「ランク戦第2ラウンドは、影浦隊6ポイント、荒船隊2ポイント、諏訪隊1ポイント、漆間隊0ポイント。影浦隊は生存点2ポイントを追加し、合計8ポイントを奪い勝利となりました。――では、解説のお二方。総評をお願いします」
月見蓮がそう促すと、東がまず口を開いた。
「結果だけを見れば、非常に順当に思えますが。ただ、やはり――『戦術的行動をとれる』影浦隊の恐ろしさをまざまざと見せつけられたような試合でした」
「だな」
冬島も、その意見に頷く。
「戦術的行動、と申しますと?」
「序盤。荒船隊が影浦の動きに制限をかけるマップ設定をするや否や即座に北添の爆撃で居場所を炙り出す方針に切り替えた事と、一連の影浦の動きですね」
東がそう言うと、冬島がそれに続ける。
「前回の影浦隊の動きは影浦の索敵から狙撃手を炙り出してからの各個撃破だったが、今回は北添の爆撃。序盤での動きに二つカードが出来たことになる。影浦の索敵を嫌って環境を変えると、今度は北添の爆撃が飛んでくるって寸法だ」
「影浦隊は近中遠全てトップクラスの隊員が揃っている部隊です。なので、序盤に敵の炙り出しが出来ると、それぞれに一番最適な駒をぶつけることが出来ます。――その手段が二種類出来たことは、とても重要です」
荒船隊により環境が大きく変えられた影浦隊は、北添の爆撃により敵を炙り出す方策に変えた。
影浦の索敵を嫌がり、行動を阻害するような環境に変えれば、特殊環境で映える北添の爆撃が襲い来る。
序盤の環境設定での対策に対しての、対策。
そこまでも、影浦隊は用意していた。
「そして、影浦。彼は索敵の役割を北添に任せると、状況が動くまで橋に張り付いていました」
序盤の影浦は、ジャイアンと諏訪隊がぶつかり合うまで、橋で待ち構える態勢を取っていた。
好戦的な性格で知られる彼の動きとしては、信じられない思いを抱く隊員も多かったであろう。影浦が敵影に向かわず、一人ぽつんと立っている姿――そんな光景が、確かに広がっていたのだから。
「個人的にはあの動きが一番驚きだったな。あの影浦が、待機するなんて選択をするなんて中々思えねぇからな」
「北添が爆撃を選択するということは、当然北添に敵が集まる事になる。それ故に、橋に張り付くことにより反対側のマップの敵が北添に近付く事を阻害する為にそこにいたのでしょう。これは、狙撃が効かない影浦だからこそ出来る事です」
「その上で、絵馬を北添に張り付かせ、釣りだしての撃破までさせていた。――今回の影浦隊の動きは、全て戦術的意図がある」
「影浦は終盤までとにかく動かなかったですね。剛田に削られた堤を仕留める以外に、序盤中盤で目立った動きをしなかった。これは影浦の副作用を活かす、という意味でも重要なのですが。それ以外にも大きな効用がある」
「効用とは?」
その問いかけに、冬島が答える。
「――影浦は基本的に生存能力が高いと言う事だな。エースとしての能力と同時に、不意打ちが効かないという性質を持っているから。積極的に戦っても強いが、序盤であまり動かなければ高確率で終盤まで生き残れる」
「終盤で、数が減っている状況であれば影浦を倒す手段が次第に減っていく。狙撃は利きませんし、攻撃手で影浦を倒せるのも一握り。他の隊員が予め数を削り、残った敵を影浦が仕留めていくという流れに乗れれば、確実に生存点を稼ぐことが出来る」
「その点、剛田の加入が大きいわな。破壊力がある銃手が一人入った事で、序盤に無理に影浦を動かす必要性が減った」
「では、他の隊の動きに関してはどうでしょう?」
「諏訪隊は、本当にご愁傷さまとしか言いようがない。荒船隊の影浦隊対策は、ほとんど序盤の被害を諏訪隊に押し付けるためのものと言っても過言ではないですからね」
「反撃不能の爆撃に行動が阻害され、剛田によって位置が炙り出され、影浦に仕留められる。基本は近距離主体の諏訪隊には、少しばかり厳しい戦場だったな」
「そして荒船隊ですが。彼等は本当によくやったと思いますね。狙撃手主体の編成で影浦隊に次いで2位につけたのは序盤の戦略のおかげでしょう」
「最後の一手も、惜しかった。アレはほんとに一つタイミングが合えば影浦を仕留めることができたかもしれない」
「荒船隊も貪欲に点を取る姿勢を崩さなかったのは素晴らしい事です。終盤、絵馬に穂刈が仕留められましたが、半崎を残しておけば確実に絵馬を落とすことが出来たでしょう。その選択をせずに、あくまで影浦を落とす為に半崎を利用していた辺りに、本気で勝ちに来ている姿勢が感じられました」
「狙撃を当てるんじゃなく、足元を崩す手段として用いる。簡単なように見えて、影浦の身体を一切対象に収めることなくピンポイントで撃ち抜くのは、相当な技術が必要だ。――な、東」
「ええ。そうですね。だからこそ精密射撃に定評のある半崎にアイビスを持たせたのでしょう」
「最終的には刺さらなかったが、戦術自体は間違いはなかったな」
「成程。――お二方共、解説ありがとうございました。では、次は夜の部のランク戦があります。そちらもよろしくお願いします。では――」
※
「――負けちまったなー」
「負けましたね―」
「1ポイントだけしかとれてない~」
「うるせ」
諏訪隊は総評を聞きながら、三人ともが実にぐったりとしていた。
彼等は序盤にジャイアンを討っての1ポイントのみで、全滅してしまった。
「クソッタレ------。ジャイアンの動きが予想外に良かったなあんにゃろう」
「あれ-----。多分、大規模侵攻の時の、アイツの動きですよね」
諏訪と堤の二人が組んでの一斉射撃。
それを打ち破ったジャイアンの動きは――かつて共に組んで打ち破ったランバネインの動きをそのまま模倣したものだ。
「ケッ。あーくそ。――どいつもこいつも-----」
成長がはえぇなぁ、と。
諏訪は火も付けていない煙草を咥えると、そう一人ごちた。
※
「やっぱダルいっすね、影浦隊-----」
「まあ仕方ない。最後のも賭けだったしな」
荒船隊は荒船隊で。
最後に刺さらなかった策について話し込んでいた。
「あれは半崎のタイミングに俺が完璧に合わせられなかったからだな。捨て身だったが、踏み込みがちょっと足りなかった」
「だが、あれ以上踏み込めば死んでいただろう。隊長が」
「だな。――畜生。やっぱりカゲの壁はたけぇな」
だが、荒船はやはり嬉しかった。
何が嬉しいといえば――やはり友達の成長だろう。
荒船は知っている。
影浦がどんな人間か。
誤解されがちな彼の人間性の、その本質も。
今――彼もまた、何かを得ようと必死になって戦っている。
その事が、やはり嬉しい。
負けはした。
それは悔しい。
だが――あの姿を見て、その悔しさは完全に飲み込めた。
「ま、俺達もまだまだだって事だな。――次は、もっとしっかりと戦ってやるよ」
※
「お疲れ、ジャイアン君」
「うっす、ゾエさん。――序盤で落ちてすみません」
「ううん。あの二人に挟まれて生き残れるのなんて、ウチの隊じゃカゲ位だから。十分十分」
ニコニコと笑みながら、北添はそう愛弟子に声をかける。
隊に所属してから、余計に北添はジャイアンに目をかけるようになった。
トリオンに恵まれ、度胸もあるジャイアンだが、やはりまだ小学生でかつ、まだ正隊員になって数カ月ばかりの新人である。
そんな彼が、こんな現状の影浦隊に入ってくれたことを、――北添だけではなく、他の隊員も言葉にせずとも、深く感謝しているのだ。
「------あの動き、よかったじゃねぇか」
影浦は、そうぼそりと呟く。
「え?」
「挟み込まれたら、即座に片方をぶっ潰す。その行動を迷いなく取れるんだからな。結構筋があるぜ、ジャイアン」
「影浦の兄貴-----」
「ま、でもまだ防御があめぇがな。――それに、せっかくレイガスト持ってるんだ。近接戦もある程度覚えておいた方がいいだろう」
影浦はそうぶっきらぼうに呟くと、ジャイアンを手招きする。
「どうしたんすか?」
「俺が相手してやる。――レイガストを武器モードにして、やってみろ。一撃でも俺に攻撃食らわせたらお前の勝ちだ」
「おお!勝ったら何があるんすか、影浦の兄貴!」
「うちのお好み焼き食い放題」
「おっしゃ!後悔しても遅いっすからね兄貴ィ!勝って店が潰れる寸前まで食い尽くしてやる!」
「ケッ。お前如きに攻撃食らうほど俺は甘くねぇんだよバーカ。いいからとっとと来やがれ」
こうして。
ジャイアンもまた、影浦含め――全員の歩み寄りによって、その色に染められていく。
影浦隊もまた――次第に、変化をしていく。
※
そして。
「――やっぱり、強いな影浦隊」
三雲修もまた、昼の部の結果を受け一つ頭を悩ませていた。
確実に影浦隊は、上位昇格、そしてA級昇格条件に大きな壁となるであろう。それは間違いないと確信を覚えている。
「ま、隊長。今は他の隊を気にしてもしょうがない。作戦を伝えてくれ」
「そうだな、すまない。――それじゃあ、改めて。柿崎隊・那須隊の作戦を伝える」
玉狛第二作戦室内。
三人は寄り集まり――修の言葉に耳を傾けていた。