戦姫絶唱シンフォギア~希望の歌姫と欲望の王~   作:大同爽

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戦姫絶唱シンフォギア~希望の歌姫と欲望の王~、前回までの3つの出来事

1つ!風鳴翼に認められず、戦力になりえていない自分の不甲斐なさに焦りを感じる立花響は友との約束を胸に決意を新たにする。

2つ!二課の施設の最下層に保管された『デュランダル』、それに絡む様々な思惑を知り、響はここ最近のノイズ被害が人為的に引き起こされている可能性があることを知る、

そして3つ!オーズの力について聞いた響は、いまだ確認されていない第五のグリード、鳥のグリードの存在を知る。



Count the Medals!
現在、オーズの使えるメダルは――



008~流星と鎧と協力者~

「――ごめん……急な用事が入っちゃった。今晩の流れ星、一緒に見られないかも……」

 

 少女――立花響は電話口の親友へと言う。その声には何か強い感情を押し殺して、努めて普段通りの『立花響』で話そうとしている様子がうかがえた。

 電話の向こう側の親友――小日向未来はそんな響の様子の違いと楽しみにしていた約束とを思い、それ等を噛みしめ飲み込むように深呼吸し

 

『……また、大事な用なの?』

 

「うん……」

 

『わかった………なら仕方ないよ。部屋の鍵開けておくから、あまり遅くならないで』

 

「ありがとう……ごめんね」

 

 そのまま電話を切り、数秒ほど手の中の携帯を見つめる響。

 そのままキッと背後の地下鉄への入り口へと続く階段を睨みつける。そこには何十体と言うノイズがひしめいていた。

 

「――Balwisyall nescell gungnir tron」

 

 響が力の籠った歌を口ずさんだ途端、彼女の体を光が包み機械的な鎧を身に纏う。

 そのまま構えた響は力強い歌を叫びながら駆け出し、階下へと跳びながらノイズを殴り、蹴り、向かってくるノイズを蹴散らす。響の攻撃を受けたノイズたちは次から次へと炭へと変わっていく。

 

『中に一回り大きな反応が見られる。まもなく翼も到着するから、それまで持ちこたえるんだ。くれぐれも無茶はするな』

 

「わかってます!」

 

 通信機の向こうから聞こえる弦十郎の言葉に大きく頷きながら答えた響は駅の中に駆け込みさらに待ち構えていたノイズたちを蹴散らす。と、響の正面に他のノイズとは異質な一体がいた。

 それはまるで体にブドウの実の様にたくさんのサッカーボール大のモノをくっつけたノイズだった。

 その異様な立ち姿から響はそいつが先ほど弦十郎の言っていた個体だろうとあたりを付ける。

 

「私は!私にできることをするだけです!」

 

 そう叫ぶと同時に響は改札を飛び越え群がるノイズを蹴散らしブドウノイズへと一直線に向かって行く。

 そんな響にブドウノイズは自身の身体のそれを飛ばす。と、それが地面を跳ねて爆発する。

 

「っ!」

 

 爆発で落ちて来たがれきの下敷きになる響。そのままブドウノイズは一目散に逃げていく。

 

「……見たかった」

 

 と、瓦礫の下から声がする。途端に瓦礫が爆ぜるように飛び、舞い上がる土煙から響が飛び出す。

 

「流れ星見たかったぁぁぁぁ!!」

 

 そのまま周りを取り囲んでいたノイズを蹴散らす。

 

「未来と一緒に!見たかったぁぁぁぁ!!」

 

 その様子はまるで親友との果たせなかった約束の、その言いようのない感情をぶつけるような荒々しい様子だった。

 

「うおあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 雄叫びを上げブドウノイズを追う響。

 ブドウノイズは先ほど飛ばした実を再生させていたが響が近づいてくるのを感じ再び駆け出す。

 そんなノイズを追う響は

 

「あんたたちが……」

 

 俯き握りこんだ拳を壁に叩きつける。と、その壁がひび割れ粉砕される。

 

「誰かの約束を犯し!」

 

 逃げるノイズはそんな響に向けて身体の実を落として行く。その実の一つひとつがノイズへと姿を変える。

 

「嘘のない言葉を……争いのない世界を……なんでもない日常を……!」

 

 響がつぶやく。と、そんな響にノイズが飛びかかる。それを響は払いのける様に叩き炭へと変える。

 

「剥奪すると!言うのなら!!」

 

 そこからは戦いではなく、ただの破壊だった。

 怒りに満ちたその瞳でノイズへと向かって行き、殴り、蹴り砕き、引き裂き、馬乗りになって引き千切り、踏み付け、まるで獣の様に暴れまわる響。

 そんな響に追撃として飛んでくるブドウノイズの実が爆発する。

 咄嗟に顔の前で腕を交差して防いだ響は、その爆発のおかげか幾分か落ち着きを取り戻したようで

 

「っ!待ちなさい!」

 

 逃げるノイズを追いかけて線路へと飛び込む。

 が、ブドウノイズは今度は天井へと実を投げつける。その爆発で振ってきた瓦礫に響が怯んだすきにブドウノイズは地上へと空いた穴から逃げていく。

 それを悔し気に睨んだ響だったが――

 

「流れ…星……?」

 

 夜空に流れる一筋の光が目に留まる。

 その光は流れ落ちながら青い光を放ち、斬撃を放つ。

 その斬撃は逃げていたノイズを一太刀のうちに切り裂き炭へと変え、直後に爆発する。

 地上へと出た響が都内の自然公園の真ん中のそこで見上げる先で夜空から先ほどの斬撃を放った流れ星――翼が降り立つ。

 翼の元へ駆け寄った響は

 

「……………」

 

 少しの逡巡の後

 

「私だって、守りたいものがあるんです!」

 

 その胸のうちの思いを言葉にする。

 

「だから!」

 

「……………」

 

 しかし、そんな響には一切視線を向けない翼。その顔はまるで一切の興味もない、無感情な表情。そのまま翼はその手の大剣状にしたアームドギアを構える。

 

「っ!」

 

 自分へ一切視線を向けぬまま、しかし、痛いほど感じる翼の拒絶に響はたじろぎ息を飲む。

 そのままどちらも言葉を発さぬまま冷ややかな雰囲気がその場を満たす。

 それを一変させたのは

 

「だからぁ?で、どうすんだよぉ!?」

 

 茶化すように響き渡った第三者の声だった。

 

「っ!?」

 

「へ?は?」

 

 緊張の面持ちで声の聞こえた方へ視線を向ける翼と、突然のことに呆けた表情で同じく声の方に視線を向ける響。

 二人の視線の先、並び立つ木々の中からその人物は現れた。

 

「っ!」

 

 月明かりによって照らされたその人物の姿に翼は息を飲む。

 その人物は恐らく女性。身長や先ほどの声の様子から、少女と言うべき年齢だろうその人物はその身に白銀の鎧を身に纏い、肩から伸びるピンクの刺々しい装飾、顔はバイザーで隠れていてわからない。

 

「『ネフシュタンの…鎧』……!?」

 

「へぇ?てことはアンタ、この鎧の出自を知ってんだ?」

 

 翼の言葉に鎧の少女は感心したように言う。

 

「忘れるものか……」

 

 そんな少女へ翼は冷たく口を開く。

 

「二年前、私の不始末で奪われたものを忘れるものか。なにより!私の不手際で奪われた命を忘れるものか!」

 

 翼は剣を構える。

 鎧の少女もそれに応戦するように口元に笑みを浮かべながら身構える。その右手には変わった形の杖のようなものが握られている。

 数秒睨み合う二人、そんな中――

 

「やめてください翼さん!」

 

 翼にしがみ付き止めに入る響。

 

「相手は同じ人間です!」

 

「「戦場で何を馬鹿なことを!!」」

 

 そんな響の言葉に翼と鎧の少女が同時に叫ぶ。そして同時に声の揃ったことに驚き顔を見合わせ、互いにフッと笑みを浮かべる。

 

「むしろ、あなたと気が合いそうね」

 

「だったら仲良くじゃれ合う――かい!?」

 

 翼の言葉に鎧の少女が答えながら肩の装飾から伸びるピンクのそれを鞭のように振るう。

 

「っ!」

 

 響を突き飛ばしながらその攻撃を避けた翼はそのまま鎧の少女へと『蒼ノ一閃』を放つ。しかしその攻撃を少女は鞭の一振りで弾く。弾かれた斬撃は離れたところで爆ぜる。

 そのことに一瞬驚きの顔をしたものの、そのまま翼は少女へと切りかかる。しかし、その度の攻撃も少女は難なく避け、鞭で受け止める。余裕の少女に対し、翼の表情は困惑と焦りが見え始める。と――

 

「がっ!?」

 

 守り続けていた少女が突如蹴りを放ち、それをお腹に受けた翼は大きく弾かれる。

 聖遺物の一部のみで戦う自分と完全聖遺物での少女との力の差に歯噛みする翼。

 

「『ネフシュタン』の力だと思わないでくれよなぁ?あたしの天辺はまだまだこんなもんじゃねぇぞぉ!」

 

 なんとか踏ん張った翼だったが攻撃に転じた少女の振るう自在に伸びる鞭の攻撃に翻弄され、逃げるばかりだ。

 

「翼さん!」

 

 翼の劣勢に響は叫ぶ。

 彼女の視線の先に余裕の笑みを浮かべる少女は

 

「お呼びではねぇんだよ!こいつらの相手でもしてな!」

 

 と、持っていた杖から光を弾丸のよう放つ。その光が地面に着弾すると同時にその光の中から四体のノイズが姿を現す。

 

「っ!?ノイズが、操られてる!?」

 

 困惑する響の目の前で鳥のような嘴を持った見上げるような体長のそのノイズたちは体のわりに短い脚を動かし響を追う。

 と、その嘴から響に向けて粘性の液体をぶちまける。

 

「うわぁ!?わぁっ!?そんな!?嘘!?」

 

 身動き取れず顔を顰める響。響へと歩み寄ろうとした少女だったが

 

「その子にかまけて私を忘れたか!?」

 

 少女へと冗談からの一太刀を浴びせる翼。それを少女はなんなく受け止める。が――

 

「っ!」

 

 上に気を取られた少女は翼の足払いに体勢を崩される。

 そのまま放たれた斬撃を寸でのところで躱した少女。そんな少女に翼は回し蹴りを放つ。が――

 

「お高くとまってんな!」

 

 その蹴りを腕で受け止め、そのまま翼を地面に叩きつけ投げる少女。

 地面を転げた翼を少女が足で踏み付ける。翼の顔を踏み付けながら少女は口元に笑みを浮かべる。

 

「のぼせあがるな人気者!誰も彼もがお前に構ってくれるなどと思ってんじゃねぇ!」

 

「くっ!」

 

「この場の主役と勘違いしてるなら教えてやる。狙いははっなからこいつを掻っ攫うことだ」

 

 少女はニヤニヤと笑いながら響を指さして言う。

 

「え……?」

 

 突然のことに意味が分からず困惑する響。

 

「鎧も仲間も、あんたには過ぎてんじゃねぇのか!?」

 

「繰り返すものかと、私は誓った!」

 

 少女の言葉に踏まれながらなお強い視線で睨みつけた翼は剣を天へ掲げる。と、それに呼応するように雨のごとく剣が降り注ぐ。

 それらの剣――『千ノ落涙』を飛び退いて避けた少女に翼は再び切りかかる。が、少女は難なくそれらの攻撃を受け流し逆に翼を追い詰めていく。

 鎧の力に振るわれているのではなく、純粋にその力をものにしている少女の能力に翼が内心で歯噛みする。

 

「ここでふんわり考え事たぁどしがてぇ!?」

 

 少女の振るう鞭を寸でのところで避けて距離を取る翼。そんな翼に少女は杖から先ほどと同じく光弾を放つ。

 それらの光からノイズが溢れ出し翼を襲う。それらのノイズを蹴散らしそのまま少女へ攻撃を放つが少女はやはり余裕で受け流す。

 

「っ!」

 

 翼は小型のナイフ状の小刀を投げつけるが

 

「ちょっせぇ!」

 

 それを弾き上空へと跳び上がった少女は振るった鞭の先に輝く光弾を発生させる。人の丈ほどの球状のその攻撃を翼は剣で受け止める。が――

 

「ぐっ!?」

 

 受けきれず大爆発を起こす。

 爆発に弾かれ地面に倒れ伏す翼を見下ろし笑みを浮かべる。

 

「フンッ!まるで出来損ない!」

 

「……確かに、私は出来損ないだ……」

 

「あぁ?」

 

 少女の嘲るような言葉に翼は呟く様に言う。

 

「この身を一振りの剣と鍛えてきたはずなのに……あの日、無様に生き残ってしまった……!出来損ないの剣として、恥を曝して来た……!だが、それも今日までのこと!」

 

 言いながら翼は剣を杖の様にして体を支えながらフラフラと立ち上がる。

 

「奪われた『ネフシュタン』を回収することでこの身の汚名を晴らさせてもらう!」

 

「……そぉかい。脱がせるものなら脱がして――何っ!?」

 

 これまで余裕の表情を浮かべていた少女の顔に初めて困惑が浮かんだ。

 少女が慌てて振り返ると自身の陰に先ほど弾いた小刀の一本が突き刺さっていた。

 それのせいか、少女は上手く身動きが取れない。

 

「くっ!こんなものであたしの動きを――ッ!まさか…おまえっ!?」

 

 翼へ向き直る少女だったが、翼の顔を見てある可能性に気付く。

 

「月が覗いているうちに、決着を付けましょう……」

 

「歌うのか?絶唱を!?」

 

 翼の言葉に少女の顔に焦りの色が浮かぶ。

 

「翼さん!」

 

「防人の生き様!覚悟を見せてあげる!」

 

 言いながら響へ翼は剣を向ける。

 

「あなたの胸に焼き付けなさい!」

 

「やらせるかよ!好きに!勝手に!」

 

 なんとか抜け出そうともがく少女だったが、そんな彼女を尻目に翼はその剣を天へ掲げ、大きく息を吸いこみ――

 

「まったく、遊びがすぎたんじゃない?」

 

「っ!?――がぁっ!?」

 

 突如聞こえた声と同時に翼は背中から受けた攻撃で弾かれる。

 地面に転がり地に伏せながら顔を上げると、翼の視界に、先ほど自分のいた場所に立つ一体の異形が目に入る。

 それはブヨブヨと脂肪を蓄えた青色と黄色の体毛の大きな猫のような姿をした巨漢のヤミーだった。

 

「てめぇ!来るのがおせぇんだよ!」

 

 そんな猫ヤミーに鎧の少女が叫ぶ。と――

 

「あれ?てっきり君は僕らの助けなんていらないんだと思ってたけど?」

 

 猫ヤミーの背後からゆっくりとそれは姿を現した。

 それはまるでライオンのようなネコ科の動物を思わせる顔に、長いドレッドヘアー状に編みこまれた髪、鋭い爪を備えた両腕にトラの様な縞模様のボディを黒いパンクパッションで包んだ容姿。地肌を出しているような茶色い装飾の無い下半身に腰には黒一色のベルトのようなものを付けている。

 猫ヤミーの背後から現れたそいつは猫ヤミーにもたれる様に立つ。

 

「チッ!相変わらずいけすかねぇ言い方仕上がって――カザリ!!」

 

「まあまあ、そう言わないで仲良くやろうよ。一応は協力してるんだからさ」

 

 舌打ちしながら言う少女にカザリと呼ばれた異形は肩を竦めながら近づき、その陰に突き刺さっていた小刀を抜く。

 

「っ!」

 

 自由に動けるようになった少女を尻目にそれをジロジロと見た後カザリは興味を失ったようにポイッと投げ捨てる。

 

「あ、あれは、あの写真の……!」

 

 そんなカザリの姿に響は驚きの表情を浮かべる。その姿はピンボケではあったものの数日前のミーティングで見たグリードの一体に他ならなかった。

 

「グリードと協力関係だと……」

 

 翼も驚きの表情で見ている。

 

「で?テメェ遅れたってことはそれだけちゃんと仕事してきたんだろうな?」

 

「もちろん。そろそろ来る頃だと思うけど――っと、来たみたいだね」

 

「来たって……?」

 

「――っ!」

 

 少女とカザリの言葉の意味が分からず困惑する響。しかし翼は何かを感じて視線を向ける。

 翼の視線の向けた先、並び立つ木々の間を縫うように何かが高速で駆けてくる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 走ってやって来るそれは叫び声を上げながらやって来て

 

「セイッ!」

 

 猫ヤミーに蹴りを食らわせくるりと空中で宙返りをして降り立つ。

 突然乱入してきたその人物

 

「お、オーズさん!」

 

 響がその名を呼ぶ。

 その人物は確かにオーズだった。しかし、その姿は響の知っているものと微妙に違った。

 頭は顔部分にタカが翼を広げたような意匠、腕に畳まれたトラのような鋭い爪を持っているのは今まで通り、しかし、その足だけは違った。これまで見たどのときもオーズは緑色のバッタのような模様の足だった。しかし、今のそれは黄色い、まるでチーターのような丸い模様が浮かんでいた。

 

「来た来た。待ってたよオーズ」

 

「カザリ!?なんで――!?」

 

「決まってるだろう?僕のメダルを取り戻すためさ!」

 

 思わぬ人物の存在に驚くオーズにカザリはその鋭利な爪を向けて振るう。

 

「っ!」

 

「逃がさないよ!」

 

 攻撃を避けるオーズだったがさらにカザリは追撃を加える。

 

「くっ……グリードとヤミーに加え、オーズまで……!」

 

 そんな中、翼は猫ヤミーから受けたダメージの残る身体に鞭を撃って立ち上がる。

 

「例え……例え攻撃が通じなくても!!」

 

 剣を構え猫ヤミーに斬りかかる。が――

 

「なっ!?」

 

 猫ヤミーに斬りつけた翼の剣は弾かれた。シンフォギアの力ではヤミーに通用しない。それはわかっていた。しかし、今の攻撃の弾かれ方はこれまでと違った。猫ヤミーの身体に蓄えられた脂肪がまるでゴムのようにブヨブヨとし、刃を一切通さないだけでなくボヨンと弾いてしまう。

 

「通らないならさらに切り込むまで!」

 

 身構えた翼は剣を振りかぶり

 

「っ!ダメだ!待って!」

 

 オーズが叫ぶが間に合わず、翼の剣から放たれた斬撃が猫ヤミーの肉体の脂肪を一瞬押しのける。と――

 

「たす…けて……」

 

 その隙間から一瞬見知らぬ男の顔が見えた。その眼が翼と響を捕らえる。しかし、すぐに分厚い脂肪に埋もれる。

 

「っ!?」

 

「い、今の……!」

 

 困惑する二人に

 

「カザリのヤミーは厄介なんだ!ときどき宿主にそのまま憑りついてることがあるんだ!」

 

「だ、だがこの間のトラの時は――」

 

「あの時は宿主から抜け出てくれただけ!」

 

「じゃ、じゃああのヤミーを倒すには……」

 

「あの宿主を切り離さないと宿主になってる人が危険だ!」

 

 響の言葉にオーズが答える。が――

 

「グハッ!」

 

 カザリの振るった腕がオーズの胸を斬る。

 

「僕の相手しながらおしゃべりなんて、随分余裕かましてるね」

 

 左手で自身の眉のあたりを掻くような仕草をしながら言うカザリ。そんなカザリに

 

「カザリ!宿主が腹ん中に残ってるなんて聞いてねぇぞ!」

 

「あれ?言ってなかった?」

 

 鎧の少女が叫ぶが、悪びれた様子もなくカザリが肩を竦める。

 

「ま、あれならオーズもあのシンフォギアの子たちもおいそれと攻撃できないからね」

 

「チッ……」

 

 カザリの言葉に少女は舌打ちする。

 

「さ、オーズ。僕のメダル、返してもらうよ」

 

 カザリは言いながら両手の爪を研ぐように併せながらオーズへと歩み寄っていき

 

「っ!」

 

 カザリが何かを感じて後ろに飛び退く。カザリの一瞬前にいた場所を『蒼ノ一閃』が切り裂く。

 

「オーズ!」

 

「っ!」

 

 斬撃を放った翼がオーズに駆け寄りカザリを警戒して身体を向けたまま言う。

 

「お前ならあの宿主を引き抜けるか!?」

 

「っ!ああ!やって見せる!」

 

 オーズの言葉に少し考え悔し気に唇を噛んだ翼は

 

「貴様に頼るのは癪だ。だが今はこれしかない。あのグリードは私が食い止める!貴様はあのヤミーをやれ!」

 

「でも君はその傷で!それにグリードはヤミーとは比べ物にならない力を――」

 

「いいからやれ!防人の力を舐めるな!はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 オーズのとめる言葉を遮って叫ぶと翼はカザリへと向かって行く。

 

「っ!ちょっとだけ持ちこたえててくれ!」

 

 そんな翼の背にオーズは叫ぶと猫ヤミーに向き直り駆け出す。

 

「させるかよ!」

 

 そんなオーズに鎧の少女の鞭が振るわれるがそれを目にもとまらぬ速さで駆けるオーズはジグザグに走りそのすべてを躱し

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 猫ヤミーへと飛びかかりその肩を掴むとそのまま分厚い脂肪の乗ったお腹の上で足を動かす。

 猫ヤミーのお腹の上で目にもとまらぬ速さで足を回転させるオーズ。そのあまりの速さにオーズの足が六本にも八本にも増えたように見える。

 

「このっ……っ!」

 

 そのオーズに鞭を振るおうと構え、しかし、何かを躊躇う様に手を止める。

 そのすきにさらに足を加速させるオーズ。

 オーズの走りによって猫ヤミーの溜め込む脂肪が、そのさらに内のセルメダルを押しのけてそのさらに奥へと向かって行く。

 オーズが足を動かすたびに貯めこまれたセルメダルが押しのけられ、その奥から宿主らしい太った男の姿が見えてくる。

 

「た、助けて!苦しい!お願い!」

 

「っ!手を!手を伸ばして!」

 

 泣きそうな顔で言う男にオーズは手を伸ばす。

 表情のないオーズの顔にどこか必死な感情が見える。

 動かす足を止めることなく、むしろより加速させながら伸ばしたオーズの手についに男の手が届く。

 

「よしっ!掴んだっ!」

 

 そのまま男の手をしっかりと掴んだオーズはそのまま引っこ抜く。

 引っこ抜かれた宿主の男は地面を転がる。それを見ながらオーズは飛び退きそのまま猫ヤミーを蹴り飛ばす。

 

「風鳴さんお待たせ!宿主の切り離しに成功――」

 

「あぁ、もう切り離しちゃったんだ。思ったより早かったね」

 

 喜び向けたオーズの視線の先で地面に倒れる翼の背を踏み付けたカザリが顔を上げた。

 

「風鳴さ――」

 

「おっと、動くとうっかり力が入っちゃいそうだ。こんな風に……」

 

「がぁっ!」

 

「翼さん!」

 

「っ!やめろ!」

 

 グッと踏み込むように力を込めたカザリの足元で翼が苦痛の声を上げる。

 叫びながらオーズは悔し気に足を止める。

 

「そうそう。それでいいんだよ」

 

 楽し気に肩を竦めながら言ったカザリは「さて――」と気を取り直したように言うとあたりを見渡し

 

「オーズ、君がいるってことは、いるんだろう、あいつも?」

 

「あいつ……?」

 

「誰のことを言って……?」

 

「あぁ、そっか。君たちは知らないんだったね」

 

 困惑する響と翼にそうだったそうだったと頷きながらカザリが言う。

 

「いい機会だ。紹介するべきじゃないかな、ねぇ?オーズ?」

 

「っ!そ、それは――」

 

「そこだ」

 

 オーズの言葉を最後まで言わせず突如カザリが腕を振るう。

 カザリの爪からとんだ斬撃が少し離れた位置の木を薙倒す。と、もうもうと上がる土煙の向こうに人影が現れ

 

「相変わらずネチッこい性格してんなぁ、カザリ」

 

「ハハ、君に言われたくないよ、――アンク」

 

 その人影にカザリは親し気に話しかける。

 カザリにアンクと呼ばれたのはフードを被った人物だった。

 白に右腕の袖だけ赤いパーカーを着て夜にもかかわらず真っ黒な野球帽を目深に被りパーカーのフードまで被っており、フードの脇からは収まりきらないボリュームのある金髪が左右に流して出されている。体のボディーラインや声の様子から女性だと思われる。

 

「い、今の声……そんな……でも……!」

 

 そんなアンクの登場に翼は困惑の様子で食い入るように見ている。

 そんな翼を尻目にカザリは

 

「まあいいや。アンク、君の持ってる僕のメダルさっさと渡してもらえるかな?」

 

「はぁ?んなこと言われてはいそうですか、なんていう訳ねぇだろうが。馬鹿か?」

 

「もちろん思ってないさ。でも……」

 

「がぁっ!」

 

 グリッと翼を踏み付けるカザリの足元で翼が苦悶の声を上げる。

 

「アンクッ!」

 

「はっ!それがどうした?そいつが生きようが死のうが俺には何も関係ない」

 

「だろうね。君相手にこんな手が通じるとは思ってないよ……だから――!」

 

「がはっ!」

 

「っ!」

 

 言いながらカザリはまるでボールでも蹴るように翼の身体を蹴り上げる。

 その威力に蹴り飛ばされた翼は一直線に吹き飛ばされる。その方向はアンクと呼ばれた人物の方で――

 

「チッ!」

 

 咄嗟に飛んできた翼を受け止めてしまったアンク。急いで顔を上げると

 

「隙あり、だね?」

 

 眼前に迫り左腕を振り下ろすカザリ。

 

「このっ!」

 

 そのカザリの腕にアンクは自身の右腕を伸ばす。と、アンクの右腕が一瞬輝き――

 

「そ、その腕!」

 

 響がその光景に息を飲む。

 アンクと呼ばれた人物の腕が肘から先で変化したのだ。それは赤黒い腕。鳥の羽のようなものが生え、タカや何かのような鋭い爪のあるその手は、人間のものとは思えない。

 右腕を異形のそれに変えた人物は必至な様子でカザリの腕を受け止めていた。左腕には放すタイミングを逃したらしい翼が納まっている。ここまでの戦闘やカザリに受けたダメージで動けない翼はぐったりとしながらもいまだ意識はあるようだ。

 

「アンクッ!風鳴さん!」

 

 慌てて助けに入ろうとするオーズだったが

 

「行かせるかよ!」

 

 鞭を振るう鎧の少女と猫ヤミーに行く手を阻まれる。

 

「ほら、これで――!」

 

 そのまま空いていた右手を下から振りかぶり、すくい上げるように振るうカザリ。

 咄嗟に抱えていた翼を放り出し背後に飛び退いたアンクだったが、微かに避け切れなかったらしく、カザリの爪がアンクの被っていた帽子のツバを引き裂きフードごと押し上げる。

 地面を転がるようにカザリから距離を取ったアンクが並び立っていた木々の中から飛び出し、その姿が月の光に照らし出される。

 野球帽が宙を舞い、フードが外れたそこからふわりとボリュームのある金髪があふれ出る。顔の左側を編みこみあげているのに対し、右側にはメッシュの様に赤い束が見える。

 

「やってくれるじゃないか、カザリ」

 

 ゆっくりと顔を上げ、カザリを睨みつけるアンク。

 その顔に

 

「そ、そんな……」

 

 倒れ伏す翼は困惑で呆然とした表情を浮かべ

 

「かな…で……!?」

 

 アンクの顔、見忘れるはずもないその顔の人物の名を、ぽつりと呟いたのだった。

 

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