ドラえもん のび太の境界防衛記   作:丸米

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今回はあんまり動きなし。


影浦隊①

「――雪に、夜」

影浦はぼそりとそう呟き、ニッと笑う。

 

「成程。――どう転んだって俺達に索敵をさせない気か」

影浦は隊の転送先を見る。

影浦は西側のマップ帯、橋の近く。

北添は影浦と反対側の東側の高層建築物。ジャイアンは西側最北の河原付近。ユズルは東側の北添の付近。

 

「綺麗に二つに分かれたね。どうしよっか」

橋を挟んで東に北添とユズル。西に影浦とジャイアン。二人ずつが橋を挟んで分断される形の初期配置となった。

このどうしようか、という言葉は。合流か各自行動を行うかどちらかの判断を影浦に仰いでいるのだろう。

北添の声に、影浦は即座に答える。

「ここまではっきり索敵の妨害が入るってなら、俺が索敵に入る必要はねぇな。ゾエ。お前に任せる」

「ん。了解」

「ジャイアン」

「うす!」

「お前は好きに動いて、好きに的にされて、そんで出来るだけ派手に弾をバラまいていけ。――お前が炙り出した敵は俺が残らず狩っていく」

「-----了解っす!」

「――対策なんざ立てたって無駄だ。全員叩き潰してやる」

 

 

「-----夜で、雪か。動きにくい見えにくいクソ仕様。誰だこんな設定にしやがった奴は」

「荒船隊ですよ諏訪さん」

「まあ市街地C辺りで上を取られるよりか遥かにマシな状況だがな」

諏訪隊は東マップ帯に笹森、西マップ帯北側に諏訪と堤が別れる形となった。

 

「堤。お前は割と俺に近いな。合流すっぞ」

「了解です」

「日佐人――は合流は難しそうだな」

レーダーを確認すると、橋付近には影浦がいる。

戦況が動くまでは、各隊の合流を遅らせるために橋付近で門番をするつもりなのだろう。

本来、攻撃手が自身の身を晒しながら足を止めている状況なぞ、たちまち射程持ちに囲まれて狙われて落ちるのが定石なのだが。影浦は狙撃が効かない。その上、中距離から弾幕を張れる隊員が影浦隊に集まっている。それが出来るのは精々漆間位で諏訪隊には誰もいない。

――現在、影浦は近距離主体の隊員を派遣せども瞬殺されるし狙撃も全く効かないという理不尽極まる攻撃手なのだ。そしてこのランク戦で影浦を寄ってたかって潰せるだけの中距離攻撃手段もない。

つまり、影浦が橋にいるだけで、どの隊もマップの行き来が著しく制限されることとなるのだ。

 

「川を渡って向かう事も出来なくはないですけど----」

「やめとけやめとけ。今回狙撃手四人がここにいるんだ。おちおち川なんざ渡ってちゃいいカモになるぜ。――日佐人はしゃーねぇ。そっち側でバッグワームつけたまんま索敵しろ」

「了解です」

「しかし------あの影浦が随分と聞き分けがよくなっちゃってまぁ。"待機”なんて選択肢、以前のアイツの頭の中にはなかっただろうに」

諏訪は一人ごちる。

嫌味っぽい台詞だが、口調は何処か嬉しそうだ。

 

「――ってうお!」

 

諏訪は堤と合流せんと指定された地点まで向かおうとした、その瞬間。

上空の建物が、爆ぜた。

 

「――ゾエの”適当メテオラ”だ!気ィ付けろ!」

 

放物線を描きながら、メテオラの榴弾が上空から降り落ちていく。

爆撃に巻き込まれじと付近の建物の中から中へと、可能な限り障害物を盾に走っていく。

――北添が持つ、グレネード型のメテオラ弾だ。

放物型の弾道から榴弾を飛ばしメテオラと同様の爆撃を空から落とすそれは、弾速が遅い代わりの長射程・高威力の面攻撃として北添に使用されている。

 

「――ああ、クソッタレ。雪がうぜぇ。ついでに夜もうぜぇ」

 

爆撃を避けんと走りたくなるが、足が雪に取られる。爆撃の軌道を見たいが、夜空に紛れ見えにくい。とっさの回避行動が非常に取りにくい。

「諏訪さん!無事ですか!」

「お前はどうだ堤ぃ!」

「こちらも何とか----けど、ああクソ」

 

合流地点としていた場所は、メテオラの集中爆撃を受け建築物ごと圧し潰されていた。

現在爆撃の余波によって障害物は砕かれ、周囲から実に見えやすい場所と化していた。

-----先程自身が言ったように、この場において狙撃手は四人いる。開かれた場所で合流すればたちまち餌食になること位諏訪も堤も理解できている。

 

「しゃーねぇ。合流地点変えるぞ。------チッ。うざってー」

「諏訪さん。――ジャイアン君を確認しました。俺等の合流予定地点よりちょい東から、橋の方向へ走っていってます」

「お。ナイス。――ああ、成程。さっきの爆撃は、ジャイアンの通り道を作る意図もあったわけね」

諏訪はぼそりと呟く。

敵勢力の合流や待ち伏せが出来そうな場所を予め潰しておき、スムーズにジャイアンが移動できるようにしたのだろう。その結果、諏訪と堤がいた場所は爆撃で叩き潰された。

ジャイアンは高火力をバラまけ、防御もそこそこ堅い。その代わりに、機動力はからっきしである。単独で行動させるならば、囲まれないよう配慮する必要がある駒だ。

 

「どうしますか?」

「堤。このままジャイアンの背後から回りこめ。――挟み込んで仕留めるぜ」

「了解です」

 

この短いやりとりの後、諏訪と堤も爆撃の跡地から動き出す。

まずは――合同訓練で面倒まで見たジャイアンに、お灸を据える。

 

 

「要するに」

 

東春秋は――解説席で荒船隊側の意図について説明していた。

 

「荒船隊は、影浦隊の現行の戦術を以前のものに戻させる為に雪を降らせ、時刻設定を夜にしたのだと思います」

「現行の影浦隊の戦術から、以前のものに?」

「はい」

東が実況の月見の問いかけに頷くと、今度は冬島が言葉を繋ぐ。

「夜の降雪環境という『見えにくい』『足が止まりやすい』組み合わせをすることで影浦の索敵の効果を抑える。逆に見えにくく足が止まりやすい環境は北添のメテオラが便利になる。爆撃を避ける為の瞬発力が雪で殺されちまうし、空から落ちてくる北添のメテオラは夜だと見にくい。――”敵の位置を炙り出す”事を目的にするなら、この環境下なら北添の爆撃が最適解になるわけだ。マップが分断されているから、北添に近付きにくいというメリットもある事だしな」

雪と、夜の組み合わせ。

この環境にすることで影浦の機動力と索敵能力に制限をかけ、そして北添が持つ爆撃というカードを大きく向上させる。

そうすることで、自然と影浦隊が北添の爆撃を選択させるよう誘導した。

「では、現行から以前の戦術へと戻させる事で、荒船隊にどのようなメリットがあるのでしょうか」

「影浦隊の現行の戦い方のメリットは、とにかく順序がきっちりと決まっている事なんですよね。①影浦が狙撃手を全滅させる。②北添と剛田の集中火力で敵勢を分断させる。③浮いた駒を影浦が狩る。①で絵馬という狙撃手を唯一の長射程持ちにして影浦隊の動きの制限を解き、②で制限がかけられた他部隊を火力で追い込み、③で確実に駒を沈めていく。3つの流れが綺麗に決まっている分、ポイントの取り漏らしが少ない」

「で、この方法を取られちゃ①の段階で荒船隊は壊滅的な被害を受ける訳よ。現行、B級中位にいちゃいけない最強部隊から集中攻撃を受けることになるから、荒船隊にしてみりゃたまったもんじゃない」

ここで一つ冬島は言葉を切る。

「だから。以前の戦術である、爆撃で敵を炙り出してから影浦が各個撃破する方法に無理やり変えることにした訳よ。こうすりゃ、一番最初の段階で狙撃手が集中的に壊滅させられる事態は防げるし――ほれ」

 

モニターに浮かぶ荒船の姿。

荒船は西側のマップに身を潜め、爆撃の余波から身を守りつつ――いざ爆撃によって居場所を炙り出された漆間の脳天を撃ち抜いていた。

「荒船隊長。漆間隊長を狙撃により撃破。1ポイント先取しました」

 

「ああやって、炙り出された連中に狙撃で先手を取れる可能性だって出る訳だ」

「狙撃手が最初に全滅させられる戦術ではなく、まんべんなくどの部隊も炙り出される方法を環境の変化によって取らせたわけですね。――荒船隊は影浦隊の戦術レベルを読み切り、この選択をしたのだと思います」

 

「成程。流石は、お二方。非常に解りやすい解説をありがとうございます。――さて、では今ここで状況をおさらいしましょう」

 

月見はマップを広げる。

 

「河川を挟んで東側には、北添・絵馬・笹森・穂刈・半崎、以上五名の隊員が、そして残る影浦・剛田・諏訪・堤・荒船のこちらも五名の隊員が、東西に分かれる事となりました」

東側のマップ。

こちらには北添が河川越しにメテオラをぶっ放し、ユズルがその様子をしっかりと狙撃銃で捉えている状況となっている。

恐らくは、爆撃を止めんと近づいてきた隊員をユズルが狙撃で仕留める形なのだろう。

笹森は狙撃を警戒つつ北添の爆撃を止めんとじりじりと近づいてきており、穂刈・半崎両隊員はその反対側の地点で静観を決め込んでいる。

 

西側のマップ。

こちらはジャイアンが橋を向かう途中で諏訪・堤の両者が挟み込む形で近づいてきており、影浦はジャイアンと合流するつもりなのか橋側から北上していく。一方南側に位置している荒船は漆間を仕留めた後に即座にその場から離れる動き。

 

「河川を挟んだ上での戦いは、同時並行的に戦況が変わっていきます。東西それぞれの動きに着目しつつ、動向を見守りましょう」

東がそう締めると、実況・解説席に沈黙が流れる。

 

戦況が、じわりじわりと変わっていく。


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