戦姫絶唱シンフォギア~希望の歌姫と欲望の王~   作:大同爽

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戦姫絶唱シンフォギア~希望の歌姫と欲望の王~、前回までの3つの出来事

1つ!大量のノイズと飛行タイプの超大型ノイズの出現。風鳴弦十郎から知らせに驚愕しながらアンクの判断により、助っ人としてその場に向かうことになった雪音クリスと火野映治。しかし、アンクはこの件に何か裏を感じ別行動をとる。

2つ!上空に位置するノイズになすすべのない立花響と風鳴翼だったが、助っ人としてやって来たクリスとオーズと共闘し、クリスの活躍によって超大型ノイズの撃破に成功するも、事態の終息に安堵するのも束の間、オーズの元にアンクから寄せられた通信によってリディアン音楽学院並びに二課の本部が襲撃にあったことを知る。

そして3つ!協力を申し出るオーズを拒む翼。彼女たちと協力するため、映治は自身の正体を明かし、再び協力を申し出る。オーズの正体に困惑しながらも翼と響はその手を取るのだった。



Count the Medals!
現在、オーズの使えるメダルは――





020~侵入とOTONAの闘いと不本意な協力~

 

「あのガチムチ、バケモンか……!?」

 

 その光景にアンクは思わず悪態をついた。

 映治とクリスと別れてからアンクはノイズたちが現れた場所から離れていたリディアン音楽学院に向かった。以前よりアンクはこの学校を疑っていた。疑っていた理由はいくつかあるが、最大の理由はあの鴻上光生が映治にバイト先として斡旋したからだ。

 普段より何かと手を回して状況を自身の望む方向に持って行こうとするあの男がまさかただのバイト先を紹介するはずがない、と考えていたアンク。

鴻上の事の他にも学院に風鳴翼と立花響というシンフォギア奏者二人が在籍していることを考えても何かしら二課とのつながりを確信していたアンクは真っ先にここを疑ったのである。

そして、このアンクの予想は的中。

 映治たちがスカイタワー周辺のノイズたちとの戦闘を始めた頃、リディアン音楽学院を大量のノイズたちが襲った。

 自衛隊がノイズの相手をし、学院にいた生徒たちや教職員たちが避難する騒ぎのどさくさに紛れ込んだアンクは周囲に展開させていたカンドロイドによって侵入路を見つけそこから侵入。

 その侵入路は奇妙だった。

 恐らくエレベーターらしきその扉は何かでこじ開けたように半壊していた。

エレベーターシャフトを覗き込めばまるで地の底へと通じているかのようなそこにアンクは迷うことなく飛び込んだ。

そして、到達したそこで見たものは、緒川慎次に庇われる小日向未来と、二人の視線の先で激闘を繰り広げる黄金の鎧を身に纏ったフィーネと風鳴弦十郎の姿だった。

フィーネが纏っているのは色と細部に違うところはあるもののクリスの纏っていた『ネフシュタンの鎧』で間違いない。

対する風鳴弦十郎は何の装備もない丸腰だった。

しかし、それなのにアンクの目の前では弦十郎はフィーネと徒手空拳で同等に――むしろ優勢に立って戦っていた。

 

「……いや、そう言えばそうだった……あの男はそう言うでたらめな奴なんだったな」

 

 その光景を見ながらアンクはエレベーターの中で息を潜めながら呟く。

 

「〝記憶〟を読み取ったときは夢か何かを現実と混同してるのかと思ったりもしたが、どうやら〝コイツ〟の記憶は正確だったらしいな……」

 

 アンクの視線の先でフィーネはあのノイズを操る杖を取り出す、が、それを地面を踏み付け砕いた瓦礫を弦十郎が蹴り飛ばし、フィーネの腕に当てて弾き飛ばす。弾き飛ばされた杖は天井に突き刺さる。

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

 気合の声とともに拳を構えて飛びかかる弦十郎。

 

「ノイズさえ出てこないならぁっ!」

 

「弦十郎君!!」

 

「っ!?」

 

 拳を叩き込む寸前、フィーネの声に弦十郎の顔に困惑の表情が浮かぶ。その困惑は一瞬の隙を生み

 

「がはっ!?」

 

「司令!?」

 

 フィーネの鞭が攻撃が弦十郎の脇腹を貫いた。

 血を吐き倒れ伏す弦十郎。赤いシャツをさらに紅く染めながら床に血だまりが広がっていく。

 

「いやぁぁぁぁぁ!!」

 

 未来の悲痛な叫びが響く。

 弦十郎に歩み寄ったフィーネは弦十郎の携帯端末を奪う。

 

「抗うも、覆せないのが定めなのだ」

 

 言いながら鞭を伸ばし天井に突き刺さった杖を回収する。

 

「殺しはしない。お前たちにそのような救済、施すものか」

 

 弦十郎を見下ろして言ったフィーネは顔を上げ

 

「それで?お前はいつまでそうやって息を潜めているつもりだ?」

 

「……チッ、バレてたか……」

 

「「っ!?」」

 

 フィーネの言葉にアンクは肩を竦めながら姿を見せる。突然の登場に未来と緒川は息を飲む。

 

「隠れて隙を窺っていたようだが、当てが外れたな?」

 

「ハッ、逆にコソコソ隠れなくて済んで清々する」

 

 フィーネの言葉をアンクは一蹴する。

 

「見つかっていた以上腹の探り合いは無しだ」

 

 言いながらアンクはその右腕を異形の姿に変え、フィーネへ向ける。

 

「大人しく俺のメダルを返せ」

 

「お前のメダル?」

 

 アンクの言葉にフィーネは怪訝そうに首を傾げる。

 

「とぼけんじゃねぇ!あのクリスってガキがあの襲撃の時に持ち帰った俺のメダルだ!」

 

「ああ。そして忌々しいことにあの子が持ち去った〝アレ〟の事だろう?」

 

「ああ、それだ。さっさと出せ!」

 

「おかしなことを言うな。お前たちがあの子を匿っているのならもう既にお前たちの手にあるはずだろう?」

 

「何……!?」

 

 フィーネの言葉にアンクは眉を顰める。

 

(どういうことだ?奴の様子から嘘をついている様子は見られない……なら俺のメダルは一体どこに……?)

 

「私の前で考え事か?」

 

「っ!?」

 

 フィーネの言葉に思考を遮られたアンクは咄嗟に顔を両腕で庇いながら後方に飛ぶ。

 一瞬遅れてアンクのいた場所にフィーネが拳を叩き込む。

 叩き割られ飛び散った床の瓦礫がアンクを襲うがそれを右腕で払い落としながら床に片膝をついて着地する。

 

「フッ、うまく避けたな」

 

 そんなアンクに不敵に笑みを浮かべるフィーネ。

 

「だが、不完全なお前で果たして私と戦えるかな?」

 

「チッ……」

 

 フィーネの笑みにアンクは悔しそうに顔を歪める。

 

「力の差がわかっているならそこで見ていろ、私が目的を達成するその瞬間をな」

 

「っ!待て!」

 

 アンクを脅威とは認識していないのか、フィーネは弦十郎の懐から携帯端末を取り出しアンク達に背を向ける。

 そんなフィーネを慌てて追いかけようとするが

 

「ふんっ」

 

「っ!」

 

「キャァッ!?」

 

「未来さんっ!」

 

 フィーネが鞭を振るう。

 その衝撃にアンクだけでなく未来と緒川も吹き飛ばされる。

 体勢を立て直そうとするアンクだったが、自身の方に吹き飛ばされて来た未来を咄嗟に受け止めてしまう。

 その時――

 

 キンッ

 

 未来のポケットから落ちたものが床で跳ね甲高い金属音を立てる。

 

「あっ!」

 

 未来は咄嗟に〝それ〟を拾う。

 

「お前、〝それ〟は!?」

 

 未来の拾った〝それ〟にアンクが驚愕し目を見開き

 

「テメェ!それどこで拾った!?」

 

「え……?」

 

 肩を掴み自分の方を向かせたアンクの言葉に未来は困惑の表情を浮かべる。

 

「ふんっ」

 

 その間にフィーネは壁に備え付けられた端末へ携帯端末を押し当てる。

 と、正面のドアが開き、フィーネはその中に入って行った。

 

「司令!」

 

「弦十郎さん!」

 

 フィーネが去ったことで緒川は慌てて弦十郎に駆け寄り、未来もアンクの手を振りほどいて駆け寄る。

 

「おい!まだ話は終わってねぇぞ!」

 

 アンクは未来に駆け寄り再び肩を掴むが

 

「今はそんな話してる場合じゃありません!」

 

「何!?」

 

「あなたも手伝ってください!その後ならいくらでもあなたの質問に答えますから!」

 

「…………」

 

 未来の強い口調にアンクは一瞬押し黙り、倒れ伏す弦十郎に視線を向け

 

「チッ!」

 

 舌打ちをしたアンクはズンズンと弦十郎へ歩み寄り、緒川が応急処置をした弦十郎の腕を自分の肩にかけて抱え上げる。

 

「ありがとうございます!」

 

「勘違いすんな。こいつに死なれて100枚のセルメダルの約束がパァになったら困るんだ。タダ働きなんてごめんだ。なんなら追加の報酬要求してやってもいいしな」

 

 そう言ってアンクは不敵に笑みを浮かべ

 

「おい、そこの優男」

 

「やさっ!?」

 

「どこに運ぶんだ?さっさと案内しろ」

 

 アンクの言葉に緒川は困惑しながらも

 

「こっちです!ついて来て下さい!未来さんも!」

 

「はい!」

 

 緒川の言葉に未来は頷きアンクと反対側の弦十郎の腕を肩にかけて背負う。

 

「おい」

 

「え?」

 

 弦十郎を抱えて歩き始めた未来は隣からアンクに呼びかけられて視線を向ける。

 

「さっきの約束、忘れんじゃねぇぞ」

 

「……はい」

 

 睨むような鋭いアンクの視線を受けながら未来は頷く。

 

「フン」

 

 ひるまず視線を返してくる未来の様子にアンクは不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 


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