人里離れたジュラの森。その中でも封印の洞窟に近い辺境にポツンと存在する小屋。そこが、現在の俺の棲家。
小屋の中は、中央に卓、側に椅子、壁の一方に書架、もう片方に台所や暖炉もろもろ。そして窓の下にベット。小屋を、木を切り倒すところから建て始め、間取りも素人の浅知恵で考えてみたが、そこで生じた多少の不便さは、住んでいるうちに、慣れた。
ーー本を置き、椅子から立ち上がって、窓を開ける。
すると、森のさわやかで新鮮な空気が部屋に吹き込んでくる。
見渡せば、木々が生い茂り、時折、小動物がちらほらと見受けられる。陽当たりもなかなかに良く、ポカポカとした陽気に包まれる。
「あぁ、平穏だなぁ。」
しみじみとこの安寧の生活を噛み締めること、数分。
思い切り、背伸びしてから、窓を閉めて、読書に戻ろうと椅子に腰掛ける。
そのときだった。
突如として、かの暴風竜ヴェルドラの気配が消えたのは。
………。
………………。
………………………。
「こりゃ、引っ越さないといけないかぁ…。」
先程の爽快感は霧散し、陰鬱な気分が胸の中に立ち込める。
はぁ、と大きなため息を吐いて、俺は次の住居のアテを考えるのだった。
*
なぜ、わざわざ住み慣れた家を離れるのか。
そう思われても仕方ないと思う。
だが、一身上の都合とはいえ、理由はあるのだ。
それを語るには先ず、俺の出自について説明せねばならない。
俺の名は、セリム・ナーヴァ。
かの星王竜ヴェルダナーヴァが父にして、あのミリム・ナーヴァを姉に持つ、この世界にたった二人しか居ない、正真正銘本物の
…ならばどうしてコソコソとこんな辺鄙な場所に住んでいるのか。
などと疑問に思うことだろう。
ここで例の一身上の都合が関わってくるのであるが、端的に言ってしまえば、自分は、弱い、のである。
そりゃあ、確かに人や並大抵の魔物よりは強いとも。
だがしかし、父は偉大なる始祖の竜であり、姉は
半分とはいえ、竜種の血が流れているのだ。その程度強くなくては、産まれたことを恥じ入って、一生穴蔵から出てこない確信がある。
生まれにしては、最低限の力は持ち合わせている。
そう、最低限の、という但し書きが付いてしまう程度の力しかない。
同じ姉弟でありながら、姉の癇癪すら止められないのだ。話にならない。
それほどに、俺は、弱い。
生まれながらの竜種の恥晒し。それが、俺なのだ。
はぁ…、と一層大きなため息を吐く。
皿を洗う手が止まっていたようだ。ガチャガチャと、洗う作業を再開する。水場は、好かない。自分の不甲斐なさが想起しやすい。無心に近い状況になるからだろうか。それでも、必要なことなので、やるにはやるが。
これが終われば、とりあえず、住居の見当をつけ、片付けに入らなければならない。
良物件だった。惜しい、とは感じる。けれど、手放すのは確定事項だ。なぜならば、暴風竜ヴェルドラが消えた。封印されていたのは知っていたが、消滅にしては、時期が早過ぎる気がしなくもない。
だが、消えたものは消えたのだ。何にしろ、移動せねばならない。
魔王たちがジュラの森の不可侵条約の解消も、そう遠くはない。そうなれば、姉が来てしまう。早く、早く…。
………焦りは禁物だ。焦ったって、上手く行きはしない。
今までだってそうだった。
功を焦って、死ぬほど痛い目に、詳しく思い出したくないほど酷い目にあったことがあった。地道に、コツコツと。何が必要か。どうすれば手に入るか。順序を目的から手段へ遡って考える。一つだけはダメだ。最低でも、四つ。候補を決めろ。
「あれ、小屋がありますよ。」
「おぉ、本当だ。ツイてるな。」
「こんな辺鄙な場所だ。捻くれたバァさんじゃないといいがな。」
………外から声がする。恐らく三人の冒険者か。消えたヴェルドラの調査にでも来たのだろうか。いや、にしてはとんでもなく早いので、封印の洞窟自体の調査に来ていて、偶々、ヴェルドラが消滅したタイミングだったのか。どんな偶然だ。
一旦、手を洗い、拭いて、扉に向かう。
取り敢えずは、この御客人のお相手でもしてから、考えよう。
「へぇ〜、ずっとここに住んでるんですか。」
「随分な変わり者だな!魔物も多いってのに。」
「さすがに失礼やしませんか、リーダー………。」
三人に茶を出す。さすがに、椅子は一脚しかないので、机を退かし、申し訳ないが、床にコップを置く。椅子がないのに、食器類が沢山ある理由は、ホラ、その、………趣味だ。来客は、数百年来、無い。
どうやら、こちらをヒトだと思っているようで、何故街に住まないのか、魔物の襲来とか不便なことは無いのか、といった質問もしてくる。生憎と、寿命の違いやら、そもそも竜種の気配が濃いので魔物は近づきにくいことやらあるので、なんやかんやでこの場所は都合が良い。それも、手放さなければならないのだが。
「暴風竜ヴェルドラも、いなくなっちゃいましたもんね。」
彼らには、ヴェルドラの住処が近くにあるので魔物がそこまで寄って来ないことにしてある。あと、多少なりとも腕が立つとも。
実際、数十年に数回、血気盛んな魔物が襲ってくることもある。だいたい、夕飯の肉に変わるが。わざと残酷に殺しているので、その世代の魔物なら暫くは襲撃してこないのだが、世代が変わるとまた別。
たまに、家にも被害が出るので、近年は魔物避けの呪いをしている。
「なぁ、アンタ。街まで来る気は無いか?ドラゴンがいなくなったら、魔物どもが活発になってくるんだろ。危険じゃねーか。」
「確かに、知り合いが魔物に襲われましたー、ってのは目覚めが悪いな。今なら、護衛しますぜ?」
優しいな、彼らは。見ず知らずの相手にここまでの親切にできるなんて。しかし、悲しいことにその好意は受け取れない。
この森を出て行く気はあるが、残念ながら、まだ片付けが済んでいない。そう時間もかからないうちに身支度が済むとはいえ、数日は必要だ。
「心遣い、感謝する。だが、心配無用だ。準備が出来次第去る予定だ。」
「その間、魔物に襲われたら?」
「そのときはそのとき。必死に抵抗するさ。」
本当はそんじょそこらの魔物じゃ、傷一つつけることは叶わないのだが。竜種は伊達じゃない。
ハハハ、と笑えば、少し心配そうな目を向けられる。
なので、山育ちだから大丈夫。と冗談めかして言う。
「心配だな。」
「心配だぜ。」
「心配ですね。」
めっちゃ不安がられた。
三人衆を見送ったところで、運搬用の台車を作る。
明日は本格的に荷物をまとめ始めなければならない。
スピードが命。しかし、焦ってはならない。
一つの焦りが全てを台無しにすることだってあるのだ。
昔、やらかした。
ーーよし。
そうこう考えているうちに台車が出来た。
空を仰げば、一番星が見える。
もう夜だ。そろそろ寝よう。数日かけて準備を整えよう。
そう思って、我が家に入った。
ここから始まるミリムの弟の苦難。
我らがリムル様に会ったり、ミリムにどやされたりして欲しい。
(文章が欠如しているので)誰か書いて。
*次回の投稿が決定いたしました。が、プロットはまだです(震え声