ドラえもん のび太の境界防衛記   作:丸米

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玉狛第二②

「柿崎隊と那須隊には、今の玉狛第二が持っていない優位点がそれぞれにある」

修は開口一番に、そう言った。

 

「それぞれの、優位点-----」

「うん」

のび太が反芻した言葉に合わせ、修は続ける。

「まずは柿崎隊。この部隊は、合流した時の総合力では間違いなく僕等よりも上回っている」

「だろうね」

遊真もその意見には同意する。

 

「柿崎隊の厄介なところは三人共に射撃・近接の切り替えが出来ることで、その連携の練度が高い」

 

柿崎隊の人員は、

隊長である柿崎国治、照屋文香、巴虎太郎の三名。

柿崎、照屋は万能手。巴は弧月を装備した銃手。全員が全員、あらゆる距離から戦える部隊だ。

 

「三人が集まってしまったら、崩すのが途端に難しくなる。柿崎隊長、照屋先輩が弾幕を張って足を止めさせている間に、機動力のある巴が仕留めるパターン。もしくは巴が斬り込んで残り二人が挟み込んでの一斉掃射で仕留めるパターン――等。様々なパターンが考えられる」

「今回、柿崎隊がマップ選択権があるよな?」

「ああ。だから、高確率で工場地帯のマップになるだろう」

柿崎隊は、マップ選択権がある時、ほぼこの工場地帯のマップを選んでいる。

マップそのものが狭く、背の高い建造物が立ち並ぶ地形の為狙撃手が活かしづらいが、建物内部は開けた場所が多く射線が通りやすい。

合流がしやすく、射撃戦でイニシアティブを取りやすいこのマップは柿崎隊と非常にマッチしている。

 

「そして、那須隊。この部隊は狙撃手というこの試合における絶対的優位点を持っている。そして、那須先輩の存在がかなり厄介だ」

那須隊は、隊長の那須玲に、熊谷友子、日浦茜の三名。

那須は射手、熊谷は攻撃手、日浦は狙撃手。柿崎隊とは対照的に、三人が完全に近中遠の役割分担をしている部隊だ。

「のびたは、このナス先輩に関して、どんな印象を持ってる」

「僕が戦った人の中でいうと、木虎さんに近い感じがする」

「ほほう。キトラか」

「うん。機動力があって、それを活かして全方位から攻撃を加えて相手を削っていくところとか。削り切った後に木虎さんはスコーピオンで仕留める動きをするけど、那須さんはバイパーを集めてシールドを壊してくるんだ」

「----確かに。その動きは何度もあったな」

 

那須玲は、ボーダーでも屈指のバイパー使いだ。

彼女が放つバイパーは幾つもの複雑な軌道を描いて自由に対象へ襲い掛かる。

周囲を取り囲むように全方位からバイパーを襲い掛からせる『鳥篭』と呼ばれる技法を使い相手のシールドを拡げ、削る。

 

それだけでも厄介なのだが、彼女はその『鳥篭』を放つと同時に、『鳥篭』の軌道を途中までなぞりながら途中で軌道修正し、バイパーを集弾させる技法も持っている。

 

「射程を持ったうえで、機動力がある。更に狙撃手の日浦もいるから、那須先輩が機動力で釣りだしたうえでの狙撃も想定される」

「ふむん。――特に俺は攻撃手だから、ナス先輩に接近しようとしての釣り出しはかなり引っかかりそうだな」

 

「以上。二部隊の特徴をふまえて。序盤の作戦を伝える。――野比君は序盤、出来る限り柿崎隊の通り道にスパイダーを張っていってもらいたい」

「ほう。のびたのあの糸か」

「ああ。――マップが狭く合流がしやすい環境だろうから、各隊序盤に確実に合流にかかると思う。特に柿崎隊はその強みを生かすためのマップ設定をしてくるだろうから。初動は確実に合流しにかかる」

「うん」

「合流をする前に奇襲をかけて一人でも脱落させれればそれが一番だけど、マップ条件的にそれは厳しい。だから、合流地点から動きにくさせる」

「その為のスパイダーか。――割とスピード勝負だな」

「ああ。当然、柿崎隊の合流があまりにも早過ぎた場合はこの作戦は破棄する。でも、一人でも合流地点から離れた隊員がいても、柿崎隊は合流優先で動いてくると思う。――通り道を塞いでいって、合流後の柿崎隊の動きに制限をかけていく」

「わかりました。那須隊は?」

「那須隊に関しては、この試合で唯一の狙撃手である日浦が厄介だから、見つけ次第仕留めたい。多分相手も日浦の重要性は解っているだろうから、多分釣りだしての襲撃をかけてくると思う。十分に注意してくれ」

「了解」

「それじゃあ、時間まで皆準備をよろしく。あ、あと」

一つ修は最後にもう一つだけ、報告事項を続ける

「今日、烏丸先輩が解説するらしい」

「ほぅ」

「何か、急遽決まったみたいで。色々実況・解説席がバタバタしているらしい」

「----何で?」

「さあ------」

修は、首を傾げる。

 

では、実況・解説ブースの様子を見てみよう。

 

 

この試合の実況を務める氷見亜季は混乱の最中にいた。

本日、ランク戦第2ラウンド夜の部の解説は本来太刀川慶と木虎藍が行うはずであったのだ。

 

されど。

太刀川は忍田本部長及び風間に、訓練ブース内にて襟首を掴まれそのままボーダー本部の何処か別室に引き摺り込まれるという緊急事態が発生したことにより、太刀川は本日の解説を行う事が不可能になった。

その為代わりの解説を探さなければならない羽目になったのだが、残念ながら彼女の知り合いのほとんどが用事及び防衛任務が入っており、木虎一人で解説することになるかもと思っていた。

 

が。

 

風間が急遽太刀川を解説から外してしまった事に責任は感じていたらしく、代わりの人員は必ず用意する事を約束してくれたのだ。

その結果。

 

「------」

 

もさもさとしたイケメンが、一人そこにいた。

実況の氷見と、解説の木虎を挟んで。

 

絶句。

 

「-----氷見先輩。そろそろ挨拶の時間ですよ」

「ひゃみゃあ!?」

いきなりかけられた声に、変な声が漏れてしまう。

 

何故。

何故。

突如として、何でこんな所に。何で?

――いや。これは無理だ。いきなり心の準備をしろというのは、これは無理。絶対無理。

 

氷見亜季。

彼女はB級1位二宮隊の押しも押されぬオペレーターである。

と同時に。

ボーダー内外を問わず様々いる、鳥丸ファンクラブのうち一人である。

 

「し、し、しつ、失礼しました!私、本日のランク戦夜の部の、じ、実況をさせてい、頂き、ます!に、二宮隊の、ひゃ、ひゃ、氷見です!よろしくお願いします!」

 

彼女は元は非常に緊張しく、あがり症を持った人間だったのだという。

今や克服したものの――憧れの人間を前にして、どうやら再発してしまったらしい。

 

「解説の烏丸です。本部長と風間隊長に連行された太刀川さんの代理で務めさせてもらいます。どうぞよろしく」

変わらぬ表情のまま、鳥丸はさらりと挨拶をした。

 

隣を見る。

 

「-------」

豆鉄砲どころか発砲された後の如く口を半開きにしたまま硬直する木虎が、そこにいた。

A級、嵐山隊所属、木虎藍。

押しも押されぬA級部隊のエースである彼女も――ボーダー内外を問わず様々いる、鳥丸ファンクラブのうち一人である。

 

「おーい、木虎」

「ひゃい!あ、か、烏丸先輩----!」

「挨拶」

「は、はい!――コホン。嵐山隊所属、木虎です。烏丸先輩と同じく、解説を務めさせて頂きます」

 

「い---いじょぅ、三名で---務めさせて、頂きます----」

「よろしくお願いします」

「あの-----何で烏丸先輩が----?」

普段、ボーダー隊員とアルバイトの掛け持ちで多忙を極める烏丸は、解説席に座る事はおろか本部で見かける事すら稀だ。

何故緊急事態とはいえ解説に来ることが出来たのだろう。

「ああ。実は今日日雇いの工事現場の警備のバイトが入っていたんだが。今日予報が外れて雨が降り始めただろ。バイトが出来なくなってな」

「そ、そんな事が----」

「その後にレイジさん経由で風間先輩から連絡があって。ボーダーのスポンサーになってくれている外食チェーンの食べ放題チケットの余りを家族分やるから解説をしてくれと頼まれて。まあ、ものに釣られてって事だな」

「あ、そうなんですね」

何という。

何という千載一遇の好機。

 

――これは気合を入れて解説をせねばならない。

 

鳥丸からすれば、玉狛第二は同じ支部所属の隊員であり、更に隊長は彼の弟子だ。無論、その分贔屓目に見ることは絶対にしないし平等に解説をするが、だがきっと彼自身も気になっている試合には違いない。適切かつ丁寧に、そして自身が持つ慧眼をそれとなく示しながら、そして可能であれば鳥丸のサポートを行いながら――しっかりと自身を見直させるのだ。

たった数十秒前に自分が晒してしまった失態を一先ず棚に置き、彼女は心魂の気合を入れなおした。

 

「本日の、マップは、工場地区です」

氷見は一度自らの心を無に帰し、かつて様々試してみた対策を一先ず実行する。言葉を途切れ途切れに区切り、言葉をどもらせないように。

 

「工場地区か。まあ妥当だな」

「ですね。今回マップ選択権のある柿崎隊は、合流しやすいマップを好みますので」

「その上で狙撃手の射線が通りにくい。オールラウンダーを揃えている柿崎隊としてみれば、一番自身の強みを活かせるマップだろう」

「今回、狙撃手は那須隊の日浦隊員がおりますね。那須隊としても、このマップは那須隊長の強みを存分に活かせます」

「――さて。そろそろ、転送が始まるな」

 

ランク戦スタートまで、残り一分を切る。

 

深呼吸。

すー、はー。

すー、はー。

 

よし。

何かちょっとだけいい匂いがしたような気がするのは見て見ぬふりをして、

 

カウントダウンが、終わる。

 

「ランク戦、第二戦夜の部――スタートでしぅ!」

 

噛んだ。


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