トリオン8
攻撃7
援護・防御3
射程6
機動6
技術14
指揮1
特殊戦術4
total 49
サイドエフェクト:強化睡眠 いつでもどこでも素早く眠れる。
成程ね、と迅悠一は呟いた。
「――”門”を閉じるだけでは、二二世紀にはまたそれをこじ開ける技術をアフトクラトルによって開発されるということか」
ドラえもんの眼前に立ち、迅はそう呟いた。
それを見て、鬼怒田本吉は顔を顰める。
「迅よ。こやつの言葉を信じるのか」
「ああ。――何せ、本当に未来が見えた。ドラえもんを通して、ドラえもんが経験する“未来”を。今の時代とは全く違う----文明レベルが引きあがった未来の世界が、本当に見えたんだ」
「何だと-----。待て、こやつは、ロボットなのだろう?」
「うん。間違いなくロボットだ。-----俺の未来視は、基本的に人間を通しての未来しか見えないはずなんだ。例外があったって事かな」
迅はさらりとそう呟いた。
鬼怒田は信じられんとかぶりを振りながら、ううむと唸る。
「――二二世紀には、莫大なトリオンを持った人間がいた」
ドラえもんは言葉を続ける。
「アフトクラトルは雨取千佳を攫い、マザートリガーの神とした。雨取千佳のトリオン量は莫大で、二世紀足らずで枯渇するようなものじゃなかったけど――アフトクラトルの四大領主のうち一家が、次の覇権を得るために早めに次の候補を探し出し“保管”しておく事を決めたんだ。その為に――僕らの世界にいた、莫大なトリオンを持つある人間を狙って、彼等は門を開き、僕らの世界への侵略を始めたんだ」
「その人間、って?」
「――野比セワシ。門が閉じられた後も、近界の監視を続けてきた野比のび太の、遠い子孫だ」
※
「――こちら野比です。区域内にバムスターを見つけました。迎撃の許可をお願いします」
トリガーの通信機能から本部のオペレーターに報告し、了承の返事を受け――のび太は拳銃トリガーを発動する。
バムスターは、比較的のび太と相性のいいトリオン兵だ。
硬い外装を持つが、動きが鈍く、弱点も剥き出し。正面に立ち回り、アステロイドを数発撃ちこめばそれだけで倒すことができる。
一体、二体、三体。
補足しては、撃つ。
その手際は恐ろしく速い。
既に市民の避難は完了しており、特に問題もなく区画のトリオン兵の駆除は終了した。
「------」
トリオン兵と対峙するたびに、思う。
怖い。
自分の本性は、多分臆病なのだと思う。
臆病で、怠け者で、人に尻を叩いてもらってようやく動き出せる。基本的にはそういうダメ人間なのだと思う。
でも。
声を押し殺した泣き声が、聞こえてきた。
振り返ると、そこには――建物の陰で怯えて泣く少年がいた。
「-----ママぁ。何処?」
多分、のび太より二つばかり下の年齢だろうか。
ぐずる少年を見て、――のび太はそこで自覚なき「責任感」が心の中に発生する。
「――あの、すみません。一般の人の子供が区域内に-----はい。はい。わかりました。付近の避難場所に送り届けます」
本部に連絡を入れ、許可を取り、子供にやさしく話しかける。
ぐずる少年に駄々をこねられようと、少々焦りながらも宥め、手を引く。
その姿は――間違いなく、あるべきボーダー隊員としての姿であった。
※
――ママ。パパ。お願いがあるんだ。
一年前。
のび太は土下座をしながら頼み込んだ。
自分を、ボーダーに入れてほしい、と。
四年前、三門市を襲った近界民による大規模侵攻時。
野比家は、とにかく運がよかった。
三門市が近界民の襲撃を受ける二日前、親戚の不幸があり県外へと離れていたから。
その襲撃によって失われたものと言えば、精々家が半壊した程度。それも保険と国の援助を含めて十分に修繕できる範囲だ。
その代わり。
のび太は、どうしようもないほどの無力感を味わわされた。
半壊した家を見て、恐ろしいと思った。一体どんな災害がこの町に襲い掛かったのだろうか。それを想像しただけで、夜も眠れなかった。
一週間ばかりの休校期間を経て再開した学級で、登校者が三分の一にも満たなかった光景を見たとき。
先生が一人一人「よく無事だったな」と半泣きで迎え入れてくれた時。
------その先生が、父親を襲撃で亡くしたと聞いたとき。
友達がいなくなった。
スネ夫一家はすぐさま県外へ引っ越しを行った。ジャイアンは近所の子供を庇って大怪我を負った。そしてしずかちゃんは――トリオン兵に連れ去られた。
そんな。そんな、日常化してしまった非日常が溶け込んだ現実に直面した時。
のび太は、涙が溢れた。
溢れて、溢れて、止まらなかった。
まだ小学生になりたての時期だ。理解できない事もたくさんあった。でも、それでも、感じることはいっぱいある。
何もできなかった。顔もわからない親戚の人の葬儀にうつらうつらしている間、たくさんの人が悲劇を味わわされていた。
だから。
こんな思いを二度としたくないんだ。
自分は今子供で、何もできなくて、その癖運だけはよくて――今こうして受け入れている日常をまだ受け入れられない人もいるんだって。
ジャイアンは怪我で半年間も病院にいた。近所の人たちも何だか暗い顔をしている。子供を亡くした親だっている。
自分は無力で、だけど何も失っていない。
だから――踏み出したい。
無力だった自分を、少しでも変えたい。
だから。行きたい、と。
そう伝えた。
小学四年生の時。
後遺症を引きずるジャイアン。時々県外からわざわざ遊びに来るスネ夫。彼等も、忘れられない記憶と、直面しなければならない現実に苦しんでいる。
変えたい。
自分の手で。無力だった自分を――。
――のびちゃん。のびちゃんのその思いは、凄く立派な考え方よ。そういう風に思える子に育ってくれたことは、本当に嬉しい。だけどね-----私達はね、無力でものびちゃんにこの先立派に、長く、生きてもらいたいの。
――のび太。無力であることは、恥ずべき事じゃない。そう感じている君は、本当に優しい子だ。だから。だからこそ、ママもパパも、君を危険なところに送りたくない。
そう。
解っている。
きっと-----万が一にでも、この先にある近界民との戦いで自分が命を落とせば、今度はママやパパがあんな思いをすることになるんだって。
それでも。
――今僕がやらなきゃいけないことがあると思う。この----やらなきゃいけないことから、僕は逃げたくない。
そう言い切り、結局折れさせた。
そうして、野比のび太は――ボーダー隊員となったのであった。
※
本部に戻り、のび太は報告書を書き、忍田本部長に提出する。
何やら微妙な表情を浮かべながら、目元を抑え、遂にはため息を一つこぼし、
「野比君」
「はい」
「君の名前はなんだ」
「野比のび太ですけど------」
「ならば、のび犬とは-----?」
「伸びた犬ですか?」
「君がたった今報告書に書いた自分の名前だよ-------」
沈黙が、両者の間に流れる。
のび太は変わらぬ無垢な表情で、本部長の渋い顔面を見つめていた。
「ま、いいや------。さて、のび太君。今日の報告を頼む」
「え----。今書いたのは?」
「さすがに----。“はむすたーをたおしました。こどもをひなんしました”だけじゃあなあ-----」
「だってそれだけしかなかったんだもん----」
「-------」
「-------」
沈黙が、両者の間に流れる。
のび太は変わらぬ無垢な表情で、本部長の渋い顔面を見つめていた。
「とはいえ、野比君。一般市民の避難誘導、お疲れ様。保護者の方から感謝状が届いている」
「---そ、そうですか」
「君くらいの年齢で、しっかりと市民の対応ができるのは立派だ。これからもよろしく頼むよ」
「はい」
「それじゃあ、今日のところは終わりだ。お疲れ様」
※
「――迅」
「ん?どうしたの忍田本部長」
のび太が帰り、入れ替わるように迅悠一が部屋へ入る。
「君は、野比君の未来を読んでいたのか?」
「うん。メガネ君二号は、何というか才能の配分が本当に極端なんだよねぇ。あの射撃の才能は下手すればボーダー始まって以来のものかもしれないけど、それを自覚させるのに結構時間かかっちゃったもんねぇ」
「----だから、彼を入隊させたのか」
「それもある。――けど、まだ理由はある」
「それは、何だ?」
「彼の存在が――近い未来で起こる、近界民の侵攻時の未来に大きく関わってくる」
迅は、口調を少しばかり真剣なものに切り替える。
「――彼と、近界民の子と、メガネ君一号。彼が揃うことで――未来のロボット、ドラえもんが示した最悪の未来に繋がる一要素を一つ潰せるかもしれない」
「司令の暗殺。お前の死。そして-----後のC級隊員である雨取千佳の誘拐、だったか」
「そう。見た感じだと、襲撃の際に一番ネックになる黒トリガー使いがいる。そいつは、空間を繋げて自由に移動できるタイプの使い手でさ。――けど、それに近い機能を持つ技術をドラえもんはもたらしてくれた」
「技術---ああ、アレか」
「うん。そろそろ試作トリガーとしての運用も見えてきた。アレを駆使して、できうる限りこちらの被害を抑える。そして――千佳ちゃんを必ず守る」
一つ迅は頷くと、呟く。
「頼むよ-----“どこでもドア”」
次回から、玉狛勢を出すつもりです。