ドラえもん のび太の境界防衛記   作:丸米

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弓場拓磨③

「もう一度状況を確認するぞ。今回の試合は俺達と二宮隊との試合だ。マップは市街地B。どっちかのチームが全滅すれば負け。タイムアップは無し。簡単なルールだ。マップも慣れている場所だ」

「うっす」

「手はず通り。帯島は転送後から俺と合流する事を優先。外岡は俺に近い方角の狙撃地点につけ。その上で、野比。お前は基本的には単独行動からの巣を張りつつの遊撃。距離が近ければ俺と合流する動きをしつつ、犬飼・辻のどちらかが近ければそちらに迎撃。――野比。お前は最悪、単独で辻・犬飼両方とやりあうことになる。しっかり準備しておけ。いいか。辻・犬飼が合流している時は倒そうと思うな。その時は俺達側に相手を誘導しつつ、引きながら戦え。その動きは、お前は得意なはずだ」

「はい」

「それじゃあ――もう時間だな。いいか。今回は二宮隊相手だ。強敵故に、転送位置によって大きく作戦が異なってくる。落ち着いてそれぞれ役割を果たせ」

「ウッス!」

「それじゃあ、やるぞ!」

野比のび太。

――人生初の、チーム戦に挑みます。

 

 

転送が行われ、試合が開始される。

――どうだ。

のび太は、祈るような気持ちで仲間の転送位置を確認する。

 

――よし。

ほぼほぼ、理想通りの転送位置となった。

弓場と帯島は西側の近い位置に転送され、外岡は弓場の位置から見て北方に寄った場所にいる。あの位置ならば、外岡は少し移動すれば弓場・帯島を援護できる。

 

そこから反対側の場所に自分が転送されたのも――それも含めて、理想的だ。

 

「スパイダー」

のび太は建物の間を縫うようにスパイダーを張っていく。

一つの通りを張り終えると、素早く次の場所へ。

 

今回ののび太の役割は、犬飼と辻の迎撃及び合流の妨害である。

 

犬飼・辻を見かければ撃つ。それまでの間は、スパイダーを張り続ける。

 

市街地Bは建築物の高低差が大きく、射線が通りにくい。狙撃手のいない二宮隊は、当然射線を避けながら移動をしつつ、索敵に努めるであろう。

ならば、そこを埋める。

二宮隊が通るであろうルートを想定し、そこにスパイダーを張っていく。

射線が通らない。かつ現在ほぼ位置が固まっている弓場・帯島・外岡の居場所へと伝わるルート。

 

そこを埋めていく。

そうすることで――二宮隊全体の移動を鈍くさせる。

二宮隊の合流を遅らせ、駒を浮かせ、単独で狩れる好機を作る。

 

それさえ、出来れば。

勝機は――。

 

 

「――野比ィ!気をつけろォ!」

唐突に、藤丸の声がのび太の脳内に送り込まれる。

 

「二宮サンだ。――来るぞ!」

 

移動するのび太の上空から、鳥の群れが襲い掛かるが如くトリオン弾の雨あられ。

それはハウンドだ。

だが――威力も射速も段違いの、ハウンドが。

 

のび太はそれを見かけた瞬間に、瞬時に両トリガーをシールドに切り替え逃走を開始する。

 

抉れるコンクリ。破砕されていく建築物。

張ったスパイダーは無惨に散り散りになっていく。

 

何とか弾雨を防ぎ切った、その背後を振り返る。

 

そこには。

「――野比を捕捉した」

黒のスーツを全身に纏った、冷たい表情をした男が一人。

ポッケに両手を入れ、身体全体に三角錐状のトリオンキューブを纏わせ、男はのび太を見ていた。

何の感情も浮かんでいない、それを見て――のび太は思った。

 

これは魔王だ、と。

 

 

「――隊長!野比が二宮サンに捕まっちまった!」

「――了解!外岡ァ!野比への援護、間に合うか!?」

「移動すれば何とか-----隊長!犬飼先輩と辻先輩が合流してこっちに向かってきてます!」

「位置は!」

「弓場さんの位置から東南に三百メートル弱っす!かなり近い!」

 

「------チッ」

ここで、この戦いの絵図が大方決まった。

のび太と二宮。弓場・帯島と犬飼・辻。

 

「――隊長!どうしますか!?」

このどうしますか、は――つまるところのび太か弓場・帯島か、どちらを援護するか、という意味だ。

二宮に捕まったのび太は、このまま時間がたてば落とされる。

そして、外岡が援護をした所で助かる保証はない。更に言えば、のび太が落とされれば、援護によって位置が判明した外岡は確実に二宮に落とされることになる。

 

ならば。

のび太に二宮を釘付けにしてもらっている間に、外岡と連携して犬飼・辻を落とし、二宮と相対した方がいいのではないか。

 

弓場の判断は、早かった。

「外岡ァ!野比の援護に向かえ!」

「了解です!」

 

迷うことなく、弓場はそう判断した。

「-----帯島。多分あの二人は本腰入れてこっちを撃退しようとはしねぇ。俺達をこの場に釘付けにして、のび太を落とした二宮と合流する心づもりだろう。そっちの方がやり易い」

「-----はい」

「外岡ァ。お前は二宮の()()()を塞いでいけ。藤丸は野比に逃走経路を指示。こっちは二宮サン側に寄りつつ、犬飼と辻を迎撃する。援護、しっかりキメろよ帯島」

「はい!」

「――さて。それじゃあ相手してやろうじゃねぇか」

目視範囲に、辻をまず見つけた弓場は――瞬時に引き金を引いた。

 

 

二宮隊の最初の方針はこうだった。

転送位置上、のび太と二宮の位置が近ければ――迷わず二宮はのび太を真っ先に落とす。

 

「恐らくあの新入りが駒として一番機能するのは、攻撃面では弓場との連携。補助面ではスパイダーによる移動妨害。合流されても面倒で、放置していても面倒だ。真っ先に落とすに限る。――奴と俺は恐らく相性が悪い。落とすのにそう時間はかからんだろう」

「二宮さんよりも俺たち二人の方が新入り君との距離が近い場合はどうします?」

「その場合は、二人がかりでやれ。単独で接敵された場合は無理して相手をするな。射線を切りながら足止めをしておけ」

「了解」

「基本的な流れは、新入りを撃墜してから連携しての弓場の撃退だ。俺が新入りの所に向かっている場合は、恐らく弓場と帯島が合流しているだろう。二人揃っている時は無理に相手をするな。足止めをしておけ」

 

そして。

転送位置はのび太にほど近い場所であった。

周囲を索敵していた二宮はのび太が設置したスパイダーを発見。「狙撃手の射線が封じられる」条件を満たす周辺ルートをオペレーターの氷見と連携して炙り出し、のび太を発見するに至った。

 

その後は――張り巡らしたスパイダーごと吹き飛ばす目的でフルアタックハウンドを放ち、現在に至る。

 

「------ く!」

のび太はバイパーを放ちながら、二宮から逃げる。

当然のことながら――分厚い二宮のシールドを貫けるわけもなく、背後から襲い掛かるハウンドの猛襲から逃げ続ける。

 

――逃げるにしても、バイパーは撃ち続けなければだめだ。

二宮がシールドを解除し、フルアタックでこちらに攻め入った瞬間――それがのび太にとっての終わりであることが如実に理解できてしまう。

片手でハウンドを撃ち続けられるだけでも、もう何も手出しできないほどの威力がある。あれが二倍になって、逃げきれる自信がない。

 

「――野比君!」

死ぬ思いで逃走をしていると――狙撃手の外岡の声が聞こえてくる。

 

「野比君!足はまだ削れてない?」

「はい!大丈夫です!」

「解った!送信されるルートに沿って逃げて!」

 

のび太は言われるまま――脳内に送られてくるルートに沿いながら、走っていく。

そこは、比較的建造物が少なく、開けた街路。

 

――ここじゃあ、ハウンドからの逃げ道が。

建造物によってハウンドの軌道を制限する場所がない。これでは、避けられない。

 

二宮もそれが解っているのか、建造物の陰に隠れハウンドを生成する。

 

「-------」

が。

それは放てなかった。

 

彼方から飛来した銃弾によって。

二宮はシールドを張り、それを防ぐ。

 

「成程――。野比の援護に来たか」

のび太はそのまま銃弾の軌道とは逆方向に逃走をはじめ、その先にある建物に入っていく。

 

「――狙いは解った。ならば」

二宮の視線は、のび太から――弾道の先にある、外岡へ向けられる。

 

「まずは外岡を落とす」

二宮は、そのまま――外岡の方向へと、走り出した。

 

 

「-----トノ!二宮サンが向かってきているぞ!」

「はい----。つっても、あとやる事って粘るくらいしかないっすよね」

「おう!出来るだけ粘って死にやがれェ!」

「そんな気合入れて言わなくたって-----。まあでも、本当にそれしかないもんねぇ」

外岡は、接敵してくる二宮に、せめて足止めせんと足元へ弾丸を放っていく。

無情にも、シールドに阻まれていく。

「それじゃあ、出来るだけ粘るんで――あとはよろしくっす」

そう表情を変えぬまま呟き――向かい来る魔王に向け、弾丸を放っていた。

 

 


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