ドラえもん のび太の境界防衛記   作:丸米

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ユビキタス→移動用トリガー。このトリガーを使用すると、本部開発室に存在する“どこでもドア”の前へワープする事を可能とし、また“どこでもドア”からあらかじめマーカーがセットされた場所へワープする事も可能。前話においてエネドラが追い込まれたポイントは、このマーカーが置かれている場所であった。簡易的な緊急脱出としても本部に待機している部隊の派遣にも使用できる利便性の高いトリガーであるが、トリオン消費量が非常に激しく連続の使用が難しい。

スケーリングライト→物質干渉トリガー。使用すると物質を大きくする/小さくする光を発生させる。ただし、この光はトリオンやトリオンで構成された諸々には干渉できず、一定時間後に大きさも元に戻る。

ドラえもん派生の新型トリガー解説でした。


大規模侵攻③

トリオン供給体が破壊されると同時。

エネドラは、トリオン体が砕け散り、生身の肉体がそのまま晒される事となる。

 

「二宮ァ。こいつどうすんだ?」

「黒トリガーを回収しろ。その後、ユビキタスでこいつを移送する」

「ああん?――あのトリガー、アホ程トリオン食うんだろ?何でこんなカスの為に使わなきゃいけねぇんだよ」

「どうせ黒トリガーは本部にもっていく必要がある。そのついでだ。それに敵に回収されても面倒だ」

「殺せばいいじゃねぇかこんなカス」

「あんなのでも、人質位の価値はある。いいから黒トリガーを回収するぞ」

「へいへい」

 

――クソが。やられちまった。ったく。早く回収しに来やがれミラの野郎。何の為にてめぇがいると思ってやがる。

エネドラは待つ。

自陣には、自在に空間を操る味方がいる。

 

窓が、開かれる。

 

「――あ?」

影浦が、そんな声を上げる。

黒トリガーを回収せんとエネドラに近づいたその瞬間。

 

ビキ、と。

自身の身体が砕ける音が――聞こえた。

 

影浦は愕然としながら――自らが攻撃を受けたことを、少し遅れて気付いた。

――何だってんだ。俺のクソ副作用が、全く反応しなかった。

 

――影浦。戦闘体活動限界。

そんな音声もまた、同時に。

 

「――回収に参りましたぞ。エネドラ殿」

一瞬にして、影浦の胴が真っ二つに断ち切られたその後――そんな声が聞こえた。

少ししゃがれた、されど明瞭な声。

ふっ、と宙に浮いた老人が――杖を手に現れた。

「-----遅いぞヴィザ」

「ええ。申し訳ありません」

「------さっさとこいつら片付けて、俺を回収しろ」

「いえ。そうは出来ませぬ」

「あん?」

「私が回収を命ぜられたのは――泥の王()()でございます故。――なので、申し訳ありません、と」

 

エネドラはその言葉の意味を理解するよりも早く。

 

手首が断ち切られ。

 

首が斬り飛ばされる。

 

「――ああ。そうでした」

そして。

「ハイレイン殿が、玄界のデータ解析能力を非常に警戒されておりましたな」

斬り飛ばされたエネドラの頭部にくっ付いたトリガー角もまた――粉々に斬り飛ばす。

 

一瞬の間に行われた凶行に――皆が皆、息を飲む。

血に染まった街路を前に、――特にジャイアンがショックを受けている。

 

「ミラ殿。回収が済みました。次の場に移りましょう」

「ご苦労様でした、ヴィザ翁」

黒トリガーを回収すると、老人はすぐさまに窓に移る。

 

その場に残されたのは――無惨に斬り殺されたエネドラの死体と、隊員のみであった。

 

「-----報告。黒トリガー、“ヴィザ”を確認。”エネドラ”を殺害後に泥の王を回収。“ミラ”の黒トリガーによってその場を離れました」

皆が動揺する中、二宮は冷静にそう本部に報告を行う。

 

びゅう、と一つ風が通り過ぎる。

やけに辺りは静かだった。

 

 

「玄界とエネドラとの戦いで確信した。玄界側はこちらの黒トリガーの情報も入手している」

ハイレインは、そう呟いた。

少しばかり表情を訝し気に歪めるが、それもすぐに切り替える。

「如何いたしましょうか?」

「こちらの情報が何処から漏れたのかは気にかかるが、今は置いておく。――情報が筒抜けならば、黒トリガーを小出しにするメリットはない。私も動こう」

「承知いたしました」

「――今の一連の戦いの中で、玄界側の戦力が割と安定して動きているのに対し、雛鳥の動きは非常に密集していっている」

「はい」

「恐らく。こちらの襲撃は読んでいたものの、末端である雛鳥までは情報を与えていないのだろう。好都合だ。まずは確実に雛鳥を抑え、この遠征の最低条件をまず満たす。――ヒュース。ランバネイン」

「おお。隊長。出番か」

「お呼びでしょうか」

「――初動のかく乱はランバネイン単独で行う予定であったが、こちらのトリガーが相手に知られている事が確定した。ヒュースはランバネインのサポートに付け」

「承知いたしました」

「では。――ヴィザ。共に行くぞ」

「ええ」

一つ微笑み。

ヴィザは、ミラが開く窓の中に入り込んでいった。

 

 

その時。

三雲修は多くのC級隊員と共に市民の避難誘導を行っていた。

隊に所属していないB級隊員は、主に警戒区域に近い区域でC級と共に避難誘導を行う指示が出されていた。

 

三雲修は、現状を理解している。

空閑遊真及び雨取千佳が作戦の基幹となる役目を負っている事。新型トリオン兵と黒トリガーが発生する可能性がある事を。

 

それ故に。この区画にも多くの隊が集まっている。

木虎含むA級嵐山隊や、B級上位の王子隊に東隊、下位の茶野隊------等々。

彼等は避難誘導の手伝いをしつつ、周囲を警戒し新型含むトリオン兵の排除も行っている。

 

市民の誘導を終え、トリオン兵の排除も大方終わった

その、瞬間。

 

「――では」

それが――突如として現れた窓の中から、出てくる。

 

杖を持った、老人。

その老人は――自らの周囲に、生物を象った大量のトリオン体を纏って、集まるC級の中心に、立った。

 

「始めましょうか」

 

そして。

「う----うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

響き渡る、C級隊員の悲鳴。

老人が身に纏った様々な生き物が、ぱっ、と弾けるように周囲に飛び散り、身体に触れる瞬間――ぐにゃあ、と崩れ落ちるように、その身体が変形していく。

崩れ落ちた身体は一瞬輝き、――四角形のキューブに変形する。

老人が身に纏った分がなくなると、上空に開いた窓から更に流れるように追加されていく。

 

「――く」

周囲にC級が大量に存在する関係上、弾トリガーは使いにくい。一足先に異変に気付いた嵐山はすぐさまその老人を撃とうとするものの、撃てない。

 

「――この野郎!」

茶野隊が、すぐさま果敢にも老人に突っ込んでいく。

 

が。

斬り裂かれる。

 

老人は一つたりとも、挙動らしい挙動を行っていない。

なのに自らが何をされたのか認識も出来ぬまま――茶野隊は、緊急脱出をした。

 

その後。

老人は偶々近くで巡回していた二人組――奥寺・小荒井の二人組を視認する。

恐らくは指示が飛んだのだろう。すぐに脱出せんとその場から離れる動きを見せるが、それよりも速く見えない斬撃が二人を切り裂き、更に緊急脱出の数を増やしていく。

 

「――あれが“ヴィザ”か」

王子は、特に表情を変えずにその様子を眺めていた。

 

「――見えない。あれに対応するのは難しそうだね。東さん。どうします」

「------手が空いている狙撃手を、全員ここに集める。アレは、現状太刀川か迅がいなければ歯が立たない」

「------C級は?」

王子は、――確認の為に、そう東に尋ねる。

答えは、解り切っているのだが。

「――後回しだ。現状、あの黒トリガーを止める方法がない」

「了解です。じゃあ東さん。こっちも少しだけ時間は稼ぎますので。狙撃地点まで逃げてください――おっと」

 

その時。

攫われるC級目掛けて走っていくB級隊員が王子の横を通り過ぎていく。

 

「はい。ダメ」

「ぐ-----!」

 

王子は、そのB級隊員――三雲修の襟首を掴んで、引き倒す。

 

「何でですか!今、皆が-----」

修は襟を引っ張った王子に向け、焦りの表情を浮かべながら王子を見やる。

「今君が向かって行っても、ただ倒されるだけだよ」

「でも------!」

「――君が今やるべきことは自殺しに行く事かい?」

「-------」

修は、押し黙った。

「ここから脱出するんだ。君では足止めも出来ないだろう。ならば別の役割を見つけるんだ」

修は-----表情を思い切り歪めながらも、その言葉に一つ頷いて、その場を離れていく。

 

「タイムリミットは-----あのキューブを全部回収し終わってからだろうね」

この場にいたC級隊員は全員キューブ化され、――上空の窓へ送り込まれていく。

ヴィザは、その警護を行うべく、その場にいるのだろう。あのキューブが完全に回収されるまでは、あの場に動かずにいてくれる。

 

「-----あの子にあんな風に言ったけど、僕等も僕等で出来ることは少ないんだけどね」

「-----動き出したと同時に、引きながらハウンドを撃とうか?」

同隊の、蔵内は尋ねる。

「うん。出来るだけ断続的に、時間差を生みながら撃とう。今回はあの標的に当てるんじゃなくて、ハウンドを防ぐためにリソースを割かせて足止めする事が目的だから。――カシオも、頼むよ」

「了解」

王子隊、樫尾も頷く。

 

「嵐山隊が中距離での弾幕。僕らがサイドからのハウンド。――それが通用できるかはわからないけど、でもやるしかない。何とか、太刀川さんが到着するまでの足止めをするんだ」

 

 

「――終了しましたな」

キューブは回収され、窓は閉じる。

残されたのは、老人が一人。

 

「――まずは、二隊」

 

老人は王子隊、嵐山隊の二隊を確認すると同時――動き出す。

 

「――星の杖」

そう呟くと同時。

 

迫りくるハウンドも。

張られていく弾幕も。

それら全てを当然の如く弾き返して――キン、という音だけを残す。

 

風景を絵に収めて、そのままカッターで切り落とすように。

周囲の建築物含め、障害物諸共風のような自然さで斬り落としていく。

 

――王子隊、総員緊急脱出。

――嵐山、時枝、緊急脱出。

 

「二人逃がしてしまいましたか。一人はワープで脱出し、もう一人は星の杖の有効範囲外に逃れましたか。はてさて」

 

ヴィザは表情を変えない。

ただ、只管に、淡々と。

戦場である事の特異感すらも発することなく、あくまでも自然な足取りで――進んでいく。

 

「では。まずはこの区画の戦士たちを排除致しましょう」

声音すら変えることなく。

そよ風のような処刑宣告を、ただ一人呟いた。




おじいちゃん書くの楽しい。
まだまだ書きます。

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