戦姫絶唱シンフォギア~希望の歌姫と欲望の王~   作:大同爽

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お待たせしました最新話です!
キリがいいところまで行くために少し長めになっています!



戦姫絶唱シンフォギア~希望の歌姫と欲望の王~、前回までの3つの出来事

1つ!フィーネによる月破壊未遂――通称「ルナアタック」から三か月後。「ソロモンの杖」を移送した立花響と雪音クリスだったが、輸送先の施設がノイズの襲撃に遭い「ソロモンの杖」を強奪されてしまう。

2つ!アメリカからやって来た世界的歌姫マリア・カデンツァヴナ・イヴとのライブを行っていた風鳴翼だったが、突如ライブ会場にノイズが出現。さらにマリアはガングニールのシンフォギアを纏う。

そして3つ!マリアは自身達を武装組織「フィーネ」と名乗り世界に向けて宣戦布告、その要求は一両日中の国土割譲だった。しかし、そんな行動とは裏腹にマリアはライブ会場の観客を解放するというものだった!



Count the Medals!
現在、オーズの使えるメダルは――





031~増殖と最強コンボと新たな脅威 ~

 宣言通り観客をすべて避難させた後、対峙するマリアと翼。しかし、中継が繋がったままでは依然シンフォギアを纏えない翼。

 マリアはそんな翼をガングニールの力で追い詰めていく。

 追い詰められノイズの蠢く観客席に蹴り飛ばされた翼だった、緒川の活躍により中継を切断することに成功し、ついにシンフォギアを纏いマリアと対峙する。

 黒いガングニールと天羽々斬、マントと刃を交わせ戦う二人、そんな中で新たな乱入者が現れる。

 緑の鎌を携えた少女とピンクの鋸を携えた少女たち。どちらもマリアの側の人間のようで、新たなシンフォギア奏者の登場に翼は驚きを隠せない。

 しかし、あわや3対1の劣勢に立たされるかと思われた翼だったが、そこに響とクリスの二人も駆けつける。

 3対3の奏者たちの中、響は叫ぶ。

 

「やめようよこんな戦い!今日出会った私達が争う理由なんか無いよ!」

 

 しかし、その言葉に反応したのは鋸の少女だった。

 

「ッ!そんな綺麗事をッ!」

 

「え……?」

 

 憎々し気に言われる少女の言葉に響は困惑する。

 そんな少女の言葉に同調するように鎌の少女もその大鎌を響たちに向ける。

 

「綺麗事で戦うやつの言葉なんて信じられるものかデス!!」

 

「そんな……話せばわかり合えるよ!戦う必要なんか――」

 

 鎌の少女の言葉になおも食い下がる響。しかし――

 

「偽善者ッ!」

 

「ッ!?」

 

「この世界にはあなたのような偽善者が多すぎるッ!!」

 

 鋸の少女はなおも憎々し気に言い放ち、ツインテールの様に頭に着いたアームから無数の丸鋸を響に向けて放つ。

 

「あッ!?」

 

 その行動に少女たちの言葉にフリーズしていた響は一瞬反応が送れる。

 

「何をしている立花!!」

 

 そんな響を庇って前に出た翼はアームドギアを高速で回転させ飛んでくる丸鋸を防ぐ。

 クリスも素早く動き両手にガトリングガンの形状にしたアームドギアで敵三人に向けて弾丸を放つ。

 三人はすぐさま散開。クリスはそんな中で上に跳んだ鎌の少女に狙いを定めるが、大鎌を回転させクリスの銃弾を防ぎながら鎌の少女はクリスに斬りかかる。

 

「チィッ!近すぎんだよ!!」

 

 言いながらすぐさま飛び退きガトリングガンをボウガンに変形させ応戦する。

 散開した中からマリアは翼に追撃を仕掛け、鋸の少女も響へと攻撃を仕掛けてくる。

 ライブ会場は乱戦の模様を描いていた。

 

「わ、私はただ!困っているみんなを助けたいだけ!だから!!」

 

「それこそが偽善ッ!」

 

 なおも説得しようとする響の言葉を鋸の少女は吐き捨てる様に言う。

 

「痛みを知らないあなたに、誰かの為になんて言ってほしくないッ!!」

 

 叫びながら少女は自身の頭の対のアームから巨大な自身の身長ほども直径のある丸鋸を二つ出現させ響に向けて高速で回転させて放つ。

 

「あ……」

 

 少女の言葉に響は受ける体制もとらず茫然と立ちすくんでいた。あわや丸鋸が響を斬り裂こうとする直前――

 

「「くぅッ!!」」

 

 翼とクリスが飛び込みそれぞれが丸鋸を弾き飛ばす。

 

「どんくせぇことしてんじゃねぇぞ!!」

 

「気持ちを乱すな!!」

 

「は、はいッ!!」

 

 二人の叱責に響は慌てて気持ちを切り替える。

 3対3の乱戦はなおも激化する――かに見えた。ここで新たに状況が動く。

 

「「「「「「ッ!?」」」」」」

 

 乱戦の最中、会場のちょうど真ん中でまばゆい光と共にブヨブヨの表皮の巨大ノイズが膨れ上がるように現れる。

 

「うわぁぁぁぁッ何あのでっかいイボイボッ!?」

 

 その突然の登場に響が驚愕の声を上げ

 

「増殖分裂タイプ……」

 

「こんなの使うなんて聞いてないデスよッ!」

 

 響たちと敵対する三人も予想外のことだったようで驚きを見せるが――

 

「フッ」

 

 マリアは自身の籠手合わせ鎧と同じく漆黒の槍状アームドギアを形成する。その光景に翼へ眼を見開き

 

「アームドギアを、温存していただとッ?」

 

 驚愕の声を漏らす。

 そのままマリアはアームドギアを翼たちに――向けず、あろうことか今なお会場の中心で蠢く巨大ノイズに向ける。と、その先端が開きエネルギーを集中させ紫電を纏った紫のビームをノイズへと放つ。

 

「おいおい!自分らで出したノイズだろ!?」

 

 クリスの困惑の言葉を他所にマリアの放った攻撃はノイズを爆発させ、その身体を無数の破片にして辺りに飛び散らせる。

 しかし、マリアたちはその光景にも目もくれず

 

「なッ!?ここで撤退だと!?」

 

 マリアたち三人はすぐさまノイズからも響たちからも背を向け走り去って行く。

 

「せっかく温まってきたところで尻尾巻いてくのかよッ!」

 

 クリスが悪態をつく中

 

「ッ!?ノイズが!」

 

 響がその異変に気付く。

 飛び散ったノイズの体組織がブヨブヨと蠢きすぐさま再び膨れ上がり始める。膨れ上がったもの同士が集まり結合し、ものの数秒で先程よりも巨大な姿となる。

 

「ハッ!」

 

 翼は側にあった今なお膨れるノイズの体を斬り裂く。が――

 

「くッ…こいつの特性は増殖分裂……」

 

「放っておくと際限ないってことか……そのうちここから溢れ出すぞ!」

 

 翼の斬り裂いたノイズの体は再び膨れ上がり始める。

 

『皆さん聞こえますか!?』

 

 と、そんな三人に緒川から通信が届く。

 

『会場のすぐ外には避難したばかりの観客たちがいます!そのノイズをここから出すわけには!』

 

「観客ッ!?」

 

 緒川の言葉に響きが息を飲む。今日のライブには自身は間に合わなかったが、本来なら合流し一緒に観覧するはずだった未来たち学友たちもいたはずだった。つまり、この会場の外には未来たちもいるということに響の中でさらに緊張感が増す。

 

「しかし、徒な攻撃では増殖と分裂を促進させるだけ」

 

「どうすりゃいいんだよ!?」

 

 翼とクリスが打開策に頭を悩ませる中

 

「……絶唱」

 

 響が呟くように言う。

 

「絶唱です!」

 

「あのコンビネーションは未完成なんだぞ!?」

 

 響の提案に、しかし、クリスは難色を示す。

 そんなクリスに響は真剣な表情で頷く。

 

「増殖力を上回る破壊力で一気殲滅……立花らしいが理にはかなっている」

 

「おいおい本気かよ!?」

 

 翼も乗り気な様子にクリスが難色を示すが、今もなお増殖していくノイズの姿にそれ以外の方法がないと覚悟を決めたらしく

 

「「「ッ!」」」

 

 三人は頷き合い、響を中心に三人で手を繋ぎ合う。

 

「行きます!S2CAトライバースト!!」

 

 響の掛け声と共に三人は目を瞑り

 

「「「――Gatrandis babel ziggurat edenal」」」

 

 絶唱を口にした。

 

「「「――Emustolronzen fine el baral zizzl

Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el zizzl」」」

 

 最後の詩を口にした瞬間三人を中心に力の奔流が溢れ出し今まさに増殖し三人を飲みこもうとしていたノイズを蹴散らしていく。

 

「スパーブソング!!」

 

「コンビネーションアーツ!!」

 

「セット!ハーモニクスッ!!」

 

 三人が叫ぶと当時に不規則に溢れ膨れていく力の奔流が纏め上げられ球状に当たりのノイズを蹴散らしながら広がっていく。

 

「ぐぅぅあぁぁぁぁぁッ!!」

 

「耐えろ立花!」

 

「もう少しだ!」

 

 苦悶の声を漏らす響に両サイドから声を掛ける。

 S2CAトライバースト――奏者三人の絶唱を響が調律し一つのハーモニーとしてまとめ上げその威力を何倍にも増殖する技術。

 しかし反面、負荷は響ひとりに集中するため、いかに響が融合症例であっても、身体に圧し掛かるダメージは完全中和しきれないほどに飛躍上昇する。さらにガングニール以外の聖遺物との共振・共鳴が、思わぬ方向に力を暴走させかねないため、非常に危険な側面も内包している。

 そんな諸刃の剣ともいえる力に耐えながら三人は対するノイズを見据える。

 蹴散らしはじけ飛んだ体組織の中から骨格のようなノイズの本体部分が露出した瞬間

 

「今だ!!」

 

「レディッ!!」

 

 翼の言葉と共に響の鎧が展開され、両手を合わせるように自身の籠手を右腕に合わせる。

 右手を包む丸い籠手が変形すると同時に周囲に溢れていたオーラのような物が収束し響の籠手へと収められていく。と、それに呼応し籠手が展開、中で高速で回転しながら虹色の輝きを放ち始める。

 

「フッ!!」

 

 そんな右腕を巨大ノイズへと構える響。

 

「ぶちかませ!!」

 

 クリスの言葉に地面を蹴って跳躍した響は

 

「これが私達の!!」

 

 腰のブースターでさらに加速し巨大ノイズへと向かって行き

 

「絶唱だぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

 その拳を叩き込む。と、同時に籠手そのものが高速で回転し中に閉じ込められていたエネルギーを竜巻の様に回転させながら放出していく。

 ノイズの巨体はそのエネルギーを受けてかけらも残さず粉みじんの灰塵と化したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 エネルギーをすべて出し切りギアを解除された響は地面に膝をつく。

 

「無事か立花!?」

 

「へ、へいき…へっちゃら、です……」

 

 駆け寄る翼やクリスに息も絶え絶えに答える響。そんな響に安堵しかけた二人だったが――

 

「あら…じゃあ次は私のヤミーの相手でもしてもらおうかしら?」

 

「「「ッ!?」」」

 

 どこからか聞こえた声に三人が声の出どころを探してあたりを見渡す。しかし、声の出どころを見つけるよりも先に

 

「おいあれ見ろ!!」

 

 クリスが〝ソレ〟を見つける。

 響と翼がクリスの指さす方を見れば、そこには――

 

「あれは…卵?」

 

「あんなものいつの間にッ!?」

 

 ライブ会場の後方、観覧席に大量の青黒い卵のような物があり

 

「待て、何かおかしい!」

 

 翼が異変に気付く。

 

「あれ…なんか増えてません…?」

 

 響もその異変の正体に気付く。

 卵のような何かは今もなおその数を増やしていくようで――

 

――パシャ

 

 その一つが割れる。割れたその中から――

 

「うわぁッ!なんか出た!!」

 

 白い魚のような水棲生物を思わせる何かが飛び出してきた。

 それを皮切りに残りの卵も次々と中から飛び出してくる。

 

「うぇぇぇッ!?何アレ!?」

 

「まさかアレ、ヤミーか!?」

 

「と言うことは先程の声はまさかグリード!?」

 

 数十匹という小型のヤミーの登場に三人は驚きの声を上げ

 

「くッ、立花は先程のS2CAのダメージが残っている。私や雪音ならばまだ動けるかもしれんが……」

 

「あたしらの力じゃヤミーは倒しきれねぇ!こんな時にあいつがいてくれりゃぁ!」

 

 地面を這いながら自分達へと向かってくる無数の小型ヤミーの姿に三人が絶体絶命――と思われた時

 

『おいお前ら、生きてるか?』

 

「「「ッ!?」」」

 

 三人の耳に通信越しの声が聞こえる。

 そのふてぶてしい声は

 

「てめぇアンク!?」

 

『おぉ、そんだけ叫べるってことはまだ大丈夫そうだなぁ』

 

「大丈夫じゃないですよ!こっちは今大量のヤミーが迫ってきて絶体絶命なんですよ!」

 

「アンク!お前達今どこにいる!?お前達の力ではないと対処できない!」

 

 アンクの言葉に響と翼も叫ぶが

 

『そう慌てなさんな。もうお前らの真上には来てる』

 

「上…って」

 

「もしかしてあれか!?」

 

 アンクの言葉に三人が頭上を見上げれば上空にジェット機らしきものが見えた。

 

『今からどうにかして下に――っておい映治てめぇ何して…やめろバカ!!』

 

 飄々と言うアンクだったが、急にその語調が変わると同時に何かチャリンチャリンとメダルの音が聞こえる。

 

『おいテメェぶん回すんじゃねぇ!何勝手にメダル出してんだ!しかもそれ俺のメダルまで!!』

 

『待っててみんな!今行くから!』

 

「映治さん!?」

 

「行くってどうやって……?」

 

『テメェ勝手なことするんじゃ…って待て!お前そこ開けたら――』

 

 聞こえた映治の声に響と翼が問いかけるがそれには答えず、何か焦ったようなアンクの声の直後、通信機の向こうからゴォッという風の音と共に通信が切れる。そして――

 

「見ろアレ!」

 

 見上げていたクリスが上空を指さす。そこには何か緑色と赤色の光が煌めき

 

「うぉぉぉぉぉぉッ!!!」

 

 上空から何かが振ってきて直後地面で衝撃と共に土煙が舞う。

 土煙が晴れた時そこには

 

「映治さん!?」

 

 晴れた土煙の中心でクワガタのような顔に赤い羽を携えた胴体、バッタの足のような模様の浮かぶ脚の姿のオーズがいた。

 

「あんな上空から降りて来たのか!?」

 

「いくら飛べるからって無茶苦茶だな!?」

 

 驚く三人の前で振り返り緑のクワガタの模様の浮かぶマスクを見せながら

 

「ごめん遅くなって!三人ともここからは俺に任せて!」

 

 オーズは言いながらすぐさま正面――向かってくる無数の小型ヤミーに向き直り

 

「このタイプのヤミーが相手なら…これしかないね!」

 

 オーズは腰のケースから一枚の緑色のメダルを取り出しベルトの真ん中のメダルと入れ替えオースキャナーで読み取る。

 

≪クワガタ!カマキリ!バッタ! ガ~タガタガタ・キリッバ・ガタキリバッ!≫

 

 オースキャナーが高らかに発すると同時にその身を変えていく。赤い羽根を携えた胴体は両腕にカマキリの鎌のような物を持った緑の身体に代わり

 

「うぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

「「「ッ!?」」」

 

 雄叫びを上げる。

 その声に三人はビリビリと衝撃を感じる。

 

「フッ!!」

 

 そのまま駆けだすオーズ。直後その身体が緑色の光に包まれ

 

「「「え……?」」」

 

 二人に増えていた。しかし、三人の驚きも束の間、二人に増えたオーズは瞬きをした後にはさらに四人、八人、十六人とどんどん増えていき数えるのも難しいほどの人数になって小型ヤミーへと駆けて行く。

 

「な、何じゃありゃぁぁぁぁッ!?」

 

「オーズが…映治さんが増えたッ!?」

 

「ぶ、分身の術!?」

 

 三人が驚く中で総勢30人に増えたオーズは無数のヤミー達を蹴散らし両腕のカマキリソードで斬り裂き、次々とセルメダルを飛ばしていく。

 徐々にその数を減らしていきながらもまだまだ大量にいるヤミー達。しかし、オーズの圧倒的な力と数にヤミー達は

 

「なッ!?逃げやがったぞ!」

 

「そんな!外にはまだ避難しきれてない観客が!」

 

 ゾロゾロとオーズから距離をとって空中へと登っていくヤミー達にクリスと響が叫ぶ。が――

 

「待て!何かおかしい!やつら逃げているのではなく集まっている!」

 

 翼が叫ぶ。

 直後二人もその意味を理解する。

 目の前の空中では残っていたヤミー達が集まり一塊となって巨大なヤミーを形成する。

 

「なんかこんな絵本あったよね!でも、だったらこっちも!」

 

 言いながらオーズはオースキャナーで再びベルトをスキャンする。

 

≪≪≪≪≪スキャニングチャージ≫≫≫≫≫

 

 全く同じタイミングで分身するすべてのオーズが同じようにスキャンし音声が同時に響く。

 巨大なヤミーはオーズの攻撃を阻止するように口から光弾を吐くがオーズ達は大きく跳び上がりそれを回避。そのまま巨大ヤミーが光弾を吐いた時に開いた口へとキックの体勢で飛び込んでいく。

 

「えぇッ!?」

 

「体ん中入っちまったぞ!」

 

「映治さん!!」

 

 三人が叫ぶ、が直後ヤミーの身体からチャリンチャリンとメダルの音と共に

 

「やぁッ!」「セイッ!」「おりゃぁッ!」「はぁッ!」「たぁッ!」

 

 と、複数のオーズの声が聞こえ始め、ヤミーの身体がボコボコと波打ち――

 

――ドガァンッ!!

 

「オワッ!?」

 

 直後、大爆発を起こし大量のセルメダルをあたりに撒き散らしその中心からオーズが飛び出し地面に着地する。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」

 

「映治さん!」

 

「大丈夫ですかッ!」

 

 肩膝をついて荒い息をしながら蹲るオーズに響たちが駆け寄る。

 

「ハァ…ハァ…」

 

 そんな三人によろよろと立ち上がりながらオーズはベルトを操作し変身を解除する。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

「お、おい大丈夫かよ…どっか怪我でもしたか?」

 

 なおも荒い息を繰り返す映治にクリスが心配そうに訊くが、映治は微笑みを浮かべ

 

「だ、大丈夫大丈夫!二年もオーズに変身しててコンボにもだいぶ体が慣れて来てたけど、やっぱ緑のコンボはキツかったね……!」

 

 そう言ってクリスを見て

 

「お、俺ちゃんと一人に戻ってる?」

 

 冗談めかして訊く。

 

「大丈夫だ、戻ってるよ!てかアレ何なんだよ!」

 

「そうですよ!映治さんがたくさんに増えてましたよ!」

 

「緒川さんも似たようなことはできますがその分身とは違って全部本物のようでしたが?」

 

「全部俺自身だからね」

 

 三人の疑問に映治は答える。

 

「あの分身は全部俺で全部に俺としての自我があるんだ」

 

「何だよそれ!?」

 

「でもこういうのって増えた分力が落ちたり……」

 

「そう言うのもない。一人の時も、増えた一人ひとりもスペックは同じ。文字通り寸分たがわない俺が増えてるんだ」

 

「そ、それでは無敵ではないですか!?」

 

「それがそうでもないんだ……」

 

 翼の言葉に映治が苦笑いを浮かべる。

 

「まず変身を解除して一人に戻ったら分身してた全員分の疲労が一気に来る。今回は30人になってたから単純にいつもの戦闘の30倍疲れるんだ」

 

「それであんたそんなに疲れてんのか……」

 

 映治の説明にクリスが納得したように頷く。

 

「疲労だけじゃない、一人に戻った時分身が受けたダメージも全部帰ってくるから負傷だったり最悪分身が一人でも致命傷を受けたら……」

 

「そ、それは確かに大変なリスクですね……」

 

 映治の言葉に翼も真剣な表情で頷く。

 

「そんな能力だとそう何度も何度も使えないですね……」

 

「そうなんだ…だから今回のメズールのヤミーみたいに数がいる時とかみたいな、ここぞってときしか使えない……まあそれも今回の任務でカマキリのメダルを手に入れたから久しぶりに変身できたんだけどね」

 

「任務でコアメダルを?」

 

「いったいどんな任務だったんだよ?」

 

「それよりも今知らない名が出たが、メズールというのはいったい?」

 

「とりあえず任務のことはまた改めて話すとして、メズールって言うのは――」

 

「私のことよ~」

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 突如聞こえた声に四人は一斉に身構え声の出どころを探して視線を巡らせ

 

「こっちよ、オーズの坊やに装者のお嬢さん達~」

 

「ッ!ステージの上だ!」

 

 聞こえた声に最初に気付いたクリスが指差す。

 三人がそちらに視線を向けると、そこにはステージの縁に腰を掛ける長い黒髪のセーラー服の三人と年の変わらなそうな少女がいた。

 

「あ、あなたは……?」

 

 困惑する響たちの中で映治だけは鋭い視線のままセーラー服の少女を見つめ

 

「みんな気を付けて。あれがさっきのヤミー達を作り出した水棲系メダルのグリード、メズールだよ!」

 

「ハァイ、久しぶりオーズの坊や。装者のお嬢ちゃん達は初めましてね」

 

「お、お嬢ちゃんだぁッ!?」

 

 少女――メズールの言葉にクリスが顔を顰める。

 

「フフッ、そんなに大きな声出さないの」

 

 そんなクリスにメズールは楽し気に笑う。

 そんなメズールを見つめながら翼が鋭く言う。

 

「それで?グリードであるお前が雑談をするために出てきたわけじゃないだろう?いったい何が目的だ?ヤミーを倒されて今度はお前が戦おうというのか?」

 

 そんな翼の言葉にメズールは

 

「いいえ、挨拶だけよ」

 

「何ッ?」

 

 メズールの返答に翼が虚を突かれ呆ける。

 

「ホントはオーズの坊やが不在の間にさっきのヤミーで装者のお嬢ちゃん達だけでも潰しておこうかと思ったけど、オーズの坊やが間に合うとは思わなかったわ~」

 

 メズールは肩を竦めため息をつく。

 

「だから、上手くいかなかったしこのまま帰ってもよかったんだけど、どうせならちゃんと挨拶しておこうと思ってこうして出てきたのよ」

 

「あ、挨拶って……!?」

 

「随分余裕じゃねぇか!こっちは四人、そっちは一人!いくらグリードとはいえこいつはかなり厳しいんじゃねぇのか!?」

 

「フフッ、威勢がいいのねイチイ・バルのお嬢ちゃんは。でも――」

 

 クリスの言葉に楽しそうに笑ったメズールはそこで言葉を区切り

 

「私、一人で来たなんて言ってないわよ?」

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 突き刺さる様な殺気を纏ったメズールの言葉に四人は反射的に身構え

 

――ドンッ

 

 直後、何かが地面にぶつかるような音と共にメズールの目の前に何かが降り立った。

 それは人型で、下半身はゴツゴツとした鎧の様に覆われ上半身は素肌の露出した上に黒い包帯の巻かれたような体、顔はゾウを思わせる鼻と牙に額にはサイのような角を持つ異形の存在。その圧倒的な存在感に三人が息を飲み――

 

「そんな…ガメルまでッ!?」

 

 映治が唖然として言う。

 四人の視線でゆっくりと起き上がったガメルは

 

「うぅ~、メズールは、俺が守る!」

 

「フフ、ありがとうガメル」

 

 こぶしを突き上げ叫ぶガメルにメズールが微笑みながら頭を撫でる。

 

「どう?これでもまだやるのかしら?」

 

「くッ……」

 

 グリード二人を相手に消耗した四人で戦えるのかという事実に四人は苦悶の声を漏らしながら身構え

 

――ピピピッピピピッピピピッ

 

 間の抜けた電子音が響き渡り張りつめていた空気が弛緩する。

 

「あらごめんなさい。私のだわ」

 

 言いながらメズールはポケットから通信機器を取り出し耳に当てる。

 

「はい?…………もう、わかってるわよ。そんなに心配しなくても帰るわよ。…………フフ、わかってるわよ」

 

 通信を終えたらしいメズールは通信機器を仕舞い

 

「時間切れね。さっさと戻って来いって怒られちゃったわ」

 

 笑いながら肩を竦める。その雰囲気は最初の朗らかな様子に戻っていた。

 

「それじゃ、セルメダル持ってお暇するわね。また会いましょうね、坊や達」

 

 言いながらメズールはフリフリと手を振る。

 

「この状況でお土産もたせて帰らせると思ってんのか!?」

 

 クリスが虚勢で不敵に笑いながら叫ぶ。が――

 

≪クレーンアーム≫

 

 どこからともなく聞こえた機械音声が響く。

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 四人が身構えるが、その背後でどこからかワイヤーに繋がった何かが飛んできて地面を転がる。と――

 

「セ、セルメダルが!!」

 

 響が驚愕に叫ぶ。

 四人の目の前でワイヤーに繋がったアームのような物が地面に落ちていたセルメダルをまるで磁石で金属を集めるように吸い付けて集めそのまま会場の隅の通路までワイヤーを巻き上げていく。

 

「あそこ、何かいるぞ!」

 

「暗くて姿がよく見えないッ!」

 

「ッ!メズールとガメルはッ!?」

 

 アームの正体を暴こうと睨むクリスと翼だったが、直後映治の言葉に慌てて振り返ると

 

「い、いない……」

 

 メズール達は姿を消していた。慌てて先程の通路の方にも視線を向けるがそこにもメダルを回収した誰かの姿は無かった。

 

「同じ場所に現れた『フィーネ』を名乗る武装組織に二体のグリード……」

 

「あのメズールってやつ誰かと通信を交わしていた……もしや奴ら……」

 

「フィーネとカザリみたいに手を組んでるかもね……」

 

 三人で難しい顔をしながら話す中、響は突然フッと力が抜けたようにへたり込む。

 

「立花!?」

 

「大丈夫響ちゃん!?」

 

 突然のことに慌てて三人が駆け寄るが

 

「あ、アハハ…へいき、へっちゃらです……」

 

 そう言って微笑む。しかし、その両眼から涙が溢れ出す。

 

「へっちゃらなもんかッ!どこか痛むのか!?もしかして絶唱の負荷を中和しきれてねぇのか!?」

 

 心配そうに叫ぶクリスに響は慌てて首を振り

 

「……私のしてることって、偽善なのかな?」

 

 ポツリと呟くように言う。

 

「胸が痛くなるようなことだって…知ってるのに……」

 

「お前……」

 

 そう言って肩を震わせ泣く響にクリスは言い淀み、翼もなんと声を掛けていいかわからず押し黙り

 

「…………」

 

 映治もまた、その問いに答えられず、しかし

 

「とりあえず、俺達も引き上げよう。響ちゃんも疲れただろうから、今はゆっくり休むんだ……」

 

「映治さん……」

 

 そう言って響の頭に優しく手を置く。

 

「お疲れ様、よく頑張ったね」

 

「……はい」

 

 映治の優しい微笑みと共に言われた労いの言葉に、しかし、響は暗い表情のまま頷くのだった。

 




というわけで最新話でした!
前回と今回、原作通りの所は端折り気味で、話のストーリー上端折れなかったやり取りとかは書いたので少し読みにくかったらすみません!
とりあえず大筋は原作通りのライブ会場での出来事があったと思っていただければ!

ちなみにオーズ――映治が会場に駆け付けた方法と経緯は

①アンクの腕を振り回して必要なメダル――ガタキリバ用の三枚と飛び降りるためのクジャク――を奪…借りる。
②ジェット機のハッチを開けて飛び降りる。
③空中で変身、クジャクの翼で飛んで着地。

という感じです。



そして今回書くうえで気付きましたが、小説なので本編のオーズと違いガタキリバのメタ的な意味で制限なく登場させられるんですね。
「オーズのコンボで最強はどれだ選手権」で必ずと言っていいほど名前のあがるガタキリバの活躍をたくさん描けたらと思っていますのでお楽しみに!
そんなわけで今回はこの辺で!
また次回をお楽しみに!




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