ヒュースは。
何となしに感づき始めた。
ことここに来て、――ランバネインとの交戦が続いているこの状況下で、ミラが自分を回収しに来ない意味を。
まだ戦況は続いている。撤退しているわけではない。それでも回収に来ない。
自分をもう回収するまでもない戦力であると判断されたか。
もしくは――そもそも自分は初めから邪魔者として処分される予定であったか。
エネドラは死んだ。
それはもう事前に知らされていた。ここで人格の変質が取り返しのつかないレベルになってしまったエネドラを処分する予定であることは。
------では、自分は?
「-------」
連行される中、ヒュースは――一つ、歯噛みした。
※
「――ヒュースがやられたか。存外にあっさりだな」
ランバネインはミラの報告を受けた後に、そう呟いた。
「――だが、問題ない。なに。少々手間が増えるだけだ」
ランバネインは一つ笑みを浮かべると、全身にトリオンを収束させ、全方位に向け放っていく。
それはまるで空爆のように、障害物諸共打ち砕き隊員を追い込んでいく。
「――うひぃ。恐ろしい。ありゃあ食らったら一撃で死ぬな。二宮さん、大丈夫ですか」
「何も問題はない」
「そりゃあよかった。――今玉狛第一と諏訪隊、そんで加古さんが到着したみたいっす」
「そうか。ならば一旦合流するぞ、出水。作戦を伝える」
お、と出水は声をかける。
今のところ――ランバネイン相手に手立てがない状態であった。
何にせよ、火力差が大きすぎる。現在までの手札としては、二宮・出水・ジャイアン・風間隊といった具合であったが、対空の勝負を仕掛けられる手札がこの中では射手である二宮・出水だけだ。隠密戦主体の風間隊は当然として、ジャイアンは近距離での火力勝負で活きる駒だ。地面に引き摺り降ろさないと、そもそもこの手札を使えない。
ボーダーでも屈指の射手である二人の攻撃であっても、ランバネインの牙城は堅い。
そもそも、攻撃が面射撃・爆撃に特化している故に雑に見えるが、むしろその分防御に思考を割ける為かランバネイン自体の動きそのものは非常にクレバーなものであった。
全方位攻撃と高機動、更にシールドの多重展開までできるランバネインの“雷の羽”。二宮・出水は互いにその合間合間で攻撃を行い、残りは防御一辺倒のまま終わってしまっていた。
「で、作戦ってのは?」
「俺とお前で役割を分け、そして適時交代していく」
「-----どういう役割ですか」
「単純だ。片方がフルガード。片方が合成弾を放つ」
「合成弾ですか?普通のフルアタックじゃダメですか?」
「奴の機動力を考えると射程が足りん。だからといって射程にトリオンを振りすぎると今度は威力が足りない。射程も威力もカバーするためには合成弾がいい」
「-----成程ね」
「奴が空にいるうちは、自由に軌道を変えられるバイパーと合わせられるお前の方がいいだろう。ある程度距離が詰まれば、俺が交代しよう」
「了解!」
合成弾のメリットの一つは、一発に込める上限を超える機能のトリオン弾を放つことが出来る点だ。
二つ分のトリオンキューブを合わせることで、単純に威力も射程も速度も上がる。
二宮がフルガードを展開すると同時――出水は合成弾を練り上げていく。
「それじゃあ――いい加減お空から降りてきやがれマウンテンゴリラ野郎」
※
「――ほお。弾丸の威力が上がっているじゃないか」
感心したようにランバネインは自らを追尾してくる弾丸の変化を感じ取る。
「――軌道が随分と複雑だな。ふむん」
円弧を描いて追いかけてくる弾丸ではなく、直線から曲線を繰り返して空飛ぶランバネインを追いすがる。軌道が読めない分、機動力を活かした回避が難しくなってくる。
「成程。あの戦士二人か」
黒ずくめの装束に身を包んだ男と、キツネ目の男。
二人を視認したランバネインは、――脅威と彼等を認識した。
「邪魔だな。排除させてもらおう」
ニッと笑んで、ランバネインは地上までの距離を詰めていく。
地上に近づき、二人を殲滅にかかる。
その時。
「全武装、起動」
「ガイスト起動。射撃戦特化」
「接続器、ON」
それぞれの声が、聞こえる。
二方向から様々な種類の弾丸が襲い掛かると同時、ビルの屋上から大斧を振りかぶる女が頭上から現れる。
「ほお!」
ランバネインは大斧による斬撃を機動力を活かし避けながら、――弾雨の発生源へと向かう。
高層建築物の群れの中、レーダーが示す場所には、端正な顔立ちをした青年が一人、建物の間に紛れランバネインに向け大型の銃を向けていた。
それを認識し、仕留めんと雷の羽を向ける。
その、瞬間。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
だみ声混じりの掛け声とともに。
横殴りの暴風が、自らを襲う。
「――おおぅ!」
その暴風は、凄まじいまでの威力を誇る。
凄まじい勢いで吐き出されているはずのその弾丸の群れは、二発も食らえば確実にシールドすら破壊する。一旦ランバネインはその場を離れる。
「逃げるなこのクソ野郎!テメエ等絶対にぶっ殺してやる!」
ジャイアンは再度上空へと撤退せんとするランバネインに向け――飛ぶ。
レイガストを装備し、スラスターを起動。ジェットを噴射するランバネインの頭上に叩き付けるように、襲い掛かる。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
レイガストで身を守りながら、アステロイドの弾丸を討ち放つ。
雷の羽の弾雨を一身に受けながらも、それでも中々崩れない。
スラスターがランバネインと衝突しながら、その身体を地上付近に押しとどめる。
ランバネインも上空への撤退よりも、ここはジャイアンの撃退を優先する。ジェット噴射を取りやめ、地上へ降り、その分迎撃と防御へリソースを回す。
超近距離での弾丸の応酬は、金切り声のように周囲に音を撒き散らしていく。スラスターの背後から弾丸を撃ち鳴らすジャイアン。真正面から多種多様な弾丸を弾き出すランバネイン。息もかかるほどの距離で、行われる応酬は、互いの身体を容赦なく削っていく。
――ジャイアンのレイガストも砕け散る。
それでも一発でも多くの弾丸を撃ち込まんと、最後までジャイアンは引鉄を引き続ける。
致命傷に繋がる部位を的確にカバーしながらも、さしものランバネインもその全てを防ぐことはできず、幾つか削られていく。
「――諏訪さん!堤の兄貴!ここだ!俺ごとぶっ飛ばせェ!!」
弾雨を一身に受け、崩れかけるその直前。
そうジャイアンは叫んだ。
「――よくやったぜ、剛田。ゴリラの足をしっかり止めてくれたな」
「あとは任せろ、武君!」
その両脇から。
散弾銃型のトリガーを抱えた二人組――諏訪、堤が、ランバネインを挟み込む。
「ぶっ飛ばしてやるぜ人型ァ!!」
近距離からの、高威力の面攻撃が今度は両脇より放たれる。
ある程度シールドでカバーしながらも、それでもランバネインの身体は着実に削れて行く。
――剛田、緊急脱出。
その音声が切れるその瞬間までも、ジャイアンは敵意を切らすことなく、最後まで引鉄を引き続けていた。
「――やるではないか」
削れた身体のまま、ランバネインは笑う。
「だが、まだまだ甘い!」
ジェットを次に横方向に推進させ、ランバネインは一旦諏訪側へ突っ込む。
その突進をまともに受け、諏訪は体勢を崩す。崩されたその身体に的確に弾丸を撃ちこまれる。そして振り返り様にまた弾丸を撃ちこまれ、諏訪と堤の双方が緊急脱出する。
「――旋空弧月!」
その、更に背後。
諏訪隊笹森が、カメレオンを解除し、弧月で斬りかかる。
「甘い!」
切っ先が届くよりも早く、ランバネインは弾丸を撃ちこむ。
「――やはり」
その瞬間、気付く。
笹森に弾丸が撃ち込まれたその瞬間、三方向から更にトリオン弾が襲来する。
それはランバネインに撃ち込まれるかと思いきや――周囲の建物に衝突し、爆風と共に煙を巻き上げる。
――煙幕代わりの爆弾!ならば!
その狙いは、ランバネインは気付く。
だが。
「ぐぉ-----」
その切っ先が届くにはあまりにも、早かった。
爆炎が上がり、煙も撒き散らされている。そんな事は関係ないとばかりに――三つの斬撃が、ランバネインの身体を斬り裂いていた。
「ふ-----ふははは」
トリオン体が崩れ去るその直前――ランバネインの姿が、消える。
爆風が消え、現れるのは風間隊の三人であった。
「-----こちら風間。人型近界民、対象“ランバネイン”を排除しました。身柄は、“ミラ”の黒トリガーにて回収され、ここにはありません」
「こちら、忍田。よくやった。――被害は八名か」
「これからどう致しますか?」
「-----まだ、対象“ハイレイン”が出現していない。もう一人の黒トリガーに注意しつつ、周囲の新型を狩ってくれ」
「了解です」
現在、エネドラ、ヒュース、ランバネインを撃退し、残すところはヴィザとハイレインを残すところとなった。
風間は一つ息を吐く。
――ここまで来てなお、本来の目的はまだ叶っていない。
黒トリガーの奪取。
まだヴィザの撃退が報告されていない以上、油断はできない。
「-------」
今は、とにかく太刀川と迅を信じるほかない。
風間は瞬時に思考を切り替え――新型の反応がある場所まで、動き出した。
次話。
多分おじいちゃん出るよ。