戦姫絶唱シンフォギア~希望の歌姫と欲望の王~   作:大同爽

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戦姫絶唱シンフォギア~希望の歌姫と欲望の王~、前回までの3つの出来事

1つ!フィーネとの闘いに傷つき疲労に倒れた火野映治だったが、特異災害対策機動部二課の協力により回復した。

2つ!回復した映治とアンクからオーズの秘密を聞くべく話し合いの場を設ける風鳴弦十郎。語ろうとはしないアンクを説得し、映治は語ることを了承する。

そして3つ!ついに映治の口から語られる真実。それは二年前のツヴァイウィングのライブの日へと遡るのだった。


Count the Medals!
現在、オーズの使えるメダルは――





026~歌と右手と欲望の目覚め~

 

「へぇ~、映治さんはずっと海外にいたのか。なら納得だわ」

 

「うん、あっちこっち移動して日本にいないこともあるね」

 

 奏は隣に座る映治の言葉に納得したように頷く。

 

「あたしらも結構人気出てると思ってるけど、さすがに海外まではなぁ~」

 

「い、いや、俺もいろんな国行ったけど、結構マイナーな国が多かったし!こんな大きな会場いっぱいにできるんだもん!すごいよ!」

 

「いやいや、フォローとかいいって。てか映治さんの方がすげぇだろ」

 

「え?」

 

 笑って言う奏の言葉に映治は首を傾げる。

 

「世界中を旅して自分の目でいろんなもの見て来たんだろ?そっちの方がすげぇよ。あたしなんて気付いたらこうなってたってだけだし」

 

「気付いたらって……」

 

「ホントにそうなんだよ。どうしてもしたいことがあって、そのための手段で死に物狂いで歌ってたら気付いたらこんなでっけぇ場所で歌うことになってた」

 

「………そっか」

 

 奏が遠い目をして言う言葉に映治は少し間を空けて頷く。

 

「……アハハ、悪い!空気悪くしたな!」

 

「いいよ、気にしないで」

 

 空気を変える様に朗らかに笑う奏に映治も笑顔で頷く。

 

「それに、その目的が何なのかわからないけど、そのための手段の為だけに歌い続けてたわけじゃないんじゃないかな?」

 

「え……?」

 

 今度は映治の言葉に奏の方が首を傾げる。

 

「だって、さっきの奏ちゃん、すごく楽しそうだったよ」

 

「…………」

 

 映治の言葉に呆けた顔をした奏はすぐに微笑み

 

「確かにそうかも。最初はただ死に物狂いで歌ってたけど、いつの間にか誰かに歌を聴いてもらうのが楽しくなってきて、今じゃ翼――相方とずっと歌っていたいって思ってる。目的のための手段だったはずなのに、今じゃ歌うことの方があたしの生きる目的になってるかもしれねぇ」

 

「そっか」

 

 楽しそうに笑う奏に映治もほほ笑む。

 

「そう言う映治さんは?なんで旅してんの?」

 

「う~ん……もともとはうちのおじいちゃんに小さい頃から世界中連れ回されてたからかな」

 

 奏の問いに映治は少し考える様にそぶりを見せながら言う。

 

「実際に海外に行って、おじいちゃんが昔した体験の話とか、おじいちゃんの知り合いでNPO法人で活動してる人とかもいたからそう言う人から話聞いたり、そうしてるうちに見て、聞いた世界の現状を何とかしたくなったんだ」

 

「へぇ~……」

 

 映治の言葉に感心したように頷く奏。

 

「やっぱすげぇな、映治さんは」

 

「そんなことないよ」

 

 感心する奏に苦笑い気味に映治は応える。

 

「で、今は?次に行く国への旅費を稼いでるとか?」

 

「ん~、それもあるけど、今は充電中…かな」

 

「充電?」

 

「うん。どんなに夢見て、やりたいって思ってしてることでも、楽しいばっかりじゃないよ。どうしたって、見たくないものも見なくちゃいけない。楽しいことも多いけど楽しいばかりじゃない。だから、今は充電中なんだ」

 

「そっか……」

 

 映治の言葉に奏は頷く。

 

「さてとッ!」

 

 大きく気合を入れる様に膝を打って映治が立ち上がる。

 

「つい話し込んじゃった。だいぶ持ち場を離れちゃったし、奏ちゃんもそろそろ準備とかあるんじゃない?」

 

「え?――あっ、ヤバッ!ホントだ!」

 

 映治の言葉に時計を確認した奏も立ち上がる。

 

「ありがとう映治さん、楽しかったよ。なんか初めて会ったのにいろいろ話しちまった」

 

「ハハハッ、俺もだよ。ライブ頑張って、応援してる」

 

「さっきまであたしのこと知らなかった癖に」

 

「うッ……」

 

「ハハハッ、なんてな。冗談だよ」

 

 奏は楽しそうに笑う。

 

「頑張るよ、映治さんのところにまで聴こえる様に力いっぱい歌うからさ!映治さんも仕事しながらでいいから聴いててくれ!」

 

「うん。どうせ今まで誰も来てないし、ただ立ってるだけなのも暇だからね」

 

「バレてお給料減らされてもあたしらに文句言うなよぉ~」

 

「アハハハ!バレない程度に楽しむよ!」

 

 手を振り去って行く奏の言葉に返事しながら映治は手を振り持ち場に戻ろうと歩き出し

 

「映治さん!」

 

「ッ?」

 

 と、奏が背後から呼びかける。振り返ると奏は映治に向けて笑みを浮かべ

 

「いつか、また旅できるといいな!」

 

「ッ!」

 

「あたしも頑張るからよ!映治さんも!」

 

「……うん!ありがとう!」

 

 手を振りながら言う奏の言葉に映治は笑顔で応え、今度こそ二人はそれそれその場を後にした。

 

 

 ○

 

 

 背後の建物から歓声とともに歌声が聞こえてくる。

 

「~~♪」

 

 聴こえてくる歌声と音楽に合わせて鼻歌を歌いながら映治はその歌に聴き惚れる。

 歌声とともに聞こえてくる完成は曲がサビに向かうにつれてその熱狂具合が上がっていく。

 

「やっぱり君の方がすごいよ、奏ちゃん。だって、君の歌声でたくさんの人がこんなに熱狂してるんだもん」

 

 映治はここにいない、ステージに立っている奏の姿を思い描きながら優しく微笑み――

 

 ズドォォォォン!!

 

 爆音が響いた。

 

「なっ!?いったい何が!?」

 

 慌てて見上げると建物から煙が上がっていた。

 

「ッ!?奏ちゃんッ!!」

 

 それを見た瞬間、映治は目の前の扉を開いて飛び込んでいた。

 細い通路を駆け、会場へと向かって行く。

 大きな通路を経ていくつ目かの扉を開いたとき、映治の視界に眩いオレンジ色の光が広がった。

 そこはライブの会場、大きく開いた天井からは眩いオレンジの夕日の光が差し込み、会場の中を照らし出していた。

 その光景は一言で表すなら――『地獄』だった。

 会場の中心には大きな爆発があったらしい焼け焦げた跡、そこからあふれ出る様に広がる異様な生物のようなものが無数にいた。

 

「あれは……なんで、『ノイズ』がッ!?」

 

 溢れ出る無数のノイズはピコピコと軽快な音とともに周囲にいる観客たちを襲っている。

 ノイズに触れられた人たちはノイズとともにその身を炭へと変えていく。

 あたり一面に少し前まで命だったであろう物で溢れ、今もなおその命を散らしていく。

 先ほどまで歓声と熱気に満ちていたはずのライブ会場は、悲鳴と怒号で溢れていた。

 「いやだ」「死にたくない」と泣き叫びノイズから逃げ惑う人々は要所要所に設けられた出入口へと殺到し、誰もが死にたくなくて、この現状から逃げ延びようと、なりふり構っていられない様子で先にいる人たちを押し退け怒声を上げる。

 その光景は目を背けたくなるような惨たらしい光景で、きっと地獄というモノが本当にあるのだとしたらこんな光景なのだろう。

 

「あ……あぁ……」

 

 その光景に映治は立ち尽くした。呆然と、しかし、その身を震わせている。

 と、映治の耳に歌声が聴こえる。

 

「ッ!」

 

 見ると、そこには不思議な鎧を纏った二人の少女がそれぞれ槍と剣を振るってノイズを屠っていた。

 何故通常兵器をものともしないはずのノイズを倒せているのか、何故歌いながら戦っているのか、いくつも問いが頭に浮かぶ中、それ等の問いよりも何よりも映治の頭を埋め尽くしたのは

 

「なんで、奏ちゃんが……!?」

 

 槍を振るう少女が少し前に話していた少女――天羽奏だったからだ。

 

「ッ!」

 

 いろいろな疑問が頭を埋め尽くすが、すぐにかぶりを振う。

 

「なんかよくわかんないけど、奏ちゃんが戦ってるんだ!俺だって!」

 

 言いながら映治は自身の両頬を平手で打つ。

 

「よしッ!」

 

 気合を入れなおした映治はすぐさま駆け出し、すぐ近くに倒れている人に駆け寄る。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 声をかけるが映治の声に応えない。

 伏せるその人を起こすと

 

「ッ!」

 

 その人はもう既に息絶えていた。

 ノイズに襲われれば例外なく人間は炭素にされる。

 つまり、こうして身体が残っているということは――

 

「ッ!!」

 

 それ以上考えないように思考を頭の隅へと押しやり周囲に視線を向ける。そして、人々が逃げ惑い殺到している出入り口の中で一番近いところに向かう。

 

「どけぇ!」

 

「お願い通して!」

 

「死にたくねぇ!」

 

 悲鳴や怒声の声が響く中に飛び込み

 

「皆さん落ち着いて!順番に!」

 

 目の前にいた男の肩に手を置きながら叫び

 

「うるせぇ!離せ!!」

 

「がっ!?」

 

 男は叫びながら意地の手を振り払う。振り払った男の拳が映治の鼻っ柱に当たる。

 その勢いに思わず仰け反り尻餅をつく。

 

「グエッ!?」

 

 尻餅をついた映治の下から苦悶の声が漏れる。しかし、映治はそれに気付かない。

 

「くそ……なんで……それじゃあ誰も助からない……」

 

 呆然と呟く映治。しかし、その思考を遮って声が響く。

 

「おい!いい加減にしやがれ!いつまで乗ってんだ!さっさとどけッ!!」

 

「うおッ!?す、すみません!」

 

 自身の下から聞こえた声に慌てて立ち上がり、先程まで自身のいた場所に視線を向ければ

 

「たく!ざけんじゃねぇぞ!」

 

 鳥の羽のようなものが生え、タカや猛禽類か何かのような鋭い爪のある〝右手だけ〟が宙に浮いていた。

 

「うおわぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

 光景に驚き飛び退いた映治は瓦礫に足を取られ転びそうになり、踏みとどまろうと思わず足を振り上げる。

 その足は偶然にも目の前の異形の右腕に綺麗に蹴りが入り

 

「グアァァッ!?」

 

 異形の右腕は吹き飛ばされ、その際にその腕から何かが弾き出される。

 空中で回転しながら落ちて来たそれは映治の手の中にすっぽりと納まる。

 

「何これ?」

 

 手の中のそれをよくよく見ればそれは金色の縁取りのされた紅い鷹が翼を広げたような意匠の施されたメダルだった。

 

「メダル……?」

 

 首を傾げる映治だったが

 

「おい……いってぇなテメェ……!!」

 

「ヒッ!?」

 

 恨みがましい声とともに異形の右腕がゆったりと浮かび上がる。その光景に映治の口から恐怖の声が漏れ

 

「あ、テメェ!それ俺のメダルじゃねぇか!」

 

「え……これ?」

 

 映治の手に収まるメダルを指さしながら異形の右手が叫ぶ。

 

「返せ!俺の〝身体〟だ!」

 

「あ、あぁごめん!」

 

「いいからさっさと返せ!それまで殺すのは待ってやる!」

 

 言いながら映治へその手を差し出す異形。

 しかし、そんな二人の前に

 

「コアメダル…渡セ……」

 

 新たな異形が現れる。

 

「うわっ!?また出た!」

 

 驚く映治の目の前でその新たな異形――カマキリのようなそれは、その両手の鎌を合わせるように構える。それを広げると鎌と鎌の間に新たに三本の刃が生まれ、

 

「キエェェェェェ!!」

 

 甲高い声とともにその三本の刃と二本の鎌に浮かぶ刃、計五本の刃が回転しながら映治と異形の右手を襲う。

 

「うわっ!?」

 

「くっ!」

 

 思わず顔を背ける映治に対し、それにいち早く反応した異形の右腕は飛来する五本の刃を舞いながら弾く。

 

「手を出すな!これは俺んだ!!」

 

「メダル…渡セ!!」

 

 怒声を飛ばす異形の右腕だったがカマキリの異形はそれを無視してその右腕を襲う。

 

「がっ!?」

 

 鎌で斬りつけられ吹き飛ばされる。

 

「お、おい!やめろ!」

 

 その光景に映治は思わずカマキリの異形にタックルを仕掛けるが

 

「邪魔を…するな!!」

 

「あぁッ!?」

 

 逆に吹き飛ばされれてしまう。

 

「キャァァァァァッ!!」

 

 その騒ぎに逃げ惑っていた観客たちも恐怖の声を上げる。

 

「フンッ!!」

 

 そんな観客たちに向かって鎌を振るう。

 

「や、やめろ!」

 

 映治は思わずその場にあった瓦礫を掴んで投げつける。

 

「なんだか知らないけどもうやめろって!!」

 

「邪魔ヲ…スルナ……」

 

 映治に視線を向けた異形は鎌を構える。

 

「死ニタクナイ……」

 

「え……?」

 

 カマキリの異形の呟く言葉に映治は一瞬困惑する。

 

「死ニタクナイ……!死ニタクナイ……!オ前ガ!死ネェェェ!」

 

「ッ!」

 

 叫びながら跳躍したカマキリの異形は一瞬で映治との距離を詰め映治の胸倉を掴むと

 

「ハァァァァァァッ!!」

 

 そのまま投げ飛ばした。

 

「あいつ……自分が狙われるってわかってて……ただのバカだ……使える!――いや、今はこの手しかない!」

 

 その光景に呟いた異形の右腕はすぐさま映治へと飛ぶ。

 

「うわぁぁぁぁぁッ!」

 

 吹き飛ばされた映治は瓦礫に叩きつけられそうになり――

 

「うおッ!?」

 

 急に誰かに掴まれる。

 見ると、映治の胸倉を異形の右腕が掴んでいた。

 映治をゆっくりと下ろした異形の右腕は

 

「お前、名前は?」

 

「え……火野映治…だけど……?」

 

 へたり込んだまま思わず問いに答えた映治に異形の右腕はふわりと舞いながら

 

「映治、お前には感心した。助かる方法を教えてやる」

 

 言いながらその身から楕円形の石の塊を出す。

 その石の塊を映治のお腹に押し当てる、と、その石の塊が光り、表面を包んでいた石が弾け、ベルトとなって映治のお腹に装着される。

 

「うおぉっ!?」

 

 突然のことに映治は思わず飛び上がるように立ち上がる。

 

「映治、助かるには奴を倒すしかない」

 

「奴を……」

 

 言いながら異形の右腕が指さす方を見れば、そこでは逃げ惑う観客たちを襲うカマキリの異形の姿が。

 

「メダルを三枚、ここにはめろ。そうすりゃ力が手に入る」

 

 言いながら異形の右腕はその手の中に黄色と緑のメダルを出現させながら映治の腰のベルト、その中央の楕円形の衣装の部分を指さす。確かにそこにはメダルが三枚収まるような窪みがあった。

 異形の右腕が差し出すその二枚のメダルを受けとりながら、メダルと異形の右腕を交互に見た映治は

 

「何かよく分かんないけど、あいつをどうにかできるなら!」

 

 言いながらベルトに二枚のメダルと先程から持っていた紅いメダルの計三枚を収め、楕円形の意匠を傾ける。

 と、映治の右腰にあった円形の物体をとった異形に右腕がそれを差し出す

 

「これを使え」

 

 言われるがままにそれを受け取った映治は右手でそれを構え、ベルトの意匠にその円形の物体で読み取るようにスライドさせる。

 

「変身!」

 

 叫びながら映治はカマキリの異形へ向かって駆けだす。

 

≪タカ!トラ!バッタ! タ・ト・バ!タトバ!タ・ト・バ!≫

 

 ベルトから高らかな歌が響くのも気にせず映治は駆ける。

 その身を赤と黄色と緑、三つの光の輪が包み、その身を変貌させる。火野映治は自身の身体の変化を理解しないままカマキリの異形が今まさに鎌を振り下ろさんと振りかぶる少女との間に飛び込み

 

 ガギッ!

 

 少女に向けて振り下ろされる寸前だったカマキリの鎌を映治はその両手の甲から伸びる爪で受け止めていた。

 この日、この瞬間、800年の眠りからオーズが目覚めたのだった。グリードと言う欲望を糧とする異形とともに。

 


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