ドラえもん のび太の境界防衛記   作:丸米

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感想欄でご指摘があり、三話ののび太の独白を大きく変更し、二話におけるしずかちゃんが嵐山をかっこいいと言っていた件を修正しました。

本当に申し訳ありません。時系列に対する認識が非常に甘いままプロットを作っていたことを深く反省いたします。

この先、また誤謬が見つかりましたら、どんなに細かいことでも構いません。ご指摘いただければ嬉しいです。すぐに対処します。

重ねて、申し訳ありませんでした。


迅悠一①

村上鋼は、野比のび太の同期だ。

のび太自身は覚えてもいなかったのだが、村上はのび太の事をよく覚えていた。

 

へっぴり腰で弧月を振り、容赦なく切り裂かれては涙目を浮かべていた小学生の少年。

 

余程の事がなければ――上に上がるのは不可能だと、思っていた。

トリオン量はあるが、それだけ。

そもそもの動きそのものが、戦闘に向いていない。バレバレのモーション。無駄が多く、隙だらけの体裁き。何故攻撃手になったのか不思議なほど、彼の動きは鈍かった。

 

だが。

余程の事が起こってしまったのだ。

 

銃手に転向し一カ月足らず。光の速さでポイントを荒稼ぎし、B級に上がってきたというその少年を、気にするなというのが不可能だろう。

村上は偶然、のび太がブースに入っていくところを見かけ、衝動的に自らが相手になった。

 

対戦したのび太は――最早、別人であった。

異常なほどに正確な銃捌きと、隠形の上手さが光る銃手となって、村上の眼前に現れていたのだ。

 

今回の勝負はタイマン故に、個人ランク戦の経験が豊富な村上に分があった為、勝ち越しは容易であった。

しかし。

もしチーム戦でのび太と当たったと考えると、厄介極まりない存在になるだろう。

 

「------そういえば、木虎ももう知っているのかな。野比が上がってきたこと」

木虎はのび太を一目見て「ダメ」と一言呟き、もうそれ以上何も言わなかった。一目で見切ったその存在が、ああも成長して眼前に現れたら――どれだけ驚くだろう。

「色々と、いい土産話ができたかもしれないな」

そう呟き、村上は少し笑った。

------今度会ったら、飯くらいおごってやろう。

そんな風に村上は思った。

 

 

次の日。

のび太は防衛任務がなかったが、ドラえもんにボーダー本部に呼び出されていた。

「のび太」

ドラえもんが、のび太へ声をかける。

「ん?どうしたの、ドラえもん」

「ちょっとだけついてきてほしい?」

「どこに?」

「鬼怒田おじさんの所」

「え----」

また説教をされるのか――そう身構えるのび太に、ドラえもんはため息をついて言葉を続ける。

「いいかい。のび太。怒られるのもストレスだけど、怒ることもストレスになるんだよ」

「だったら誰も僕を怒らなければいいのに------。みんな損をしているよ」

「尻を叩いてやらないと怠けてばっかりの人間がいる限りこの損失は積みあがっていくばかりだから仕方がないじゃないか。――今日は君の出来の悪い頭とは別件だ」

「あ、そうなの。だったらいいや。じゃあすぐに向かおう」

「ちょっと待った」

開発室へ向かおうとするのび太を、ドラえもんは止める。

「----よし。付いてくるんだ、のび太」

ドラえもんは本部の外に出ると、そのままスタスタと歩き出す。

「何処に行くの?」

「近道」

「近道って----むしろ遠ざかっているじゃないかい」

「実はそうじゃないんだよ。-----さて、この辺りかな」

ドラえもんは付近の河川の土手まで降りると、架橋下できょろきょろと周囲を確認する。

のび太は訝しげな顔をしながらも、付いてくる。

 

「さあのび太。手を出して」

「?」

のび太はそう指示を受けると、言われるがまま手を出す。

「じゃあ行くよ。せーの」

ドラえもんに手を握られた、その瞬間。

 

視界が、暗転した。

 

 

「え?」

 

 

その瞬間。

現れたのは――。

 

「成功したか」

「うん」

むっつりと表情を歪める、鬼怒田本吉の姿があった。

周囲を見渡す。

そこは以前訪れた開発室で、鬼怒田とドラえもん以外、誰も人がいなかった。

さっきまで、自分は土手にいたはずなのに――。

 

「え?え?何が起こったの?」

「一言でいえば、実験だな」

「うん、実験」

ドラえもんと鬼怒田はそれぞれそう言うと、頷く。

 

「新型トリガー-----いや、装置といった方が正しいかの。こやつがもたらした技術を、トリオン技術と融合して開発したものだ」

鬼怒田は自身の背後を振り返り、指をさす。

様々な機械たちが乱立する部屋の奥。そこには――。

「---扉?」

ドアがあった。

ピンク色の、シンプルな開閉式の扉がそこにあった。

 

その扉は、まるで手術中の人間のように様々な管と、管を通した様々な機械に繋がっていた。

「そう。人呼んで――どこでもドア」

「どこでも、ドア?」

「そうあの扉を潜れば――この世界の何処にだって行ける、冗談のような機械だ」

なにそれ凄い。

「何処でもって-----例えば、ニューヨークとかにも?」

「うん」

ドラえもんが頷く。

「今僕とのび太が河原の土手から瞬間移動したのも、あの扉の機能を利用した装置なんだ」

へーすごーい。

アホ面を晒しながらも――のび太はハッと気づく。

 

「――もしかして実験って」

「うん。君を使った」

「失敗したらどうするつもりだったんだ!」

 

体よく人体実験に使われたと知り、のび太は真っ赤になって怒り出した。

 

「まあまあそんなに怒りなさんな。――それと、もう一つ。君をこっそりとここに呼ぶ為でもあったんだ」

「え?」

「まあ、そのあたりの事もしっかりと話すから。――まあ、取り敢えずだ」

 

ドラえもんは――表情を引き締める。

「入ってきてくれ、迅」

「はいはい~」

ドラえもんがそう言うと同時。

開発室の玄関口から、ゴーグルをかけた男が入ってきた。

 

「どうもこんにちはメガネ君二号。会いたかったよ」

「え。あ、はい。こんにちは-----」

実にフレンドリーにのび太に近づくと、その男はのび太の目をしっかりと直視しながら、手を握った。

 

「そして――ようこそ。君は今日から“共犯者”だ」

「え?」

 

共犯者?

何やら物騒な言葉――などと思わず、そもそもその単語が示す意味すら分からず、野比のび太小学五年生は首をかしげていた。

 

 

「さあて。――色々と、お話をしようか。うーん何処から話をするべきか」

迅悠一、と自己紹介した自称「実力派エリート」は、のび太に語りかける。

 

「取り敢えずね。のび太君。――俺はサイドエフェクトを持っている」

「え?」

「サイドエフェクト。聞いたことない?」

「ごめんなさい。僕、英語はダンガーしか知らなくて-----」

「------ちなみに、その英語はどこで習った?」

「何か、黒い服を着た髭のおじさんに教えてもらった--------」

「あ、うん。わかった。もういいや。――まあ、取り敢えず俺は特殊能力を持っているの」

「へー。どんな?」

「未来が見える」

「み----未来?」

「そう。未来。――といっても見た未来は普通に変わるんだけどね」

 

それでだ、と迅は続ける。

 

「で、ドラえもんは未来から来たロボット」

「あ、うん。それは知ってる。教えてもらったから」

「うんうん。よし。そこまで知っているな。で」

迅は――開発室の奥にある、どこでもドアを指差す。

「あれが、ドラえもんが持ってきた、未来の技術をふんだんに使った道具ってわけ」

「う----うん」

「で。これから君が何故呼び出されたかを、聞いてもらいます」

 

のび太はごくりと唾をのむ。

さっき教えてもらった。共犯者、とは一緒に悪いことをする人の事だと。

 

「――ここにいる三人。俺。鬼怒田さん。ドラえもん。この三人は、とある未来を知っている」

「とある未来?」

「そう。とある未来。――その未来はね、メガネ君」

迅は言う。

――二二世紀。遠い未来に、近界民の襲撃を再度受けることになる。

「そして――君の子孫が、連れ去られる。これは――現段階における確定事項だ」

 

 

そして、迅は一つづつ説明していく。

二二世紀のアフトクラトルによる侵攻。

それに伴う世界の崩壊と、野比セワシの誘拐。

 

「それを防ぐため、ドラえもんは単独でこの世界に来たんだ」

 

迅は一つ息を吸い込み、言う。

 

「――これから、俺等はその未来を防ぐために行動していくことになる。俺。鬼怒田さん。ドラえもん。――そして、メガネ君。君も」

「-----何で、僕なんですか」

「本来はね。君はボーダーに入れなかったはずだったんだ」

「え」

なにそれ。

「だって、メガネ君。筆記も実技もひどいものだったでしょ。この実力派エリートが君の資質を見抜いて何とかと上層部に嘆願してどうにか入れたんだよ」

「ええええええええ!」

初耳であった。

いやおかしいと思ってはいたけどさ。何で僕なんかが通ったんだろうって。そういうことかー!

「ま。ま。過去の事は置いておいて。――でもやっぱり、俺の目は正しかった。君はやっぱり資質があるよ」

迅はそう言うと、少しだけ目を細めた。

資質。

――資質、とはなんなのだろう?

「――迅の未来視はね、のび太。“人”を基準に見るんだ。誰かの目を見て、その人が未来でどういうことを経験するのか、どういう行動をするのかを見る。だから――未来を動かしやすい人と、動かしにくい人が出てくる」

「-----どういうこと?」

「例えば、この先の未来にある近界の襲撃を防ごうとしたとしても、自由に人を動かすわけにはいかないだろう。最善の未来を選ぼうとして、最悪に転がる事なんていくらでもある。襲撃の時に鬼怒田さんを下手に本部から動かそうとして、殺されてしまったら。それはもうボーダーにとっての死を意味する」

「要はね、こういうこと」

迅は取り出したメモ帳に二本の線を書き、その間にペンを転がす。

 

「この二本の線が時間。でこの先に一番いい未来があるとする。で、ペンを転がす。このまま真っすぐ向かってくれればいいんだけど」

 

ペンは左に大きく曲がり、紙から逸れていく。

 

「大抵うまくいかない。ペンは変な方向に転がって行って、紙を逸れていく。そうなると欲しい未来は手に入らない。じゃあこうしよう」

そう言うと迅は、今度は書かれた線の間に、壁の模型を置く。

 

「はい。壁を作ったことで、ペンは真っすぐに転がって、一番いい未来へとたどり着きました。めでたしめでたし。――で。未来を構成する人たちは色々いる。線を引いて“この先にいい未来があるよ”と導く人。その導く先にしっかりとペンを持っていけるように壁になる人。ペンとなって転がっていく人。――もう既に役割が決まっている人を下手に動かしたら、今度は線も壁もなくなっちゃうかもしれない。それだけは避けたいんだ」

 

だから。

 

「君はまだ、役割が決まっていない。自由に動いて、自由に未来を動かせる――そんな貴重な人材なんだ」

未来を、自由に変えられる人間。

 

「君は――みんなを守るために入隊したんだよね」

迅がそう尋ねる。

頷く。

「------ボーダーには、偉い人がいっぱいいる。その人たちはね、のび太君。一生懸命に働いてくれている。ボーダーがいるのは鬼怒田さん含めて、とっても働き者の大人たちがいるからなんだ」

「----うん」

「でも。その人たちの判断を――時に、逆らわなければならない時がある。一生懸命に働いている中でも、最善を尽くそうとする中でも、それでもどうしようもなく間違った方向に行く事があるんだ」

だから。

「俺等四人は、共犯者。――時に、ボーダーそのものの意思に反しながらでも、それでも最悪の未来を避けるために暗躍する一味だ。ようこそ、野比のび太君」

 

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