ドラえもん のび太の境界防衛記   作:丸米

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ここから、かなり原作とは違う展開となっていきます。


A・B級合同訓練①

――とある日。

ボーダー本部の会議室には大勢の隊員が集められていた。

 

「皆々方、任務ご苦労。多忙な中集まっていただき感謝する」

 

”A・B級隊長合同緊急会議”と銘打たれたその会議には、文字通りの面々――A・B級各隊の隊長が集められていた。

彼等を正面に、壇上には城戸正宗司令、忍田真史本部長、根付栄三メディア対策室室長がそれぞれ並び、現在演壇には城戸の姿がある。

 

「今回の会議について趣旨を説明すると、――近いうちに起こると想定される、近界民による再度の大規模侵攻についての報告だ」

近界民による、大規模侵攻。

城戸正宗の口から飛び出たその言葉に――空気が、強張る。

 

「迅の未来視と、鹵獲したトリオン兵と門の解析によって、二週間以内に大勢の近界民による侵攻が起こる可能性が高くなった。新型のトリオン兵が導入され、黒トリガーを持った人型近界民も複数名侵攻に加わる。組織設立から鑑みても間違いなく最大規模の戦いになるであろう。これより、忍田本部長より各報告事項と戦況想定、また基本的な方針について説明してもらう。――忍田本部長、よろしく頼む」

城戸は演壇から下がり、隣に立つ忍田と入れ替わる。

 

「本部長の忍田だ。まず皆、集まってくれてありがとう。先程司令から説明があった通り、ほど近い未来に最大級規模の侵攻が予想されている。その上で、幾つか皆にお願いしたいことがある」

忍田はここまで言い切ると、周りを一度見渡す。少し申し訳なさげに柳眉を下げ、頭を下げる。

「まず一つ。出来る限りこの二週間の間、三門市外に出ることを控えてほしい。無論、のっぴきならない事情がある場合は致し方ないが、市民の安全を確保するためにも皆の協力をお願いしたい」

「あら?私その間でドライブする予定だったんだけど------」

緊迫している空気も何のその。紫の隊服に身を包んだ女性がそんな声を上げていた。

A級6位隊長、加古望であった。

「控えてくれ」

「解ったわよぅ。仕方ないわね」

不満げに一つ鼻息を鳴らし、彼女はそう呟いた。

 

「------隊務規定違反の俺達も参加すんのか?」

背もたれに身体を預け、実にダルそうに会議を聞いていた男は、忍田にそう言葉を投げかける。

――影浦雅人。

元A級であったが、隊務規定違反によりB級に降格した、影浦隊。その隊長である男だ。

影浦は忍田から――その背後に立つ根付を鋭い眼光で睨みつけ、嫌そうに表情を歪める根付を一瞥し、再度忍田に目線を合わせる。

忍田は一つ溜息をつき、返答する。

 

「緊急性の高さを鑑みて、隊務規定違反により降格中の影浦隊、二宮隊も参加してもらう。でなければこの会議には呼んではいないよ、影浦」

「ふーん。------ま、退屈はしなさそうだから別にいいけどよ」

そう呟くと、影浦はもう興味をなくしたのだろうか。視線を下げ、目を逸らす。

 

「今回の侵攻に際して、対策を講じなければならない。――敵は強力かつ未知の近界民となる。未知数故に、防衛を成功させるには隊同士の連携も重要になってくる。よって、近日中にA・B級合同での合同訓練を実施するつもりだ。参加を頼む」

「------合同訓練、ですか」

「そう。鹵獲したトリオン兵から入手したデータから新型トリオン兵に関する情報を入手した。その新型はスピードと硬さを両立した、今まで相手にしてきたトリオン兵とは別次元の強さを持っている。今回の侵攻における基本はこの新型の対処となる。よって、隊合同で訓練を行い、新型の対策を取ってもらうと共に、黒トリガーとの対戦を想定しての連携訓練を行う。特に、ランク戦で対戦する事のないA級とB級の連携に力をおいて訓練を実施するつもりだ」

「------隊に所属していない隊員も、訓練に参加させますか?」

B級7位東隊隊長、東春秋がそう尋ねる。

「基本はしない。無所属の隊員は連携に関しての経験も薄いだろうからな。ただ、加入することで著しい戦力の向上が認められる場合にはその限りではない」

「候補はおりますか?」

「今のところ二人だ。野比隊員に、剛田隊員の二名。両名とも隊員の推挙が多かったために参加を要請するつもりだ」

「参加させる場合、一旦人員に空きがある隊に加入させる形となりますか?」

「いや。彼等は隊に縛られず自由に動かせるメリットがある。劣勢に置かれた区域に派遣するための戦力としての運用を視野に入れ、出来るだけ多くの隊と連携させるつもりだ」

「------成程。了解しました」

東は一つ頷き、そのまま口を閉ざした。

その様子を見て、忍田は周りを大きく見渡し、言葉を紡ぐ。

 

「これから、大げさではなくボーダーの存亡にかかる戦いになる。一つ間違えれば、市民への被害も出るかもしれない。最悪の場合――かつての大規模侵攻以上の厄災になる可能性も十分にある。これまで皆は本当に防衛の為に頑張ってきてもらった。――だからこそ、この危機を乗り越えなければならない。乗り越えなければ、結局はあの時と変わらないという結末になってしまう。――我々は、もう二度とあんな事を引き起こさない為に、ここに集まったのだから」

 

一拍、ここで忍田は言葉を切った。

 

「ここにいる皆は、色んな考えを持っていると思う。時には、主義主張の食い違いでぶつかり合う事だってあっただろう。――だが、いまここに限っては。この侵攻を食い止めなければならないという意思は。ここにいる皆は共通して持っているものであると私は信じている」

 

だから。

力を貸してくれ。

 

そう頭を下げる忍田の言葉に――各隊長は各々反応の仕方は違えど、同じ事を頭に浮かべた。

近界民を撃退する。

そして、――かつての悲劇を食い止める。

そんな、思いを。

 

 

「――という訳で、はい。君も訓練に参加してもらうから」

絶句。

 

眼前には――菊地原士郎(最近A級隊員であることを知った)がおり、本部内で天気の話でもするかの如き気軽さで地獄への招待状を渡した。

「く、訓練?」

「うん。訓練」

「何で!?」

「何でといわれても、訓練だからとしか言えないんだけど-----」

 

そんな、とのび太は思わず叫ぶ。

 

「いやだ。僕は皆と訓練なんかしたくない」

「この前あれだけ個人戦してたくせに------」

「個人戦はいいんだ。だって勝つも負けるも僕一人じゃないか。でもチームで戦うのは嫌だ。絶対に何かしでかして怒られるんだ。そういう運命なんだ」

「ああ。君スポーツで皆に叩かれて死んでたタイプか。うん。確かにそんな感じだよね君」

「そんな事言うなよぅ!僕だって、皆と一緒に草野球することもあるんだぞ!」

「へー。で、どれだけ打ってるの」

「一分」

「は?」

「だから、打率。一分」

「-------」

「-------」

「使う方が悪いね、それは」

「そんな事言うなよぉ」

「一分って。百打席立って一本打っているだけだろ。何で百打席も君なんか使っているんだ。きっと監督も君と同じくらいのバカなんだろうなぁ」

「ひどい!」

ちなみに。草野球チームジャイアンズ監督の名は剛田武その人である。車椅子に乗って元気に罵声を飛ばし、指揮を執っている。

菊地原の言っていることは、特段何も間違ってはいなかった。

 

「まあ確かに。君が風間隊に来たら色んな意味で死んじゃうかもね。ほら、うちの隊長怖いから」

「怖いの----?」

「うん。君がずっと個人戦している間に、三雲とかいうB級新人を一回引き分けるまで24回連続でボコるくらいには」

「悪趣味な!」

「まあよかったね。君は基本的にB級隊を回ってもらうみたいだから。風間さんに会う事はないよ」

「よかった」

「で、君が最初に行ってもらう隊なんだけど」

「うん」

「えーとね-----よかったね。何だかんだ優しい人たちが集まっているところじゃないか」

「優しい人たちなの!よかった!なんて名前の隊なの?」

「うん。じゃあ伝えるよ」

菊地原はいつもの眠たげな表情を浮かべながら、告げる。

 

「弓場隊だね」

 

 




次話。ののさんの罵声がのび太を襲う------かもしれない。

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