ドラえもん のび太の境界防衛記   作:丸米

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荒船隊②

「――確認した。笹森を」

「了解。――多分ゾエ狙いだろう。そのまま放置。このまま狙撃地点に向かい待機し、笹森が釣りだされた瞬間にお前も動け」

「了解」

穂刈は爆撃の合間を掻い潜るように、徐々に北添へ近づいていく。

 

 

 

「――諏訪さん。ジャイアン君の背後を取りました」

「OK。そのままの位置にいろ。――日佐人、行けるか?」

「大丈夫です。――すみません。雪のマップでちょい遅れてしまいました」

「まあ、そりゃこのマップだししゃーねぇ。おっし。それじゃあ行くぞ。――こっからはスピード勝負だ!」

 

橋へ向かうジャイアンを、諏訪と堤が挟み込む。

 

「よっしゃ、このタイミングだ。――くたばれ、ジャイアン!」

物陰から諏訪と堤が、二人でジャイアンを囲い込むように飛び出す。

 

「――諏訪さんと、堤の兄貴か!」

ジャイアンもまた、レイガストと重機関銃を構え、迎撃の体勢を取る。

 

四つの散弾銃。

重機関銃と盾が、交差する。

 

 

諏訪と堤の動きに連動するように。

笹森は北添の背後を取っていた。

東マップから西マップへとメテオラを放出する北添を確認した笹森は、その時点で非常に距離が近かった為、そのまま回り込むように北添の背後を取っていた。

――この爆撃が続けば、西側の諏訪・堤の行動が著しく制限される。北添の爆撃は狙撃手はおろか中距離の武器すら持たない諏訪隊にとって、最優先で止めなければならない代物だ。

バッグワームを解除すると同時に、笹森はカメレオンを起動。視界より自らの姿を消す。

 

「――ゾエ!笹森が背後を取ってる!」

「うぉ!姿が見えないよヒカリちゃん!」

「カメレオン起動してる!レーダーの位置を転送するから、そこに弾をバラまけ!」

 

ゾエがメテオラからアステロイド機関銃に持ち替えると同時、笹森はカメレオンを解除し弧月を振りかぶる。

「――ここで、ゾエさんを止める!」

 

笹森が旋空弧月を北添に叩き込まんと振りかぶる瞬間。

 

「――あ」

 

その前に、自らの腕が吹き飛んでいた。

手は消し飛び、弧月が虚しく地面に転がっていく。

 

「――絵馬、か----!」

 

そう呟いたその瞬間、第二の弾丸が笹森の脳天を突き刺していた。

――笹森、緊急脱出。

 

北添は通信機越しに、「ナイスユズル」と言おうとした。

 

が。

 

自らの脳天にもまた、弾丸が突き刺さっていた。

 

「あれぇ?」

そんな間抜けな声と共に、北添もまた緊急脱出した。

 

その弾丸の軌跡を追うと。

そこには――荒船隊の穂刈が、イーグレットを構え、そこにいた。

 

 

「――絵馬隊員の狙撃により笹森隊員を撃破し影浦隊が1ポイント取ると同時に、穂刈隊員の狙撃により北添隊員を撃破し荒船隊もまた1ポイントを追加しました」

「今の一連の流れは鮮やかでしたね」

東が一つ頷き、そう言った。

「マップが分断されているとはいえ、あれだけ爆撃を行えば北添は目立つ。だからこそ絵馬は北添狙いの敵を迎撃する目的の位置取りをしていた」

「実際に、カメレオンを用いて北添隊員に奇襲をかけた笹森隊員を狙撃で撃退しました」

「穂刈もまたそれが解っていた。穂刈はメテオラが発射されると同時にマップを移動し、狙撃範囲内に北添を収めていたが、あえて撃たなかった。なぜならば、絵馬の居所が掴めないまま撃ってしまえば、穂刈がカウンターで撃たれて緊急脱出する事になるかもしれない。だから、笹森で絵馬を釣りだし、絵馬の場所を割り出した後に北添を仕留めた――という事でしょうね」

 

北添狙いで近づいてくる敵を撃退する為に配置されたユズル――の場所を更に割り出したうえでの、北添への狙撃。

ユズルという狙撃手の使いどころをしっかり読み切った上での、荒船隊の判断。その判断により、ユズルの居所を炙り出した。

 

「ここで荒船隊は、自分たち以外の唯一の狙撃手の絵馬の位置が判ったからな。ここからはある程度自由に行動できる」

冬島がついでにそのように補足を付け加えた。

現在、絵馬ユズル以外の狙撃手は全員荒船隊だ。その上でユズルの位置が判明したのならば、カウンタースナイプの危険性はぐんと減った。

「――では。北添隊員が緊急脱出したことにより、爆撃が止んだ西マップを見ていきましょう」

月見の言葉と共に、マップが移り変わり――ジャイアン・諏訪・堤の戦況が映し出される。

そこでは――

 

 

諏訪と堤の連携による散弾銃の乱れ射ち。

その威力は、近距離においては絶大な威力を誇る。

 

ジャイアンは――この二人の戦術を予め知っていたし、その対策も知っていた。

奇しくもそれは、かつて味わった戦場での記憶。

それは、かつて共に大規模侵攻を戦い抜いたとき、――ランバネインが行使していたやり方。

 

挟み込まれた時は、一方へ急加速した突進をかませばいい。

 

「うお!」

ジャイアンはスラスターを起動すると同時、アステロイド突撃銃を打ち放ちながら諏訪へと突撃していく。

諏訪が放つ銃弾を真正面で受け止め、堤の弾丸を側面から受けながら――アステロイドを諏訪へと叩き込んでいく。

 

二丁の散弾銃を構えた諏訪はシールドの切り替えが間に合わず、ジャイアンの弾丸をまともに受け緊急脱出。

残る堤の散弾に身を貫かれ、足すらも完全に削れる。

 

――いいか。お前は弾をバラまけ。

 

「了解したぜ――影浦の兄貴ィ!!」

 

堤に砕けかけのレイガストをスラスターを起動したままぶん投げ、ハウンドと切り替える。

片手にアステロイド。片手にハウンド。

両方ともを脇に抱え、ジャイアンは引金を引いた。

 

ジャイアンに二丁の重機関銃を狙いを定め撃ち放つ技術はない。だがそれを腰回転でばらまくだけで、全方位への無差別攻撃と化す。

 

「――うおお!」

堤はハウンドで砕けていく障害物と上空から降り落ちてくる槍のようなハウンドを何とか掻い潜りながら――もう既に全身を幾らか削られながらも――散弾銃を放つ。

 

それはシールドもレイガストもないジャイアンの身体に突き刺さり――そのまま緊急脱出。

 

「――く」

全身が削られた堤が、その場を離れようとするが、

 

「――よーく言う事を聞いていたじゃねぇか、ジャイアン」

 

その上空から。

刃を纏った男が落ちてくると同時、堤の首が叩き落される。

 

「――これで諏訪隊は全滅かァ。後は荒船隊炙り出してぶっ殺せば終わりだな」

 

――堤、緊急脱出。

 

「待ってろよ、あの野郎」

楽し気に笑みながら、影浦はまた動き出した。

 

 

残る隊員は、影浦・ユズル・荒船・穂刈・半崎の五名。

 

「――ここで半崎隊員。川の中に移動し、動き始めました。東マップから西マップへと移動しているのでしょうか。これはどういう意図があると思われますか、冬島隊長」

北添が倒され、影浦が堤を狩った次のタイミング。

半崎が東マップから西マップへと、河を渡っていく動きが見えた。

その動きを見つつ、冬島は口を開く。

 

「タイミングについて解説するなら。単純に絵馬の居場所が判明したのと、影浦が堤を狩りだしに持ち場を離れたから動き出したんだろうな。河を渡っている間に狙撃・奇襲される危険性がなくなったが故だろう。で、意図としては――単純に荒船隊が絵馬よりも影浦を取った、という事で間違いない」

「東マップには絵馬。西マップには影浦。穂刈と連携して絵馬を狩るのか。荒船と連携して影浦を狩るのか。どちらかを選択する必要があって、影浦を選んだという事だと思います」

「------影浦隊長には、狙撃が効きません。今までの荒船隊は、それを前提に戦略を立てていたように思われます」

「でしょうね。――だからこそ、半崎と荒船には影浦に対して何かしら考えがあるのでしょう。見守りましょう」

 

 

「------」

東マップに残されたユズルは、容易に身動きが取れない。

彼の視点から見れば、穂刈の居場所は解っているが、半崎の居場所が解ってないのだから。半崎が今川を渡っているなど、彼には知りようがない。

半崎は自分以上の精密射撃技術を持つ狙撃手だ。彼の居所が掴めず、自分の居所が判明している以上、おちおち身を晒すことはできない。

 

――と。

以前の自分は思っていたのだろう。

 

だが。

知った事ではない。

 

「――オレが穂刈先輩を撃つ」

ユズルはイーグレットからアイビスに持ち替え、移動し始めた。

 

そう。

今のチーム方針は、点を多くとる事だ。

たとえ自分がここで半崎に落とされたとしても――それを切っ掛けに半崎の居場所を割り出せたのならば上々。後は影浦に各自狩ってもらえばそれで十分。

 

今この場。一点でも多く取らなければならないチーム状況の中。

隠れてやり過ごすなんて、あり得ない。

なにせ。

この状況は、自分の我儘から始まったのだから。

いつものように状況に流されたまま、というのは許されない。

 

「――カゲさん。穂刈先輩はオレが仕留める。やられたら後はお願い」

 

「――へぇ。面白ぇ。いいぜ解った。お前が半崎にやられたら、即座にぶっ殺しに行く。好きにしやがれ」

 

隊長からの了承も得た。

ならば、やろう。

 

穂刈が身を隠す建物の中へ、ユズルはアイビスを撃ち放った。

 

 

「――見誤ったか。絵馬を」

壁越しのスナイプをオペレーターの加賀美から警告を受け、たたらを踏んで逃げ込むと――アイビスが建造物を突き破っていた。

 

「あくまで落とすつもりか。俺を」

恐らく、ユズルは半崎の位置は解っていない。

だが、そもそもそんな事はどうでもいいのだろう。

荒船隊にどれだけポイントをくれてやっても構わないのだ。

上位に行く、という目的は失点よりも得点の方がはるかに重要なのだから。

 

だから、ここで失点怖さで身を隠すより、1点でも多く取りに行く方針は何も間違ってはいない。

だが――普段の絵馬ユズルという人間を知っているだけに、その行動に大きく違和感を覚えるのもまた仕方がない話で。

 

「だが、面白い。そちらの方が、な!」

 

穂刈はそのまま建物の上階へと移動すると、移動するユズルの位置を捕捉し、撃つ。

捕捉されると同時にユズルは付近の建造物に逃げ込み、避ける。

そのすぐ後に、自身の居場所にライトニングの弾丸が走ってくる。

 

――狙撃手VS狙撃手。

 

この絵図になるのは、中々に珍しい。

基本的に狙撃手は前線に立つ仲間のサポートをすることが役割であり、狙撃手が二人も孤立している状況そのものがほぼ無いからであろう。

 

今この状況。チームが東西に分断され、影浦以外生き残っているのが狙撃手という状況故に起こった出来事。

 

隠れ、捕捉し、撃つ。

壁が砕かれ、糸を通すような素早い射撃が襲い掛かる。

相手はアイビス・イーグレット・ライトニング三種全ての狙撃銃を持っている。対して穂刈はイーグレット以外持ち合わせていない。

 

ユズルは隠形が上手い。

スナイパー合同訓練においても、絵馬は自身よりも被弾が少なかった。

アイビスで障害物を砕き、ライトニングで緩急をつけながら、穂刈の足を動かし、動かしたうえで自身は捕捉されないよう移動していく。

 

次第に。

距離が詰められていく。

 

「――負けか。俺の」

 

逃げ込んだ建物から次の場所へ移動する際。

穂刈は負けを確信していた。

どの方向へ行こうとも、射線が通る。そういう場所に、いつの間にか自身は追い込まれた。

 

ふぅ、と一つ息を吐き――それでも、足掻く。

バックワームを外し、シールドを装着。そのまま動き出す。

 

弾道方向は解る。後はタイミングさえ合えば。

 

だが。

「――まあ、そうなるか」

襲い掛かる弾丸は、アイビス。

シールドごとぶち抜いてきた高威力のそれをどてっぱらに食らい――穂刈は緊急脱出した。

――そりゃあ、まあ。

――バッグワーム外して狙撃手が装着するもんなんて、シールド以外ないからな。

緊急脱出する最中、それでも思う。

――だがまあ。いいことにしておこう。来たからな。

 

ふ、と笑みを浮かべて。

 

――狙撃手界の、新しい波が。お前のことだ、絵馬ユズル。

 

そう、心中呟いていた。

 




次話で決着。

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