「――生駒先輩。私がアレを引き付けておきますから、旋空で叩き切ってください」
「木虎ちゃんが引き付けている間に旋空で叩き切る。了解」
「一々反芻しないで結構です」
木虎が前に躍り出る。
ラービットの攻撃を掻い潜り、取り巻き型のスパイダーによってぐるりと周囲を回るその瞬間。
木虎に気を取られ、脇の防御を見誤ったラービットに、生駒旋空が叩き付けられる。
べらぼうに長い射程を誇る旋空は、ラービットの腹を側面から叩き割る。
木虎がラービットの視線と防御を誘導し、高射程かつ高威力の攻撃手段を持つ生駒がその隙をつく。
――そうか。ラービットの視線を誘導するだけでも、木虎と生駒先輩には十分な隙となるんだ。
修は一連の動きから、そう思考を働かせる。
「アステロイド」
彼は木虎がまた次のラービットの懐に入ったタイミングを見計らい、眼球に向けてアステロイドを撃つ。
木虎への迎撃とそのアステロイドから防御する動きの両方を行使した結果――両腕が、防御から離れる。
生駒の旋空が、ラービットを斬り飛ばした。
「何というか。アレやな。俺攻撃手なのに、万能手の木虎ちゃんの方がバリバリ前に出とるやん」
生駒は二度目の旋空を放った後、一人ごちる。
「女の子の尻ばっか追ってるダメ男みたいやん」
「聞こえてますからね生駒先輩」
「すみません」
生駒もそれ以降は口を開かなかった。
生駒達人。
後輩女子に一切の頭が上がらない男であった。
――これが、上位トップランカーの動きなのか。
修は内心舌を巻いていた。
恐らく修が木虎と同じ動作をしようとしたならば、十数回は殺されているであろう。生駒の滅茶苦茶な高射程を持つ旋空にも完全に対応して、その軌道から完全に逃れている。
「ドラえもん。排除したわよ」
「ありがとう。それじゃあここにマーカーを設置するから」
上空からドラえもんが降り、マーカーを設置する。
「――忍田さん。マーカー設置した」
「ありがとう。すぐに増援を送る」
「――忍田本部長。戦況はどうなっていますか?」
「この地点から西南方向に角つきが二人出た。――あまりいい状況とは言えないな」
「-----私も増援に行った方がいいでしょうか?」
「いや。君と生駒と三雲君はこのままドラえもんの護衛を継続してくれ。増援はもうその場所から呼び出している」
マーカーが、輝く。
「------」
「------」
「おお。こんな感じか、新トリガー」
いつもと変わらない表情の二宮と、目が幾らか据わっているジャイアンに、ワープの感覚に純粋な感想を述べている出水の三人であった。
恐らくは、トリオンが十分に存在している人間を固めて、増援用に編成しているのであろう。
「マーカー設置ご苦労。後は任せろ」
そう二宮は言うと、ポッケに手を入れたまま二人を引き連れその場を離れた。
※
「あのジェットゴリラ君は面攻撃を無差別に撒き散らしている関係上、あの黒い奴がいる限りは建物の中に入ってこないと思う。だったら、手っ取り早く分断するには建物の中に入った方がいい」
犬飼は、のび太含む複数人の隊員に指示を告げる。
「面攻撃→分散→仕留めるっていう一連の流れを見る限り、建物に立てこもる隊員に対してはあの黒い奴が迎撃に入ると思う。――ポイントはあの小学校跡地ね。既に何人かあっちに入ってるから、俺達で追い込んで戦うよ」
犬飼は路地から出ると、その瞬間に走り出す。
――釣りだすのは難しくない。
ランバネインは言わば自動追尾ミサイルのようなもの。標的を見れば単独であろうが、開けた場所に出た標的は火砲の標準を合わせる。
「じゃあ皆――撃っちゃえ」
その瞬間。
犬飼の近くまで寄ったランバネインに、ポイントとして指定された小学校跡地から大量のトリオン弾が襲い掛かる。
それを空中機動を駆使し避けながら、ランバネインは小学校のポイントを認識する。
当然そちらにも“雷の羽”の弾雨を飛ばしていくが、――さすがに幾つもの障害物が立ちはだかる建物の中まで正確に当てるだけの精密性はない。
その瞬間に、犬飼は小学校とは逆のポイントへ走り出す。
「今だ野比君。釣りだすぞ」
犬飼を追おうと視線を向けるヒュースに、逆方向から弾丸が向かい来る。
百メートル程離れた、小学校に近い建造物から放たれる、のび太の弾丸であった。
狙撃を警戒してたヒュースは“蝶の羽”で難なくそれを防ぐが、――のび太の位置は、自身の射程範囲外であった。
ここで、ヒュースの頭の中には二択が発生する。
射程圏外からチクチク撃ってくるのび太と、その付近でランバネインを撃っている小学校に潜伏する隊員を狩るか。
もしくは、足も削れ死に体の犬飼を追うか。
犬飼は、恐らくヒュースがわざわざ手を下さずともランバネインの手で狩る事が出来る。連携をするまでもない相手だ。
ならば、選ぶべきは当然のび太であろう。
ヒュースがのび太に向け方向転換した瞬間、のび太はグラスホッパーを利用し小学校へ向かう。
迫りくる蝶の破片を必死に躱しながら、破片の隙間を抜くようにアステロイドを撃ち込んでいく。
どうやら、破片を操作し、角度を変え、磁力の力を用いて“逸らす”防ぎ方をしているようだ。
ならば。
「――やるな」
ヒュースはポツリと呟く。
一発、被弾していた。
のび太は弾丸を防ぐのではなく、磁力で逸らし防御をするという蝶の羽の特徴を逆手に取り――欠片の方向に合わせ丁度ヒュースへ逸れるように、直前にバイパーの軌道を変化させ、被弾させたのだ。
欠片の方向に合わせ正確に弾丸を放ち、その上で角度を合わせバイパーを曲げる――という二段階の離れ業を披露し、のび太は小学校の中へ向け走っていく。
のび太が何とか小学校へと入った瞬間、ヒュースはランバネインと通信を取る。
「――ランバネイン様。あの建物の中を排除します」
「こちらランバネイン。了解した」
ランバネインの了承を得て、ヒュースは小学校の中へ窓を叩き割り、入る。
その、瞬間。
「――なに!?」
ヒュースは、驚愕に表情を染める。
小学校跡地に存在していた外壁が、光と共に巨大化し――建物を覆いつくした。
周囲の光が遮断され、建物の中は暗闇に包まれる。
「――分断成功しました」
声が響く。
声の主が、ヒュースの眼前に立つ。
「これより、戦闘を開始します」
眠たげな眼を細め、黒い盾に黒い剣を構える、野武士のような雰囲気を持つ男が。
その目に、確かな意思を湛えて。
※
「成程。――確かに。お前は愚か者ではなかったな」
開けた場に躍り出て、ランバネインの前を通り過ぎた、黒装束の男。
ただの蛮勇かと思いきや。――死に体の身体一つを犠牲に、ヒュースとの分断を成功させた。
「-------」
一つ静かな笑みを浮かべ、犬飼は緊急脱出した。
「とはいえ、ヒュースがいなくなろうとも幾分効率が落ちるだけだ。――そう簡単にこの雷の羽が落ちると思うなよ、玄界の戦士たちよ」
次なる標的を見つけ出さんと、飛び立とうとしたランバネインは、
「むぅ」
頭上に降りかかる弾雨を見つけた。
その弾雨は――自身を囲むような軌道のものと、自身の身体へ向かうものとに綺麗に分かれていた。
「おお!」
自らの左右に落ちた弾は着弾と共に爆発し、そこから少し遅れて自身の肉体の一点に集中して降りかかる弾雨が降り注ぐ。
「やるではないか!」
その変則の全方位攻撃は、さしものランバネインといえ完全には防げず、手足と、体の一部に損傷が走る。
「――活きのいい得物が来たな。このまま仕留めさせてもらおう」
その表情を一気に破顔させ、ランバネインは飛び立つ。
「――あれで仕留められないか。やっぱりつえーな角つき近界民」
「-----出水。お前は"ランバネイン”の背後の位置につけ。俺のハウンドで奴を動かす。その軌道上に、バイパーを置いていけ。まずは奴を下に降ろす」
「うっす。――風間さんたちはもう来てるんですよね」
「ああ」
「了解っす。――風間さんたちに仕留めてもらうにも、まずはあのクソロケットマンゴリラを下に引き摺り降ろさねぇとなー」
そう言葉を交わしあい、両者は分かれる。
そして。
「--------」
ジャイアンもまた、バッグワームをつけ所定の場所でジッと待っていた。
「-----あの野郎共。仲間を殺しやがった」
今、彼は純然たる怒りが心に充満していた。
自分たちの街をぶっ壊した連中は。
――自分たちの仲間すら、平然と殺すことが出来る程の糞野郎共だったのだと。
そう理解して。
ただただ、許せなくなった。
――いいか武! どれだけ頭が悪くたっていい。けどな、仲間を裏切るような奴だけにはならないでくれ。
かつて言われた、親父の言葉が頭の中に反芻する。
そうだ。
あの言葉があったから。あの教えがあったから。自分はあの時に誰かを守る選択が出来たんだ。足が潰れても腐る事もなかったんだ。
故に。
許せない。
「――絶対にぶっ潰してやる」
早くここにこい。
あらん限りを――ここでぶつけてやる。