外道傭兵はバッドエンドの夢を見るか   作:杜甫kuresu

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暫く普通の人形を出せるように戦闘以外のボリュームに気を配ろうかなあと考えてる。
しかし書くの疲れる。


幼年期の終わり.ch1

 目覚めは銃声の伴奏らしき悲鳴だった。

 暗い闇の中、無我夢中で繋がれていた何かを外す。針が抜けるチリチリとした痛みを忘れない、瞳に刺さる光は誘蛾灯のように俺の手を引き寄せていく。

 

 確信があったらしい。一体どんな理屈が有っただろう。

 聞こえる銃声か? 否。

 噎せ返る血の匂いか? 否。

 刺すようなマズルフラッシュの幻覚か? 否。

 

 違う。理屈じゃない、俺は今までが退屈で、窮屈で、不可解で、最悪だっただけだ。

 自分が分からなかった。人が手が届かないと言ったものは、俺は届いた。学歴、女、実績、趣味、金、そういうものは俺の欲しいぐらいなら手に入った。それがどうだという話だが、俺は手に入ったのだ。

 

 でも俺が本当に欲しいものは貰えなかった。

 だが。あの時、訳も分からず光に手を伸ばした時に俺は確信した。俺が本当に欲しかったものは――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で同族なんか撃たなきゃならないんだよ、イカれてる!」

「言っても仕方ないけどね――――ほら後ろ!」

 

 飄々とした表情で白髪を揺らしながら彼女のM16が吼えた。捉えた照準が彼女達の頭蓋を的確に撃ち砕く、嫌な肉の潰れる音に耳を塞ぐ余裕だってありはしない。

 にこやかに帽子を抑えながら此方に微笑んでくる姿はさながら天使と言った様相だが、しかし俺たちは生憎血まみれ。あえて言うなら青い血の悪魔が良い所だ。

 

 胸のざわめきは収まらない。人形を撃つ度何かが一つずつ外れていく感覚、何だか俺の倫理観は悪い方向にアップデートされているらしかった。

 

「そら隠れた隠れた、お先にどうぞ」

「言われなくても入るって!」

 

 凄まじい銃声に耳がつんざけそうだ、時々壁越しに投げつけられたフラッシュバンの後光が眩しい。でも何処か、俺の何かが引っかかる感覚。妙。

 

 トリガーを引く指が軽くならないのだ。これだけヒトの形をしたものを平然と撃てば普通、俺はトリガーを軽く感じてしまうと思っていた。

 実際はどうだ。俺は心臓の脈打つような錯覚をこの人工生命の全身に受けたまま、ひたすら鉄血を撃ち殺す。サイレンはない、ただ何か「歌」が聞こえる気はするのだが。

 

 彼女がニヤリとしながら射撃を開始する。俺は黙って逆側から顔を出し、ストレートストックを左肩に押し当てた。

 エヴァンゲリヲンみたいなセンターに入れてスイッチ。そんな感覚の中に、俺は僅かな高揚が混じっている。

 

「彼女達は随分弱い。このままスモグレで走り抜けようかな?」

「立案指揮は君に任せるが、走り抜ける基礎性能は有るか?」

「有るかないかじゃなくて出力するのさ」

「成程なあ」

 

 何が成程だ、口元は釣り上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしもーし…………」

「ん? 何だい、ヤヒト君」

 

 人の寝顔を見るとは悪趣味だ、襲われたいんだろうか。寝てるふりしてる時に連れ込む男はもれなく破滅させた実績持ちなわけだけど。

 

 とは言うがヤヒトの顔つきからは恐る恐るといった息遣いが残っていて何だか微笑ましい。普段の生活だとこう純朴な青年と関わることもないしな。

 元々人形というのがあまり純真無垢と無縁だと言ってしまえるのもそうだし、俺の生き方がそもそも真っ当な人間と迎合できたものじゃないというのも関係する。

 

 面白いものは遊ぶに限る。

 

「随分悪趣味だね、まあ手を出しても怒りはしないけど」

「馬鹿言わんでくれ。俺は気の迷いで人生を棒には振れねえ」

「よく分かっている、物分りが良いのは美徳だ」

 

 もう慣れてんだよ、と巨大感情混じりの溜息が漏れていた。我ながらご尤もな反応と思う。

 

 世の中というやつは悲しいぐらいバランスが取れていて、超個人的な意見で言うと不幸と幸福の概算は主観でも、客観でもプラスマイナスの絶対値がかなり低くなるように出来ている。

 内、人は色々な役目を背負うだろう。敵、味方、理解者、道化――――――そして。俺は必ず、害になる。

 

 それを認めるのは中々に苦労した。俺はパンドラの箱になる自分というやつがかなり嫌いだった、否定して何になるのやら。今ではさっぱりだ。

 

「アンタ、本気の相手は無碍にしなさそうだけどな」

「どうだろうね。見たこと無いけど、飽きたら捨てるんじゃないの?」

「この前の朝帰りはありゃ自業自得だろ?」

「ま、そうだけどさ」

 

 アイツ数週間前から下心丸見えだったしなあ、まあいっかと思って余所で愛と誓っちゃってる風俗嬢に告げ口しといた。

 まあ案の定俺毎巻き込んで修羅場になったよね。そういうの慣れてるから俺は良いけどアイツ面白かったなあ、可愛さ余って憎さ百倍なのにまだ自分の愛とか説いちゃうからもっと火を付けちゃってさ。

 

 しかしそうだな、本気で迫ってきた男か…………。

 

「どうだろ、でも彼は捨てちゃった」

「彼?」

「大体の手が通用しなかった男の子が居てね」

 

 男漁りしてるようにしか見えない相手に、ストレートに告白してきた青年は居た。

 ヤヒトは俺の話がよほど興味を引いたのか、ソファに寝転んだままの俺に向かい合って神妙な顔つきで珈琲を寄越してきた。

 

 美味い、高いやつだなコレ。酸味が強いのは好みだ。

 

「…………まあ何でもわたしの噂――――というのも傭兵で割と金を貯め込んでる方を聞きつけたらしく、シンプルに付き合ってくれってね。びっくりしたよ、いやまさか噂を聞いた上でわたしと付き合うって正気じゃないし」

「まあ不定の狂気だわ」

「とりあえず一晩どうって言ったらそのまま寝ちゃったし」

「いや訂正アンタ最低」

「やーん、褒めないでってば」

 

 まあ軽いトークはさておき。

 

「しばらくそれっぽいフリをして遊んであげてたけど、なーんか興味が湧かなくってねえ…………途中でただ暇つぶしだったって暴露して金だけあげて追っ払っちゃった。あれは面倒だったなあ」

「面倒ねえ」

「何か元々? 妹の治療の金目的だったのに本気でわたしに入れ込んだそうで、何かそんな事言われると尚更冷めちゃうというか」

 

 俺が欲しいのはルアーでも引っかかるような馬鹿であって、そういう特定個人に訴求するタイプはなんか違うらしい。

 

 何というのかな、誰でもいい奴は逆に付き合って捨てるのが平気なんだけどなあ。ああいうタイプは扱いに困る、どうブッ壊そうか思考が止まると言えば良いのか。

 最終的に俺が疲れて追っ払ってしまう。

 

「金さえ有ればいいらしいし金だけはあげたよ、「まあ君はかなり馬鹿な男だね」って」

「何で?」

「何か、必死なのが無性に癪で」

 

 薄っぺらくもない愛情を並べ立てると何となく気分が悪い、それが平然と出来る青年だった。

 

 ヤヒトがふーむ、とか言いながらニヤつき出す。

 

「とか言いつつきっちり面倒ごとからシャットダウンして金はくれてやるって辺り、甘いんだよなアンタ」

「そういうのじゃないけど?」

「言ってりゃいいさ、まあ実際俺が勝手に言ってるだけ」

 

 ホント勝手に言ってるだけ感はある。まあ言うのは自由だしねえ…………。

 しかし一番ダメだったのはそうだな。

 

「わたし全部口からでまかせだって言ったのにあの子、「貴方が僕に向けた感情は嘘じゃないはずだ」とか言い出してね。だから嘘だとアレほど」

「アンタ自分の感情の真偽とか分かるの」

「基本嘘だし」

「…………ふーん」

 

 意味ありげだなあ。

 

「俺は真っ直ぐな態度にアンタが絆されたように見えたけどな」

「んー? まあでもメンドクサクなったら金銭で解決する癖はあるし、そういう感じだと思うけど」

「まあそれも否定しきれんのは困りどころなんだが…………」

 

 まあその辺の真偽には興味がない。

 自分のことが分からないとか悩むパートは過ぎた、そういうのはガノタに媚びるために有るものであってそもそもリアリティ皆無の俺がする必要もないと確信がある。

 

 気が向けば過去編でやるだろ、やるのか?

 問題は今時計を見て約束を思い出してしまった一点のみ、立ち上がる。

 

「ん? どうしたよ、徐に」

「スプリングフィールド嬢にお菓子作りなるものを学べるそうだ、わたし消化できたら割と平気なせいで拘ったこと無いんだよね。偶には面白そうだと思って」

 

 生活の潤いはやっぱり下位の欲求に枝葉を付けるところからじゃないかと常々思う。ぶっちゃけ外に出るタイプの欲求に関してはあらゆる点で間に合ってる気もするし、となると家での食事とかに頭を悩ませるのが良い。

 

 人は程々に悩まないと狂うしな。

 

「実は俺も料理できるぞ」

「じゃあ困ったらヤヒト君に養ってもらおうかな」

「絶対ヤダ」

 

 冗談にマジで返されてしまった…………そんな真顔にならんでも。




個人的にあんまり主人公本人に自分語りはさせたくないので、今後は日常回での出番は絞られてくると思います。

次回からちょっと進行をゆっくりに戻す予定。これだと現行のステージまで40話も使わずに終わるし、遊び心のない娯楽はつまらないので。

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