戦姫絶唱シンフォギア~希望の歌姫と欲望の王~   作:大同爽

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003~剣と手錠とエレベーター~

「反応、絞り込めました!位置特定!」

 

 とある場所にあるある組織の施設内で複数の人員が端末を操作している。

 その中の一人が自身の向かう画面に出た情報を正面の大きなディスプレイに表示する。と――

 

「っ!ノイズとは異なる高出量エネルギーを検知!」

 

 先ほどの人物とは別の人物が新な情報を追加する。

 

「波形を照合!急いで!」

 

 その声に長い茶髪を頭の上でまとめた白衣の女性が指示し、その結果が表示される自身の端末の画面に息を飲む。

 

「まさかこれって!アウフヴァッヘン波形!?」

 

 女性の言葉とともに正面の巨大なディスプレイに文字が浮かぶ。

 

[Code : GUNGNIR]

 

「『ガングニール』だと!!?」

 

 それを見たその場の人間が驚きに顔を顰め、中でも中心に立つ大柄な、恐らくここのトップであろう男性が驚愕の声を上げる。

 中でもその表示に一番の動揺を見せたのはこの広い部屋の一番後ろ、出入り口付近に立っていた人物。恐らくこの中で一番最年少と思われるその少女、風鳴翼は驚きと困惑に呆然と画面に浮かぶ文字を睨みつける。

 

「新たなる……適合者……?」

 

 白衣の女性の言葉とともに画面にはどこかの監視カメラから送られているらしい映像へと切り替わる。

 工業地帯の建物、その屋上らしい場所でノイズに囲まれる中心でぴったりとしたボディスーツと機械的な籠手とブーツ、頭には一対の尖った角のようなヘッドギアを身に着けた翼とそう年の変わらない少女――響と、それを呆然と見つめる幼い少女の姿が映る。

 

「だが……いったいどうして……?」

 

「っ!司令!」

 

「どうした!?」

 

 驚愕と疑問に呆然と呟く男性へ呼びかける声にすぐに冷静さを取り戻した司令と呼ばれた男性は問いかける。

 

「周辺の監視カメラの映像にアクセスしたところ、これが!」

 

 言いながら呼びかけた人物は自身の端末を操作する。

 すると、響の映る画面上の窓が横にずれ、それの端に重なるように新たな映像が映し出される。

 そこには大量の炭の山の中心に立ち、恐らく空に立ち昇る光を見上げているらしい人型の、しかし、明らかに人とは違う存在が映し出されていた。

 

「あれは『オーズ』!?奴もあの場にいるのか!?」

 

「っ!」

 

 驚愕する男性の言葉にさらに表情を険しくした翼は身を翻し出入口へ走る。

 

「待て翼!」

 

 男性が慌てて叫ぶが制止する声も聞かずに翼は部屋を後にする。

 

「くっ!今すぐ人員をそこに向かわせろ!翼だけで行かせるな!」

 

 指示を飛ばす男性は画面へ視線を戻す。

 そこにはオーズが光とは別の方向を見ているらしいところが映っている。

 

「奴は何を見ている?カメラ動かせるか?」

 

「少し待ってください!」

 

 男性の言葉に答えた人物は端末を操作する、と、画面が徐々に動き、オーズの視線の先が映し出される。

 そこにはバイクに跨った黒いフルフェイスのヘルメットを被った人物が映し出される。

 その人物はバイクから降り、入れ替わりにそのバイクにオーズが跨り走り去る。それを見送ったその人物はヘルメットを取ると地面に忌々し気に叩きつける。

 ヘルメットから出た顔はカメラの角度から見えないが長いボリュームのある金髪と遠目から見える体格から

 

「あれは……以前より存在だけ確認されていたオーズの協力者か?女性だったのか……カメラ、もっと拡大できないのか!?」

 

「やってみます!」

 

 応えた人物の言葉とともに画面の中の女性が拡大されるが、逆に画質が荒くなっていく。

 

「くっ、顔を見ることは出来んか……他にカメラは!?」

 

「ありません!」

 

 答える声に男性は悔しそうに唇を噛む。

 

「君はいったい何者なんだ?何故オーズに協力している?……しかし――」

 

 言いながら男性は画面に映る人物を見つめる。

 

「やつは……どこかで見た覚えがある気がする……いったいどこで……?」

 

 男性の疑問に誰も答えることは出来ない。

 画面の中では件の人物がイラついた様子で目の前の窓ガラスを叩き割っていた。

 

 

 ○

 

 

 

「っ!あそこか!」

 

 バイクを走らせた映治は目的の場所であろうところにたどり着く。

 そこには大量のノイズが集まっていた。

 

「行くぞぉ!」

 

 気合の声とともにバイクの速度を上げてノイズたちの中へ突っ込む。

 

「ふっ!」

 

 蹴散らしながら進む先にノイズに囲まれた中心に何かが――誰かが立っているのを見つけ、ブレーキを掛けながら後輪を滑らせ、その人物へ向かう。

 ノイズによる壁を抜けたその先には、先ほど映治の別れた少女と、少女を抱き上げて驚きの表情を浮かべる響がいた。その姿は先ほどとは装いの違う、ぴったりとしたボディスーツに機械的な籠手とブーツに一対の棘のようなヘッドギアを身に纏っていた。

 

「なっ……立花さん!?」

 

「え?……っ!あなたは、あの時の……!?なんで私の名前を!?」

 

「あの時……?それにその格好……まるであの日の奏ちゃ――っ!そうか!君あの時の――!」

 

「危ない!」

 

「っ!」

 

 響の言葉とその姿に映治は思い出す。響の言うあの時がいつだったのかを。しかし、その思考は響の叫び声に中断させられる。

 慌てて振り返ると、視線の先にいたノイズたちが自身の体を槍のように変化させて飛んでくる。

 

「セイッ!」

 

 すぐさまメダジャリバーを構えて飛んでくるノイズたちへ振るう。

 

「とにかく君はその子を守るんだ!」

 

「えっ!?あ、はい!!」

 

 訳も分からないまま映治の言葉に響が頷く。

 と、そんな響の背後から見上げるほどの巨体の緑色の二足歩行するノイズが迫っていた。

 

「避けて!」

 

「っ!」

 

 映治の言葉に咄嗟に上に飛ぶ響。映治も横に転がるように飛ぶ。直後、彼らのいた場所に巨大ノイズの腕が叩きつけられる。

 

「っ!立花さん!」

 

 転がりながら体を起こした映治は慌てて響の飛んだ先に視線を向ける。

 そこには高い建物の壁に少女を抱いたまま片腕でしがみ付いていた。

 そんな響達に建物の陰からもう一体の巨大ノイズが姿を現し腕を振りかぶる。

 

「っ!」

 

 それに気付いた響が慌てて飛ぶ。直後響たちのいたところに巨大ノイズの腕が叩き込まれる。

 地面に降り立ち振り返った響の視線の先にはいまだ大量のノイズたちがいる。その中の一匹、青いカエルのようなノイズが響達に飛び掛かる。

 

「っ!」

 

 その光景に咄嗟に拳を握り締めた響は

 

「くっ!」

 

 顔を背けながらそのノイズを払いのけるように拳を振るう。

 直後、響の拳に殴られたノイズはその身を炭へと変えてボロボロと崩れていく。

 

「え……?」

 

 自分のしたことに理解が追い付かない響は呆然と自身の拳と目の前に舞う炭の塊を交互に見る。

 そんな光景にノイズを蹴散らしながら響たちへと向かっていた映治は納得した様子で呟く。

 

「ノイズに触れても平気だった……それどころかノイズを破壊するなんて……やっぱりあの姿は『シンフォギア』なんだ……!」

 

 向かってくるノイズを切りつけ炭へと変えながら映治は走る。と、そんな映治の耳にエンジン音が聞こえる。

 

「っ!?」

 

 映治同様に響の耳にも届いていたらしく、揃って音の方向に視線を向けると、そこには映治のようにノイズを蹴散らしながら何か――緑色のバイクに跨った人物が向かってきていた。

 そのバイクに跨った人物は響へと向かい、そのままその脇を走り抜け、響の背後にいた巨大な緑色のノイズへと向かって行く。

 寸前にバイクに跨っていた人物は上空へと飛び上がり、バイクのみがノイズにぶつかり爆発を起こす。

 上空を華麗に舞いながら

 

「――Imyuteus amenohabakiri tron」

 

 透き通った声で歌うように呟いた人物は響の目の前に降り立ち

 

「呆けない!死ぬわよ!」

 

「え……?」

 

「あなたはここでその子を守ってなさい!」

 

 そう言って走り出す。

 

「翼さん……!?」

 

 呆然とする響の視線の先でノイズへと向かって行く人物――風鳴翼の体を光が包む。同時にあたりに歌が響く。それは翼の口から発せられているらしい。

 光が一層輝き、その光が晴れた時、翼の体は響と似た鎧を身に纏ったその手に剣を携える姿に変わる。

その剣が形を変え翼の身の丈ほどの大剣へと変わると同時に翼はその剣を大きく振りかぶり振るう。

 と、その刃から青い光がノイズたちへと飛んでいく。

 翼の放った攻撃――『蒼ノ一閃』によって翼の正面にいたノイズたちが炭へと変わり爆発する。

 そのまま上へ飛びあがった翼は右手に刀の形に戻った剣を握ったまま両手を大きく広げる。と、翼の周りにいくつもの青い光が湧き出しそれがすべて同じ形の両刃の剣の形となり、雨のようにノイズたちに降り注ぐ。

 その刃たち――『千ノ落涙』はノイズたちをさらに大量の炭へと変えていく。

 そのままノイズへと突っ込んだ翼は剣を振るい、文字通りノイズたちを蹴散らしていく。

 

「すごい……!やっぱり翼さんは……!」

 

 その光景に響は感嘆の声を漏らす。

 

「っ!」

 

 と、そんな響の脇で振り返った少女は息を飲む。二人に向かって巨大ノイズが歩み寄ってきているのだ。

 

「くっ!」

 

 翼は離れたところにいるため助けは見込めない。

 身構える響だったが

 

「しゃがんで!」

 

 叫び声が響く。

 響たちが視線を向けると、自分達の前、巨大ノイズとの間に一人の人物が割り込む。割り込んだ人物、映治が手に握るメダジャリバーに銀色のメダル――セルメダルを三枚入れ、腰のオースキャナーでスキャンしていた。

 

≪トリプル・スキャニングチャージ≫

 

 オースキャナーから高らかに発せられた声と同時にメダジャリバーが青白い光を発する。

 

「うぉぉぉぉぉ!!」

 

 それを振りかぶる様子に響は少女を庇いながら慌てて屈む。

 

「セイヤァァァァァァァ!!!」

 

 そのまま映治は気合の掛け声とともにメダジャリバーを振るう。と、響たちへと迫っていた巨大ノイズ、そしてその背後に並び立つ建物が横一線の切り口とともにズルリと斜めにずれる。が、すぐに建物は元通りに戻る。しかし、巨大ノイズはそのまま切り口から炭へと変わる。

 

「すごい……!」

 

 その光景に驚きの声をあげて顔を上げようとする響。が――

 

「まだだ!」

 

 映治は慌て叫ぶ。

 先ほどの攻撃――『オーズバッシュ』の射線に入らず取り逃がしたもう一体の巨大ノイズも響へと迫る。

 

「っ!」

 

 その光景に響が息を飲み、映治は再度攻撃を仕掛けようとメダジャリバーを構える。が――

 

「っ!?」

 

 響の目の前で巨大ノイズが上空より飛来した巨大な――そのノイズと変わらないサイズの――剣に串刺しにされて一瞬で炭へと変わる。

 その巨大な剣の持ち手と思われる部分、その先には先ほどまでノイズたちを蹴散らしていた翼の姿があった。

 見ると、先ほどまで翼が戦っていた場所にはノイズは一匹もおらず、代わりに大量の炭の山が出来上がっていた。

 

「ふぅ……」

 

 その様子に安心したように息をついた映治は近くにあった黒と黄色の自販機へ歩み寄る。

 自販機の投入口にセルメダルを一枚入れ、中央の黒いボタンを押す。直後、自販機が倒れるようにバイクに変形する。それはアンクが乗ってきて、ここまで映治が走らせたものと同じものだった。

 

「さて、と」

 

 そのバイクに跨りエンジンを掛けようとした映治は

 

「待て!オーズ!!」

 

 自身を呼ぶ声が響き、動きを止める。

 見ると巨大な剣をもとの刀の形に戻した翼がその剣をこちらに向けて睨んでいる姿があった。

 

「答えろ!あの日何があった!?奏は……!奏はどこだ!!?奏のガングニールはどこにある!!?」

 

「……………」

 

 鬼気迫る表情で睨みつけてくる翼に映治は黙り込み、考え込んだ後――

 

「……ごめん」

 

 翼に聞こえるか聞こえないかの声量で呟く様に言った映治はバイクのエンジンをかける。

 

「っ!待て!!!」

 

 その様子に慌てて駆け寄る翼。だが、一歩遅く、そのまま映治は振り返らずに走り去る。

 

「くぅっ……!」

 

 苦虫を噛み潰したように走り去る映治の背中を睨みつける翼。その様子に響は呆然と

 

「…………」

 

 ただただ見ていることしかできなかった。

 

 

 ○

 

 

 数分後、現場には自衛隊の制服や黒いスーツに身を包んだ人たちが入り乱れ、事後処理を行っていた。

 少し離れたところで紙コップに入った湯気の立つ飲み物を飲む少女の姿にホッと安心したように笑みを浮かべる響に

 

「あの……」

 

「へ……?」

 

 呼びかける人物に響は視線を向ける。

 そこには自衛隊とも、他の黒スーツとも、警察とも違う紺の制服に身を包んだ短髪の女性がにこやかに紙コップを差し出していた。

 

「あったかいもの、どうぞ」

 

「あっ……あったかいもの、どうも」

 

 湯気の上がるその紙コップを受け取り、ふぅふぅと息を吹きかけて口を付ける。

 

「プハァ~!」

 

 間の抜けた声を上げながら笑みを浮かべる響。と、その身を突如光が包み

 

「へぇ?」

 

 わけもわからず呆けているうちに光は強まり

 

「っ!?」

 

 光が弾ける様に身に纏っていた鎧が消え、響の姿が元の制服姿に戻る。

 

「うわっ!?わわわっ!?」

 

 突然のことに紙コップを取り落としながらバランスを崩した響はそのままよろけて倒れそうになる。そんな響を背後から歩み寄った人物が受け止める。

 

「わわっ!あぁ!ありがとうございま――!」

 

 慌てて身を起こし自分を受け止めてくれた人物へお礼を言いながら頭を下げる。そして自分を助けた人物を見ようと顔を上げると

 

「っ!」

 

 そこには翼が立っていた。響同様先ほどの鎧姿ではなくリディアンの制服になっている。

 

「ありがとうございます!!」

 

 しかし、響の言葉に答えずに翼は無表情のまま身を翻して歩いて行く。

 そんな翼に構わずその背中に響は少し照れたようにはにかみながら

 

「実は!翼さんに助けられたのは、これで二回目なんです!!」

 

 その言葉に翼は歩みを止め

 

「……………」

 

 振り返る。その顔には先ほどまでとは違う、少し複雑そうな表情が浮かんでいた。

 

「エヘヘ……」

 

 そんな翼に対して響は満面の笑みで笑いかける。

 

「ママ!!」

 

「っ?」

 

 と、近くから先ほどの少女の声が聞こえ、そちらに視線を向ける響。

 そこには先ほどの少女が母親らしき女性と抱き合っているところで

 

「よかった!無事だったのね!」

 

 屈みこみ少女を愛おしそうに眼に涙を浮かべて頭を撫でる母親。そんな彼女に横から女性が歩み寄る。その女性は先ほど響に飲み物をくれた女性と同じ制服を着ており

 

「それでは、この同意書に目を通した後、サインをしていただけますでしょうか?」

 

 タブレットを差し出しながら淡々と言う。

 

「本件は国家特別機密事項に該当するため、情報漏洩防止の観点から、あなたの言動および言論の発信には今後一部の制限が加えられることになります。特に外国政府への通謀が――」

 

 女性の言葉にポカーンと母親と少女が口を開けているさまに苦笑いを浮かべた響は

 

「じゃあ……私もそろそろ――」

 

 と、翼に視線を向ける。しかし、そこには翼の他に黒スーツにサングラスをかけた男たちがずらりと並んでおり

 

「あなたをこのまま返すわけにはいきません」

 

「な、なんでですか!?」

 

 翼の言葉に響は素っ頓狂な声を上げる。が、翼はその疑問には答えず

 

「特異災害対策機動部2課まで同行していただきます」

 

 事務的に冷たく告げる。直後に響の隣に歩み寄った男性が響の腕に大きな手錠をかける。ガコンと言う音と共に手錠がロックされる。

 

「へ?あ、あの……」

 

「すみませんね。あなたの身柄を拘束させていただきます」

 

 そう言って男性は申し訳なさそうに微笑みかける。

 

「だから!なんでぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 疑問の声を上げる響だが、誰一人それに答える者はいないまま車に押し込められどこかへと連れて行かれる。

 

 

 ○

 

 

 車が走ること数十分後。響が連れて来られたのは

 

「なんで……学院に?」

 

 数時間前に出た自身の学び舎だった。

 そのまま翼と、自分に手錠をかけた男性に連れられるまま校舎の中を進む。

 

「あ、あのぉ……」

 

 しかし、尽きない疑問に耐え切れず前を歩く翼たちに恐る恐る声をかける。

 

「ここ、先生たちがいる中央棟…ですよね?」

 

 しかし、二人はその問いには答えずずんずん進んでいく。響も黙ってついて行くしかない。

 と、一つのエレベーターの前で立ち止まり、先頭の男性がスイッチを押す。すぐに扉は開き、促されるままそこに入る。

 入って向かいの端末に男性が何か機械をかざすとピコンと音が鳴り、背後で扉が閉まる。と、その扉を覆うように頑丈そうなシャッターが現れ周りに手すりが現れる。

 

「あ、あの……これは……?」

 

 その状況に翼に助けを求める様に声を掛けるが翼は答えず背中を向けている。代わりに男性が歩みより

 

「さぁ、危ないですから捕まってください」

 

「へ?危ないって……?」

 

 手錠をされた響の手を取り手すりを掴ませる。直後――

 

「のわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

 エレベーターが高速で降下し始める。

 エレベーターの壁の階層表示のパネルが明滅を繰り返す。

 

「あ……あ、あははは……」

 

 響はわけがわからないまま手すりにしがみ付き翼たちに笑顔を向ける。

 

「愛想は無用よ」

 

 そんな響に視線を向けないまま翼は冷たく言う。

 

「う……」

 

 そんな翼の言葉に笑みを消し不安そうな顔に戻る響。

 と、上へ流れていくだけだった無機質な灰色のエレベーターの窓の外の光景が変わる。

 

「わぁ……」

 

 響はその光景に思わず感嘆の声を漏らす。

 そこにはまるで何かの宗教の壁画のようなカラフルな模様の刻まれた壁が広がっていた。そんな中をエレベーターは降りていく。

 そんな光景を呆然と眺める響に翼は無表情で言い放つ。

 

「これから行くところに、微笑みなど必要ないから」

 

 そして、エレベーターがつき、案内された先にあったのは

 

 ピー!!ドンドン!!パフパフ!!

 

 軽快な音ともにクラッカーと紙吹雪が舞い、色とりどりに飾り付けられ、天井からは「熱烈歓迎!立花響さま☆」「ようこそ2課へ」と書かれた垂れ幕のつるされた部屋と、豪華な食事とともににこやかに拍手をする人たちと――

 

「ようこそ~!人類守護の砦!特異災害対策機動部2課へ!」

 

 その中心で赤いカッターシャツにピンクのネクタイ、クリーム色のスラックスを履いた筋骨隆々のシルクハットを被った男性の愛想を振りまくこの中で一番の飛び切りの笑顔だった。

 


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