ドラえもん のび太の境界防衛記   作:丸米

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大規模侵攻⑪

「ご苦労。ヴィザ。――()()は成功した。このまま金の雛鳥を捕らえる」

分断。

それは、ランバネインとヒュースを固めてかく乱に利用したことによって――弾幕を張る事の出来る銃手・射手を多くそちらに割かせ、釘付けにする事が出来たという意味だ。

当初報告のなかったワープ機能を持つトリガーに面食らったものの、序盤のヴィザの区画殲滅とかく乱によって多く使用させた事で、この局面で使用を制限させる事が出来るようになった。

ワープは、黒トリガーの補助を受けるミラであっても相当な消耗を強いられる。そう何度も使用はできない。

よって、この局面で

「承知いたしました。――金の雛鳥が砦へと脱出した場合は如何いたしますかな?」

「その場合は私とお前で雛鳥をかき集める。徹底的にだ。――今回は十分な雛鳥を捕らえることが出来た。ならば、次回の侵攻で容易に脱出させられないよう、布石を打つ」

「成程」

 

雨取千佳が緊急脱出すれば、根こそぎC級隊員を拉致する。

――ヴィザによって金の雛鳥の人格部分の報告を受けていたハイレインは、その性質を鑑みた作戦行動を取る事を決めた。

今回の侵攻における目的は果たした。ヒュースとエネドラを排除し、十分な数の雛鳥も捕らえる事が出来た。

 

この侵攻で金の雛鳥たる千佳を捕らえることが出来ずとも、その精神面に深い楔を打つ。

 

すなわち。

“お前が逃げたせいで犠牲が増えた”という事実を、突きつける。

 

その楔を打ち込むことが出来れば。

今回の侵攻で捕らえることが出来ずとも、次に繋がる。

 

「では。私が邪魔な狙撃兵を排除していく」

 

ハイレインは、卵の冠を胸の前に掲げる。

生物を象ったトリオンが、渦巻くように蠢いていく。

鳥が。虫が。蜥蜴が。魚が。

空間を飛び、跳ね回り、泳ぎながら。

 

眼前には、奇妙な髪型をした男がいた。

星の杖の防壁を唯一突破する弾丸を放った男がこの方向にいるとヴィザから報告を受け、最初の転送先をここに選んだ。

当真はほぉ、とか、へぇーとかその動物の群れを眺めながら呟き、ハイレインに笑みを浮かべる。

その笑みは、何処かまだ余裕を感じさせるものだった。

 

「そう来ると思っていたぜ」

 

当真はそうハイレインに告げると地に手をつける。

その瞬間、当真の姿は――紋章が地面に刻まれると同時に、消えた。

 

「――ワープか」

ハイレインは一つ頷く。

「恐らく距離は然程稼げまい。ミラ。狙撃兵の動きをマークし、連携して仕留めていくぞ」

「了解です」

ハイレインは焦ることなく、ミラに指示を飛ばす。

この程度の距離など――窓の影と卵の冠の前では時間稼ぎにしかならない。

 

黒の窓に再度戻る。

身に纏わせた動物共が付き従うように窓の中に入っていく。

それは――巣穴に戻り、餌を持ち帰る親鳥そのものだった。

 

 

「なあ、爺さん」

「どうしましたかな?」

太刀川は、二刀で鍔競る中ヴィザに語り掛ける。

恐らくは時間稼ぎのための手段であろう、とヴィザは推測しながらも、それでも言葉を返す。

この局面に至れば、別に時間がかかっても構わない。ハイレインが狙撃手を排除するまでこの男をここに釘付けにできるのならば、それもそれでヴィザは自身の役割を徹する事が出来ているのだから。

 

「――そんな歳まで生きて、何でアンタ戦場にいるの?」

「はて?不思議な問いかけですな。戦場に年齢は関係はないでしょう?」

「老い先も短いだろうに」

「先など解りませぬ。良くも悪くも、戦場とはそういう場所でしょう。老いようが、若かろうが、平等に死にゆく。昔の私も、今の私も、先があると考えたことはないですから」

「――俺は、解らないんだよなぁ。死ぬか、生きるかの瀬戸際の怖さってのが、どういうものなのか」

「でしょうな」

玄界には緊急脱出システムがある。

倒されようと、時間を経れば戦場に復帰できる機構。

何度倒されても復帰できるからこそ、自らの死をも厭わず戦闘をすることが出来る。訓練をすることが出来る。戦場から死を排除できる故に、その恐怖を切り離して戦える強さが玄界にはある。

故に、そんな事は知らないだろう。知る機会もないはずだ。

 

「――だからさ。もしかしたらそいつを知る事が出来るんじゃないかって、わくわくしてんだよ」

「ほぅ」

「だって、今の俺は――」

 

太刀川は鍔競りの状態から一歩引くと、二対の旋空を放つ。

 

「死ねば、終わりだからさ」

当然のようにそれら二つを身を翻し避けるヴィザに、そう太刀川は言った。

 

その言葉の意味を、――知る直前。

 

「------む」

左足に、一発。

歴戦の老兵であるヴィザの目にも止まらぬ速度を以て、弾丸がその足を貫いた。

 

 

「――着弾、確認」

ビルの上。

ユズルがそう呟くと同時、すぐさま千佳と共に立ち上がる。

千佳のトリオンを借りたうえでの弾丸は見事星の杖の防壁を超え、無事着弾に成功させた。

 

「――対応が速いな」

狙撃手の位置を把握したうえで、付近のラービットが動き出していた。

「ラービットは捕獲機能がある。雨取さんも早く――」

「ハウンド」

 

ユズルが呟く前に。

千佳はハウンドを生成し、ラービットに向け射出していた。

 

あまりにも巨大なその弾丸は、ラービットの強靭な装甲ごと叩き壊していた。

 

「――雨取さん」

「私も、戦う」

千佳はそう口に出す。

その顔は深く、深く――恐怖に歪んでいる。

それでも。

彼女は、自分の意思を通している。

 

「解った。――でも、危険だったらすぐに緊急脱出してね」

「うん」

「出来るだけ----その、僕も、援護するから」

守るから、と言おうとしたその口は、余りの照れくささとクサさに喉奥に封じ込まれ、代わりの言葉が紡ぎ出される。

それでも封じ込めた言葉には、一切の嘘はない。

ユズルは一つ心の奥で気合を入れると、狙撃銃をラービット撃退用に高威力のアイビスに切り替える。

 

その瞬間。

 

「――流石と言うべきか。このトリオン量は」

窓が、開く。

「狙撃兵をあらかた片付けてから確実に捕獲しようかと思ったものだが------あれだけの力があるのならば、無視は出来ん」

様々な動物型のトリオンを身に纏った男が、その場に君臨する。

 

「お前を早々に確保し、速やかに退却しよう」

 

わざと聞こえるように、ハイレインはそう言葉を口にする。

言外に、こう言っているのだ。

――お前さえ早く捕まれば、こちらはすぐに撤退すると。

その言葉に、千佳は実に解りやすく表情を変える。

――やはり、ヴィザの分析は正しかった。

この金の雛鳥の精神面は、何処までも脆弱だ。

――ならば。

 

「ぐ-----!」

ユズルは鳥の群れに襲われる。

トリオンで出来たその鳥は、――触れた存在を、キューブ化させる。

手足が歪んでいく中――ユズルは緊急脱出の選択肢が頭に浮かぶ。

 

が。

そうなれば。

 

――雨取さんはどうなる?

 

また。

また自分は。

――誰かを失うのだろうか?

そう思った瞬間、取るべき行動を瞬時に理解する。

 

「-------」

歪んだ手足で、それでも銃を構える。

あのトリガーの正体は知っている。

簡単だ。あの身に纏う動物に触れないように――弾丸を撃ち込めばいいだけだ。

 

「----おお!」

ユズルは――ハイレインの足元にアイビスを叩き込む。

その弾丸はハイレインの足を削りながら――足元のコンクリを破砕し、瓦礫を巻き上げる。

巻き上げたそれらが動物達に衝突し、霧散していく。

 

ハイレインの機動力を奪い、かつ卵の冠の弾丸を削る。完璧な最適解ともいえる弾丸であった。

 

「――絵馬君!」

その一発の代償に、ユズルは緊急脱出を使う事が出来ず――完全なキューブと変化した。

「――絵馬君!絵馬君!そんな----!」

ユズルは。

――千佳を逃がす為に、緊急脱出せずにハイレインを撃つ事を選んだのだ。

 

――私の。私の、所為だ。

――私が、絵馬君の言う通りに緊急脱出していれば。絵馬君は------!

 

自分の、所為。

自分の所為で、また人がいなくなる。

 

こんな時でさえ。

――自分は、ユズルの事ではなく、“自分の所為である事”を強く、強く、意識している。

それを自覚して、また大きく感情が揺さぶられていく。

 

「――ハウンド!」

千佳は、表情を大きく歪めながら――ユズルのキューブを脇に抱え、ハウンドを生成する。

 

眼前には人の姿をした、敵。

嫌悪感が沸き上がる。

その嫌悪感は、――先程キューブ化したユズルを見た時と、全く同じ感情から発生したものであった。

 

――私の、所為だ。私の所為だ。

 

そうだ。

――全て私の所為だ。

 

青葉ちゃんがいなくなったのも兄さんがいなくなったのも修君がボーダーに行ったのもユズル君が今キューブ化しているのも。

全て。

全て全て全て。

全部が全部。何もかも。

――私の所為だ。

私の-----所為なんだ。

私がここにいる所為なんだ。私が自分のことしか考えない嫌な奴だからだ。

いつもいつも。------自分の事しか、考えていない。そんな奴だからだ。

 

だから。

沸き上がる-----罪悪感とか、呵責とか、そういうもの全てを飲み込んだ上での、嫌悪感から全力で目を背けて。

 

ハウンドを、放った。

人に向けて。

 

ぷつん、と。

何かが切れる音が――千佳の中で、聞こえた。

 

 

「――三輪隊到着」

ドラえもんにより設置されたマーカーの上。

そこには――三輪秀次と米屋陽介の二人が、転送されてきた。

 

「うひぃ。やっぱりこのトリガートリオンの消費がキッツいなぁ。あんまり俺は戦えないから、ごめんな」

「そればかりは仕方がない。――あと黒トリガー二人を仕留めれば終わりだ。さっさと終わらせるぞ」

 

「――黒江、野比。到着」

「------よくここまで生きていたね、のび太」

「ドラえもん-----何をしていたのさ。いきなりいなくなって」

「うるさい。僕にだって色々事情があるんだ。――ここからだ。ここからで全てが決まる。――踏ん張るぞ」

「うん!」

久方ぶりの再開に、のび太とドラえもんは拳を合わせる。

 

「この大規模侵攻を、終わらせる。――さあ、総力戦だ」

 

 




次で多分大規模侵攻編は終わり。
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