ドラえもん のび太の境界防衛記   作:丸米

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弓場拓磨①

ドアを開けるまでもなく。

そこにはメガネのリーゼントが顔を上げ腕を組み睨みを利かせそこに立っていた。

 

「よく来たなァ。野比ィ」

それは。

かつてボーダーから帰宅しようとしたのび太を唐突に戦闘ブースに連れ込み二十本勝負を敢行した男の姿であった。

 

菊地原の話によると――優しい人だと。

あれぇ?

この人、この前の個人戦で何の躊躇いもなくシールドごとぶち抜いていませんでしたっけ-------?

案内された地図を見る。正しいように見える。されど、もしかしたら見えるだけなのかもしれない。部屋を間違えたのかそうなのか。

 

「------え、えーと。弓場隊長ですか?」

「おぅ。如何にも。俺の名前が弓場拓磨だ。なんだ、忘れたのか?」

忘れていません。

忘れていたのだと、思いこみたかっただけです-----。

 

「あの----なんで僕が」

弓場隊に呼ばれたんですか、と聞くと

「俺が指名したからだ」

と瞬時に答えが返ってきた。

 

どうもこの人は自分を気に入っているようだ。嬉しくはない。地獄の使者に気に入られていい事なんて一つだってないだろう。

「上の連中はお前に連携を叩き込んでほしいみてぇでなァ。じゃあどこの隊がいいかって話になったら------まあ、最初から連携がシビアになりやすい攻撃手主体のチームでやらせるのは酷だろうって話になった。なら、同じ銃手の俺が隊長やってるここがいいだろうって俺が言ってやった」

ありがとうございます。

その優しさが、今確実に追い込んでいるのです。のび太の心を。

 

「まァ俺としては上からお前に連携を叩き込む事を依頼されたわけだからな。適当にはやらねェ。------安心しろ。俺が、絶対にお前をいっぱしの銃手として成長させてやる。それくらいは保証してやるさ。――帯島ァ!!」

「はい!!」

唐突に叫び出された名前に、応答する声が一つ。

声と共に、ひょっこりと背後から何者かが姿を現す。

 

「こいつが今日から一時的に俺達の一員になる野比だ!しゃっきり挨拶しやがれェ!」

「うっす!――自分は弓場隊万能手の帯島ッス!隊長に匹敵する早撃ち技術を持つ野比隊員を、隊の一員として大歓迎します!!」

その人物は、膝丈くらいのハーフパンツを着込んだ、綺麗に日焼けした肌をした人だった。

性別は、ちょっと解らない。声は変声期前の少年にも聞こえなくもないし、体つきは少年そのものといった姿をしている。外見ではどちらなのか、判断がつかなかった。

その彼、もしくは彼女は――両手を背後に組み、胸を逸らし、叫び出すが如き声でそうのび太に歓迎の声を上げた。その光景は、あれだ。頭を刈り上げて眉毛も剃って炎天下の中でひたすら叫んでいるあの彼等の如き姿を――如何にもそんな風情ではない少年か少女かが行っているのである。

 

何だ。

何だこれは。

 

「――おうおういい声出しじゃねーか帯島!で、そこのメガネが新しい隊員か-----」

また更に。隊室の後ろ側からどすの効いた女の声が聞こえてきた。

そして、現れる。

その女は何もかもが大きかった。

声も大きい。身体も大きい。起伏も大きい。もうその存在感だけでのび太を後ずさらせるには十分な迫力であった。

 

「こんなメガネがうちの隊長から八本取るなんてなぁ。見た目だけじゃあ人は判断つかねぇんだな。――あたしの名前は藤丸ののだ。これからびしばし隊長がお前の面倒を見てやるからな。覚悟を決めやがれ」

凄く優しい目をしている。

なのに------なのに------何故にこんな風に、言葉も、態度も、突っ張っている風なのだろう。のび太はもう別世界に足を踏み入れたような感覚が全身を襲って行った。

 

野比のび太。

現在地獄の一丁目。

 

 

「――野比。お前、まだチームで戦ったことないんだったな」

「-----はい」

弓場はのび太を改めて隊に紹介すると、すぐさまその足で訓練用ブースに向かった。

「まあそいつは仕方ねェ。誰だって最初は一人だったんだからよォ。だがな、野比。上に上がりたきゃ、一番必要なのは連携だ」

何もない空間の中、複数の人型の的が現れる。

「明日、俺達は二宮隊とやる。二宮隊は元A級で、かつ隊長が射手No1の実力者だ。まともにやりあったらかなり厳ちぃ相手だ。――だが、やるぞ。俺と、お前。二人で二宮サンを落とすんだ」

「射手No1------」

のび太は、射手と一度相手をしたことがあった。

トリオンキューブを分割し射出することで戦う射手は、銃手よりも遥かに攻撃のバリエーションが豊富であった。身にまとわせたトリオンキューブを時間差で射出する事も出来るし、威力や射程の調整も可能ときている。とかく利便性が非常に高いトリガーだ。

「おう。あの人は本当に強い。だが俺とお前二人で、しっかり連携をとれたら勝てない相手でもねえ。――その為に、連携の練習はしておくぞ」

「連携の練習って?」

「これから、俺とお前で対二宮サンを想定した訓練を行う。耳かっぽじってよく聞けよ野比ィ」

 

弓場はブースの中心に立つと、的をぽんぽんと叩く。

「二宮サンの強さってのはな。攻防共に質量が半端じゃねぇ所にある。単純な話だ。馬鹿火力と馬鹿堅ぇ防御が両立してる。こっちの攻撃は弾かれるのにあっちの攻撃は防げねぇという理不尽を効率的に押し付ける強さがあっちにはある」

「-----そんなに凄い人なの?」

「おう。――で。俺は二宮サンと戦うときは、基本的にバイパー弾でシールドを拡大させてからアステロイドを放つ戦術を取っている。二宮サンのシールドは俺の弾丸でも貫けねぇからな。お前もその戦法は使っているだろう?」

「う、うん」

「まず大前提。正面からの撃ち合いではまず勝てねぇ。よっぽど条件が噛み合わねぇ限りな。シールドも張れねぇくらいの距離感での撃ち合いに持っていければ勝機はあるが、まあそんな都合よくはいかねぇからな。基本的にシールドを広げさせてようやくまともに撃ち合えると考えておけ」

バイパーによる多角的攻撃とアステロイドによる直線攻撃を組み合わせ相手のシールドを割る。それはのび太の得意戦法でもあるが――二宮を相手にするには、その戦法は必殺技というよりマストアイテムのようなものなのだろう。

「バイパーを撃つ。んで、アステロイドを撃つ。この二つの手順をクリアしなければまず二宮サンに俺達は勝てねェ。だが一人で二つその役割を担ってちゃその間に削り殺されちまう。――だから。俺達のどちらかが、どちらかの役割を担うんだ」

「バイパーを撃つ役とアステロイドを撃つ役を僕等二人で分けるって事?」

「そうだ。理想は俺がアステロイドでお前がバイパーだな。中距離でお前がバイパーを放って二宮のシールドを広げさせて俺がアステロイドで仕留める。中距離での射撃が正確なお前と近距離での火力に秀でた俺。基本線はこの役割分担で行きたいが――無論、状況によっちゃあ逆になる事もある。俺が近距離から二宮サンの防御をバイパーで崩して、お前のアステロイドで仕留める。そんな可能性もあり得る」

弓場のアステロイドは火力に秀で、弾速も速い。だが射程が短い。

のび太のアステロイドは火力に秀で、射程も長い。だが弾速が遅い。

だからこそ近距離での戦いにおいて速さも火力も兼ね備えた弓場が担い、防御を崩す役割をのび太が担うのは一番合理的な役割分担だ。弾速の遅いのび太のアステロイドだと、二宮が足を止めているタイミングでなければ防がれてしまう可能性が高い。

だが、その合理的な戦術は二宮にとって簡単に思いつく戦法であり、対策の取りやすい戦法でもある。

 

「だから。両方やる。お前が崩し俺が仕留める訓練も、俺が崩しお前が仕留めるのも。両方だ。ちゃちゃっと息を合わせるぞ」

 

 

それから。

「野比ィ!一拍タイミングが遅い!いいか、俺が懐に入ってアステロイドを構えた瞬間には、バイパーが相手に到達していなきゃいけねぇ!二宮サンはシールドの切り替えも滅茶苦茶速ぇからそれじゃ間に合わねぇ!もう一回だ!」

「野比ィ!気張れ!正面に俺がいても構わず撃て!視界だけじゃなく、オペレーターが転送するデータからも相手の位置を把握して弾丸を置けるようにならなきゃ、直線での援護が間に合わねぇぞ!訓練の間は俺に幾ら誤射っても構わねぇから思い切りやってみろ!お前なら出来る!もう一回だ!」

「いいぞ!野比ィ!やっぱり俺が見込んだ通りだ!思い切りやっても敵に当てるつもりの弾丸はそうそう仲間には当たらねぇんだよ!特にお前くらいウデがあればな!さあ、もう一回――」

 

ある意味で、弓場は優しい――という菊地原の感想がのび太には最初理解できなかった。

だが、訓練を通してその意味をようやく理解できた。

 

この人は怖い人じゃない。厳しいだけだ。

求めるハードルが高いだけで、そのハードルを越えるまでしっかりと最後まで面倒を見てくれる。

最初は怖かったが――だが、その根気強さの底にある優しさを次第に理解できるようになり、訓練にしっかりと入る事が出来た。

 

そして。

「――よし。かなり出来るようになったな。なら、次のステップに行くか」

 

三時間ほど訓練を重ね。

弓場はそう言った。

 

「上からこいつのデータを各隊に送られてきた。せっかくだから使わせてもらおうじゃねえか。――今度、近界民の侵攻で現れるとされる新型のトリオン兵だ」

 

弓場はオペレーター室の藤丸に指示を送る。

その瞬間――ブースには二足歩行のトリオン兵が現れる。

 

両腕が肥大化し盾のように側面を埋め、顔面の中心に丸い眼球のような球体が埋め込まれたそれは、ブースの中心に鎮座していた。

 

「こいつ相手に、さっきの訓練と同じことをするぞ。――気張れ、野比ィ」

トリオン兵が駆動する。

その瞬間に――弓場は睨みつけるように目を細め、銃を抜いた。




この時点における原作との相違点は、今のところ大きく
①大規模侵攻時に出撃しなかった(もしくは招集できなかった)部隊が参加する事。
②ラービットの情報を先んじてボーダー内で共有している事。
③合同訓練の実施によってアフト人型勢の対策を講じる事
の三つです。
これがどう戦いに影響を与えるかは、今後のお楽しみと言う事で。
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