「――メガネ君の今のトリガー構成ってどうなってんだっけ?」
合同訓練終了後二日後くらい。
のび太は迅にそう尋ねられた。
「えっと----」
のび太は、トリガー構成を迅に見せる。
メイン:アステロイド(拳銃) シールド カメレオン スパイダー
サブ:バイパー(拳銃) シールド グラスホッパー バッグワーム
「-----成程ね。ねえ、メガネ君。ぶっちゃけ、カメレオン今までまともに使ったことある?」
「うーん-----」
正直、そこまでない。
以前遊真と戦った時に、逃走用に使った時くらいだ。
「逃げるのに使えそうだから組み込んだんだろうけど、レーダーには映るし、使用している間他のトリガーは使えないし。中々使いどころが難しくない?」
「うーん-----」
そもそも。
のび太はここ最近――「自分が生き残るために」逃走をするというよりも、「スパイダーの設置による相手の動きを妨害するために」逃走をする方向に変わってきている。
個人戦を積み重ね、弓場隊との連携訓練で如実に感じたこと。
それは――自分の強みは、攻撃手の間合いでも戦える早撃ちの技術と、通常の銃手よりも長い距離感で戦える読み撃ちの技術である事の自覚。
部隊戦において、この技術は逃走よりも、支援・迎撃でのほうが光る事。
それを積み重ねていくうちに、カメレオンはいつの間にか使う事がなくなってた気がする。
「それでね、メガネ君には是非とも導入してほしいトリガーがあってね」
「何?」
「テレポーター」
にっこりと笑いながら、迅はそう言った。
※
という訳で。
現在、のび太はカメレオンの代わりにテレポーターを入れている。
それから迅をはじめとした色々な人と訓練を重ね――テレポーターの活かし方が理解できてきた。
例えば、
「――テレポーター」
のび太はそう呟くと同時、ラービットの側面へと移動しバイパーを放つ。
放たれた全方位攻撃にラービットの腕を開かせる。
その瞬間に――辻と熊谷の二つの旋空がラービットの腹を斬り裂く。
発動すれば、対象の側面を取れるという解りやすい性能が、今ののび太にとっては非常に重要な機能となっていた。
攻撃手を支援・援護する手段が、攻撃手という壁の隙を縫うように撃つだけではなく、攻撃手の壁を利用して側面へと移動しての挟撃という選択肢も増えた。
「野比君。今度はこのポイントに弾を置いて」
「解りました」
那須玲の指示が飛ぶと同時、のび太はグラスホッパーで移動を行い、ラービットの背後を取る。
頭部にある電磁波発生装置に撃ち込むと同時、犬飼の援護と共に那須のバイパーがラービットの眼球へ襲い掛かる。
当然頭を伏せ、空いている手を使いそれを防ごうとするが――那須のバイパーはくるり、と螺旋状に弾道が変わり、ラービットの防御をすり抜け眼球を貫いていた。
「――おおかた仕留めたかな」
ふぅ、と一つ息を吐き熊谷はそう呟く。
「-----南東の地区が黒トリガーで壊滅させられたみたい。そこから新型の新型――各黒トリガーの性質を受け継いだトリオン兵が大量に投入されたみたいです。それが今、ここに来ている」
「了解氷見さん。本部に増援要請お願い」
「もうしている。村上君と風間隊がここに来ている」
「ありゃ?風間隊も?」
「――迅さんからの報告で、この周辺が“人型近界民”が投入される可能性が高いらしいの」
「-----了解。こりゃちょっと気合入れなきゃだね。狙撃手の増援は?」
「今各地に飛んでいて、あまり数がいないらしいの。茜ちゃんが落とされたら追加補充するって」
「うん、了解。――って話しているうちからかぁ」
黒の“窓”が開く。
「皆――黒トリガーじゃない方の角つき人型近界民だ」
現れたのは。
「では――援護を頼むぞ、ヒュース」
「了解しました」
大砲じみた大型のトリガーを持った、大柄な男。
黒い塊を山の如く身に纏わせた青年。
「――では、ゆくぞ」
トリオンが噴射され、欠片は磁力を纏う。
ランバネインとヒュースが、――のび太の眼前に現れた。
※
感じる。
見えなくとも、感じる。
空気の揺れが。
斬撃が通り過ぎる風圧の変化が。
感じた時には、斬り裂かれている。
「ほう」
太刀川はバックステップによってヴィザの斬撃を避ける。
その動きすらも―ーヴィザには意外なものだった。
「――迅!」
「あいよ!」
太刀川が迅の名を呼ぶと同時、迅もまた風刃を構える。
黒トリガーを構えられた瞬間、ヴィザの意識がわずかながらそちらに流れる。
されど、それは囮。
本当の狙いは――。
「――ハウンド!」
雨取千佳から発せられる――黒いハウンド。
巨大な正方形のそれが細かく分割され――ヴィザに襲い掛かる。
「------成程。よく練られている」
ヴィザはそう呟きつつも、その全てを星の杖で防ぐ。
されど、防いだ結果。
”鉛弾”のオプションが付いたハウンドによって、星の杖の刃には幾つもの黒い重しが乗っかる事となる。
「アメトリ、十分だ!離脱しろ!」
「はい!」
千佳はハウンドを射出し終えると同時、その場より離脱する。
そして――重しをつけて初めて、その姿の視認が可能となる。
幾重もの回転する刃。
まるでヴィザを中心に回る衛星のようなそれらが――これまで視認すら不可能なほどのスピードで回っていたのだ。
「――忍田さん。指定したポイントに狙撃手を配置して」
迅がそう指示すると、ヴィザを四方から囲むように、外岡、奈良坂、穂刈、半崎がユビキタスで転送される。
「じゃあ皆、太刀川さんを援護して」
狙撃手はそれぞれの配置につくと同時、ヴィザに向け狙撃を開始する。
狙撃は星の杖により弾かれる。
だが、そうして狙撃のタイミングと合わせるように、太刀川が星の杖を掻い潜りながらヴィザの懐へと入っていく。
「――ヴィザ翁。援護します」
狙撃地点を確認したミラが、窓を開く。
上空よりそれぞれの地点でラービットを投入し、狙撃手の無力化を図る。
が。
投入されたラービットは、即座に粉々に打ち砕かれる。
「-------」
全身黒ずくめのトリガーを身に纏った空閑遊真の襲撃によって。
窓が開かれた瞬間には高速移動によってポイントを移動しつつ、ラービットを無力化していく。
「いいぞ、遊真。このまま狙撃手の援護をよろしく頼む。――あ、次はこっちのポイントっぽいね」
「了解」
迅のサイドエフェクトによりポイントを先読みし、遊真はそちらに移動する。
狙いすましたラービットの投入は、常に遊真が先回りし瞬時に撃退する。
――十分に、対策がされている。これはこれは。
ヴィザは、内心驚嘆していた。
――少しばかり、本腰を入れなければなりませんかな。
放たれていく弾丸を弾き、迅の黒トリガーを警戒しつつ――眼前の青年に刃を走らせる。
踏み込み、弾かれていく。
本来ならば、耐久力の高い弧月の耐久性でも、星の杖を弾くことは出来まい。
だが――ドラえもんがもたらした名刀雷光丸の性質を受け継ぎしこのトリガーは、違う。
刃を通す相手によって、その強度や切れ味が変わっていく。
例え万物を斬りとおす星の杖の刃であっても、この刀は、折れない。
――ほぅ。相手によって強度が変わるトリガー。このようなものは、黒トリガー以外では初めてですな。
「よぅ。爺さん。――アンタ、滅茶苦茶強いじゃないの」
「そちらこそ。多少の重しをつけていたとはいえ、星の杖を斬り抜けられたのは今まで数えるほどしかいない」
「――やべぇ。ちょっと、本気で滾ってきた」
太刀川は身震いする。
こんな感覚になったのは、――はじめて忍田と戦った時以来かもしれない。
太刀川は、戦いに勝つためになら自分を駒として運用できる冷静さを持っている人間だ。
バトルジャンキーであることも間違いないのだが、それよりもこの男は戦況を理解し、適正に自分を動かす術もしっかり持っている。
星の杖の回転刃を潜り抜け、目の前に立つ老人の佇まい。
理解する。
自分が戦ってきたどんな人間よりも――この老人は、強い。
「では、手並みを見せていただきましょう。私の全霊をもって相手を致しましょう」
ヴィザは変わらぬ表情のまま――剣を、抜いた。
※
「――雷の羽!」
大柄な男は身に着けた手甲と肩口から、大量の火砲を撃ち放つ。
「――く」
狙いを定められた熊谷は、シールドを展開するも簡単に貫かれ緊急脱出する。
「――くまちゃん!」
那須玲はそう叫びながらも、迫る弾雨を避けていく。
那須は、機動力に富んだ射手だ。
横殴りの雨風のような火砲放射を障害物を利用して避けながら、バイパーを放つ。
ランバネインはそれを幾つも発生させたシールドで防ぎながら、那須に狙いを定め集中砲火を放っていく。
路地に紛れ、一旦弾道から逃れる動きを那須が行う。
その瞬間――上空からヒュースが現れる。
「――く」
黒の結晶体が降り注ぎ、それにより発生した磁場により身動きが取れなくった那須の頭上に――ランバネインの弾雨が降り注ぐ。
――那須、緊急脱出。
「――きっついなぁ。あの二人が完全に役割分担している」
弾雨により足が削れた犬飼は、そうぼそりと呟く。
今の一連の動きだけでも、二人の近界民がどういう動きをしているのかが解った。
ランバネインが火砲の一斉放射を行い、散らす。そうして単独で袋小路に逃げ込んだ隊員を、ヒュースが狩る。
威力・弾速・射程・連射性全てを兼ね備えた弾丸を四方に撒き散らされるのだ。当然固まって行動するわけにはいかない。だが単独になると、応用性が豊富な“蝶の盾”を持つヒュースに狩られる。
「こっちも役割分担しないとね。――まずは木虎ちゃんの真似をしてでもここを逃げなきゃね」
削れた足をスコーピオンで補強し、犬飼は立ち上がる。
「――あ、野比君?生きてる?うんうん、生きてるならいいよー。一先ずだけど、あの飛び跳ねてる黒い奴を足止めするから、指定するポイントに来てくれる。――うんうん。そう。俺死に体だから、前に出てあいつを引き付けるから、その隙にあいつを撃って頂戴。よろしくー」
とはいえ、犬飼は木虎程スコーピオンの操作に慣れてはいない。スコーピオンで補強しようとも、機動力は幾らか削れてしまう。
すぐさま自らを捨て駒にする方向に頭を切り替え、犬飼は走り出した。