戦姫絶唱シンフォギア~希望の歌姫と欲望の王~   作:大同爽

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戦姫絶唱シンフォギア~希望の歌姫と欲望の王~、前回までの3つの出来事

1つ!初の特異災害対策機動部二課としての戦いから一月、今だ噛み合わない響と翼に弦十郎も頭を悩ませていた。

2つ!そんなとき、響は二課へ出資するスポンサーである『鴻上ファウンデーション』へ出向き、その会長、鴻上光生と対面する。

そして3つ!鴻上によって語られたオーズの誕生とその成り立ち。それとともに鴻上によって申し出られた新たな支援を弦十郎は受け入れるのだった。



Count the Medals!
現在、オーズの使えるメダルは――





007~約束と属性と暗躍する影~

 ~~♪~~~♪

 

 パソコンに向かい、出された大量の課題を片付けていた響は鳴り響いたアラームにハッとしてすぐに携帯の画面を見る。

 そこにはスケジュールのメモが『二課で定例ミーティング17:30~』と表示されていた。

 

「あぁ……」

 

 その文字にがっくりと響はため息をつく。

 

「何?」

 

 そんな親友の様子に未来は首を傾げながら訊く。

 

「まさか、朝と夜を間違えてアラームセットしたとか?」

 

「いや……えっと……」

 

「こんな時間に用事?」

 

 苦笑いを浮かべて言い淀む響にジトッと見つめながら未来が訊く。

 

「あっははは……」

 

 そんな未来に図星の響は乾いた笑みを浮かべる。

 

「最近よく用事って言って出かけるし、この間はあの『日本三大何してるかわからない企業』なんて言われてる『鴻上ファウンデーション』からケーキが届くし……まあそれは美味しかったけど――それはともかく、いったい何してるの?」

 

「え、えぇっと……」

 

 ジトッとした視線のまま言う問いに答えられずアワアワとなる響の様子に未来はため息をつき

 

「夜間外出とか門限とかは私の方で何とかするけど……」

 

「うん、ごめんね……」

 

「こっちのほうは何とかしてよね」

 

 謝る響に未来は見ていたパソコンの画面を見せる。

 そこにはまるで雨の様にたくさんの流れ星が流れる幻想的な映像が映っていた。

 

「あ……」

 

「一緒に流れ星を見ようって約束したの、覚えてる?山みたいにレポート抱えてちゃ、それもできないでしょ?」

 

「う、うん!なんとかするから!だから、ごめん!」

 

 苦笑いを浮かべ謝りながら立ち上がる響を未来はふくれっ面で見る。そんな未来の視線を受け、あはは~と苦笑いを浮かべたまま響は外に出るために部屋着から制服へと着替えようと服に手を掛ける、が、頭が引っ掛かって上手く脱げない。

 

「ん?ん~?あれ?」

 

「……もう」

 

 その様子に呆れつつ立ち上がった未来は

 

「ほら、万歳して」

 

 響の服に手をかけ、引っかかっているところを直しながら着替えを手伝う。

 

「……私このままじゃダメだなぁ~」

 

「ん?」

 

 と、未来に手伝ってもらいその顔を脱ぎかけの服に埋もれさせながら響は呟くように言う。その言葉に未来は意味が分からずキョトンとした表情を浮かべる。

 

「しっかりしないといけないよね……今よりも、ずっときっともっと」

 

「………………」

 

 そんな親友の言葉に何を指しているのかわからないが、しかし、その声色に確かな力強い何かを感じ、未来はその言葉の意味を追求せず黙って響を見送るのだった。

 

 

 ○

 

 

 

「遅くなりました!すみません!」

 

 二課の秘密施設、その作戦指令室に入った響は開口一番に謝罪の言葉を叫ぶ。そんな響を弦十郎と了子は笑顔で迎え、翼は顔も上げずに黙って聞き流している。

 

「では、全員揃ったところで仲良しミーティングを始めましょう♪」

 

 笑顔でそう言った了子の言葉に響はちらりと隣の翼へ視線を向ける。しかし、翼は素知らぬ顔で紙コップに入れた飲み物を飲んでいる。

 

「まずはコレを見てくれる?」

 

 そんな響達の様子を知ってか知らずか、了子は手元の端末を操作し、正面の大きなモニターに画像を映し出す。それは二課の秘密施設、ひいては地上のリディアン音楽院を中心にした周辺の地図だった。

 了子がもう一度端末を操作するとその地図上に赤いサークルがいくつも現れ赤く点滅する。

 

「どう思う?」

 

 弦十郎はそれを見て響に視線を向けながら訊く。

 

「………いっぱいですね」

 

 響は少し考える様なそぶりを見せ、少し困ったような笑みと一緒に感じたそのままを答える。

 

「フッ!ハハハッ!まったくその通りだ!」

 

 そんな響の答えに弦十郎は朗らかに笑い、翼は人知れず眉を顰める。

 

「これは、ここ一か月のノイズの発生地点だ」

 

 すぐに真剣な表情に戻った弦十郎は画面を見ながら言う。

 

「ノイズについて響君が知ってることは?」

 

「テレビのニュースや学校で教えてもらった程度ですが……」

 

 言いながらえっと、と記憶を掘り起こすように少し考える響。

 

「まず無感情で機械的に人間を襲うこと。そして、襲われた人間が炭化してしまうこと。時と場所を選ばずに突然現れて周囲に被害を及ぼす特異災害として認定されていること」

 

「意外と詳しいな」

 

「今纏めているレポートの題材なんです」

 

 感心した様子に言う弦十郎の言葉に響は照れながら答える。

 

「そうね。ノイズの発生が国連での議題に上がったのは13年前だけど、観測そのものはもぉ~っと前からあったわ。それこそ、世界中に太古の昔から」

 

「世界の各地に残る神話や伝承に登場する数々の異形はノイズ由来のものが多いだろうな」

 

 響の解説に頷きながら了子が言い、弦十郎も補足するように言う。

 

「ノイズの発生率はけっして高くないの。この発生件数は誰の目から見ても明らかに異常事態。だとすると……そこに何らかの作意が働いている、と考えるべきでしょうね」

 

「作意……ってことは誰かの手によるものだというんですか?」

 

「中心点はここ、私立リディアン音楽院高等科、我々の真上です」

 

 響の驚きながら訊く言葉に答える様に翼が口を開く。

 

「サクリストD――『デュランダル』を狙って、何らかの意思がこの地に向けられている証左となります」

 

「あの……デュランダルって、いったい?」

 

 翼の言葉を聞きながら、新たに出た自身の知らない単語に響は訊く。

 

「ここよりもさらに下層、『アビス』と呼ばれる最深部に保管され、日本政府の管理課にて我々が研究しているほぼ完全状態の聖遺物、それが『デュランダル』よ」

 

「翼さんの『天羽々斬』や響ちゃんの胸の『ガングニール』のような欠片は奏者が歌ってシンフォギアとして再構築しないとその力を発揮できないけれど、完全状態の聖遺物は一度起動した後は100%の力を常時発揮し、さらには、奏者以外も使用できるであろうと研究の結果が出ているんだ」

 

 響の問いに友里と藤尭が答える。

 

「それが~、私の提唱した『櫻井理論』!」

 

 と、そんな二人の解説を聞きながら了子がドヤ顔で響へと振り向く。

 

「……だけど、完全聖遺物の起動には相応のフォニックゲイン値が必要なのよね~」

 

「……ん~……ん~……ん~?」

 

 三人の解説を受けてなお響は首を傾げる。

 

「あれから二年」

 

 そんな響を見ながら弦十郎は立ち上がりながら口を開く。

 

「今の翼の歌であれば、あるいは……」

 

 そんな弦十郎の言葉に翼は険しい表情でしかし何も言わずに黙って紙コップに口を付ける。

 

「そもそも、起動実験に必要な日本政府からの許可って下りるんですか?」

 

 そんな中友里が疑問の声を上げる。

 

「いや、それ以前の話だよ」

 

 そんな疑問に藤尭が答える。

 

「安保を盾にアメリカが再三の『デュランダル』引き渡しを要求してきてるらしいじゃないか。起動実験どころか、扱いに関しては慎重にならざるを得まい。下手うてば国際問題だ」

 

「まさかこの件、米国政府が糸を引いてる、なんてことは……」

 

 藤尭の言葉に友里がふと呟く様に言う。

 

「調査部からの報告によると、ここ数か月の間に数万回に及ぶ本部コンピュータへのハッキングを試みた痕跡が見止められているそうだ。流石にアクセスの出所は不明。それらを短絡的に米国政府の仕業とは断定できないが、もちろん痕跡はたどらせている。本来こういうのこそ、俺たちの本領だからな」

 

 少し困ったように言う弦十郎の言葉を聞きながら響はふと気付いたように口を開く。

 

「もし、誰かがここを狙ってノイズをけしかけているとして、その誰かがグリードと繋がっている…なんてことは……ないですよね?あはははは~……」

 

「ほう?」

 

 言いながら響は自分の言葉をあり得ないと苦笑いを浮かべる。しかし、それに対して弦十郎は目を細め興味深そうに訊く。

 

「どうしてそう思ったんだい?」

 

「いや~……その……」

 

 弦十郎に促され響は自信のない自分の考えを上手く言葉にしようと考え

 

「この間、鴻上会長さんに聞いた話でヤミーがよくノイズ出現現場に現れるって。でも出現場所もタイミングもわからない現場にそんなタイミングよくグリードが現れるのかなって思って……」

 

「なるほど……」

 

「ごめんなさい、見当違いですよね?」

 

「響君……」

 

「すみません、変なこと言って。忘れてください」

 

 響は苦笑いのまま言う。が――

 

「すごいな。鋭い着眼点だ」

 

「………へ?」

 

 感心した様子の弦十郎に響は困惑する。

 

「君の言う通りだ。俺たちもその可能性を考えた」

 

 言いながら弦十郎はディスプレイを見る様に促す。ディスプレイにはピンボケして鮮明には見ることのできない四つの画像が表示される。鮮明には見えないがその画像にはそれぞれ異形な何かが映っている。

 

「この四体が現在我々が確認しているグリードたちだ」

 

「これが……」

 

 ピンボケしてよく見えない四枚の画像を見つめる響。

 

「こいつらは二年前のあのライブ会場で翼が初めて確認した、それ以来こいつらの姿は各所で確認できた。残念ながら写真や映像で記録できた中では一番鮮明なのがこれだがな」

 

「一番多く確認できた場はオーズのそば。800年前と同じく彼らは対立しているのは変わりないようね」

 

 弦十郎の言葉を引き継いで了子が説明を続ける。

 

「このグリードたちはそれぞれ猫系、昆虫系、水棲系、重量系。生み出されるヤミーもそれに準じた属性のものが確認されているわ」

 

「属性?」

 

 了子の言葉に響は首を傾げる。

 

「……一月前に私と君の前に現れたトラヤミーが猫系、二年前のライブ会場に現れたのがカマキリヤミーで昆虫系だ」

 

「あ、あぁ……なるほど……」

 

 翼の言葉に響は納得したように頷く。

 

「今翼が言ったようにヤミーにはそれぞれのグリードに準じた姿をしている。そして、ヤミーはここ最近日本各地に加え、時には世界で確認されている。最近この付近でよく活動しているのは比較的に猫系が多く見られるな」

 

 弦十郎は翼の言葉に頷きながら言う。

 

「オーズの使うメダルもグリードのコアメダルなため、オーズもそれぞれの属性に準じた力を使う」

 

「なるほど……」

 

 弦十郎の言葉に頷き、そこでん?と記憶を呼び起こすように首を傾げ

 

「あの……オーズの力の属性って胸のマークのあれですよな?」

 

「そうだな」

 

「私が前に会ったオーズの胸には上からタカ・トラ・バッタだったと思うんですけど、トラは猫系、バッタは昆虫系の力だったとして、じゃあ――タカは何系になるんですか?」

 

「…………」

 

 弦十郎は頷き

 

「オーズの使う力、あのタカの力だが、あれは――鳥系になる」

 

「鳥系?でもさっきの四つの中に鳥系はいませんでしたけど……」

 

「ああ」

 

 響の言葉に弦十郎は頷く。

 

「我々が確認しているグリードは先に述べた四体のみ。鳥系のグリードもヤミーも二年前の復活から今日まで確認されていない」

 

「鴻上会長からもたらされてる情報によれば、800年前に生まれたグリードの中に私たちの確認した四体のグリードの他にもう一体、鳥系のグリードがいたと言う情報は残っている。他の四体同様に封印もされているわ」

 

「それじゃあ、どうして……?」

 

「考えられる可能性は三つ」

 

 響の疑問に了子が頷きながら右手の人差し指を立てる。

 

「一つは何らかの理由で封印が解かれていない」

 

「そうなると何故他四体と違って鳥系のグリードだけ復活しなかったかという疑問が出てくる」

 

「そして二つ目の可能性、復活はしたけど復活直後にオーズによって打倒された」

 

「だが、これまでにオーズとグリードの戦いは何度となく確認された。そのどれもがオーズは苦戦しているようだった。ヤミーとは比較にならないほどの力を持つグリードを果たして倒すことができるのか」

 

「そして三つ目の可能性だけど……」

 

 言いながら了子は三本目の指を立て

 

「――復活はしているが、何らかの理由で姿を隠している」

 

 了子の言葉を引き継いで翼が言う。

 

「もし仮にそうなのだとしたら、鳥系のグリードの目的はなんなのか?何を思って姿を隠すのか?」

 

 弦十郎は翼の言葉に頷きながら言う。

 

「……とまあ、どの可能性にも疑問は尽きない。結論としては、鳥系グリードもオーズがその力を使える理由も、我々はわかっていないということだ」

 

「はぁ…なるほど……」

 

 弦十郎の言葉に響は頷く。と――

 

「風鳴司令」

 

「おっと、そうか。そろそろか」

 

 少し離れたっところで控えるように立っていたスーツの男――緒川慎次が歩み寄りながら声をかける。

 

「今晩はこれからアルバムの打ち合わせが入っています」

 

「へ?」

 

 翼を見ながら言う緒川の言葉に響は首を傾げる。

 

「表の顔では、アーティスト風鳴翼のマネージャーをやってます」

 

 黒縁の眼鏡を掛けながら言った緒川は懐から名刺を取り出し響へとにこやかに差し出す。そこには『小滝興産 株式会社 興行部 マネージメント課 マネージャー 緒川慎次』の文字が。

 

「ふおぉ~!名刺貰うなんて初めてです!これはまた結構なモノをどうも!」

 

 これまでの人生で起こることの無かった『名刺をもらう』という出来事に興奮した様子で響は嬉しそうにその名刺を受け取って名刺と緒川の顔を交互に見る。

 そんな響に見向きもせずに歩き出した翼。そんな翼とともに響達へ会釈した緒川は指令室を後にするのだった。

 

「私たちを取り囲む脅威はノイズやグリードだけじゃないんですね」

 

「うむ……」

 

 そんな二人を見送りながら弦十郎へ響はしみじみと言い、それに弦十郎も頷く。

 

「どこかの誰かがここを狙っているだなんて、あんまり考えたくありません」

 

「大丈夫よ」

 

 心配そうな響とは対照的に了子はにこやかに言う。

 

「なんてったってここは、テレビや雑誌で有名な天才考古学者、櫻井了子が設計した人類守護の砦よ?先端にして異端のテクノロジーが悪い奴らなんか寄せ付けないんだから♪」

 

「よろしくお願いします」

 

 そんな自信満々な了子の様子に響も少し安心したように頷き、了子も満面の笑みで頷くのだった。

 

「でも……」

 

 それでも不安が消えない様子で俯きながら響は呟く様に疑問を口にする。

 

「どうして私たちはノイズだけでなく、人間同士でも争っちゃうんだろう」

 

『……………』

 

「どうして世界から争いが無くならないんでしょうね?」

 

 響の、純真な、悪く言えば青臭い疑問にその場の全員が押し黙る。

 

「それはきっと……」

 

 そんな中、すっと響のそばにより、響の耳元に唇を寄せた了子は

 

「人類が呪われているからじゃないかしら?」

 

 そう言ってハムッと響の耳を唇で甘噛みする。

 

「ひぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 耳に感じた感覚に思わず飛び退きながら甲高い悲鳴を上げる響を見ながら了子は楽しそうに笑う。

 

「あぁら、オボコいわね~♡誰かのモノになる前に私のモノにしちゃいたいかも♡」

 

 そう言ってペロッと舌なめずりをしながら妖艶な笑みを浮かべる了子に響は羞恥で頬を染め、友里と藤尭は苦笑いを浮かべ

 

「了子君……」

 

「あぁら、ごめんなさぁい。冗談よ♪」

 

 ため息をつきながらやれやれと言った様子で頭を抱える弦十郎の様子に了子は元の人懐っこい笑みに戻って笑うのだった。

 

 

 ○

 

 

 

「えっと…これと、これと……」

 

 某所のコンビニにて、一人の男が両手に買い物籠を抱え、陳列された商品を見ながらあれこれとその籠に入れていく。

 その二つの籠にはおにぎりやお弁当などの食料品がいっぱいに入っている。

 よく言えばふくよか、悪く言えば肥満と言える体系のその男はいっぱいになった二つの買い物かごを抱えてレジへと向かう。

 

「いらっしゃいませ~、失礼しま~す」

 

 男がレジへと運んだ籠を受け取った店員は一つ一つバーコードを読み込んでいく。

 その様子を楽し気に見ながら視線をレジ横のホットスナックの棚に向け

 

「これも、二つで♪」

 

 と、満面の笑みでフライドチキンを指さしながら店員へと言う。

 男の注文を聞き、フライドチキンを二つ包み、他の商品と一緒にレジ袋に詰めていく。その数は全部で四つ、それら袋のどれもがパンパンになっていた。

 そのまま会計を済ませた男はルンルン気分で足取り軽く歩き、近くの公園へとやって来た。

 

「よし」

 

 その公園の噴水の前のベンチに座った男は袋からハンバーグ弁当を取り出し

 

「いただきま~す!」

 

 嬉しそうに手を合わせて言い、弁当を開けて食べ始める。

 

「ん~!うまい!」

 

 男は嬉しそうに笑いながら食べ進める。ハンバーグ弁当を食べ終えると次は唐揚げ弁当、その次はおにぎり、フライドチキン、と、どんどん袋に手を伸ばし、うまいうまいと食べ進める男の周りには食べ終えた食料品の空の容器が山と積まれていく。

 

「ん~!最高~!ハハッ!」

 

 男は新たに取り出した生姜焼き弁当に箸を伸ばしながら満面の笑みで言いながらさらに箸を進める。と――

 

 チャリン

 

 どこからか、まるで金属同士をこすり合わせたような音が聞こえた。それは丁度、コインとコインがぶつかり合うような甲高い音で

 

「へぇ~、美味しそうだね」

 

「ん?」

 

 太った男が顔を上げると、目の前に知らない男が立っていた。

 それは若い男で、太った男とは対照的にすらりとした優男と言った雰囲気。黄色と黒のチェックのジャケットにダボっとしたジーンズ、アッシュブロンドの髪と黒のメッシュのキャップを被っていた。

 

「なんだよ、悪いか?」

 

「悪くないさ。ただいい食べっぷりだと思ってね」

 

 突然見知らぬ優男に声を掛けられた太った男は訝しげな顔で言うが、優男はニヤニヤと肩を竦めながら答える。

 

「ほっといてくれ。俺の楽しみの邪魔をするんじゃないよ」

 

「まあまあ、そう言わず、褒めてるんだよ?」

 

 不機嫌そうに言う男に向かって優男はニヤニヤと笑ったまま言う。

 

「本当にいい食べっぷりだ。欲望に塗れた、ね?」

 

「はぁ?」

 

「フフッ」

 

 優男の言葉に怪訝そうな表情を浮かべた男。

 しかし、優男はその疑問の表情の男には答えず、ニヤリと楽しげに笑う。と、男の目の前で優男の体に変化が現れる。

 まるで大量のコインが覆うように銀色の小さな光が包み、男の目の前にいた優男の姿は一瞬にして変わる。

 それはまるでライオンのようなネコ科の動物を思わせる顔に、長いドレッドヘアー状に編みこまれた髪、鋭い爪を備えた両腕にトラの様な縞模様のボディを黒いパンクパッションで包んだ容姿。地肌を出しているような茶色い装飾の無い下半身に腰には黒一色のベルトのようなものを付けている。

 

「あぁ!?ああぁ!!」

 

 突如自分の目の前で起こった事に理解が追い付かず、ただただ目の前の異形の怪物に恐怖する。怪物はそんな男を見下ろしながらゆっくりと右手を伸ばす。その手には月明かりに輝く一枚の銀色のメダルが握られている。

 

「その欲望、解放しろ」

 

 そう言ってそのメダルを近づける怪物の言葉と同時に太った男の額にまるで自販機の小銭を投入するような投入口が現れる。

 

「ふんっ」

 

 怪物はそこに何の躊躇もなくその手のメダルを投げ込む。

 

「あぁぁぁぁ!!あぁ!!あぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 投げ入れられた男がガクガクと震えながら絶叫し始める。

 と、男の体からまるで包帯のような薄汚れた帯状のモノが溢れ出し男を包んでいく。

 そんな男に背中を向け大きく伸びをしながら怪物は両手を頭の後ろで組む。

 怪物の背後で体の節々を包帯のような何かで包まれた男が立ちあがり舌なめずりをする。ドロドロとした何かどす黒い物が渦巻いたその眼が怪しく光るのだった。

 

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