ドラえもん のび太の境界防衛記   作:丸米

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玉狛第二③

――のび太が銃を構えると同時、那須が動き出す。

 

遮蔽物の間を通り抜けるバイパーが、のび太の周囲を取り囲む。

眼前に迫る、二択。

取り囲むか、一点に収束するか。

 

那須は、バイパーをリアルタイムで弾道を引ける。

周囲を取り囲むような軌道でバイパーを走らせて、結局は一点にバイパーを集める。そういう手法を彼女は、取れる。

 

のび太もまたバイパーを撃ちこみながら、方策を考える。

 

取り囲む。

収束する。

この二択を撃たれた瞬間に判断するのは不可能。それだけ那須が操るバイパーは、自由度が高い。

 

遮蔽物の間を飛び跳ね、自らの姿を巧みに眩ませながらバイパーを走らせる。

のび太は削れた足を庇いながら、コンテナから飛び降りる。

 

那須は、バイパーのフルアタックを敢行している。

 

この場において自身が勝つためには、何が必要か。

 

――足を止めるな。

――攻撃を止めるな。

――そうしなければ、削り殺される。

 

来訪するバイパー弾。

正面から。

障害物を抜けながら。

死角から。

 

通り過ぎる弾丸が軌道を変えてこちらにやってくる恐怖。

追尾ミサイルすらも生温い。これは本当に、明瞭な意思をもって飛来する弾丸だ。

 

――でも。

 

それでも。

那須自身の動きは、追える。

 

大丈夫だ。

自分は、遊真と、黒江と戦ってきた。その経験が、彼女の動きをしっかりと視界に映すことは出来ている。

 

あの動きに追いつくことはできないけど。

あの動きの先に銃口を向けること位は出来る。

 

バイパーに。

バイパーを重ねていく。

 

「-------」

那須の表情に、笑みが零れる。

彼女の肩口にぽっかりと空いた穴。

その弾丸は――彼女が弾き出すバイパーに、のび太のバイパーが沿っていき那須へ到来した代物であった。

 

彼女が引くラインを沿う。

跳ね回る彼女の動きを教えてくれるバイパーの流れ。

その流れに、弾丸を置いていく。

バイパーとバイパーが、交差する。

それらはまるで建物の間を駆け抜ける流星の如く線を描き、それらは銃口とトリオンキューブという点の間を結び繋がっていた。

 

のび太の左腕にも、穴が開く。

 

大丈夫だ。

ここで倒されたってかまわない。

ここで――那須を仕留めれば、後は遊真がどうにかしてくれる。

 

のび太がここで与えられた役割は一つ。

那須の足止めだ。

 

バイパーの弾雨に、バイパーを撃ちこむ。

まち針に糸を通すように。

彼女が放つバイパーの雨の中に、一つ自らの弾道を通す。

 

――バイパーじゃ、火力が足りない。

 

今自身が持つ武器はバイパー銃。

圧倒的な手数を誇る那須を相手するには、手数も火力も何もかも足りない。

随分と削っては来たが、それでも自身のダメージの方が多い。手数の多さだけ、削れて行くスピードが段違いだ。

 

――ここからは、削る意識じゃダメだ。一発で、仕留める意識でいかなきゃ。

 

のび太は、バイパーを解除すると同時にアステロイドをセットする。

 

そして、グラスホッパーを更にセット。

 

――まだ、この周辺にある全てのスパイダーを、爆破できている訳じゃない。

 

はっきりと目に見える色合いのスパイダーは、もうあらかた爆破されている。

でも構わない。

まだ。

隠し場所がある。

 

のび太は、周辺にスパイダーを張り巡らしている。

のび太は、スパイダーを張る区画を二つに分けた。

地面に近い場所でかつ、戦闘の通り道になりやすい場所には黒のスパイダーを。

そして――背の高いコンテナ同士が並列している区画には、透明に近い見えにくいスパイダーを。

 

のび太は、グラスホッパーに足をかける。

 

――僕が扱うグラスホッパーなんかで、那須さんの機動力に勝てるなんて思っていない。

 

でも、ここで”壁”を作れる。

 

グラスホッパーの高速軌道の中、のび太はアステロイドを放つ。

那須はその弾丸をシールドで防ぎながら、のび太を追う。

 

のび太は、コンテナ群の狭間にある――一見すれば透明に見える糸を、その手で掴む。

ぐ、と身体を引き付け、また弾丸を放つ。

那須はそれを防ぎながら、バイパーを放っていく。

放たれた時には、また別のコンテナにグラスホッパーで飛ぶ。そして撃つ。

 

――シールドを使い始めた。つまり、バイパーの手数は減っている。

 

のび太のアステロイドは、破壊力があり射程もあるが、遅い。

その特性とのび太の射撃技術を合わせると、相手に高確率でシールドを使わせるという状況が出来上がる。

 

――ここだ。ここで、戦うんだ。

 

グラスホッパーに足をかける。

透明な糸を掴みながら、アステロイドを放つ。

 

糸がある方向へ高速移動を繰り返しながら、撃つ。

 

その身体に向け、那須はバイパーを放っていく。

のび太の軌道を追うように、変幻自在にバイパーを曲げながら。

 

――ああ、何だか。

 

似ているなぁ、とのび太は思う。

かつて、木虎と戦った時。

スパイダーを扱い飛び跳ねる木虎に、バイパーを撃ちこみ続けたあの図式。

その逆を、今のび太は行っていた。

互いの身体が削れて行く。

のび太の左腕は完全に削られ右手一本でアステロイド銃を構え、必死に那須に銃口を向けている。

那須もまた、全身をショットガンで撃ち込まれたかのように身体が穴塗れになっている。

 

「――いい戦い方ね、野比君」

 

ぽつりと、那須は呟く。

 

「でもね――スパイダーを掴む瞬間の隙が、大きいわ」

 

那須はじぃ、とのび太の削れた足を見る。

グラスホッパーの発動をする時――のび太は、必ず削れていない足を前に出す形でしか高速移動できない。更に言えば、左手でスパイダーを掴めない。

削れた手足で着地したり、スパイダーの糸を引っ掛けられる猛者もいるにはいるが――のび太はその辺りの系統の人間ではない。

 

「だから、見えるの」

 

那須は、自らの足先にバイパー弾を落とす。

足元から模様を描くような綺麗な直線が、幾百も生まれ地面を闊歩する。

闊歩したそれらが地面から地面、そして地から壁に、壁から――コンテナに、弾道がすぅ、と引かれていく。

 

そして。

その線は、のび太の移動先のコンテナの間に、到来する。

 

のび太が糸を掴み、銃を構えたその瞬間。

 

のび太の身体は――左右のコンテナから螺旋状に引かれた幾十もの弾丸に派手に貫かれていた。

 

「-----くぅ」

 

見抜かれていた。

奇しくも。

攻略のされ方も、木虎との戦いの中で自らがやられたのと同じ形であった。

 

移動先に、弾丸が置かれていた。

 

だが。

あれだけの弾丸を放ったと言う事は――那須は今、シールドを解いていると言う事だ。

 

崩れていく中で、それでものび太は一発を放つ。

 

その弾丸は那須の胸元を見事貫く。

――野比、緊急脱出。

 

「――ごめんなさい。くまちゃん。援護に向かう、予定だったのに-----」

 

ぽつりとそう呟くと――那須の身体もまた崩れていく。

 

――那須、緊急脱出。

 

 

「――」

 

観覧席も、実況も、同じ立場にあるはずの解説席まで。

全員が、息を飲んでその戦いを見ていた。

 

機動に次ぐ機動。

交わる曲線と直線。

そして最後に見せた――那須の大技。

その全てが――少しばかり、視覚的な衝撃が大きかった。

 

「-----の、野比隊員と、那須隊長が相打ち。玉狛第二、那須隊共に1ポイントが加算されます」

 

氷見は少しばかりこの静寂に我を取り戻したのか、多少噛みながらも言葉を繋ぐ。

 

「――凄まじい戦いでしたね----」

「はい。――しかし、ここで那須隊長が落ちるのは、玉狛第二としては大きいでしょうね」

「ええ。間違いなく、野比隊員の役割は那須隊長の釣り出しでしょうからね」

「那須隊としては、大きな賭けでした。――那須隊長と熊谷先輩を分けたのは、あくまで隊がトップに立つためでしょう」

「はい。――あの状況下で、那須隊は三つの選択肢がありました。二人が組んで野比隊員を仕留めに行く選択。二人が組んで、柿崎隊と玉狛第二が戦う地点の戦いに参戦する選択。そして、二手に分かれてそれぞれの地点へ送り込む選択。その中で――那須隊は二手に分かれる決断を下しました」

「結局のところ――あの状況下においては、野比を仕留めに行くというのは大きな貧乏くじなんだ」

「ええ。そうですね。――野比隊員を倒すことは、那須隊だけではなく柿崎隊にとっても大きな恩恵がある」

柿崎隊は、のび太の遠隔射撃と修のアステロイドによって身動きが取れずにいた。

故に、のび太の動きを止めることが出来れば、柿崎隊が玉狛第二と真正面から戦う事が出来るという事になる。

 

「ここで、那須隊が勝ち抜くためには玉狛第二も柿崎隊も削らなければならない。特に柿崎隊に関しては、柿崎先輩か照屋かを絶対に落とさなければならなかった」

 

那須隊にとって、合流した柿崎隊は非常に厄介な存在だ。

特に柿崎と照屋が組んでの弾幕を張られては、それに対応できるだけの手数がない。

特に――狙撃手が狩られている現状であるなら、尚更。

 

「だから、那須隊長が野比に仕掛けたタイミングと合わせて熊谷先輩が横やりを放ったのでしょう」

のび太の射撃が止む、一瞬浮足立つその瞬間を逃さず襲い掛かった熊谷。

その結果として遊真に照屋を討たせ、柿崎隊の射撃性能を大幅に削った。

 

ここまでは、那須隊の思惑通りであったのだろう。

だが。

 

――マップは、乱戦区域に移る。

 

 

胸元を斬り裂くと同時、遊真は柿崎の背後に向かう。

そして、その背中に――グラスホッパーをぶつける。

 

「ぐぁ-----!」

 

緊急脱出前の柿崎の身体が、立ち上がろうとする熊谷の胸元にぶつかる。

熊谷の動きが封じられている間。

遊真の刃が、巴に向かう。

 

弧月でそれを受け、巴はバックステップ。

ステップした状態でハウンド拳銃を放とうとするが。

 

「うぐ-----!」

遊真は、その身体を通り過ぎると同時、修のアステロイドが巴の身体を貫く。

 

「こ----のぉ!」

巴が放ったハウンドは、そのまま修を貫く。

 

両者とも、緊急脱出する中。

 

残るは――遊真と、熊谷。

 

「--------」

「--------」

 

立ち上がりざまに、旋空。

 

その間をすり抜け――遊真の刃が、その首に突き刺さっていた。

 

熊谷の緊急脱出がアナウンスされた瞬間。

――マップには、遊真一人だけが残されていた。

 

玉狛第二の勝利が、宣告された。

 

 




ハーメルン合同ランク戦、あと三日で終いです。
ばしばし作品見てください。面白いっすよ。

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