流石はウロボロス弐号機、飛ばし方が違う。
朝は散り、昼は砕け、夜は溶ける。春は腐り、夏は爛れ、秋は渇き、冬は霞む。
俺の人生は端的にいうとこうだ。纏めると、俺には死ぬ間際以外の世界がない。
「流石アルだよ、わたしの荷物をちゃんと持ってきてくれて助かるなあ!」
「貴方が僕に無茶振りしたようなものだろう…………まあ用意は出来たよ」
まっさんはどうして謎のイケメンからヘリで荷物なんか持ってきてもらえるんだ、俺も上手いこと立ち回ればそういう√入れるの? ヤヒトは訝しんだ。
軽い世間話だけするなりすぐアルなる男はそそくさと何処かへ行った。アイツ誰だと思っていたが、さっきへリアンからまっさんと同類だと聞かされて普通に扱えと言われてる、普通とは一体?
機嫌の良さそうに歩いているまっさんがゆらゆらと俺の周りを回りながら付いてくる。
「何ですかまっさん、俺今から執務室で書類処理しますよ」
「君さ。戦術からっきしって言ったからどれくらい駄目なのかなーと思って」
どれくらいと言われてもこちとらつい最近まで自主的ホームレスに身を投じていたんだからほぼ何もないとしか答えようがない。
「そっか、逆に出来そうなことは?」
「狙撃。目には自信がある」
「ふーん…………目か」
瞳が光る。まるで歯車のような紋様を錯覚する赤い眼は、時々何かが噛み合ったようにカチリと回る錯覚が有ったり無かったり。
彼女は銀髪のハーフアップに、アクセントよろしく右目近くの一房が真っ赤になった変わった髪をしている。服装はずいぶんタイトで、恵まれたお体がよく映えてらっしゃるのが目に悪い。
先程も抱きつかれたときの感触を思い起こすに、中は着てない。相当やばいやつだと確信が出来るね!
「もしかして片目が義眼――――――だったりして」
「ハハハー、マサカマサカ」
大当たりだ、何だこの人。
とはいえ探り探りという感じなので適当にごまかす。
慣れない廊下をウロウロと歩いている内に黒い帽子が遠くに見えた。Karだ、先程の恐ろしい記憶に顔が引きつる。
俺の横を見るなりつっけんどんに歩いてきた。
「指揮官さん、どちらへ?」
「え? ええー? 俺はね、アレだよ。まっさんの荷物運び手伝ってたよ――――――ねっ!!!!!!!!」
「それは合ってるよ」
明らかに怪しまれている、おいまっさんニヤけづらを辞めろ。俺が殺される。
さっきはえらい目に遭った。
Karがジロジロと片割れの方を観察する。目つきはちょっぴり鋭くて、後ろに組まれた手からは警戒心が読み取れる。
「へー、そうでしたか。これは失礼しました」
「あっでも安心して欲しいけどわたしは疚しい事はしてないとか一言も言ってないよ? うん、可能性はあるかも」
「おいちゃっかり俺を嵌めようとするな――――Kar?」
固まった。
手を降っても反応しないのを見てまっさんはニヤケ面を更に深くして手を合わせる。
「あーおもしろ、この娘もっとからかいたいなあ。付き合ってよヤヒト君」
「俺は人で遊ぶ悪趣味さは無いんで」
「いや男女的な意味で」
「何故そうなる」
冗談が右ストレート過ぎて怖いんだけどこいつ。
「冗談じゃないよー、いやだって君とわたしがイチャイチャしたらこの娘すっごい面白い反応はするじゃない?」
「悪趣味な人だ」
「人形だよ。ほら、わたしそっち系ならテクニックは有るし、Karちゃんが本気になったら引いてあげるからさ、どう?」
「聞き方がクズすぎるので結構です」
「もっと身体に正直になればいいのに~」
勝手に自分の体を玩具にするのは咎めないけど、俺はそんな遊び方をする豪胆さは持ってない。
会って数時間でそんなクズ丸出しの交渉してくる奴は初めてだ。ビンタする気も起きねえよ、自由に生きてくれとしか。何だろうな、いっそ哀れとでも言ってやろうか。
固まっていたKarが現実世界にフルダイブ。
「あ、あのですねまっちゃんさん!?」
「まっちゃんでもまっさんでも何でも良いんだけどこの場合泥棒猫とでもお呼びくださーい」
「泥棒猫? い、いえ指揮官さんとは別にそういうのでは…………」
「マジで違うから勘弁してくれ」
話がややこしくなるだろうが。
「で、何で執務まで監視されんのよ俺」
「ヤヒト君の人となりが気になるから」
それ多分いや絶対これだけじゃ見えてこないと思うんですけど。
まっさんはあの後出てきたポンコツその2の一〇〇式もゆらゆら~っと遊んだ後に普通に俺の行く先々に付いてきた。よほど暇らしいが一体何なんだ。
俺が真面目に慣れぬ書類とにらめっこしているさなかにソファで謎の飲料物をストローで優雅に啜られると中々にイラッとくる。
「あのー、出てってもらえます? 端的に言うとイラッと来るんで」
「ひどいわヤヒト君! わたしと昨晩あんなに…………っ!」
「いや何もしてねえよ」
というか時系列的に半日も経ってねえよ。
嬉しそうに身を捩らせて雑なお涙頂戴劇を披露する彼女はさておき、いやさておけない。
「つーか何で俺に纏わり付くんだよ。こんな若造見てて面白い?」
「面白い、雑に扱う割にレディファーストな感じがすき」
「限界オタクみたいな早口辞めろ」
「人類オタクだから…………」
えらくレンジの広いオタクだ、ミリタリも鼻で笑えるんじゃねえの。
暫く徹底無視の構えをとって俺は机とキスする距離で仕事に励んでいたが、俺の周りをうろちょろしたり鼻を自分の髪先でくすぐってきたり、挙句の果てには抱きつかれたりと節操がない。
堪らず弾き返す。
「ええいやめんか鬱陶しい!? 大体超人ヅラしてっけどアンタもどう見ても人間くせえだろ、人形ってやつはだいたいそうだけどもなぁっ!」
「…………あーうん、まあわたしが人間臭いというのはある意味当たり」
妙に参ったような仕草が混じる、二つ返事と言うには抵抗がある、くらいの調子だった。
恐ろしい話、今俺は「何でだ」と聞きそうになった。この女の微妙に怖い所はそこだ、こっちが余計な行動を誤爆してしまいそうになる。
顔に出ていたのだろう、まっさんは眉をひそめながらニコニコする。
「実はね、君がわたしとマトモに喋って大丈夫かどうかちょっと観察してたんだよね」
「マトモに喋ってるじゃん」
「こんなの上っ面じゃない。わたし、すぐ表面に出るから」
何が、とは聞くまでもなかった。
最初から気配は有ったが今はクリアに感じ取れる、こいつの目には何処と無く浮世離れしたものが有る。
まるで何周もしたゲームを流れ作業でやってるみたいな、楽しさ半分退屈半分、刺激に飢えた醜い目つき。
以前も見たことが有る。アイツは本当に人生がつまらなそうだったが。
何だか寒い。薄ら寒い、風鈴を部屋中にくくりつけてるみたいな押し付けがましい冷気を感じる。
「まあ仕事関係だし先に言っておくと、わたしは傭兵を趣味でやっているんだけど、それがどんな趣味かって言うなら――――――――「破滅」の観察」
「また面倒くさい性分の女が来やがった…………」
反論できない、と事も無げに肩を竦められる。
じり、と寄せられた顔に息が詰まる。美貌と言うより、削ぎ落とせてない張り付いた笑顔が堪らなく吐き気を催すと言えば良いんじゃないか。
赤い歯車がぎりぎり回った錯覚がする。
「簡潔に言うと、わたしはグリフィンに最大限の効用を与える企業努力は惜しまないけど、そのためなら君だって殺すし、君が大事に思う人形だって平気で傷つける」
「というかそれはそれでわたし個人は大変楽しくてね、実はKar98kを殺したらどんな顔をするのかもちょっぴり――――――いやちょっぴりだ、だけど興味はあるんだよね」
思わず顔の筋肉が引きつった。
マジだ、適当に喋ってるときの胡散臭さを返してくれ。今目の前の人形の表情から滲むズレた香りはどうしようもなく本物だと脊椎が速報で伝えにやってきてる。
こいつはそれが「効率のいいという建前」さえ有れば本当にやりかねない。俺に興味があるかは知らないが、踏み躙ることに抵抗のない奴ってのは目で分かってしまう。
俺を見て「人間」しか見えてない顔をしてるからだ。俺が見えてない。
強がって鼻で笑ってやる。
「限界人類オタクは怖いねえ、ったく」
「だからわたしと仕事をする時には――――――まあまあ、あまり信用しないことだね」
「こんな事言ってるが、君を殺すことにも実は躊躇う気がしない。気は許さなくて結構」
くくっ、とさっきまでとは別物の籠もった笑いとともに半狂乱な字の暴力が飛んでくる。
「違法賭博で死んでいった男の泣き顔が好きだった、犯されながら泣き叫んで暗闇に消えていった女の喘ぎ声が好きだった、戦場でみっともなく命乞いした男の惨めさが好きだった、燃やされた女の金切り声が好きだった、強がったくせに最後は死にたくないと喚く鉄血の悲鳴が好きだった、美人局をした時に糞尿を漏らしながら半殺しにされかけてた男のみっともない匂いが好きだった、ちなみに全員殺した」
「勿論殺さないことも有る。酒の勢いでヤッた男の連れとか親御さんに買ってきた陽性の妊娠検査薬を突きつけるのも楽しい。一緒に破滅に追いやるのも眺めておくのも堪らない。絶望する男の顔とか半狂乱の女の顔が大好きでねえ、ヤッてる時より見てる時のほうがイッてしまうものだからポーカーフェイスを身につける羽目になってしまったぐらいさ」
「そういう人形だから、君はわたしに関して殺戮以外を何ら信頼する義務はない。わたしもその方が助かるしね、お互いビジネスライクに行こうじゃないか」
自己陶酔失礼、とケラケラ笑いながら顔が離された。
かなり凄い字面が聞こえてきた気がするが、というか多分言ったんだろうな俺の聞き違えじゃないよな。
まさしくというべく情報量の暴力に俺が面食らってるうちに、部屋のショーケースに乱雑に重ねられた古い雑誌をフラフラと眺めだす。
「傭兵はすぐ裏切ると相場は決まっているけど、今回はメリットがないし安心して良いよ」
適当に取り出した雑誌を読む。古いパチンコ攻略雑誌だ、何であるのかは誰も知らない。
「同様に君の身辺に危険はない。ただ問題としてはわたしに肩入れとかは辞めておけということだ」
意外と読めているらしく、パラパラめくるなり不意に止まったページを舐めるように読んでいく。
「まあわたしが死んだら一応葬式ぐらい来てくれれば嬉しいけど、生憎恨みばっかり買って墓が立つかすら怪しいし――――――」
「よー分からんがアンタが多少頭おかしかろうと逃げたりしねえよ」
やっと整理ついた、ピクリとページを追う視線が止まる。すぐにまた動き出した。
何だかマトモに取り合ってもらえてない感じがするので無理矢理手を引っ張ってこっちを向かせる。忙しいってのに雇い主を立たせんで欲しいものだが。
「おいアンタ聞けよ。俺は俺が見たものしか信用しない、今見てる限りアンタは螺子は飛んでるが理性は飛んでない。それを前もって説明する知性ってやつがあるからな」
「ついでに言えばそんな事言うやつが今すぐ俺を殺せるわけもねえし、強がりはよせ。頼りにはしてやるから、つまらん意地を張るな。俺が疲れるんで」
「以上」
言うだけ言ってスッキリしたのでまた書類とにらめっこが始まってしまう。嫌だ…………俺書類もうやだぁ…………。
大体そんな事言って予防線張るやつは大抵寂しがりやとかそんな所だ、ぶっちゃけはっきり言えよと思うがそこは「ビジネスライク」で今回は勘弁してやったところである。
パット見でマトモそうには見えてねえし、ヘリアンにも警戒するよう散々釘刺されてるから今更どうこうしねえっての。
シリアスそうな感じで拍子抜けすることを打ち込まれて何か逆に疲れた。
「…………やっぱ主人公って苦手だ」
「はい? 何か言いました?」
「何でもない、部屋の片付けしてくるね」
「どうぞどうぞ。メンドクサイネーチャンが消えて俺はハッピーなんで」
まっちゃんの見た目は描写した所以外超適当なので何なら描いてください、私にはAK-12で脳内補完する以上の技能がない…………。
もうちょっと人形と絡ませないと男同士のキモい絡み合いになっちゃうヤバイヤバイ。
そう言えば毎回言ってるんですけど感想寄越せ。