にはクリスちゃんへ、通信機器が着信を告げ現在に至る。

 

「そのノイズどもが向かう先が……スカイタワー!?」

 

「「っ!?」」

 

 通話の相手である弦十郎さんの言葉を繰り返したであろうクリスちゃんの言葉に俺とアンクは息を飲む。

 

「そうか!スカイタワーは日本でも最大の電波塔だ!つまり敵の目論見である『カディンギル』って言うのはあれのことだったんだ!」

 

「……………」

 

 俺は合点がいき言う。が、アンクはそれに答えず何か考え込んでいる様子だった。

 

「で?それをあたしに連絡してきてどういうつもりだ?……はぁ!?助っ人に行けだぁ!?」

 

 クリスちゃんは驚愕の声を上げる。

 なるほど、空を飛ぶノイズに対して響ちゃんと風鳴さんの力ではなかなか難しいだろう。その点クリスちゃんは遠距離武器主体だからより戦いやすくなるだろう。

 

「な、なんであたしが……」

 

 クリスちゃんは文句ありげなように言うが、その顔は少し前向きに検討している様子だった。が、クリスちゃんが決断を下すよりも早くクリスちゃんにつかつかと歩み寄ったアンクがクリスちゃんから通信機器をひったくる。

 

「お、おいてめぇ!何しやが――」

 

「おい、それに助っ人として俺たちを呼んで、俺たちにどんな見返りがある?」

 

「おいアンク!?」

 

「シッ!黙ってろ!」

 

 勝手に話し出すアンクに俺とクリスちゃんが詰め寄ろうとするがアンクは俺たちを睨んで恫喝すると通話に戻る。

 

「で?……たったセルメダル100枚か?この間は5000枚のセルメダルの輸送してたろ?」

 

 アンクは通話先へふてぶてしく言う。

 

「……まあいい。そのセルメダル100枚でとりあえず手を打ってやる。だが、これで貸し一つだ。いつか返してもらう。いついかなる時でも俺たちの手伝いをしてもらう。その条件を飲むってんなら大サービスだ。オーズも向かわせる」

 

「アンク…!?」

 

 アンクの思わぬ言葉に俺は思わず声を漏らす。

 

「で、どうすんだ?乗るのか?乗らないのか?」

 

 アンクはジッと答えを待つ。が、すぐにニッと笑みを浮かべ

 

「それでいい。約束忘れんなよ」

 

 そう言って通信を切り、通信機器をクリスに投げ返す。

 

「交渉成立だ。話の分かるやつでよかったよ」

 

「テメェ何勝手に決めてんだ!?」

 

「うるせぇな。どうせなんだかんだ言って最後には助けに行くんだろ?だったら上手く条件吹っ掛けて何が悪い?」

 

「なっ!?」

 

 ワナワナと口を震わせて、しかし、図星だったようで言葉を失っている。そんなクリスを放っておいてアンクは俺に向くと

 

「おう、映治。これ持ってけ」

 

「うぉっと!?」

 

 急に何かを投げて来たので慌てて受け取る。それは三枚のコアメダルだった。しかもその内容は

 

「ライオンにトラにチーターって、アンクこれコンボじゃないか!?」

 

「ああ」

 

 驚く俺にアンクは頷く。

 

「お前にその三枚を預ける。恐らく今回は大きな転機になるそれでうまく戦え」

 

 そう言ってアンクは近くの自販機に歩み寄りバイクに変形させて跨る。

 

「おいアンク!?お前は行かないのか!?」

 

「俺は別行動だ」

 

「で、でも!さっきのクリスちゃんの言ってた『カディンギル』ってスカイタワーの事なんじゃないのか!?」

 

「かもしれねぇな」

 

「だったら!」

 

「だが、なんか引っかかる。正直まんま過ぎるんだよ」

 

「まんま?」

 

「『カディンギル』が『空を仰ぎ見るほどの塔』でその正体がスカイタワーなら捻りが無さすぎる。途中で気付かれれば大事な計画がパァになる。俺がやつらの立場ならもっとバレない方法と場所で計画を進める」

 

「だったら今回のこれは……」

 

「ああ、恐らく陽動だ」

 

 俺の言葉にアンクは頷き、クリスは驚きで息を飲む。

 

「だとしたらフィーネたちの目的はなんなんだ!?」

 

「それを今から確かめに行く。ただ、やつらに俺たちが陽動に気付いてると悟らせないために行くのは俺だけだ。お前らには二課の要請に乗ってもらう」

 

「でも、だったら陽動ならコンボ使う必要はないんじゃ……」

 

「そいつは保険だ。陽動先にカザリの野郎が出て来た場合コンボじゃないと苦戦するからなぁ」

 

 そう言ってアンクはヘルメットを被る。

 

「何かわかったらすぐに連絡する。せいぜい陽動で足元掬われて死なねぇようにな」

 

 そう言ってアンクはバイクを走らせ去って行った。

 

 

 ○

 

 

 現在スカイタワー周辺では響と翼がシンフォギアを纏いノイズたちと戦っていた。

 響たちの奮闘で四体いた超巨大な飛行タイプのノイズのうち、一体を

 

「相手に頭上を取られるのが、こうも立ち回りにくいとは!」

 

「ヘリを使って私たちも空から――!」

 

 悔しげに言う翼に響が言う。が、その言葉を言い終わるより先に二人の上でヘリが爆発する。

 

「そんな……」

 

「よくもっ!」

 

 驚愕する響と怒りに顔を顰める翼。そんな二人に息をつく暇もなく飛行タイプのノイズが襲う。

 

「はぁっ!」

 

「せやっ!」

 

 それらを避け、さらに襲ってkるノイズたちを蹴散らす二人だったが、上空を飛ぶ超巨大ノイズから雨あられのごとくさらにノイズが追加される。

 

「空飛ぶノイズ……どうすれば……!」

 

「臆するな立花!防人が後退ればそれだけ前線が後退するということだ!」

 

 少し弱腰になる響に翼は叱咤する。が、そんな二人に大量のノイズたちが再び襲い――

 

「「っ!?」」

 

 しかし、それらはどこからともなく放たれた無数の弾丸に消し飛ぶ。

 慌てて二人がその弾丸の放たれた方向に視線を向けると、そこにはシンフォギアを纏ったクリスがその両手にガトリングガン状に変形させたアームドギアを構えて立っていた。

 

「あぁっ!」

 

 その姿に響は目を輝かせ、翼はムッとした表情を浮かべる。

 

「こいつがピーチクパーチク喧しいから来てやっただけだ!勘違いすんじゃねぇ!お前たちの助っ人になったつもりはねぇ!」

 

 クリスは二人を睨みながら言う。が――

 

『助っ人だ。少々到着が遅くなったがな』

 

「んぐっ……」

 

 クリスの握る通信機器から聞こえた弦十郎の言葉にクリスは顔を赤く染める。

 

「助っ人!?」

 

 喜ぶ響に対して翼は驚きの声を漏らす。

 

『そうだ!第二号聖遺物「イチイバル」のシンフォギアを纏う戦士、雪音クリスと――』

 

「セイハァァァァ!!」

 

 と、弦十郎の言葉の途中で高らかなエンジン音とともに声が響く。同時に少し離れた通りを埋め尽くしていたノイズたちが何者かによって蹴散らされ炭と化していく。

 その何者かはそのままノイズを蹴散らしながら三人の前までやって来て停まる。それは以前、完全聖遺物『デュランダル』輸送時に見たトラ型に変形したバイクに跨ったオーズ『ラトラーターコンボ』だった。

 

「お、お前は!?」

 

「オーズさん!」

 

『彼がもう一人の助っ人だ!』

 

 驚愕する二人に弦十郎が継げる。

 

「そういう訳だから、今は思うところはあると思うけど協力してこの状況を乗り越えよう!」

 

「くっ!……いいだろう。貴様の言うとおりだ、今は連携してノイズを――」

 

 オーズの登場に思うところがあるようだが、冷静に状況をとらえ、翼は頷く。が――

 

「知るか!あたしはあたしで勝手にやらせてもらう!邪魔だけはすんなよな!」

 

「えぇっ!?」

 

「ちょっ!クリスちゃんここは仲良く協力して――!?」

 

「うるせぇっ!保護者面してんじゃねぇよ!」

 

 そう言ってクリスはオーズに言うとアームドギアをボウガン状にして空を飛ぶノイズたちに乱れ撃つ。

 

「ほぇ~……」

 

 あっという間に空中にいるノイズたちを撃ち落として行くクリスの姿に響が感心の声を漏らす。

 

「空中のノイズはあの子に任せて、私たちは地上を――」

 

 そんな響に言おうとする翼だったが

 

「待って、君たちはクリスちゃんの援護をしてあげて欲しい」

 

 オーズがバイクから降りて二人に言う。

 

「地上は俺に任せてほしい。あの空に浮いてるバカでかいノイズを落とすにはクリスちゃんの力が不可欠だ。でも、いくら彼女でもあんなでかいのを一人では無理だ。彼女を助けてあげて欲しい」

 

「「…………」」

 

 頭を下げるオーズの姿に二人は少し驚いた様子を見せ

 

「わかりました!任せてください!」

 

「立花!?」

 

 元気に返事をして頷いた響に翼は驚き声を上げる。

 

「大丈夫です翼さん!オーズさんを信じましょう!それにクリスちゃんのことも!」

 

「……わかった」

 

 響の言葉に翼は頷く。

 

「ありがとう二人とも!」

 

「勘違いするな。私はまだお前のことを信じたわけじゃない。お前たちを信じるという立花を信じるだけだ」

 

「それでも、だよ」

 

「フンッ!」

 

 頷くオーズに翼は不満げに鼻を鳴らす。

 

「それじゃあ二人ともクリスちゃんのこと頼んだよ!その代わりこっちは任せて!」

 

 そう言ってオーズは再びバイクに跨り走り出す。

 

 

 ○

 

 

 

 トラカンドロイドとバイクを合体させた『トライドベンダー』で駆け回りノイズを蹴散らし、それを逃れたのもメダジャリバーやトラクローで切り裂きながら俺は進む。

 クリスちゃんのことは二人に任せたが、きっとあの三人でなら大丈夫。何故かわからないがそんな確信がある。

 先ほどチラリと様子を見た時にクリスちゃんと風鳴さんが少し言い争っているときはどうしようかと思ったが、すぐに響ちゃんが取り持ってくれたようだ。

 きっとこれなら大丈夫。俺も安心してこっちに集中することができそうだ。

 俺はノイズを取りこぼさないように集中し直す。

 道路を埋め尽くすほどのノイズたちをトライドベンダーを駆使して蹴散らす。

 しかし、同時に俺は先程アンクが言っていたことを理解する。

 恐らくここはアンクの言う通り陽動だ。

 もしここが本命ならここまでやってフィーネやカザリ、カザリのヤミーが現れないのはおかしい。

 アンクは任せろと言っていたが、無茶していないといいが……。

 そんなことを考えていた俺の耳にどこからか優しい歌声が聞こえる。

 見ると先程クリスちゃんたちの意建物の屋上で今は一人でクリスちゃんがまるで何かに集中するように目を閉じて歌っている。

 その歌詞はこれまでのまるでこの世の全ての悪意をたった一人でじ伏せようとする強い気持ち、自分へ向けられる善意を跳ねのけようとする鋭さの歌とは真逆。これまでの他人を拒絶する歌ではなく受け入れようとする、受け入れたちという気持ちを感じた。

 そして、そんな彼女を守るように彼女を襲うノイズたちを響ちゃんと風鳴さんが倒していく。

 

「フフッ……」

 

 そんな光景に俺はどうしようもなく嬉しくなって、つい戦っている最中だというのに微笑みを漏らす。

 きっとクリスちゃんは大丈夫だ。彼女たちがいれば、クリスちゃんはもう二度と一人ぼっちになることは無いだろう。

 俺はそんな確信を感じながらトライドベンダーを加速させた。

 

 

 ○

 

 

 あれから少ししてクリスちゃんの放った攻撃で上空に飛んでいた超大型ノイズたちは撃破され、そのほかのノイズたちも五人で手分けしてもれなく倒すことができた。

 

「やったやったぁ~!!アハハハハ~!!」

 

 クリスちゃんに駆け寄った響ちゃんはそのまま抱き着く。

 

「やめろバカ!!何しやがるんだよ!?」

 

 そんな響ちゃんを振りほどきクリスちゃんが叫ぶ。

 そんな二人に風鳴さんも歩み寄り、その三人を俺は離れたところから眺める。俺の視線の先で三人が変身を解くがもちろん俺は変身を解いていない。

 

「勝てたのはクリスちゃんのお陰だよ!フヒヒヒヒ~!」

 

「だからやめろって言ってんだろうが!!」

 

 再び抱き着く響ちゃんにクリスちゃんが叫んで振りほどく。

 

「いいか!?お前たちの仲間になったつもりはない!私はただ、フィーネと決着をつけて、やっと見つけた本当の夢を果たしたいだけだ!」

 

 クリスちゃんは響ちゃんへ拒絶を込めて言う。が――

 

「夢!?クリスちゃんの!?どんな夢!?聞かせてよぉ~!」

 

「うぅ、うるさいバカ!!お前本当のバカ!!!」

 

 それは余計に響ちゃんの興味を掻き立てる結果となり余計に響ちゃんにすり寄られている。

 そんな様子に風鳴さんは何も言わず、しかし微笑ましそうに笑っていた。

 と、そんな時だった。

 

「ん?」

 

 上空からタカカンドロイドがバッタカンドロイドを運んできて俺の手元に落として行った。そして――

 

『おい、聞こえるか!?』

 

「アンク!?」

 

 バッタカンドロイドから聞こえた声に俺は慌てて返事をする。

 

「聞こえるよ!何かわかったのか!?」

 

『ああ!思った通りだった!そっちは陽動だ!奴らの目的は他にあった!』

 

「それっていったい!?」

 

『奴らの目的は陽動で手薄になった特機部2の連中の本部を襲うことだったんだよ!しかも、どうやらあのフィーネって女の目的のカディンギルってのもそこだったらしい!』

 

「どういうことだよ!?二課の本部ってどこだよ!?」

 

『あのリディアンとかいう学校だ!てめぇのバイト先の!奴らそこの地下深くに秘密のアジトを作ってやがった!そのアジトが丸々フィーネどもの計画の要だったってわけだ!まったく、特機部2のやつらも間抜けだな!まさかここまで敵の術中だったとはな!』

 

「そんな……」

 

 アンクの言葉に俺は息を飲む。もし今の言葉が本当なら俺はずっと何も知らずに働いていたリディアンの地中にフィーネたちが虎視眈々と準備してきた『カディンギル』って言うのがあるらしい。

 

『とにかく今すぐテメェらこっちに来い!今こっちはノイズどもが現れて大騒ぎだ!この騒ぎに乗じてフィーネどもが現れるはずだ!そこを俺たちがやつらのメダルを横から掻っ攫う!』

 

「待ってくれ!ノイズが現れた!?学院に!?じゃあ生徒のみんなは!?」

 

『んなもん知るか!』

 

「知るかじゃない!こっちに響ちゃんも風鳴さんもいるんだぞ!そっちにはノイズに対抗できる戦力なんか無いんじゃないか!?」

 

『だろうなぁ。おかげであっちこっち大騒ぎだ』

 

「だったら!」

 

『だったらテメェがとっととこっちに来い!いま俺はカンドロイドで侵入路探してんだ!じきに通信どころじゃなくなる!あのガキ連れてとっととこっち来やがれ!』

 

「でもアンク!」

 

『っ!よっし!侵入路が見つかった!俺はこれから特機部2どものアジトに潜り込む!お前もさっさと来い!じゃあな!』

 

「あっ!ちょ、アンク!?アンク!!」

 

 一方的に切られた通信に俺は混乱した頭を落ち着かせて状況を整理する。とりあえず今は急いでリディアンに向かわないと――

 

「おい、どうした?」

 

 と、俺の今のアンクとのやりとりを見ていたであろうクリスたちが駆けよる。

 

「ッ!丁度いい!君たちも一緒に来て!リディアンが大変なことになってる!」

 

「っ!?」

 

「おい!それはどういうことだ!?」

 

 俺の言葉に響ちゃんが息を飲み、風鳴さんが睨みながら言う。

 

「ここは陽動だったんだ!君たち二人をここに引き付けることが今の騒ぎの本当の目的だったんだ!」

 

「でも『カディンギル』はスカイタワーなんじゃ……」

 

「それは囮だったんだ!本当の『カディンギル』君たちのすぐ近くにあったんだよ!今その為にリディアンにノイズが現れたらしい!俺も今から向かうから二人も一緒に――」

 

「っ!貴様の言葉が真実だとして、貴様とともに行った先が罠でない保証はない!」

 

 俺の言葉に風鳴さんが睨みながら言う。

 

「その通りだ……でも、今は信じてもらうしかない!急がないとたくさんの人の命が!」

 

「翼さん!今はオーズさんの言葉を信じるしか――!」

 

「だとしても、いまだ自身の正体も明かさないこいつの言葉を100%信用するわけにはいかない!」

 

 響ちゃんの言葉を遮って風鳴さんは鋭く言う。

 

「行くぞ、立花!リディアンには私たちだけで行く!」

 

「待って!この『トライドベンダー』のスピードなら普通のバイクよりも早く行ける!」

 

「奏の事!貴様自身の事!さらに貴様と行動を共にしているあの奏の瓜二つの人物のこと!貴様に対する懸念がある以上、ホイホイと貴様に着いて行くわけにはいかない!」

 

「っ!」

 

 風鳴さんの言葉に息を飲む。その通りだ。これまで彼女たちへ秘密にし続け、こんなときだけ信じろなんて都合が良すぎる。

 

「翼さん、でも――!」

 

「あんたなぁ、こんな時に意地張って――!」

 

「待って二人とも。風鳴さんの言うとおりだ」

 

 風鳴さんにかけよる響ちゃんと俺の隣でクリスちゃんが言いかけた言葉を俺は遮る。

 

「…………」

 

 俺は風鳴さんと響ちゃんに一歩歩み寄り、ベルトに手を当て

 

「「「っ!?」」」

 

 三人が息を飲むのがわかった。三人の目の前で俺は変身を解いた。

 

「今、俺ができる事って言ったら、これしか思いつかない」

 

「お前は……!」

 

「映治…さん……」

 

「君たちの疑問に全て答えろって言うなら全部答える。全部話せって言うなら全部話す。でも、今は時間がない。後でいくらでも話すから、今は一緒に来てほしい!」

 

 風鳴さんと響ちゃんが驚きの声を漏らすのを見ながら俺は火野映治として頭を下げた。

 

「お願いだ!いまなら、いまならまだ間に合うんだ!いま手を伸ばせば、一人でも多くの命を掴めるんだ!手が届くのに手を伸ばさなかったら死ぬ程後悔する!だから協力してほしい!」

 

「…………」

 

 頭を下げる俺に風鳴さんは押し黙り

 

「……すべて片付いたら、話してもらうぞ」

 

「っ!」

 

 風鳴さんの言葉に俺は顔を上げる。

 

「少しだけ、あなたのことを信用しよう。その代わり、今だけだ。あなたが本当に信用できる人なのか、あとでしっかりと話を聞かせてもらってから判断する」

 

「今はそれでいいよ!ありがとう!」

 

 再びお礼を言いながら頭を下げた俺に風鳴さんは憮然と頷き

 

「あの…映治さん……」

 

「ごめん、響ちゃん。ずっと黙ってて。君にもちゃんと話すから」

 

「はい。でも!今これだけは言わせてください!」

 

 俺の言葉に頷きながらそれでも響ちゃんは一歩俺の方に踏み出す。

 

「この間、未来を助けてくれて、そして、二年前のあのライブの時、他にも何度も助けてくれて、本当にありがとうございます!」

 

「っ!」

 

 そう言って頭を下げる響ちゃんに俺は息を飲み

 

「お礼を言われることじゃないけど、とりあえず、どういたしまして、かな?」

 

 俺はニッコリと微笑んでい頷く。

 

「さぁ、急がないといけないんだろう?さっさと連れて行ってくれ」

 

「ああ!任せて!」

 

 風鳴さんの言葉に頷いた俺は再びベルトをセットし直し、オースキャナーでメダルを読み取る。

 

≪ライオン!トラ!チーター! ラッタ!ラッター!ラトラーター!≫

 

 オースキャナーから高らかになり響う声とともに俺の身体は再びオーズラトラーターコンボへと変身する。

 三人もそれを見ながらシンフォギアを纏う。

 俺はそのままトライドベンダーに乗り込み

 

「さぁ、三人とも乗って!」

 

 俺の言葉に三人は頷き後部のシートになんとか乗り込む。流石に四人乗るほど大きくはないが文句も言ってはいられない。

 

「とばすからしっかり掴まっててね!」

 

 三人が返事したのを聞き、俺はトライドベンダーをリディアンに向けて発進させた。

 


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