ということで、現在映画館で天気の子を8回見ていますが、投稿は遅れ気味になりそうです。楽しみにしている方は少しだけお待ちください!
携帯でYahoo!知恵袋を開き、僕は質問を入力する
《質問です。大学生なんですが、高校生の彼女が家に泊まることになりました。どうしたらいいでしょうか?》
我ながらアホな質問だ。殺伐としたネット空間に爆弾を投下するようなものだ。どうせ総叩きされることは目に見えてるので、僕は携帯を布団の上に投げ込んで大きなため息を吐いた。
結局雷雨は未だ収まらず、外はまるで台風が直撃したかのような天気になっている。そのせいで電車も水上バスも遅延やら運行停止で、どのみち陽菜さんは帰れなかっただろう。けど、付き合ってまだ一週間くらいしか経ってないないのに、その、いいのだろうか…
僕がこっそりと脱衣所の扉に近づいて聞き耳をた立てると、中からシャワーを浴びる音が聞こえる。裸の陽菜さんを想像した僕は顔を真っ赤にしてそろそろと布団に戻った。苦節18年、彼女なんていることのなかった僕は女の子とお泊まりの経験なんてもちろんない。いったいどうすればいいのだろうか。
僕が答えを求めて携帯を開くと、さっきの質問にもう回答が来ていた。
《手出したら犯罪やで》
《避妊しろよ》
《添い寝でもしてなガキ共ww》
ほとんどが茶化すような回答ばかりだっけれど、ひとつだけ僕の目を引く回答があった
《私だったら、キスくらいしてほしいです。ていうか、普通に最後までするくらいの気持ちで行きます。それくらい覚悟してないと彼氏の家に泊まりませんよ。頑張ってください》
陽菜さんは、どういう気持ちなんだろう。僕は思わず頭をかきむしって布団に仰向けに倒れこんだ。
「あー…わかんね」
「何が?」
宙に言葉を吐いた瞬間、陽菜さんの声が聞こえて、僕は布団から跳ね上がった。
「うわ!陽菜さん!もう上がってたの!?」
「うん!お風呂お借りしました。ありがとね帆高!」
「あぁ…うん」
いつもは白い肌がうっすらと桜の色になっている陽菜さんはどこか色っぽくて、僕はアホみたいな顔と返事しかできなかった。たっぷり5秒くらい凝視した後、僕はやっと現実の世界に戻ってきた。
「帆高?どうしたの?」
「はっ!陽菜さん!俺も風呂入ってくるよ!」
「う、うん。待ってるから、はやく戻ってきてね」
僕は体から湯気を揺らめかせている陽菜さんを視界に入れないように、そそくさと脱衣所に向かう。僕はなんて情けないのだろうか…
掻き毟るようにシャンプーで頭を洗いながら、今度は冷水でそれを洗い流す。彼女とお泊り、楽しいことじゃないか。いったい何を不安がっているのか…気合いを入れろ、森嶋帆高。
「あっ…」
水を止めたところで、自分がボディソープで髪を洗っていたことに気づいた。
部屋に戻ると、僕の布団で陽菜さんが静かに寝息を立てていた。風呂に入っていたのはそんなに長い時間ではなかったのだが、陽菜さんも弟との二人暮らしで毎日疲れが溜まっているのだろうか。僕は可愛らしい寝顔を見せてくれている彼女にそっと毛布をかける。
「おやすみ陽菜さん」
陽菜さんに毛布をかけた後、僕はテーブルの上に広げた様々な資料に目を向けた。本当はまた陽菜さんと話し合おうと思ってたけど、今日は僕だけで進めよう。
今僕が考えている『青空大作戦』を成功させるために、知らなければならないことがいくつかある。僕はそれをノートに書き写すことにする。
①過去に沈んだ都市と天気の子の関連性
②天気の子の力の詳しい内容
そして
③陽菜さんにまだ力が残っているかどうか
③については、一番早く調べなければならないことだ。陽菜さん自身はもう力はなくて、祈っても空は応えてくれないと言う。だけど、もしほんの少しでもあの力の一片が陽菜さんに残っていて、彼女が晴れを願うことでまたあのようなことになったらと思うと身震いがする。だから、天気の子が力を失ったという確証が欲しい。そのために、僕はわざわざ須賀さんに頭を下げて沢山の資料を拝借してきたのだ。
陽菜さんが晴れを願う時、空に向けて祈りを捧げるような姿勢をとっていた。もし空に神様がいるのなら。きっとその神様に祈っていたのだろうか。でも僕はあの時、天気の神様なんて知らなかったし、知ろうとも思わなかった。ただ漠然と陽菜さんの力に頼って、自分が何かをした気になって自惚れていたのだ。その結果が陽菜さんを失いかけるという事態を招いた。まさに滑稽と言えるだろう。だから今回は僕が変えるんだ。この雨の止まない世界を、僕の力で変えたいと、そう思ったんだ。
僕は手元にとある雑誌を引き寄せた
『日本で唯一!天気の神様を祀る神社』
天気の神様はいるそうだ。その神様を祀る気象神社という場所が日本に1つだけある。祭神の名を八意思兼命(やごころおもいかねのみこと)といい、知恵を司る神様で、晴・曇・雨・雪・雷・風・霜・霧など八つの気象現象を制御すると言われている。だから、天気を祈願する気象神社に祀られているのだ。場所は高円寺。まだ水没区域にはなっていない場所だ。僕はそこに陽菜さんと一緒に行ってみようと思う。きっと何か手がかりになるものがあるかもしれないから…
「帆高…」
ふと、陽菜さんが僕の名前を呼んだ。振り返ると、幸せそうに笑みを浮かべた陽菜さんがまだ眠っていた。どうやら寝言のようだ。
「歳下のくせに、いつも歳上ぶりやがって」
僕はそんな陽菜さんのほっぺたをつんつんとつつくと、彼女は眠ったまま顔をしかめさせて僕の指から逃れようとしている。そんな様子が面白くて、僕は声を殺して笑ってしまう。
可愛い陽菜さんの顔を見ていた僕は、突然前触れもなく、彼女にキスをしようと思った。眠っている陽菜さんには悪いけど、僕はそれなりに臆病なんだ。
「陽菜さん…」
目を瞑って陽菜さんに近づくと、ふと気配を感じて僕は目を開けた。
くりっとした目と、僕の目が合った。
陽菜さんは顔を真っ赤にして、僕の瞳を見つめていたし、僕はアホみたいな顔をして陽菜さんにキスしようとしていた。
「あの…違うんだ」
「な、何が…」
「いや、ほんと違うんだよ」
「帆高、言い逃れはできないよ?」
観念した僕は頭を床に擦り付けて謝った。
「う、ごめん陽菜さん!その、陽菜さんの寝顔をがあんまり可愛いからついっていうか、急に愛おしくなったっていうか、その、出来心というか!」
「ちょっとストップ!帆高今色々恥ずかしいこと言ってるの気づいてる!?」
陽菜さんは僕の肩を掴んでゆさゆさと揺する。僕は相変わらず意味もない釈明を延々と垂れ流しているわで、どちらもあたふたとしていた。
しばらくそんな茶番を続けた後、一息ついた僕らはまた向かい合って座っていた。
「陽菜さん…いつから起きてたの?」
「うーん。帆高が私のほっぺたをつつき始めたときかな?」
「うわ、なんで言ってくれないんだよ…」
「寝たふりが楽しくなっちゃって」
いたずらっぽく舌を出した陽菜さんに、僕も思わず笑みをこぼす。
「よかった。陽菜さんが怒ってなくて安心した」
「怒るって?勝手にキスしようとしたこと?」
「そ、そうだよ」
僕はついさっき自分でしようとしたことが急激に恥ずかしくなってしまい、目をそらす。恥ずかしくて、陽菜さんのことが見れない。
「怒ってないよ、だって」
ふわっと、シャンプーの香りがした。
「陽菜さっ」
振り向くと、陽菜さんにキスをされた。
突然のことで、僕の体は硬直して動かなかった。しばらくしてそっと唇を離すと、陽菜さんは少し顔を赤くしたまま僕に笑顔を向けた。
「私だって、キスしたかったもん」
僕はそんな陽菜さんが愛おしくて、思わず抱きしめてしまう。
「陽菜さん、好きだ」
「私もだよ、帆高」
「でも、陽菜さん。こういうのは普通、男からするもんなんじゃないの?俺の立場がないよ…」
「ふふっ、さっきも言ったでしょ。精神年齢は私の方が上だもんね」
「はいはい。どうせ俺は子供ですよ」
「あれ?拗ねたの?怒らないでよもう」
抱き合ったまま、そんなことを言い合って、僕らは幸せを全身で感じていた。僕らが望んだ、2人の時間だ。陽菜さんと生きていける喜びを、しっかりと僕は噛みしめていた。
「陽菜さん。これを見て欲しいんだ」
陽菜さんの体を優しく離した後、僕はテーブルの上に置いてある雑誌の中から、先ほどの気象神社の特集本を取り出した。
「気象神社、これって…」
「見覚えがあるの?」
僕から本を受け取った陽菜さんは何かに気づいたようにパラパラとページをめくりだす。
「ほら、前に言ったでしょ。私は人柱なんだって。それを夏美さんが教えてくれたんだけど、その夏美さんが取材に行った場所がね、この気象神社だったと思うの」
陽菜さんはあるページで手を止めると、僕の目の前でそれを広げた。
そこには、絵が描いてあった。
風に乗った龍が空を悠然と飛んでいる姿や、雲から巨大な鯨が顔を出している姿。そして、まるで潮流に乗った魚のように小さな空の魚達が無数に舞っている様子が描き出されている。
「これは…」
見覚えのある景色に、僕は目を奪われた
「天気の巫女が見た景色、だそうだよ」
たしかに、あの日、東京の空の上でみた景色はこの絵に限りなく近いものだった。
「そうか、昔にも天気の子がいたなら、あの景色を見た人が後世にそれを残していてもおかしくない」
「うん、天気の巫女は天気を治療する役目があって、その代償として人柱になって消える。それが私が夏美さんに教えられたことなの」
そういえば、僕は結局陽菜さんを救った後、すぐに警察に捕まってしまったから。須賀さんと夏美さんともろくに話ができなかった。東京に来てからは須賀さんの事務所に何回も行ってるけど、未だ夏美さんには会えてない。まぁ、それも理由があるのだけど。
「陽菜さん、まずはこの気象神社に俺達で行ってみない?天気の巫女について直接話しを聞くのが一番良いと思うんだ」
「私もそう思ってた。何か分かることがあるかもしれないもんね」
「よし、決まりだ。明日は何か用事あるの?」
「ううん、私は大丈夫だけど、一回家に帰って着替えたいかな」
陽菜さんはそう言うと今着ているサイズの大きい僕のTシャツをパタパタとはためかせた。そんな仕草も男心をくすぐるから、陽菜さんも悪い人だ。
「そうだね。明日には山手線水上バスも運航再開してるだろうし、高円寺の駅集合にしようか?」
「うん!なんだか、デートに行くみたいだね!」
陽菜さんが嬉しそうに笑うと、長い黒髪がそれに合わせてさらさらと揺れる。いつもはまとめている髪も、下ろしたらそれはそれで可愛いんだ。そんな陽菜さんを見て、思わず僕も笑顔になっていた。
「じゃあ、神社に行った後にカラオケでも行く?陽菜さんの歌また聴いてみたいから」
「行く行く!帆高も、なんだかんだ歌上手いもんね」
「そうかな?ありがと」
僕らが再会して一週間ほど経ったけど、こうして2人でどこかに行く予定を立てるのは初めてだ。自然と僕らの顔には笑顔が溢れていく。
「ねぇ帆高…一緒に寝よ?」
が、突然の陽菜さんの言葉に僕は白目を剥きそうになる。
「えぇっと、その、いいの陽菜さん?俺はアレだったら床で寝るけど…」
「アレってなによ、いいから、おいでよ帆高」
陽菜さんは僕の布団に横になって、ポンポンと手招きをしている。その仕草がやけに色っぽくて、僕の頭は沸騰したかのように熱くなった。
「わ、わかったよ…」
真っ赤な顔のまま陽菜さんの横に寝転び、天井を見つめながらも僕の心臓は早鐘のように打っていた。
「帆高…ありがとう」
陽菜さんが僕に抱きついてくる。ほのかに香るシャンプーの香りに僕は目眩を覚えそうになりながらも返事をする。
「ありがとうって?なんのこと?」
「沢山あるよ。私を救ってくれたこと。会いに来てくれたこと。そしてまた、私達の居場所を守ろうとしてくれる。そんな君のことが私は好き」
「陽菜さん…」
僕は陽菜さんの目を見つめる。彼女のくりっとした可愛らしい眼差しと、僕の視線が交差する。
「俺は、陽菜さんと一緒に生きたい。狂った世界だろうが何だろうが構わない。けれど、陽菜さんの居場所を、僕らの生きる場所を奪おうとするなら、またこの世界と戦ってやるんだ。俺は…」
そこで、言葉を区切る
「陽菜さんが好きだ。陽菜さんのために生きたいんだ」
「…ありがとう。私も、同じ気持ちだよ」
僕はその腕で優しく陽菜さんを包み込む。抱きしめた陽菜さんの体は暖かくて、僕らの心もそれと同じようにあったかく熱を持っていた。
まるで、春の陽気の中、そよ風の吹く日照りのいい草原で日光浴をしているような、そんな穏やかな気持ちだった。
「明日、気象神社に行こう。そこで天気の子の話しを聞くんだ」
「それが、私達の作戦の第一歩だね」
僕達は抱き合ったまま頷き合う。そして、この瞬間が永遠にこのままでありますようにと強く願いながら、眠りについた。
ここから、僕達と世界(空)の戦いが始まる。