戦姫絶唱シンフォギア~希望の歌姫と欲望の王~   作:大同爽

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戦姫絶唱シンフォギア~希望の歌姫と欲望の王~前回の三つの出来事

1つ、立花響はノイズから逃げるために囮となった火野映治と学院で再会。

2つ、説明を求める親友、小日向未来にノイズに襲われたことがばれるも、映治のフォローにより上手く収まる。

そして3つ、響の存在に興味を持ったアンクによって響は人知れず監視されることとなった。



Count the Medals!
現在、オーズの使えるメダルは――





005~欠片とトラと置き土産~

「それでは~!先日のメディカルチェックの結果はっぴょ~♪」

 

 響の目の前に立つ白衣の茶髪の女性――櫻井了子が指示棒を持ってにこやかにハイテンションで宣言する。

 

 

 

 先日の一件から数日が経ち、響は再び手錠を付けられリディアン音楽学院の地下深くにある「特異災害対策機動部2課」の施設へと連れて来られていた。

 先日連れて来られた際に熱烈歓迎を受けた後、詳しい事情説明をする代わりにこの組織から提示された条件は二つ。一つは例の一件に関することの一切を秘密にすること。もう一つは詳細なメディカルチェックを受けることだった。

 そして今日、その結果が出たということで翼と、先日も響に手錠を付けたスーツの若い男――緒川慎次に連れられてやって来た。

 現在、施設内の一室に響、翼、了子の他には先日一番の笑顔で響を迎え入れた筋骨隆々の男――風鳴弦十郎に、オペレーターである藤尭朔也と同じくオペレーターであり先日の事件の後に響に飲み物を渡した友里あおいの七人が揃っていた。

 

 

 

 六人は壁に供え付けられているディスプレイ映し出された数値や図形に視線を向ける。

 それを見ながら了子はそれぞれの数値について説明しつつ

 

「初体験の負荷は若干あるものの、体に異常は〝ほぼ〟見られませんでした~♪」

 

「〝ほぼ〟……ですか……」

 

「そうね、あなたが訊きたいのはこんなことじゃないわよね」

 

 微妙な顔で頷く響に了子は答える。

 

「教えてください、あの力のことを」

 

 響の真剣な表情を受けた弦十郎は一番後ろの扉の脇に立つ翼へと視線を向ける。

 弦十郎の視線を受けて翼は首元から一つのネックレスを取り出す。

 その鎖の先には赤い金属の楕円形の飾りがついており――

 

「『天羽々斬』。翼の持つ第一号聖遺物だ」

 

「セイ…イブツ……?」

 

 聞き慣れない言葉に首を傾げる響。

 

「聖遺物とは、世界各地の伝承に登場する現代では製造不可能な異端技術の結晶こと。多くは遺跡から発見されるんだけど、経年による破損が著しくてかつての力をそのまま秘めたものはホントに希少なの」

 

「この『天羽々斬』も刃の欠片のごく一部に過ぎない」

 

 響の疑問に答える様に了子と弦十郎が説明する。

 

「欠片にほんの少し残った力を増幅して解き放つ唯一のカギが特定振幅の波動なの」

 

「トオクテイシンプクノ…ハドウ……?」

 

「つまりは〝歌〟。歌の力によって聖遺物は起動するのだ」

 

「歌……?」

 

 弦十郎の言葉に響は一瞬考え

 

「そうだ……あの時も胸の奥から歌が浮かんできたんです」

 

「うむ……」

 

 響の言葉に神妙に弦十郎が頷く。

 

「歌の力で活性化した聖遺物を一度エネルギーに還元し、鎧の形に再構成したのが、翼ちゃんや響ちゃんが身に纏うアンチノイズプロテクター、『シンフォギア』なの」

 

「だからとて!どんな歌、誰の歌にも聖遺物を起動させる力が備わっているわけではない!」

 

 翼の強い言葉に一瞬室内がシンと静まる。

 そんな中弦十郎は優しく、しかしどこか悲しそうな笑顔を一瞬浮かべ、気を取り直したように座っていた椅子から立ち上がる。

 

「聖遺物を起動させ、『シンフォギア』を纏う歌を歌える僅かな人間を我々は『適合者』と呼んでいる。それが翼であり、君であるのだ!」

 

「どぉ~?あなたに目覚めた力について、少しは理解してもらえたかしら?」

 

 響に向けて弦十郎に続いて了子も笑顔で訊く。

 

「質問はドシドシ受け付けるわよ~?」

 

「………あの!」

 

「ど~ぞ響ちゃん!」

 

「……全然わかりません」

 

「だろうね……」

 

「だろうとも……」

 

 苦笑いで言う響に友里と藤尭が頷く。

 

「い、いきなりは難しすぎちゃいましたね……」

 

 了子も優しく笑いながら頷き

 

「だとしたら、聖遺物からシンフォギアを作り出す唯一の技術、『櫻井理論』の提唱者が、この私であることだけは、覚えてくださいね?」

 

「はぁ……でも……」

 

 と、にこやかにウィンクしながら言う。しかし、響はいまだ困惑した表情で訊く。

 

「私がその聖遺物というモノを持ってません。なのに、何故……?」

 

 響の疑問に対して了子は頷き、ディスプレイに新たな画像を映し出す。それは胸のレントゲン写真で――

 

「あ……」

 

 その画像に響は声を漏らす。その画像の左の丁度心臓があるあたりに何かの破片のような影が映っている。

 

「これがなんなのか、君にはわかるはずだ」

 

「は、はい!二年前のケガです!あそこに私もいたんです!」

 

「っ!」

 

 響の言葉に翼は顔を顰める。

 

「心臓付近に複雑に食い込んでいるため、手術でも摘出不可能な無数の破片……調査の結果、この影はかつて奏ちゃんが身に纏っていた第三号聖遺物、『ガングニール』の砕けた破片であることが判明しました」

 

「っ!?」

 

 了子の言葉に翼は驚愕の表情で固まる。

 

「奏ちゃんの置き土産、ね……」

 

「………っ……っ!」

 

 了子の言葉に翼は倒れそうになり壁に手をつき顔を覆う。

 

「っ!っ!」

 

 嗚咽を漏らしながらよろよろと何も言わずに部屋を後にする翼に誰も何も声を掛けられないまま見送る。

 

「………あの――」

 

 翼の去ってからしばらくして響がおずおずと口を開く。

 

「どうかしたか?」

 

「この力のこと、やっぱり誰かに話さない方がいいのでしょうか?」

 

「………君が、シンフォギアの力を持っていることを何者かに知られた場合、君の家族や友人、周りの人間に危害が及びかねない。命に係わる危険すらある」

 

「命に……係わる……」

 

 弦十郎の言葉に響の脳裏に親友の顔が浮かぶ。

 

「……………」

 

「俺たちが守りたいものは機密などではない、人の命だ」

 

 俯く響に弦十郎は真剣な顔で言う。

 

「そのためにも、この力のことは隠し通してもらえないだろうか?」

 

「あなたに秘められた力はそれだけ大きなものだということを、わかってほしい……」

 

 響を慮りながら、弦十郎と了子が言う。

 

「人類ではノイズに打ち勝てない。人の身でノイズに触れることは、すなわち、炭となって崩れることを意味する。そしてまた、ダメージを与えることは不可能だ。たった一つの例外があるとすれば、それは、シンフォギアを身に纏った戦姫だけ……日本政府特異災害対策機動部2課として、改めて協力を要請したい」

 

 弦十郎は真剣な顔で響を見つめる。

 

「立花響君、君が宿したシンフォギアの力を対ノイズ戦のために役立ててはくれないだろうか?」

 

「…………」

 

 弦十郎の言葉に響は少し考え

 

「私の力で誰かを助けられるんですよね?」

 

 響の言葉に弦十郎と了子は頷く。

 

「………わかりました!」

 

 響は大きく頷く。

 

「………それで…あの、もう一つ訊いてもいいですか?」

 

 と、響は再び手をゆっくりとあげながら訊く。そんな響に弦十郎と了子は頷く。

 

「あの、さっきノイズに対抗できるのは『シンフォギア』だけって言ってましたけど、じゃあこの間と二年前のあの日にもいたあの赤黄緑の人は?あの人の力もシンフォギアなんですか?」

 

「それは……」

 

 響の問いに了子は言い淀み弦十郎に視線を向ける。了子の視線を受けた弦十郎は頷き

 

「君の言う人物については我々も多くは知らない。君も気付いていると思うが〝アレ〟は我々の組織の人間ではない」

 

「それは……はい」

 

 弦十郎の言葉に先日の翼のあの人物に対する態度を思い出しながら頷く響。

 

「正体も目的も性別すらも不明。まあ言動や立ち居振る舞いから恐らくは男であると思われるけど、私たちが彼について知っていることはかなり少ないわ。でも、彼の力が何なのかは知っているわ」

 

「彼の名は『オーズ』」

 

「オー…ズ……」

 

 弦十郎の言葉をオウムのように繰り返す響。

 

「二年前のあのライブの日、実は私たちはとある聖遺物の起動実験を行っていたわ。翼ちゃんと奏ちゃんの歌の力でその聖遺物を起動させようとしたのがあのライブの裏側。でもなぜか現れた大量のノイズと聖遺物自体の暴走によって実験は失敗。以降その聖遺物の所在も不明」

 

「そしてあの日、起動した聖遺物はそれだけじゃない。……いや意図せず起動してしまった、と言うべきか……」

 

「意図せず……?」

 

 了子の語る思わぬ真実と弦十郎の言葉に響は首を傾げる。

 

「ヨーロッパのとある場所で発見され、何かの封印のようにどんな手段をもってしても開けることの叶わなかった石の箱。偶然そこに運び込まれていてそれが、恐らく二人の歌の力を引き金に封印が弱まったために目覚め、そこから出て来たそれが『オーズ』の力の源だ」

 

「まあ出て来たのは『オーズ』だけじゃなかったんだけどね~」

 

「『オーズ』だけじゃなかったって……それって一体……?」

 

 響の問いに弦十郎は少し間を空け

 

「『オーズ』とともに目覚めたもの……それは――」

 

 言いかけた弦十郎の言葉は突如鳴り響いた警報に遮られた。

 

 

 ○

 

 

 

「ノイズの出現を感知!」

 

「本件を我々2課で預かることを1課に通達!」

 

 藤尭の言葉に弦十郎が指示を飛ばす。

 場所御移動した五人と途中合流した翼は広い指令室に来ていた。

 藤尭と友里の他に数名のオペレーターがそれぞれの仕事をし、正面には大きなディスプレイにあらゆる情報が飛び交っている。

 

「座標出ます!」

 

 友里の言葉とともに巨大なディスプレイに地図が表示され、ノイズの反応のある場所に赤いサークルが浮かぶ。

 

「っ!リディアンより距離200!」

 

「近い……!」

 

 地図を睨んで弦十郎が呟くように言う。

 

「迎え撃ちます!」

 

 そんな中翼は言って弦十郎の答えも聞かずに走り出す。

 

「……………」

 

 その様子に険しい顔で考え込んだ響は

 

「っ!」

 

 決意の決まった顔で走り出す。

 

「っ!」

 

「待つんだ!君はまだ――!」

 

 走る響の背中に弦十郎が呼び止めるが響は決意した表情で振り返る。

 

「私の力が誰かの助けになるんですよね!?シンフォギアの力でないとノイズと戦うことは出来ないんですよね!?だったら行きます!」

 

 そう叫んだ響は再び走り出す。

 そんな響を弦十郎は何も言えず見送る。

 

「危険を承知で誰かのためになんて……あの子、いい子ですね」

 

 響の背中を見送りながら藤尭が言う。が――

 

「果たしてそうなのだろうか?」

 

「え?」

 

 弦十郎は鋭い視線で響の出て行った扉を見つめる。

 

「翼のように幼いころから戦士としての鍛錬を積んできたわけではない。ついこの間まで日常の中に身を置いていた少女が、誰かの助けになるというだけで命をかけた戦いに赴けるということは、それは、歪なことではないだろうか……?」

 

「つまり……あの子もまた、私たちと同じ〝こっち側〟ということね……」

 

 

 

 ○

 

 

 警報とアナウンスの響く中、高速道路の上でノイズたちに向かって翼は剣を振るっていた。

 翼が剣を振るう度にノイズは炭へと変わっていく。

 そんな中残ったノイズたちが突如ドロドロと溶け、それが混ざり合い一つの大きなカエルのような姿になる。

 見上げるほどの大きな巨体に羽飾りのようなものがいくつもついたそれは大きく雄たけびを上げる。

 しかし、翼は焦った様子もなく刀状の剣を構え、巨大なノイズに向かって駆けだす。

 そんな翼に向かって巨大帰るノイズはその羽飾りを打ち出す。打ち出した羽飾りは回転しながら翼へと向かって飛んでいく。

が、翼は何でもない様子でそれを華麗に跳んで避ける。避けながら翼の脚部のブレードが変形する。

 飛んで行った羽飾りがブーメランのように戻って来るが翼はその両足のブレードですべてを炭へと変え、ノイズを飛び越え着地する。

 そんな翼へ巨大カエルノイズが雄たけびを上げる。

 

「っ!」

 

 その雄たけびに、翼はその手の剣を大剣のように変形させ――

 

「ホチョォォォォォォォ!!!」

 

 と、どこからともなく聞こえた叫び声とともに上空からシンフォギアを纏った響がノイズへ向かって飛んでくる。

 

「っ!?」

 

 その光景に翼は少し驚いた表情を浮かべる。

 翼の視線の先ではノイズに蹴りを食らわせる響の姿があった。

 

「翼さん!」

 

「っ!」

 

 響の叫びに翼は上空へと跳び上がる。

 空中で下へと落ちていく響と上へと跳躍する翼が交差する。

 その二人の表情は対照的で、響はやり遂げたという嬉しそうな笑顔、それに対して翼は納得がいかないような険しい表情を浮かべていた。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 大剣状にした剣を振りかぶった翼は気合の声とともに剣を振るう。

 剣から放たれたエネルギー――『蒼ノ一閃』はノイズを真っ二つにし、その下の道路も切り裂いた。

 真っ二つになったノイズは大爆発を起こす。

 もうもうと煙の上がる様を見つめる翼に

 

「翼さ~ん!」

 

 響は笑顔で駆け寄る。

 

「私、戦います!今は足手まといかもしれないけれど、一生懸命頑張ります!だから!私と一緒に戦ってください!」

 

「……………」

 

 そんな響を振り返った翼は無言で見つめる。

 その表情はどこ悲しげで、そのまま翼は何かを言おうと口を開きかけるが、その言葉をぐっと飲みこむように俯き、先ほどとはうって変わって冷徹な笑みを浮かべる。

 

「そうね……」

 

 そして、ゆっくりと一歩踏み出した翼は

 

「あなたと私、戦いましょうか」

 

「へ?」

 

 呆然とする響に向かって刀状にした剣を向ける。

 

「い、いえ、そう言う意味じゃありません。私は翼さんと力を合わせて――」

 

「わかっているわ、そんなこと」

 

 訂正しようとする響に翼は遮って言う。

 

「だ、だったらどうして……?」

 

「私があなたと戦いたいからよ」

 

「え……?」

 

 翼の答えに響はいまだ訳が分からず困惑した表情を浮かべる。

 

「私はあなたを受け入れられない。ここはあなたのいる場所じゃない。力を合わせてあなたと共に戦うことなど、風鳴翼が許せるはずがない」

 

 険しい表情で剣向ける翼。

 

「あなたも〝アームドギア〟を構えなさい。それは、常在戦場の意思の体現。あなたが何物をも貫き通す無双の一振り、『ガングニール』のシンフォギアを纏うのであれば、胸の覚悟を構えてみなさい」

 

「か、覚悟とかそんな……」

 

 翼の言葉に気圧されながら響は自身の手を胸に当てる。

 

「私……〝アームドギア〟なんてわかりません。わかってないのに構えろなんて、ぞんなの全然わかりません!」

 

 響の言葉に翼は少し考え、剣を下ろす。

 そのまま響の顔をキッと睨み

 

「覚悟を持たずに遊び半分でのこのこと戦場に立つあなたが……奏の何を受け継いでいるというの……!?」

 

「っ!」

 

 翼の言葉に言い返すことができない響は口籠る。

 

「奏の救ったその命、無駄に散らそうというのなら……今ここで私が引導を渡してくれる!」

 

 そのまま剣を振り被った翼。

 その様に響は驚く。が、同時にその翼の背後に現れた〝それ〟に気付き――

 

「危ない!」

 

「っ!」

 

 響の叫びと同時翼も気付き、咄嗟に横に飛ぶ。

 と、先ほどまで翼のいた場所に〝それ〟が拳を叩きつける。

 〝それ〟は異質な何か――人型の体、黄色い体毛に特徴的な黒い縞模様。頭には丸い耳にお尻には長いしっぽ、盛り上がった筋肉質の体。

 

「何……?トラ……?」

 

「ッ!『ヤミー』か!」

 

 困惑する響に対し翼は険しい顔でその乱入者を睨む。

 

「ヤミー……?」

 

 聞き慣れない言葉に響は首を傾げる。が、同時にそのヤミーと呼ばれた存在に既視感を覚える。

 

「……死ニタクナイ」

 

「え?」

 

 と、そのヤミーが呟く。その言葉に響は思い出す。

 その低く怨念の籠った声は二年前のあのライブ会場で遭遇したカマキリのような謎の存在と同じで……

 

「死ニタクナイィィィィ!!」

 

 叫んだそれは拳を振りかぶり響へ向けて振るう。

 

「わっ!?」

 

 慌てて響は転がるように避ける。

 さっきまで響のいた場所にヤミーの拳が叩きつけられコンクリートが砕ける。

 

「なっ!?」

 

 その威力に驚愕する響。が、ヤミーは驚異的な瞬発力で逃げた響へと飛びつく様に駆け

 

「っ!」

 

 響は恐怖で動けずに咄嗟に目を瞑り顔を背けながらしゃがみ込み――

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 そんな響を庇う様にヤミーとの間に飛び込んだ翼は剣を振るう。

 それを身を捻り後方へ避けたヤミーは標的を翼へと切り替えたようで身構える。

 

「翼さん……」

 

「前にも言ったでしょう!呆けない!死ぬわよ!」

 

「っ!は、はい!!」

 

 翼の言葉に響は立ち上がる。

 

「あ、あの……あの『ヤミー』ってやつは一体……?」

 

「話してる暇はない!集中しなさい!」

 

「は、はいぃっ!」

 

 問いに対して鋭い声で言われた響は慌てて身構える。

 

「死ニタクナイ……死ニタクナイ!オ前ガ死ネェ!!」

 

「「っ!」」

 

 再び叫び一歩踏み出したヤミーに二人は身構える。が――

 

「「「っ!?」」」

 

 どこからともなく聞こえてきたエンジン音にその音のした方向に視線を向ける。

 そこには道路の向こうから一台のバイクが走ってきていた。

 黒と黄色のボディーに前面に円形の飾りのついたそれ。それに跨る人物は

 

「っ!あれはっ!」

 

「オーズっ!」

 

 驚く響と翼の目の前で颯爽と現れたオーズはそのままヤミーへと突進し

 

「ガァッ!!」

 

 バイクでぶつかり弾き飛ばす。

 数メートル転がっていったヤミーを警戒したように見つめるオーズはそのままバイクを停めて降りる。

 

「オーズ!貴様!」

 

「ちょ、待って!いまはあのヤミーが先でしょ!」

 

 睨む翼にオーズは慌てて言う。

 

「お前の手を借りなくてもこのくらい!」

 

「そう言わないで。ヤミーが相手なら俺も黙って見てられないから」

 

 鋭い視線で叫ぶ翼にオーズは宥めるように言いながら

 

「それに――」

 

 オーズはヤミーへと向き直り構える。

 

「人間は助け合いでしょ」

 

 


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