ドラえもん のび太の境界防衛記   作:丸米

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ちょい文字数多め。すみません。


大規模侵攻①

時は、訪れる。

1月20日。

 

ボーダー隊員全員が、その日ボーダー本部に集まっていた。

 

「――そろそろかね」

 

”門”の発生が、断続的に入っていく。

かつてないほどの多さで、空が黒く染まっているようだ。

 

「――それでは、皆。それぞれの役割を果たしてくれ」

転送されるトリオン兵の位置情報が、各隊に送られる。

それに合わせ――雪崩のように本部から部隊が送られていく。

 

第二次大規模侵攻の、始まりであった。

 

 

・ ・ ・ ・大規模侵攻における、敵勢力の戦略予想。

 

・各地域にトリオン兵を分散し、ボーダー戦力を分断させる。

・分断後に敵主戦力である黒トリガー並びに特殊トリガー使いを派遣。ボーダー勢力のかく乱並びに戦力の分断・低下を図りつつ、C級隊員並びに雨取千佳の拉致を狙ってくると考えうる。

 

先兵で勢力を分散させ、後に主戦力によって目的を遂行する。敵勢力は非常に有用なワープ機能を持つ黒トリガー使いがいることで、戦力の分散→集中の速度が速い。市街地への被害を出すわけにはいかない以上、勢力分散の敵の戦略を無視するわけにもいかず、用兵戦術に大きな制限をもたらすと考えられる。

 

よって、以下の指示を下す。

・各部隊の狙撃手総員並びに指示を受けた隊員は新型試作トリガー“ユビキタス”のセットを命ずる。冬島隊、冬島慎次隊長は試作トリガー遠隔制御・補助の為開発室待機。

・各隊指示を受けた者は新型試作トリガー“スケーリングライト”のセットを命ずる。使用に関しては、現場指揮官並びに本部司令部の承認によって使用する事。

・太刀川隊太刀川慶隊長は特殊拡張機能機能を持つ弧月の使用を許可。本トリガーには緊急脱出機能が付いていない為、慎重な立ち回りを求める。

・本侵攻における雨取千佳C級隊員の重要性を鑑み、特例として緊急脱出機能付き正隊員用トリガーの所持を許可する。ただし、雨取隊員には作戦に随行してもらう事とする。

・A級隊員、迅悠一を特例として作戦日のみS級に戻し、黒トリガー“風刃”の保持を認める。

 

以上。

健闘を祈る。

 

 

「――何故ですか、城戸司令!」

鬼怒田本吉は珍しく怒りを顕にし、城戸に食いかかっていた。

「何故雨取隊員を作戦に随行させるのですか!」

城戸は表情を変えずに、鬼怒田の叫びに応える。

「緊急脱出機能の付いたトリガーを雨取隊員に持たせるべき――そう主張したのは貴方だったはずだ。鬼怒田開発室長」

「それは彼女が連中にとっての目的であり、他隊員よりも危険な立場にあるからだ!――新型トリオン兵は緊急脱出機能を無効化する機能もある!攫われるリスクがあるのに、何故作戦に随行を!」

「だからだ」

城戸は、変わらない。

鬼怒田の怒りに。何の変化も示さない。

変わらない声音。変わらない表情で。

言う。

「彼女がそこに居れば、敵勢力はある程度彼女を中心に動いてくれると言う事だ。今回の侵攻に関して、敵勢力との大きく差があるのは用兵の速度だ。そちらをコントロールできる武器があるのならば、積極的に使うべきだ」

「しかし――」

「今回の侵攻に際して――市民へ被害を加えない為、C級にはこの侵攻を伝えないという決定を下したのは我々だ」

その言葉に、鬼怒田は押し黙る。

「C級を敵の釣り針として使うのだ。――そこまでやるのだ。雨取隊員だけを特別扱いするわけにはいかない。トリガーを渡したのだ。ならば戦ってもらう」

「------」

鬼怒田は、表情を崩し、怒りから――自分の発言と相手の発言の正当性の差への悔しさへ転嫁させる。

 

「――それに、これは雨取隊員の希望でもある」

「なに?」

「戦う手段を貰うのならば、戦うと。そう彼女は言っていた」

「-----」

「今回は彼女は作戦の要であるからこそ、ボーダーきっての戦力を付けている。これでも不満かね」

そうだ。

少し話しただけでも、解る。

雨取千佳という子は、何処まで行ってもいい子なのだ。

自分だけが特別扱いされて、安全地帯にいることをよしとする人間ではない。

感情を理論で覆いつくしただけの自分の論理が、何処までも理を通している相手の論理に打ち勝てるわけもない。

解っている。

解っているのだ。

----それでも、鬼怒田本吉は。

あれくらいの子供を持つ、一人の親なのだ。

 

「-----無事を祈るぞ。千佳ちゃん」

あんないい子が。あんなに素晴らしい子が。

敵勢力の手に渡るなど、もってのほか。

 

――そうだ。城戸に文句を言う前に。やるべきことがあった。

「------開発室に戻ります。邪魔をした」

 

鬼怒田本吉は自分の職場に戻る。

そうだ。

今行っている仕事だって、一人でも多くの命を救うために必要な事なのだ。

 

ならば。

自分は自分の役割を、果たそう。

 

 

「――という訳で」

「――呼び出された訳だ」

「よろしく、チカ」

「えっと----よろしくお願いします」

 

現在。

雨取千佳の眼前には、三人の男がいる。

 

太刀川慶。

迅悠一。

空閑遊真。

 

「あの------何で私に」

護衛なんか、と言おうとして

「うん?そりゃあ、君につられて敵で一番強い奴が来るから。俺はそいつを迎撃する為に来てる。迅もな」

「だから、実質的な護衛は遊真と言う事になるな。――遊真、頼んだぞ」

「任された。――狙撃手隊の人も、よろしく」

そう遊真が言うと、彼方から通信が入る。

「あいよー。隊長取られて暇だからよ。きっちり頼まれてやるよ」

「------よろしく。こっちも隊長とゾエさんが別の隊と組んでいるから、手を貸すよ」

冬島隊隊員、当真勇

影浦隊隊員、絵馬ユズル

現在この二人が、千佳を中心に、狙撃体勢に入っている。

 

「それじゃあもう一回作戦を確認するぞ。――まあ至極簡単な作戦だ。アメトリを餌に新型をおびき出す」

「あまとり、ね。太刀川さん」

「お、すまんすまん。――んで、それを俺達でぶった切っていく。ぶった切っていくうちに、何処かのタイミングでアメトリを捕まえようと黒トリガー使いが出てくると思うから、俺と迅でそいつの迎撃。そんで空閑と狙撃手二人は援護をしつつ、アメトリの離脱のお手伝い。そんで、当真はこっちに残ってもらって黒トリガー使いの迎撃の手伝い。ユズルはアメトリの護衛を続行。――これでいいな?」

「OK。――そんで、俺は基本的に射程がギリギリ保つ距離で撃っとかなきゃいけねぇんだな」

「おう。今回の黒トリガー、無茶苦茶射程長いからな。普通の狙撃手の範囲で戦ってしまったらぶった切られるらしい」

「あいよ」

「そいじゃあ――こっちも頼むぜ」

「りょーかい。取り敢えず、まあ――」

 

“門”が開かれ、大量の新型トリオン兵が落ちてくる。

 

「――雑魚共をぶった切ろうかね」

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

重く、弾けるような――大砲のような銃声が響き渡る。

 

新型トリオン兵と、モールモッドが集まる地区の中。

剛田武はレイガストを構えながら――重機関銃を脇に抱え、ぶっ放していた。

圧倒的威力・速度を誇る弾雨で面制圧を行使する一方で。

 

「ジャイアン君、援護するよ!」

「気持ちいいぶっ放しようだな!じゃあこっちも――ギムレット!」

「-----ハウンド」

「------影浦先輩、俺こっち側やるっす」

「好きにしやがれ。俺は俺で勝手にやってやるからよ!」

 

北添、出水、二宮、緑川、影浦がその弾幕を縫うように、援護をしていく。

ジャイアンの面射撃によって足を止めたトリオン兵を、余ったところを北添と出水が埋め、新型を攻撃手である緑川と影浦が狩っていく。

 

「おー、すげぇ弾幕!剛田君、その調子!」

「お前が何処を狙っているかは解っているからよぉ。好きに撃ちまくれ」

 

機動力に富み、乱戦が得意な攻撃手である緑川と影浦は――弾幕の援護の中好きに動ける環境において、十全な働きを期待できる。

「おっしゃ―!!このままぶっ壊しまくってやるぜ!近界民共!」

 

 

 

「それじゃあ、犬飼先輩、野比君。タイミングを合わせてね」

「了解」

「------はい!」

 

白磁のような白い肌を持つ細身の女性隊員――那須玲の声に犬飼とのび太が応えると、三人はそれぞれバイパーとハウンドを放つ。

頭頂部に向かう弾道によって一番堅い両腕を頭に掲げていた新型の眼球部分に―ー曲がりながら弾が集まっていく。

 

「いくよ、辻君」

「は、は、はい------」

 

熊谷の言葉に辻が少し動揺しながらも――一連の弾幕を張り終えたトリオン兵の群れに対し、両者は踏み込んでいく。

弾丸の間隙を突き、襲い掛かろうとする新型の動きを旋空によって牽制を入れ、射撃陣の第二掃射の時間を作る。

 

「――絶対に、通さない」

 

のび太はそう呟くと――また銃を構え、弾丸を撃ち放つ。

 

 

 

各々、それぞれの部隊が新型に対処しながら、戦況は続いていく。

――事前にしっかりと新型トリオン兵”ラービット”の存在を共有していたからであろう。

 

未だ、トリオン兵によって戦闘不能となった隊員はいなかった。

 

初動において――ボーダーはかなり理想的な展開となった。

トリオン兵の分散を想定した配置によってスムーズに排除を行う事が可能となり、未だ被害は出ていない。

 

「思った以上に、玄界の戦士たちは優秀ですな」

ヴィザは少しばかり表情を緩めて、そう呟いた。

アフトクラトル艦内の作戦室。

人型近界民の六人――ハイレイン、ランバネイン、ヒュース、ミラ、エネドラ、ヴィザが盤面を見つめる。

「分断の作戦を読み取って配置が決まっている。各地域、ラービットを単独で倒せる主戦力を一定数固めておき、連携して戦っている。いやはや。まさかここまで作戦が読まれようとは」

「------初動が思わしくないな。少しばかり駒の動きの調整が必要だろうな」

 

ふむん、と――ハイレインは呟く。

「金の雛鳥の居場所は掴めたか?」

「ええ。ですが」

 

金の雛鳥――雨取千佳の周辺には、大量の残骸と化したトリオン兵の山が積み上げられていた。

「玄界側もどうやらこちらの狙いは解っているようですな。――手練れを固めて警護している」

「------」

「如何しましょうか?ランバネイン殿とエネドラ殿でかく乱している中で、私とヒュース殿で金の雛鳥を捕獲する手はずでしたが----」

 

「-----作戦を変更する」

「どのように?」

「ある程度戦力を削りたい。こちらの戦力の分散に合わせて敵勢力もきれいに分散されているなら、そこに戦力をある程度集中的につぎ込めば区画に“穴”を開けることが可能だろう。よって。ヴィザ。エネドラ」

「はっ」

「おう。俺の出番かァ」

 

「――二人には、区画の“殲滅”を命令する」

「-------ほう」

「簡単な話だな。要は全員ぶっ殺せってことだろ?」

 

そうだ、とハイレインは呟く

「金の雛鳥の捕獲は、まずは敵戦力を一定程度削ってからだ。――区画の殲滅が済み次第、そこを起点に兵を集中させ、敵配置を乱す」

「了解いたしました」

「おう。やってやるぜ」

ヴィザは表情を変えず、エネドラは嗜虐の笑みを浮かべながら。

 

「では、行ってまいります」

ヴィザ。

紛うことなきアフトクラトル最強の老剣士。

――そんな彼が“殲滅”の命令を受け、動き出した。

 

変わらぬ、笑みのまま。




次話。おじいちゃん頑張る編。

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