これまでメインで書いていた「IS~平凡な俺の非日常~」が無事本編完結したのでその余韻に浸ってたってのもありますけどねぇ~(笑)
そんな訳で最新話です。
ここから本格的にこの作品を書いて行きたいと思います。
これまでの「戦姫絶唱シンフォギア~希望の歌姫と欲望の王~」
二年前のライブの悲劇を生き延びた少女、立花響は入学したリディアン音楽学院で火野映治と言う青年と出会う。
そんな中、彼女はまたもノイズと遭遇。偶然居合わせた映治と少女とともに逃げることになってしまう。
囮になった映治を心配しながら少女とともに逃げる響だったが、ノイズに追い詰められ絶体絶命と言うその時、彼女の胸の内から歌が沸き上がり、彼女はあの日自分を救った女性、天羽奏のシンフォギアを纏う!
そこに、同じくあの惨劇を戦っていた謎の存在――オーズと、憧れのミュージシャンである風鳴翼も現れ、またも窮地を救われる響。しかし、安心したのもつかの間、彼女は手錠をはめられ、特異災害対策機動部二課へと連行される。が、その先で待っていたのは熱烈な歓迎だった!
Count the Medals!
現在、オーズの使えるメダルは――
「ふぁぁぁ~………」
「大きなアクビ。昨日遅くに帰ってきたと思ったらすぐにベッドに入って朝までぐっすりだったのに……まだ寝たりないの?」
朝。リディアン音楽学院の校門を通る少女たち――その中の響は大きな欠伸をし、そんな響を未来が苦笑いで見る。
「ん~……なんか疲れが抜けきらない感じがして……」
「そんなになんて、一体昨日は何してたの?訊いても何にも教えてくれないし」
「うっ……それは、ごめん」
「……いいよ。言えないってことはよっぽどの理由があるんでしょ?」
「うう、ありがとう未来~」
と、二人が笑いながら歩いてると
「ん?」
響はふと、進行方向にしゃがんで作業をしているツナギの男に気付く。
「ふぅ……」
作業――花壇の草抜きをしていたツナギの男が顔を上げ頬の汗を首にかけたタオルで拭う。
「――っ!」
「……響?」
その顔に息を飲む響。その様子に未来は首を傾げる。
「響、いったいどうしたの?あの用務員さんが何か――」
言いかけた未来の言葉に答えず、響は走り出す。――手に持っていた通学かばんを放り出して。
「響!?」
後を追おうとした未来だが、一歩足を踏み出しかけて響の落としたカバンを慌てて拾う。しかし、それを気にした様子もなく響は作業を再開した男へ駆けて行き
「火野さぁぁぁぁぁぁん!」
「ん?――ぐえっ!?」
その勢いのまま止まることができず自身を呼ぶ声に顔を上げた男――火野映治に激突。そのお陰で踏みとどまれた響だったが、それに対して映治は顔面から花壇に突っ込んでいた。
「ひ、響~!きゅ、急に何だって――!?」
「ひ゛の゛さ゛ぁぁぁぁぁぁん゛!!ぶ、ふ゛し゛て゛よ゛か゛った゛ぁぁぁぁぁぁ!!」
遅れて追いついた未来の目には顔から花壇に突っ込んだ男をガクガクと背中をゆする親友の姿だった。
○
「――で?一体どういうことなんですか?」
場所を移動し、中庭の大きな木の脇のベンチに座る響と未来。机を挟んで対面に座る映治は未来からジトッとした視線を向けられる。その冷たい視線に映治はゾクッと何か嫌な寒気を感じる。
「えっと、俺は火野映治。見ての通りリディアンの用務員のバイトをしてるんだ」
「ほ、ほら、この間話した猫を一緒に助けてくれた人だよ」
「あぁ~……」
響の言葉に未来が思い出したように頷く。
「でも、それじゃあさっきのは?無事でよかった~とか何とかって」
「そ、それは……」
「あぁ~、それは昨日俺と彼女が街でたまたま会ったときにノイズに――」
「ひ、火野さん!」
言いかけた映治の言葉を響が慌てて遮る。が――
「ノイズ!?」
未来は映治の口から出た単語に思わず眉を顰める。
「ちょっと響!何か秘密があるとは思ったけど、ノイズだったなんて!!」
「ち、違うの未来!じ、実は……その……」
「――実は昨日俺と彼女と、もう一人、たまたま逃げ遅れちゃった小さな女の子と一緒にノイズから逃げてたんだ。でもどうしても逃げ切れなくてね」
言い淀む響に代わって映治が口を開く。
「どうしようもなくて、二人を逃がすために俺が囮になったんだ。俺が知ってるのはそこまで。あとは必死に逃げ回ってなんとか逃げ延びたんだ」
「そうなんですね……」
「俺は奇跡的に自力で逃げ延びれたけど、もしかして君たちは政府とか自衛隊に助けられたんじゃない?」
「え……?」
自身の言葉に納得したように頷く未来を見ながら映治は響に問いかける。
「前にどこかで聞いたんだけど、自衛隊とか政府の活動には国家機密も絡んでるから救出された人たちには箝口令が敷かれるって。立花さんもそうだったんじゃないかなぁって。違う?」
「え、えっと……は、はい!実はそうだったんです!」
映治の言葉に一瞬言い淀んだ響は頷く。
「やっぱりね。つまり彼女が君に話せなかったのは箝口令のせいだったんだね」
「そう…だったんだ……」
映治が微笑みながら言う言葉に未来は響に視線を向け
「ごめんね、響。そんな理由があるなんて知らずに……」
「あ、謝らないで!黙ってた私が悪いんだし!」
頭を下げる未来に響は焦ったように手をふる。その顔は何か心苦しいような後ろめたそうな顔だった。
「でも、響が助かった理由は分かりましたけど、火野さんはどうやって?」
「ん?俺?」
未来の問いに映治は首を傾げ
「ん~…超頑張ったから、かな……?」
「「はい?」」
苦笑いで答える映治の言葉に二人は呆けた顔をする。
「超頑張ったから…って……」
「そんな無茶苦茶な……」
「いや……なんて言うか頑張って走って逃げ回ったらいつの間にか巻いてたって感じかな……?」
信じられないと言った表情の二人に映治は頭を掻きながら答える。
「はぁ~……すごいですね!」
そんな映治の言葉を響は感心したように頷き
「すごいけど……なんだか信じられない話ですね……」
未来は半信半疑な様子で苦笑いを浮かべている。
「まあ何にしても、本当に無事でよかったです」
「君もね、立花さん」
嬉しそうに笑う響に映治は頷いて返す。
「あ、響でいいですよ!」
「そうかい?じゃあ響ちゃんで。俺のことも映治でいいよ」
「はい!映治さん!」
嬉しそうに笑う響に笑い返しながら
「君も、えっと……」
「あ、未来です!小日向未来!私も未来でいいです」
「そう?じゃあ未来ちゃんで。二人とも何かあったらいつでも声かけて。用務員だしバイトだけど、力になれることなら何でもするから」
「はい!ありがとうございます!」
「よろしくお願いします、映治さん」
映治の言葉に二人は頷く。
「ところで――」
そんな笑顔の二人に頷きながら
「時間、大丈夫?そろそろ――」
言いかけた映治の言葉は
キーンコーンカーンコーン♪
「あぁ!予鈴!」
「は、早く教室に行かないと遅刻になっちゃう!」
「アハハ、遅かった……」
その音に響と未来は慌て、映治は申し訳なさそうに笑う。
「す、すみません映治さん!私たちはそろそろ!」
「ああ、俺のことは言いから急いで急いで」
「は、はい!」
「慌ただしくてすみません!」
慌てて立ち上がる二人に映治は笑顔で見送る。
走り去る二人に手を振る映治。
「なるほどな、あれが例のやつか」
そんな中、どこからともなく声が聞こえる。
「……いつからいたんだよ、アンク」
ため息をつきながら呆れた顔で映治が脇の大きな木を見上げるように顔を上げる。
映治の視線の先には木の枝に腰掛けふんぞり返る人物の姿があった。
黒いタイトなパンツに白い、右腕の袖のみ赤い長袖のパーカーに、黒い野球帽を目深に被った上からさらにフードを被っているのでその表情は見えないがフードの脇からボリュームのある金髪が漏れ出ていた。
顔が見えないが、体の凹凸や声から女性らしいその人物は木の上でふんぞり返ったまま言う。
「あのガキが昨日の光の正体なわけか?」
「………ああ、そうだよ」
アンクと呼んだ人物の問いに映治は答える。
「で?あのガキがシンフォギアを纏ったってのはマジなんだな?」
「ああ」
映治は頷き
「つまり、あのガキも『特機部二』の関係者ってわけだ」
「ん~……どうなんだろう……」
「あぁ?どういうことだ?」
映治の言葉にアンクは訊く。
「なんて言うか、あの子はあの時初めてシンフォギアを纏ったような感じでさ。それにあの場に来た風鳴翼にも驚いてた。まるで彼女たちのことを知らなかったみたいに……」
「あぁ?なんだと?」
映治は上手く言葉にできないようなもどかしい様子で言う。そんな映治の言葉にアンクも訝しんでいる。
「どういうことだ?シンフォギア纏ったならあいつらの技術使ってんだろ?」
「そのはずなんだけど……俺もよくわからない……」
「……………」
少し考えこんだアンクはパーカーのお腹のポケットに手を入れて中から赤い缶飲料を取り出す。
「アンクそれ!?」
驚く映治の様子にも目もくれずそのまま缶のプルタブを引く。と、缶が変形し鷹を模した形になりアンクの目の前を飛ぶ。
そのまま新たにポケットから、今度は緑色の缶を取り出し同じくプルタブを引くと今度はバッタの形に変形しアンクの掌の上で飛び跳ねる。
「あのガキ――立花響を見はれ」
「おい!」
アンクの言葉に驚きの声を上げ映治が止めようとするがそれよりも先にその鷹に変形した缶――タカカンドロイドはアンクの掌の上のバッタカンドロイドを掴み飛び立っていく。
「おい、アンク!」
「あのガキがお前の言う通りならいろいろ気になるところは多い。それに、これまでそうじゃなかったとしても、昨日の一件であのガキが『特機部二』と接触を持ったのは疑いようがねぇ」
「でも……」
「奴らの内情を知るいい機会だ。こういう情報に関しては〝あの男〟はだんまりだ。チッ!思い出しただけであの訳知り顔のニヤケ面にイライラする!」
イラついた様子で木の幹を叩くアンク。
「だからってお前、女子高生を盗撮するとか犯罪だろ」
「おぃ、映治!てめぇ言い方ってもんがあるだろうが!!」
「事実だろ!」
怒声を飛ばすアンクに映治は叫び返す。
「と言うか今更だけどここ学院だぞ。関係者以外は入れないのにどうやって入ったんだよ?」
「本当に今更だな。そんなもんどうとでもなるんだよ」
「はぁ~……今更ツッコんでも無駄な気がしてきた。でもあんまり騒ぐと誰か来るんじゃ――」
「あの」
「っ!?」
言いかけた映治は当然背後から話しかけられ、慌てて振り返る。
そこには茶髪の短髪の女教師が立っていた。
「す、すみません!こ、こいつは別に怪しい奴じゃ――!!」
「はい?何の話でしょうか?どなたかいらっしゃるのですか?」
「へ?」
女教師の言葉に映治は呆けて、慌てて木の上を見上げるが
「い、いない……」
そこには誰もいなかった。
「それで、お願いしたいことがあるのですが――」
「あ、はい!」
話を戻した女教師の言葉に慌てて視線を戻した映治は急いで用務員の仕事に戻るのだった。