ドラえもん のび太の境界防衛記   作:丸米

39 / 58
影浦雅人①

「---それで、どうしてここに来たんだ?影浦」

「アンタに聞きたいことがあるからだ」

「ふむん」

珍しい事もあるものだ、と忍田は思う。

影浦雅人。

彼はボーダー屈指の攻撃手であり、そして屈指の問題児でもある。

彼が持つ副作用――感情受信体質によって、あらゆる悪意をその身をもって感じとる難儀を抱えているが故に。

悪意を向けるC級隊員の首を幾人も狩るばかりか――ボーダー幹部である根付メディア対策室長にアッパーカットをくらわすというとんでもない事件を起こしてしまったのだ。

舐められるのは我慢できない。

仲間を馬鹿にされるのはもっと許せない。

そういう人間だ。故に影浦は人に頼るという行為を余程の事がない限り行う事はない。

 

ボーダー作戦室。相談があると影浦に呼び出され向かった先。影浦は実に珍しい神妙な表情を浮かべながら忍田を見ていた。

 

「何だ?」

「単刀直入に聞くぜ。――俺達がA級の昇格条件を満たせば、遠征に行く事が出来るのか?」

「------」

何と。

まさかこの男から、遠征の二文字を聞くことになろうとは。

 

影浦を筆頭に、基本的に影浦隊は遠征には無関心であった。いや、遠征どころか自身の立ち位置さえもどうでもいいとさえ思っているのであろう。影浦が起こした事件によってB級に降格したとて、特に彼等は何も変わることなく日々を過ごしていた。だというのに、今更どういう風の吹き回しであろうか。

その訝しげな視線に気づいたのか。鼻を掻きながら、ばつの悪そうに影浦は言う。

 

「俺はどうでもいいんだよ、正直。――だが、ユズルが行きたがってやがる」

「------」

「そのくせアイツは隊から出ていく気はねぇんだと。だったら。まずは確認だ。――そもそも俺等はA級に昇格できるのか?まずはここを知らなきゃ話になんねぇ」

「結論を言おう。――無理だ」

忍田がそう言うと、影浦は、だろうなと呟く。

「まだ見せしめには十分じゃねぇって訳だ」

「------私自身はお前の気持ちは十分に理解できているつもりだ。何故あんな事件を起こしたのかも、な」

「------」

「だが。お前がやったことは、そう簡単に撤回できる事じゃないんだ影浦。根付室長はボーダーという組織にとって最重要の歯車だ。お前の事件の所為で根付室長が辞められたら、この組織は崩壊する可能性だってあるんだ」

隊員がボーダー幹部を殴りつける、という事はそういう事だ。それは、個人個人の問題だけでは収まらない問題だ。

戦闘員の機嫌を損ねれば、自分が害されるかもしれない。

そんな環境の中、非戦闘員であるボーダー職員がまともな精神状態で働けるか、といえば否だろう。

だからこそ決定された罰であり、それは容易に撤回できるものではない。

忍田の言葉を聞き、影浦は首を傾げながら言う。

「俺は説教されに来たわけでも、許してほしくて来たわけでもねぇ。――なら今回の大規模侵攻で俺に与えられた戦功全部返上してもいい。それでどうだ?」

「-----そこまでして、遠征に行きたいのか?」

「俺じゃねぇよ。ユズルがだ。――ま、ダメならダメでいいわ。その時は別の方法を探すだけだ」

「別の方法?」

「隊を解散してユズルを何処か別のA級部隊にねじ込めばいい。どうしても無理だってんなら、その方法しかねぇ。――俺もゾエもヒカリもフリー隊員に戻る。ゾエもヒカリもあれで腕はいい。新しい隊を見つけるのも苦労はしねぇだろ。ま、俺もここいらで気楽なフリー隊員に戻るってのもまあアリだとも思っている」

忍田は、目頭を押さえ、――内心、頭を抱えた。

影浦雅人という人物は、問題児である。が、それと同時に優秀な隊員である事も厳然たる事実であるのだ。彼がいなければ、大規模侵攻時におけるエネドラの撃破はあれほどスムーズに行えなかったであろう。そして、隊があるからこそ、彼は自分自身を抑えることが出来ている。

影浦隊というチームが彼をしっかり押さえているのだ。その枷を外したとあらば――ボーダー全体にとっても不利益であることは間違いない。

一つ、忍田は思案する。

思案し、一つ影浦に問いかけることとした。

「影浦」

「何だよ」

「誓えるか。――もう二度と、あんな問題行動を起こさないと」

「誓ったら、どうなるんだよ?」

「条件を出す」

「条件?」

「一つ。影浦隊は一旦解散扱いとする。A級で培った実績は無くなり、隊章もボーダーに返却」

「で?」

「その後始まるランク戦は、君たちは0からのスタートとなる。そこから這い上がってA級昇格条件を満たす。――この条件と、お前がこの後一切の問題行動を起こさない事。これが守れるのならば、私が城戸司令に話を持っていこう」

「-------」

「解ったか?」

こくり、と一つうなだれながら影浦は頷いた。

 

別に。今までの実績が抹消されようがどうでもいい。それは紛うことなき本心だ。

だが。

ただ、自身の考えなしの行動で――可愛い弟分の行動が大きく阻害されてしまっているという現実に直面し、初めて自身の行動の責任の自覚と、後悔の念を抱いていた。

ただ、それだけだった。

 

 

「――つーわけだ。お前ら。次のランク戦は最下位からのスタートだ」

「成程ね。――まあ妥当な落としどころじゃないかな?」

「--------」

ユズルも、ユズルで。

申し訳ない気持ちでいた。

影浦が、ボーダー上層部に掛け合うなんてたとえ地球が裏返ったとしてもやりたがらない事だろう。

誰の為にそんな事をしたのか。

 

「今回は上位連中とバチバチやる以前に、雑魚共から点をかっぱらって行かねぇととても上にはいけねぇ。下位は問題ないとしても、中位にはそこそこの連中が揃っている。――これから一つのラウンドも落とせねぇ」

「ねえカゲ」

「なんだゾエ」

「――本気で、上を目指すんだよね」

「ケっ。ガラじゃねーがな」

「だったら。打てる手は打とう。――この前の侵攻で、一緒にいた子、覚えてる?」

影浦はその姿を思い浮かべる。

最近北添が世話を焼いていた、新人B級隊員の一人だ。腹の出っ張り具合だけは北添によく似ていたので、影浦は何となく記憶に留めていた。

「ああ。あいつか。――中々いい筋をしていたな」

 

「あの子、今フリー隊員なんだ。今はまだ結構未熟な面があるけど、それでもあの子の火力はボーダー屈指だ。――下位からのスタートになるなら、点数を稼げる人が一人でも欲しい」

「で、そいつを入れるつもりなのか」

こくり、と北添は頷く。

「弾幕をバラまいての面制圧が得意な銃手で、盾役も出来る。カゲとの相性を考えても、かなりいいと思う」

「――隊員増やすのか?それはいいけどよ、カゲは大丈夫なのか?」

仁礼ヒカリは、訝し気に尋ねる。

影浦隊の隊員になるにあたっては、戦術の兼ね合いよりも余程重要な条件がある。

それは、影浦の副作用を受け入れ、その上で彼を嫌わない事。

この条件が揃わない限りにおいて、隊員は増やせない。

 

「――その辺は大丈夫だろ」

影浦は一つ頷く。

「俺とゾエがぶん殴りあっている時によ。――こいつの敵意ばかりがぶっ刺さりまくっている時、別の感情が刺さっている感じがしたんだよ」

影浦はその時のことを、覚えていた。

いつかの日。北添と互いに本気の殴り合いを行っている時だった。

北添の敵意ばかりが身体に突き刺さる中――確かに、別の感情が刺さった気がしたのだ。

それは、憧れの人間に向ける感情。いわば敬意と言われる代物であろうか。

「あの殴り合い見て敬意を払うような馬鹿だ。――俺の普段の姿見て下らねぇ事を思う事はないだろう」

 

 

「という訳だけど。――どう?」

北添尋は、今までの経緯を全てジャイアンに話した。

元A級部隊から最下位に転落。もう一度ここから這い上がる。

その話を聞いて、ジャイアンは――。

 

「----ゾエさん。影浦さんがその根付ってヤローをぶっ飛ばした理由は?」

仲間の為だね、とゾエは言う。

「もう一度最下位に戻っても、遠征を目指すのは?」

仲間の為だね、ともう一度言う。

 

その答えで、十分だった。

 

「――上等じゃねーか!」

燃える。

これは、燃える。

仲間の為に何もかもを捨てた人間が、それでも諦めずに仲間の為に上へと這い上がろうとしている。

ジャイアンは理解した。

これは自分好みの状況だ。

 

「ゾエさん!俺も影浦隊に入れてくれ!――ぜってーに、上に行ってやるからよ!」

「――よかった。ゾエさんも安心したよ。それじゃあ、これからよろしくね。ジャイアン君」

 

 

「――ってな訳でよ。俺は影浦隊に行く事になった」

「へー」

何というか。

本当にジャイアンにお似合いのお話というか。

本部ブース内でばったりと出くわした二人は、互いの近況を話し合った。ジャイアンは、どうやら影浦隊に所属する事が正式に決まったようだった。

 

「いいチームだぜ、あそこは。カゲさんはああ見えてお好み焼き奢ってくれるし、ゾエさんはゾエさんだし、ユズルはああ見えて結構熱いもの持っているし。ヒカリのねーちゃんは鬱陶しいけどな!」

ふふん、とジャイアンは鼻を鳴らす。

 

「いいかのび太。――お前がどこの隊に所属しようが、絶対にぶっ飛ばしてやる!覚悟しておけ」

そう言い残し、ジャイアンは訓練へと向かっていった。

 

「所属-----かぁ」

自分は何処に所属するべきなのだろう。

そんな事を考えながら、のび太も訓練を終えて家路へと急ぐ。

帰り道。何処かの店に置いてあったテレビから聞こえてきた。

――ぼくはヒーローじゃない。

 

その姿が、見えた。

 

三雲修だった。

かつて、同級生を守るために規則違反を犯した男が、そこにいた。

 

その姿を、見る。

ボーダーの記者会見の中。彼はマスコミの糾弾に怯むことなく嘘のない言葉を返していた。

 

いつか。ドラえもんと話した事。

――各々が、各々。掲げたい正義を掲げる権利があるという話。

 

記者会見を見ながら、のび太はその意味が――ようやく理解できたように思えた。

今、彼は彼の正義を掲げて戦っているのだ。別の正義を掲げる人間と。

彼が掲げる正義は、あんなにも――人に責められる類の、正義なのだ。

それでも彼はその事を省みない。

 

――おれよりも、のび太よりも弱いくせして無茶する奴がいる。

遊真が言っていたことは、本当だったのだ。

 

「――そうだった」

のび太には、いつか交わした約束があった。

その約束は、空閑遊真と交わしたものだ。

 

「-------」

僕がやるべきこと。

それは約束を守る事。そして――未来を守る事。

その未来を守るには、雨取千佳にも、空閑遊真にも、そして――三雲修にも。死なれてもらっては、困るのだ。

 

「------遊真君に、会おう」

一先ず。

のび太は、まずは遊真に会う事を決めた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。