戦姫絶唱シンフォギア~希望の歌姫と欲望の王~   作:大同爽

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戦姫絶唱シンフォギア~希望の歌姫と欲望の王~、前回までの3つの出来事

1つ!クリスの犠牲によって破壊衝動に支配された立花響。そんな彼女の姿に友人たちは絶望の淵に立たされる。しかし、そんな彼女たちに救いの手を示したのはアンクだった。アンクは協力する見返りとして小日向未来が偶然に手に入れたコアメダルと二課の所有するメダルの全てを要求した。

2つ!アンクは自身の脱出案としてその正体を明かす。アンクの正体は二年前に行方知れずとなっていた天羽奏の身体を依代とした右腕だけの異形の存在だった。

そして3つ!クリスに続き自身の身を犠牲にしてカディンギルを破壊することに成功した風鳴翼。彼女の犠牲に心が折られた響を救おうと足掻く映治のもとに脱出したアンクが合流。アンクのもたらした紅いコアメダルによるコンボによって映治はカザリを退けることに成功するのだった。



Count the Medals!
現在、オーズの使えるメダルは――





023~思いと歌とエクスドライブ~

「立つんだ響ちゃん!」

 

 オーズは仰向けに倒れる響とフィーネとの間に飛び込むと炎の羽根を展開し、フィーネへと打ち込む。フィーネはその羽根を鞭で瓦礫を飛ばしぶつけながら二人へと鞭を伸ばす。

 左手のシールド状の武器『タジャスピナー』や両手両足で防ぎながら背後に倒れる響へと叫ぶ。しかし、響は虚ろな瞳で虚空を見つめたままピクリとも動かない。

 

「急ぐんだ響ちゃん!フィーネの相手は俺がするから!君は早く安全な場所に!――響ちゃんッ!!」

 

 呼びかけに答えない響にオーズはちらりと視線を向けながら、しかし、すぐにフィーネの猛攻を防ぐために視線を戻す。

 

「くっ!やっぱり完全聖遺物は一味違う!」

 

「――――」

 

「え……?」

 

 焦りを滲ませる中、後ろで響が何かを呟くのが聞こえて慌てて訊き返すオーズ。

 

「……翼さん…クリスちゃん…二人とももういない……学校も壊れて…みんないなくなって……」

 

「響ちゃん……!」

 

「私…私は何のために……何のために戦って……みんな……」

 

「ッ!」

 

 響の言葉にオーズ――映治は仮面で隠したその下の表情を悲痛に歪ませ

 

「ダメだ!ダメだ響ちゃん!君がここで諦めちゃダメだ!!」

 

 フィーネへ意識を向けたまま背後の響へ叫ぶ。

 

「君の優しさがたくさんの人を支えていた!君の真っ直ぐさが誰かを勇気づけていたはずだ!悲しみに飲み込まれちゃダメだ!!だから…だから――!!」

 

 そこでフィーネの鞭による攻撃を弾いたオーズは響へ向き直り

 

「諦めるなッ!!!」

 

「――ッ」

 

 オーズの強い叫びに今まで反応のなかった響がピクリと身体を震わせ、ゆっくりとオーズに視線を向ける。

 

「映治…さん……」

 

「響ちゃん!早くこの場から――がっ!?」

 

 響に向けて手を伸ばそうとしたオーズは振るわれた鞭に弾かれる。

 

「ふん、小賢しい。いくら足掻いたところでそいつにはもはや立ち上がる気力などない」

 

 言いながらフィーネは響へ鞭を構えながら歩み寄る。

 

「ならばこそ、ここで引導を渡してやる」

 

 と、笑みを浮かべながら鞭を響に向け――

 

『仰ぎ見よ太陽を――♪』

 

「ん?」

 

 突如放送がかかり、複数の少女たちの歌声が聞こえてくる。それは響達の通う「私立リディアン音楽院」の校歌であった。

 

「チッ!耳障りな。何が聞こえているッ?」

 

「あぁ……」

 

 忌々しそうに周囲を見渡すフィーネの足元で響は声を漏らす。

 

「何だこれはッ?」

 

 舌打ちをしながら周囲を睨みつけるフィーネ。と――

 

「このぉ!!」

 

 飛び上がったオーズがフィーネへと両脚での蹴りを入れる。

 

「くっ!」

 

 それを鞭で防ぎながら蹴りの勢いで後方に大きく跳ぶフィーネ。

 

「聞こえるだろう響ちゃん!未来ちゃんたちの!君の友達の声が!無事に生きているという声が!!君の帰りを信じている思いがッ!!」

 

 フィーネへ拳を構えながら響へ叫び続ける。

 

「立つんだ響ちゃん!君を信じている人たちのために!!君自身の願いのためにッ!!」

 

「ッ!」

 

 オーズの言葉に再び響の身体がピクリと反応する。

 

「チィッ、どこから聞こえてくる?この不快な歌――」

 

 忌々し気に言いながらフィーネは

 

「ッ!?歌…だと……ッ!?」

 

 自身の言葉に驚いたように声を漏らす。

 

「聞こえる……聞こえるよ、映治さん……!みんなの声が……!」

 

 そんな中、響は徐々にその瞳に光を取り戻し始める。

 言いながら響は地面に手をつきぐっと握り込む。そんな響達を登り始めた太陽の光が照らし出す。

 

「よかった……!私を支えてくれてるみんなは、いつだって側に……!」

 

 瞳だけでなくその声にも力が溢れて来た響はさらに強く拳を握り込む。

 

「みんなが歌ってるんだ…!だから……!まだ歌える!頑張れる!!戦える!!!」

 

 響の叫びとともに彼女を光が包む。

 

「なっ!?」

 

 その光景にフィーネは困惑の声を漏らす。

 フィーネの視線の先で響が光りを纏ってゆっくりと立ち上がる

 

「まだ戦えるだとッ!?」

 

 その響きの力強い眼差しにフィーネは困惑とともに叫ぶ。

 

「何を支えに立ち上がるッ!?何を握って力と変えるッ!?鳴り渡る不快な歌の仕業かッ!?そうだ…お前が纏っているものはなんだッ!?心は確かに折り砕いたはずッ!?なのに…何を纏っているッ!?それは私の作ったものかッ!?お前が纏うそれはなんだッ!?なんなのだッ!!?」

 

 フィーネの叫びと同時に、まるでその問いに答える様に三つの光の柱が立ち昇る。

 一つはすぐそばの森から紅い光が。

 一つは瓦礫と化したカディンギルの頂から蒼い光が。

 そして、一つはフィーネの目の前で優しい黄色い光が。

 三つの光の柱から大空へと昇る。立ち昇った三つの光が納まると同時に

 

「シンフォギアァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

 大空から声が響き渡る。

 それは、眩いまでの純白の鎧を身に纏い、黄色い光の翼を広げる立花響だった。

 そして、響の周りにはさらに同じく純白の鎧を纏った蒼い光の翼を広げる風鳴翼、紅い光の翼を広げる雪音クリスが並ぶ。

 

「みんなの歌声がくれたギアが、私に負けない力をくれる。クリスちゃんと翼さんにもう一度立ち上がる力をくれる。歌は戦う力だけじゃない、命なんだ!」

 

 穏やかに、しかし、確かな強い力の籠った声で地上に立つフィーネを見据えて響は言う。

 

「高レベルのフォニックゲイン……こいつは二年前の意趣返し」

 

<んなことはどうでもいいんだよッ!!>

 

「念話までもッ!」

 

 頭に直接響いたクリスの声にフィーネは忌々しそうに言う。

 

「限定解除されたギアを纏って、すっかりその気かッ!?」

 

 フィーネは言いながらソロモンの杖から光弾を撃ちだしノイズを大量に呼び出す。

 

<いい加減芸が乏しいんだよッ!!>

 

<世界に尽きぬノイズの災禍は、すべてお前の仕業なのかッ!?>

 

<ノイズとは、『バラルの呪詛』にて相互理解を失った人類が、同じ人類のみを殺戮するために作り上げた自立兵器>

 

<人が…人を殺すために……ッ!?>

 

 翼の問いに答えたフィーネの言葉に響は息を飲む。

 

<『バビロニアの宝物庫』は扉が開け放たれたままでな。そこからまろび出る十年一度の偶然を私は必然と変え、純粋に力と使役しているだけのこと>

 

<また訳分かんねぇことをッ!>

 

 フィーネの言葉にクリスが言う。と、それ以上の言葉を遮るようにノイズがその身を槍のように変化し弾丸となって三人を襲う。

 

「「「ッ!!」」」

 

 咄嗟に身構える三人だったが

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 三人とノイズとの間に飛び込んだオーズがその背に炎の羽根を広げて撃ちだし、同時に左手の『タジャスピナー』から炎の弾丸を撃ちだし、飛来するノイズたちを撃ち落とす。

 

「映治さん!!」

 

 その姿に響が嬉しそうに笑みを浮かべる。

 ノイズたちを撃ち落としたオーズは三人の方へ向き直り

 

「クリスちゃん!!風鳴さん!!」

 

「「ッ!?」」

 

 叫びながら三人の元に飛びつく様に一瞬で向かうとクリスと翼の手を取り

 

「よかった!本当によかった!!よかったよぉぉぉぉぉ!!」

 

「なっ!?ちょっ!?」

 

「は、離せよ!?」

 

 困惑する二人を気にせずブンブンと手を力強く握って振る。

 

「クリスちゃん絶唱の負荷は!?どこか痛くない!?風鳴さんも!!さっきお腹刺された傷は!?なんともない!?」

 

「だ、大丈夫だからいいから離せッ!!」

 

「お、お陰様でピンピンしていますから!」

 

 オーズの剣幕に気圧されながらもなんとかオーズの手を振り解く。

 

「よかった……!本当に、よかった……!」

 

「お、おい……?」

 

「オーズ……?」

 

「どう…したんですか……?」

 

 オーズの様子にクリスと翼、響は困惑した様子で見つめる。

 

「俺は君たちの手を掴めなかったけど、俺じゃない誰かが君たちに伸ばした〝手〟はちゃんと届いてた……本当によかった……」

 

「あんた……」

 

「「…………」」

 

 真に迫った様子でまるで誰かへ感謝するように呟くオーズの――映治の様子に三人は口を開きかけて

 

「ッ!危ない!!」

 

 それに真っ先に気付いた響が声を上げる。

 先ほど同様にノイズたちが弾丸となって四人を襲ったのだ。意識がそれていたこともあって四人はそれを迎撃せずに舞うように飛んで避ける。

 

「ごめん!嬉しくてつい話しすぎちゃったみたいだ!」

 

 体勢を立て直した三人にオーズは言う。

 

「堕ちろぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 四人の見つめる先でフィーネが空へと構えた『ソロモンの杖』から無数の光弾が放たれ、まるで雨のように降り注ぐ。

 それらは四人の眼下に広がる街を、空を埋め尽くすほどの多種多様な無数のノイズとなり、街を破壊していく。

 

「さぁ、ここからが正念場だ!行こう!!」

 

「おっしゃ!どいつもこいつも纏めてぶちのめしてくれるッ!」

 

 オーズの言葉にいの一番に答えたクリスは街へ向けて飛んで行く。オーズもその後を追って飛んで行く。

 翼もそれを追って飛ぼうとしたとき

 

「翼さん!」

 

 響がそれを呼び止める。

 

「私…翼さんに……」

 

 申し訳なさそう中で視線を落とし、呟く様に言いかけた響だったが

 

「フッ…どうでもいいことだ」

 

「え……?」

 

 優しく微笑んで言う翼の言葉に響は呆ける。

 

「立花は私の呼びかけに答えてくれた。自分から戻ってくれた。自分の強さに胸を張れ」

 

「翼さん……」

 

 じっと見つめる響の視線を受けながら翼は不敵に笑い

 

「一緒に戦うぞ、立花」

 

「ッ!はいッ!!」

 

 翼の言葉に力強く頷いた響。

 二人は揃って先に飛んで行った二人を追いかける。

 

「フフ、よかった……」

 

 遅れて追いついた二人の顔を見てオーズは人知れず笑う。

 力強く歌を響かせながらノイズへと向かって行く三人とともにオーズも『タジャスピナー』を構え、道路を埋め尽くすノイズたちへ『タジャスピナー』から炎の弾丸を打ち込む。

 響は自身の右手の籠手をスライドさせて拳を構える。そのままビルを破壊する巨大なノイズに突っ込み拳を叩き込む。その威力に巨大ノイズを突き抜けさらにその背後にいた別の巨大ノイズを破壊する。その破壊力で周辺にいたノイズたちを大量に炭へと変える。

 クリスは自身のスカートのようなスラスターを肥大化させアームドギアと一体化させたまるで戦闘機のような形になったもので無数のビーム攻撃『MEGA DETH PARTY』によって空を埋め尽くすノイズたちを次々に撃ち落として行く。

 

「やっさいもっさいッ!!」

 

「すごい!!」

 

「乱れ撃ち!!」

 

 その光景にオーズと響が感嘆の声を漏らす。と――

 

「全部狙い撃ってんだ!!」

 

「フフッ」

 

「こいつは失礼!だったら――」

 

 クリスの言葉に二人は笑みを漏らし

 

「「俺(私)たちが!乱れ撃ちだぁぁぁぁぁッ!!」」

 

 響はその両手を振るい光弾を放ち、オーズも『タジャスピナー』の炎の弾丸に加え、背中から展開した炎の羽根を地面を埋め尽くすノイズたちへ撃ち込む。

 上空では高く舞い上がった翼が空を舞う超巨大な飛行型ノイズへ向けて大剣へと変化させたアームドギアを大きく振りかぶって振り下ろし、『蒼ノ一閃』を放つ。その一撃は一度に二匹の超巨大飛行型ノイズを撃ち抜き炭へと変える。

 四人の力は圧倒的で一騎当千の闘いを見せ、街を埋め尽くしていたノイズたちの数を削っていく。

 

「どんだけでようが、今更ノイズッ!」

 

 クリスが余裕の笑みを見せる中

 

「ッ!?あれはッ!?」

 

 翼の声に三人が視線を向けると、そこには自身の腹部に『ソロモンの杖』を押し当てるフィーネの姿があった。

 

「何をする気なんだ?」

 

「わかんねぇけど、どうせろくなことじゃねぇ!」

 

 何かが起こる前に止めようと身構えるが、一足遅かった。

 不敵な笑みを浮かべたフィーネはそのまま杖で自身のお腹を貫いた。

 

「あぁ…あぁぁ……!」

 

 苦悶の声を漏らしたフィーネだったが、直後、フィーネの身体から触手のようなものが伸び杖をその身に取り込み始めた。

 ニヤリと笑みを浮かべるフィーネの様子に四人が困惑する中、フィーネへノイズが弾丸のように飛び掛かる。

 と、そのノイズはフィーネの身体に触れた途端にドロドロの肉片のように変化しフィーネを覆う。

 それを合図にしたように周囲に残っていたノイズたちが一斉にフィーネ目指して飛んでくる。最初の一匹のようにドロドロに溶け、フィーネを覆っていく。

 

「ノイズに取り込まれていくッ!?」

 

「違う!逆だよッ!」

 

「あいつがノイズを取り込んでんだッ!」

 

 四人の視線の先でドロドロの赤黒い塊はグンとまるで手を伸ばすように四人目指して伸びる。

 四人がそれを飛んで回避すると

 

「来たれ!!デュランダルッ!!」

 

 禍々しいフィーネの声とともに輝かしい光が地面からあふれ〝それ〟は現れた。

 禍々しい赤黒い体表をした龍のような『カディンギル』ほどもあるような体長のそれは、一瞬煌めくような光をその先端に煌めかせたかと思うと眩い光の線を放つ。

 それは地面を抉り眩しい閃光と衝撃を放ちながら大爆発を起こした。

 

「ま、街が……ッ!」

 

 もうもうと煙で溢れる街を見てその光景に四人は呆然と息を飲む。

 

「逆さ鱗に触れたのだ」

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 そんな四人に禍々しいフィーネの声が届く。

 見れば〝それ〟――紅い龍の頭のような部分のすぐ下、首のような部分に立ち並ぶ柱のようなものに囲まれたその中心に紅い龍と一体化したフィーネの姿があった。その右腕には黄金の剣『デュランダル』が握られている。

 

「相応の覚悟はできておろうなッ!?フフフッ、フハハハハハハハッ!!!」

 

 そう言ってフィーネは禍々しい笑みとともに高らかに笑い声を響かせた。

 


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