ドラえもん のび太の境界防衛記   作:丸米

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太刀川慶②

避ける。

防ぐ。

 

全方位から襲い掛かるアステロイドを。ハウンドを。バイパーを。合成弾を。その間隙から襲い掛かる攻撃手の襲来を。

その全てを両手に持つ弧月に似たトリガーで弾き、避け、攻撃手を凄まじい速度で斬り裂いていく。

弓場とのび太のアステロイド――それも、トリオンのほとんどを速度に割り振った銃弾すら、太刀川に掠る事はなかった。

 

銃弾の支援を背に受け、影浦が二対のスコーピオンを連結させた”マンティス”が太刀川に襲い掛かる。

されど。

その刀身ごと圧し潰す旋空により、影浦はその身を両断される。

それと同時、刀を振り切った太刀川の懐に入り込むように、黒江が“韋駄天”を発動する。

太刀川は斜めにステップを一つ踏んで黒江の”韋駄天”の軌道から距離を取り、側面からの斬撃によりその首を刎ねられる。

 

その斬撃の勢いにより太刀川は瞬時に背後を振り返り――“カメレオン”を解き、今まさに襲い掛からんとしていた風間・歌川・菊地原の三名を、二つの旋空により斬り裂く。

 

――一連の攻撃手の対処を、全方位から暴風のように襲い掛かる最速のトリオン弾への対処を正確に行いながら、太刀川慶は行使していた。

 

「のびた。――たちかわさんの三方位に弾を撃って」

「解ったよ、遊真君」

のび太は遊真の指示通り、正面、左右にそれぞれアステロイドとバイパーを撃ちこむ。

太刀川は当然、空いた背後に向け引き、その弾丸を避ける。

 

「『弾』印+『強』印 二重」

その動きに合わせ――遊真は儀式で使われる円陣のようなものを空間に描きだし、それを踏む。グラスホッパーのように、自らを弾丸のように打ち出すと、足を背後に動かしていた太刀川へ飛び蹴りを行使する。

 

「おお。これが噂の黒トリガーか」

わははと笑いながら、太刀川はその攻撃を避けることは諦め、刃で受ける。

そのまま蹴りの威力で足を止めさせんと更に遊真は力を籠める――が。

 

刀身に蹴りを行使した瞬間、ふわりと自らの身体が浮く感覚があった。

「おお」

蹴りの勢いを殺すのではなく、体幹の押し出しと同時に行使された刀身の返しによって流す事で――足を止めず、遊真の急襲を防いだ。

 

「――うっわ。なにこれ。うっわ。えぐいわ」

 

ゴーグルを装着した男が、のび太の隣に立つとそんな事を言い始める。

 

「いや、太刀川さんえぐすぎひん?反則やん?なあメガネ君」

「うん」

「あ、自己紹介まだやったなぁ。俺は生駒達人いうねん。よろしく」

生駒は――旋空を放ちながら、のび太に声をかける。

その旋空は――今まで見たことのないほどの距離を駆け抜けていた。

何あれ、と思いながらものび太は言葉を返す。

「うん。よろしくお願いします」

「君の早撃ちもえっぐいなぁ。君と木虎ちゃんがやりあっていたの見たで。ええ感じやったなぁ。ええなぁ。女の子にモテそうや」

「モテるんですか!?」

のび太、驚愕の事実に思わずそう返してしまう。

「おう。なんせガンマンやガンマン。女の子の憧れやでガンマンなんか――あ」

が。

先程の旋空よりも長射程のそれが、生駒の首を刎ね飛ばしていた。

 

「お喋りとは余裕だな、生駒」

太刀川の言葉が聞こえると同時――生駒は生首のまま、思わず呟く。

「------え?マジ?俺の旋空、負けたん?」

「おう。すまんな。これも新しいトリガー能力のおかげだよ」

 

トリオン体が再構築されると同時、生駒は特に表情を変えずに嘆く。

 

「そんな。旋空の距離で負けてしまったら、もう俺の特徴なんかこのゴーグルしかないやん。女の子にもモテへんし」

「安心しろ。俺も大してモテない」

「くそぅ、隠岐め-------」

何やらこの場にいない名前を吐きながら、生駒はまた太刀川の下へ向かう。

 

「-----あのトリガー、予想以上だな。神経伝達機能が向上するだけで、旋空の距離すらも変わるのか」

「旋空の起動時間を短くすればするだけ、距離が延びますからね。神経が発達している分、振りと軌道を合わせる事は容易になっているのかもしれないですね」

 

旋空は、起動時間が短ければ短いほど射程が伸びる。

太刀川は現在、トリオン体の神経伝達機能を極限まで拡張されており――剣の振りと旋空の起動を合わせることが、いとも容易く出来ているのだろう。

 

「いいな。成程、こういう感覚か――。これで」

 

太刀川は二刀を構えると、全方位から向かってくる攻撃手たちを――。

 

「忍田さんの真似ができる」

 

断続的に行使される旋空の連撃によって――その全員を斬り裂いた。

その全てが、生駒以上の旋空の射程を持ち、また凄まじい連続性のある斬撃であった。

 

「――じゃあ、これまで」

 

迅がそう宣言したと同時。

十分の時間が終了し、戦闘が終わる。

 

「――楽しいなぁ、迅。もっとやろう!」

「そりゃあ太刀川さんは楽しいでしょうよ------」

出水公平はため息混じりにそんな事を呟いた。

 

「千発百中が聞いてあきれる-----一発も当たらんかった」

「------ヴィザって近界民は、これでも倒せないの?」

 

ボーダーきってのトリガー使いが集結し、行使された攻撃の数々を一発も被弾することなく防ぎ切った太刀川慶。

正直、黒トリガーよりもよっぽど反則じみた強さを手にしているようにも思えるのに、まだ足りないというのか。

 

「足りない。というか別に太刀川さん単独で倒そうなんて思っていない。本当に、この太刀川さんと、俺と、ある程度の戦力を集中させてようやく勝ち筋が見えるか、ってぐらい」

「何じゃそりゃあ」

「という訳で、まだまだ鍛えるよ。――それじゃあ、これからもう一度再開するね。皆、配置について―」

 

こうして。

太刀川慶への訓練は、続いていった。

 

 

「よし。太刀川さんの訓練終わり。僕はもう帰る」

「はい。まだまだだよー」

ずるずると引き摺られるのび太。

その先には、また違ったブースに。

 

「今度は、全方位から唐突に“窓”が現れるから、それに反応して弾丸を撃ち込む訓練ねー。頑張れーメガネ君」

 

 

「よ---よし。六回連続で、成功したぞ------。もう、もう終わりだ-----」

「残念。メガネ君。今度はこっちだ」

 

「今度はこの自動追尾してくるトリオンキューブを避けながら標的に弾丸を撃ち込む訓練ね。ちなみにこのキューブに触れると、弾丸消されるから、ちゃんと間を縫うように撃つんだよ。頑張ろう、メガネ君」

 

 

「もう帰る」

「帰さない」

 

「今度は、この移動する黒いトリオン物質に弾丸を撃っていく訓練ね。この中に的があって、それをオペレーターがデータ解析して送るからその的に向かって撃ってね。あ、あとこのトリオン物質ブレードに変換されながら君を襲ってくるし、時々気体化して君の中にトリオンを仕込んでくるから、オペレーターの指示に従ってちゃんと距離を保って戦ってね。はい、じゃあスタート」

 

 

 

 

 

「今日は頑張ったな、メガネ君」

「うん。――焼肉食べれるなら何でもいいや」

そして、現在。

のび太は迅と、途中で合流した髪の長いおじさん――名前は東という人らしい――に連れられ、焼肉屋にいた。

おじさんはどことなくあんまり感情が感じられない目をしているが、常に笑顔を浮かべている。何というか、妙な底知れなさみたいなものが溢れていて、のび太は少しだけあった瞬間に後ずさった。だが、この人が焼肉を奢ってくれると言う事で一気に掌を返し”いい人”認定に至ったのであった。まる。

 

「今日は俺の奢りだから。好きに食べなさい」

東は、のび太にそう優しく声をかけた。

「ありがとうおじさん」

「おじさんかぁ。ああ、もうそんな年か----」

「二十五でしょ、東さん」

え?

二十五?

「うそだぁ!忍田さんだって三十歳でしょ!?」

「残念。嘘じゃないんだなぁこれが」

「あっはっは」

何だか腑に落ちない顔をしていたのび太だったが、――そういえば、と思い迅に尋ねる。

 

「ねえ迅さん」

「何だい?」

「ドラえもん、何処にいるか知ってる?」

最近、ドラえもんの顔を見ない。

ずっと嫌味を言ってくる奴ではあったけど、こうも顔を見ないとちょっと不安になってくる。

 

「ドラえもんは、次の大規模侵攻に備えてちょっと特別に改造されているんだ。――あの子も、大規模侵攻で戦ってもらうことになるから」

「え、でも」

ドラえもんはロボットであって、トリオンはないはずだ。

トリオンを持たないドラえもんが、どうやって敵と戦うというのか。

「トリオンは無くても、戦う事は出来るんだよメガネ君。――その時になれば、解るから」

「-----解った」

腑には落ちないけど、ここは無理やりに納得する事にした。

 

そして――東(25)からも幾つか質問が飛んでくる。

 

「君は今隊にいないんだね」

「うん。――誰からもスカウトされないもん」

「あっはっは。大丈夫。今は皆余裕がないだけだからさ。大規模侵攻が終われば、君は人気者になれる」

 

東はそう言うと、目を細める。

 

「――野比君」

「ん?」

「多分、この前訪れた弓場辺りにも言われただろうけど――ボーダーは君の味方だ」

「------」

「今度の大規模侵攻。――一緒に、危機を乗り越えて行こう」

そういう東の声は、ほんのりと温かかった。

 

――そうだ。

ここで頑張らなければ、危機を乗り越えられないんだ。

 

焼肉を頬張りながら、のび太はそう思った。

 

 

「――じゃあ、メガネ君。じゃあね」

「うん」

夜遅く。

のび太は自宅まで迅に連れられ、家に届けられた。

 

家を、見る。

 

今パパとママが、ここにいる。

その幸運が、今なら解る。

 

――大規模侵攻。

今度の戦い。

のび太には、誓った約束がある。

 

「頑張ろう」

そう心に一つ誓い、彼は玄関を開いた。


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