戦姫絶唱シンフォギア~希望の歌姫と欲望の王~   作:大同爽

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戦姫絶唱シンフォギア~希望の歌姫と欲望の王~、前回までの3つの出来事

1つ!ついに響達の前に姿を見せたフィーネ。その正体は特異災害対策機動部2課のメンバーの櫻井了子だった。真相を語るフィーネ。彼女の正体は先史文明期に生き、自分たちを拒絶し人類から統一された言語を奪った神への反逆を誓った巫女だった。

2つ!彼女の目的を打ち砕かんと戦いを挑む立花響、風鳴翼、雪音クリス。オーズとなって火野映治もカザリとカザリのヤミーと戦うが、発射目前となるカディンギル。映治の目の前で上空へと飛び上がったクリスは絶唱を用いてカディンギルの一撃をその身を犠牲にして反らすことに成功した。

そして3つ!落下するクリスの元へと向かおうとする映治は一瞬の隙をつかれ変身を解除され、カザリにメダルを二枚奪われる。さらにあがこうとする映治の前で、怒りに我を忘れた響はその破壊衝動に飲み込まれるのだった。



Count the Medals!
現在、オーズの使えるメダルは――





022~取引と右手と炎のコンボ~

 

「どうしちゃったの響!?元に戻って!!」

 

 モニターの向こうで理性無き獣となって暴れる親友の姿に未来は叫ぶ、が、彼女の声は届かない。

 リディアンの地下に設けられた避難施設の一角。特異災害対策機動部二課の施設から脱出した未来と弦十郎、緒川、それに加えて藤尭や友里に紆余曲折あって行動を共にするアンク、さらにはこの避難施設に逃げ込んでいた板場弓美、安藤創世、寺島詩織は外の監視カメラからの映像をモニターで見ていた。

 彼女たちの見るモニターの中ではクリスの犠牲に我を忘れた響が破壊衝動に突き動かされ、理性を失くしただ目の前の物を破壊する獣になった姿と、それを止めるべく応戦する翼の姿、そして、それを高みの見物するフィーネとカザリ、カザリの足で踏み付けられ成すすべなく地面に倒れ伏し唇を噛む映治の姿が映る。

 しかし、外の様子を見ることは出来ても、現状彼女たちにできることはそれだけ、通路は瓦礫に塞がれ、外に出ることは叶わない。

 未来の悲痛な叫びも、外で戦う少女たちには届かない。

 

「もう終わりだよ、私たち……」

 

「え……?」

 

 未来の隣で板場が声を震わせて呟く。

 

「学院がめちゃめちゃになって……響もおかしくなって……」

 

「終わりじゃない!響だって、私たちを守って――」

 

「あれが私たちを守る姿なの!!?」

 

「「っ!」」

 

 板場の言葉に改めてモニターを見た安藤と寺島はその響の姿に息を飲み、目を反らす。だが――

 

「私は響を信じる」

 

 未来は目を反らさず、ジッと響の姿を見据ええる。

 その姿に板場は唇を噛み、ボロボロと涙を流しながら消え入りそうな声で言う。

 

「私だって響を信じたいよ……この状況がなんとかなるって信じたい……でも……でも!!」

 

 言いながら崩れるようにへたり込む板場。

 

「もう嫌だよぉ……!誰かなんとかしてよぉ……!怖いよぉ!!死にたくないよぉ!!助けてよぉ!!響ぃぃぃ!!!」

 

 顔を手で覆い、泣き叫ぶ板場に誰もが言葉を失う。

 そんな中――

 

「ハッ!『生きたい』、いい欲望だ。純粋でここまで大きな欲望、もし俺がもうちょっとマシな状態だったら迷わず利用してやるんだがなぁ」

 

 一人の人物が口を開いた。

 その声に一斉にその場の全員の視線がその人物に向く。

 それは、一人離れた場所で施設内に完備されている医療道具や食料の納られた棚に背中を預けて立つアンクだった。

 

「あ、あなた、こんな時に何を言って……!?」

 

 友里が困惑した様子で訊くが、それを意に介した様子もなくアンクは板場に歩み寄り、ひざを折って屈みこむと

 

「おい、何とかしてやろうか?」

 

「え?」

 

 アンクの言葉に板場は呆然と声を漏らしながら顔を上げる。

 板場の他にもその場の全員が驚いた顔をする。

 

「何とかできるの!?」

 

「ああ。と言っても、お前らじゃ無理だ」

 

 未来の言葉にニヤリと笑みを浮かべながらアンクは立ち上がる。

 

「お願いします!できるならやってください!響を!響を助けてください!」

 

 未来はアンクに詰め寄り懇願する。

 

「やってやってもいい……だが、もちろんタダじゃねぇ」

 

「え?」

 

「テメェのお友達を助けてやる。代わりにテメェとテメェらが持ってるメダルを渡せ。全部だ」

 

「「「「っ!?」」」」

 

 アンクは言いながら右手を異形に変え、未来を、そして弦十郎たちを順に指しながら言う。アンクの取引の条件に弦十郎たちは息を飲む。

 

「メダルって……これの事ですか?」

 

 未来は困惑しながらポケットからメダルを一枚取り出す。それは紅い面に孔雀が羽を広げたような装飾の施されたメダルだった。

 

「ああ。そして、お前ら特機部2が保有してるセルメダル全部だ。それで何とかしてやる」

 

 ニヤリと口元に笑みを浮かべながら言う。

 

「だ、だが、君は何故急に俺たちに協力してくれる?今まで状況を静観していたのになぜ今更?」

 

「お前らに恩を売っておくのも悪くねぇ。それに、俺の道具――あのお人好しバカを今失えば今後動きにくくなる。利益とリスクを考えれば当然の結果だ」

 

 弦十郎の言葉にアンクは鼻を鳴らしながら答える。

 

「だ、だが外に繋がる通路は瓦礫に塞がれている。君はここからどうやって出るつもりだ?」

 

「そんなもん簡単だ」

 

 言いながらアンクは天井を指さす。

 そこには格子の嵌った通風孔がある。

 

「通風孔……で、ですがあそこは精々手が一本通る程度で、あんな場所じゃ通っていくなんて――」

 

「お前らじゃ、無理だろうな」

 

 言いながらアンクはニヤリと余裕の笑みを浮かべる。

 

「なんですか?まさかあの通風孔を通れるくらい小さくなれるとでも言うんですか?」

 

「まぁ、当たらずとも遠からずってところか」

 

 言いながらアンクは異形の右手を上げ

 

「こうするんだよ」

 

 言葉とともにフッと意識を失ったようにアンクが倒れる。が――

 

「う、腕が!?」

 

「とれたぁぁぁぁ!!?」

 

 安藤と板場が驚きの声を上げ、弦十郎たちもその光景に息を飲む。

 八人の視線の先ではアンクの異形の右腕のみが宙に浮いていた。

 

「こういうことだ。こうすりゃあそこも通れる」

 

「腕が!!?」

 

「喋っていますわ!!?」

 

 腕から声が聞こえたことで再び、今度は未来と寺島が叫ぶ。

 

「いちいちピーピー叫ぶな鬱陶しい!!」

 

 アンクは言いながら倒れ伏す先程離れた体に戻ろうと――

 

「ま、待て!」

 

 と、そこで弦十郎が止める。

 

「なんだ?」

 

「その身体…まさかッ!?」

 

 弦十郎は立ち上がる。

 応急処置が施され、血の滲んでいる包帯の巻かれたお腹を押さえながら歩み寄り

 

「奏……!?」

 

「「「っ!!?」」」

 

 弦十郎の言葉に緒川と藤尭と友里が驚愕の表情を浮かべる。

 

「どういうことだ!?」

 

「何故あなたが奏さんの身体を!?」

 

「答えてやってもいいが……いいのか、悠長に話してて?」

 

 アンクは手のままモニターを指す。そこには――

 

「なっ!?」

 

「カディンギルが!」

 

 先ほどのように『カディンギル』が輝き始めている。

 

「再装填か……まぁ確かに一発しか撃てないんじゃ兵器としては使えねぇな」

 

 アンクはまるで他人事のように言う。

 

「で?どうすんだ?このまま黙って見てるのか、それとも俺の言うとおりにするか?」

 

「……これを渡せば、響を助けてくれるんですよね?」

 

「未来君!?」

 

 アンクを見据えて言う未来の言葉に弦十郎は驚きの声を上げる。

 

「この世に絶対はねぇ。確約はできねぇが、善処はしてやる」

 

「…………」

 

 アンクの答えに未来は少し考え、アンクに向けてメダルを差し出す。

 

「お願いします、響を助けてください!」

 

「フッ、いい答えだ」

 

 未来の言葉に再び横たわる身体に戻り、そのメダルを受け取るアンク。それをいったん上空に放り投げてから掴む。そのメダルが右腕に取り込まれ――

 

「っ!」

 

 アンクの身体が輝き、その背中の右側に紅く輝く片翼が広がり

 

「っ!!」

 

 数秒の後、霧散した。

 その光景を呆然と見ていたその場の人間を一瞬チラリと見渡し

 

「で?こいつは決断したぞ?お前らはどうすんだ?」

 

 ニヤリと笑みを浮かべながら言った。

 

 

 ○

 

 

 

「あぁ……あぁ……!翼さん……!」

 

 変身が解け、制服姿に戻った響ちゃんが呆然と呟きながら膝をつきへたり込む。

 暴走する響ちゃんの動きを止めた風鳴さんは再装填されるカディンギルを止めるためにフィーネに戦いを挑んだ。しかし、それはフェイントで、本当の目的はカディンギルの破壊だった。

 炎を纏いまるで羽ばたく鳥のように空を翔けた風鳴さんはカディンギル破壊を成功させた――その身を犠牲にして。

 俺たちの見上げる先に先ほどまであったあの天を衝かんばかりの塔はもはやない。

 

「ええい!どこまでも忌々しい!!」

 

 フィーネは憎々し気にあたりに鞭を振るい苛立ちをぶつけている。

 

「あぁあ、まさかあそこから破壊されるなんてね」

 

 俺を踏み付けるカザリはため息をつきながら言う。

 

「あの子も意外とやるね。ま、人間のちっぽけな命と足掻きでよくやったと思うよ」

 

「カザリ!お前ぇ!!」

 

「五月蠅いなぁ。何にもできない癖に吠えるなよ」

 

「がっ!?」

 

 倒れ伏す俺をまるでサッカーボールでも蹴るようにカザリが蹴り飛ばす。

 瓦礫の上を転がりながら俺は痛みに声を漏らす。

 転がったところで顔を上げてみれば地面に倒れ伏す響ちゃんの頭をフィーネが掴みあげていた。

 

「ことごとく邪魔をしてくれたが、それでもお前は役に立ってくれたよ」

 

 髪を掴み無理矢理顔を上げさせられた響ちゃんの瞳にはいつもの眩い光は無く生気を感じられなかった。

 

「生体と聖遺物の初の融合症例。お前と言う先例がいたからこそ、私は己が身と『ネフシュタンの鎧』を同化することができたからなぁ」

 

 そのままフィーネは響ちゃんを掴んだまま立ち上がる。

 響ちゃんは特に抵抗することなくされるがままで足がつかないところまで持ち上げられ

 

「フンッ!」

 

 そのまま地面に叩きつけられた。

 

「シンフォギアシステムの最大の問題は、絶唱使用時のバックファイヤー。融合体であるお前が絶唱を放った場合、どこまで負荷を抑えられるのか……研究者として興味深いところではあるが……ハッ、もはやお前で実験してみようとは思わぬ。好みも同じ融合体だからな。新霊長は私一人いればいい。私に並ぶものは、すべて絶やしてくれる」

 

 言いながらフィーネは鞭を響ちゃんに向ける。

 

「やめてくれフィーネ!その子はもう戦う意思なんかない!」

 

「あぁ……お前もいたんだったなぁ……」

 

 と、俺の言葉にめんどくさそうに俺に視線を向けたフィーネはため息をつき

 

「オーズ、欲望の王にしてメダルの器となりうる存在。利用価値はあるかと思って生かしていたが、もはや貴様には何の利用価値もない」

 

 言いながら俺に視線を向けながら鞭を構え

 

「ここで死ね」

 

「っ!?」

 

 振るわれた鞭に咄嗟に飛び退くも、その衝撃に吹き飛ばされる。

 空中で上手く受け身が取れない。落下する先を見れば瓦礫の塊が立ち並ぶ。

 この勢いで叩きつけられればひとたまりもないだろう。

 

「くっ!」

 

 それでもなんとか体を丸め、頭を庇った俺は

 

「フッ!」

 

 突然の浮遊感とともに誰かに胸倉を掴まれた感触を感じた。

 

「アンクッ!?」

 

 俺の胸倉を掴む右腕だけの存在――アンクに呆然としながら俺は地面にゆっくりと下ろされる。

 

「おい映治!!何やってんだ、このバカが!!」

 

「いったぁ!?」

 

 と、直後思い切り頭を叩かれる。俺は座り込んだまま頭を押さえる。

 

「あ、アンク!?いったいどうして!?ていうか〝身体〟はどうしたんだよ!?」

 

「ここに来るために預けて来た。まあやつらにとっても大事な〝お仲間の身体〟だ。丁重に扱ってくれるだろうよ」

 

「やつらっていったい――」

 

「アンク、こんなギリギリに現れて何だって言うんだい?」

 

 言いかけた俺の言葉を遮ってカザリが言う。

 

「もしかして、諦めてメダルを渡してくれようってことかな?」

 

「ハッ、カザリ、お前冗談が上手くなったな。面白れぇ笑い話だ」

 

 カザリの言葉に笑いながらアンクは俺の隣に浮かぶ。

 

「おい映治。まさかもう諦めた、なんて言わねぇよな?」

 

「アンク……当たり前だろ?まだ戦える……戦わなきゃいけないんだ。クリスちゃんの犠牲を踏み躙ったフィーネを、翼ちゃんの決意をあざ笑ったカザリを倒すために!」

 

「いい答えだな」

 

 そう言ったアンクはその手の中に三枚のメダルを出現させ、俺に差し出す。それは三枚とも紅いメダルで

 

「アンク!それって――」

 

「話は後だ。テメェの威勢に免じて、特別にこれを貸してやる。くれぐれも失くしたり落とすんじゃねぇぞ?」

 

「ああ、わかってるよ!」

 

 アンクの言葉に俺は笑いながら頷き、オーズドライバーに三枚のメダルを収め、オースキャナーで読み取る。

 

「変身!!」

 

≪タカ!クジャク!コンドル! タ~ジャ~ドルゥ~~!≫

 

 高らかな声とともに俺の身体を紅い燃え盛る炎のような光が包む。

 その光とともに俺の身体は新たな力を宿す。

 顔はいつものタカよりもさらに大きく羽を広げた様相に、鳥の足のようなカギヅメを踵と爪先に携えた深紅の脚に、深紅の肩アテに胸にはまるで火の鳥が翼を広げたような円形のサークルが現れる。

 

「ハァァァァァァァ!!!」

 

 俺は掛け声とともに大きく手を回しながら広げる。

 と、それに呼応するように孔雀の羽根のような光が広がり

 

「ハァァッ!!!!」

 

 両手を前、カザリへ向けて伸ばす。と、それに呼応して広がった羽根がカザリを襲う。

 

「くっ!」

 

 着弾した羽根は爆発を起こし、カザリは飛び退き転がるように避けるが

 

「ガァッ!」

 

 手数が多かったのでその一部がカザリに着弾しダメージを与える。

 

「ハァァァッ!!」

 

 再び大きく手を広げた俺の背中に今度は紅い翼が展開され、俺は地面を蹴って羽ばたく。

 

「ハァァァッ!!」

 

 そのまま急降下する。同時に胸のサークルが輝き、サークルと同じ模様のシールドが左手に現れる。

 

「こっちだってやられてばかりじゃないよ!」

 

 言いながらカザリは黄色の光を纏った風の弾丸を放つが、左手のシールドで難なく防ぎ

 

「ハァッ!!」

 

 そのシールドを突き出し構えればそこから光弾が撃ちだされカザリを襲う。

 

「ぐっ!がっ!」

 

 計4発の光弾を受けたカザリの身体からメダルが弾け

 

「っ!貰ったッ!」

 

 舞い散ったメダルの中から黄色く輝くメダルを三枚、アンクが掴み盗る。

 

「しまっ――ガァッ!?」

 

 手を伸ばそうとしたカザリの身体が弾け、その上半身がその下の自肌を露出させる。

 

「くっ!アンク!!」

 

 憎々しげに言うカザリはメダルを取り戻そうとアンクに襲い掛かろうとするが

 

「させるかッ!」

 

「がッ!」

 

 急降下しながらシールドに炎を纏った拳でカザリを攻撃する。

 

「くっ……オーズ、アンク!」

 

 数枚のセルメダルを身体から落としながら悔しそうに俺たちを睨みつけ

 

「チッ、これは分が悪いか……」

 

 カザリは頭を掻いて舌打ちすると

 

「アンク、僕のメダル預けるよ。いつか返してもらいに来るから」

 

 そう言ってカザリはよたよたと瓦礫に飛び込みながら逃げて行った。

 

「チッ、まあいい。取られた分以上にメダルをいただけた。こいつは儲けたな」

 

 アンクは手の中の三枚の黄色いコアメダルを遊ばせるように振る。

 

「さぁフィーネ次はお前だ!!」

 

 俺はシールドを顔の前に構えながらフィーネへ叫んだ。

 


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