ドラえもん のび太の境界防衛記   作:丸米

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久々にこっちを更新。
オリ主で新しい連載も始めましたので、よければそっちもどうぞ~。


玉狛第二④

「さ...さて」

「――総評ですね」

 震える口先で何とか総評を口にせんとする氷見に先んじて、木虎が口を開いた。

 それが優しさゆえか、残酷さゆえか。それは解らないが。

 とにかく、この場の話題の主導権を木虎が取る事となった。

 

「今回の対戦――玉狛第二が6ポイント+生存点2ポイント。残る二隊が1ポイントずつという結果となりましたね。終わってみれば、玉狛の圧勝という形となりました」

「6ポイントのうち、4ポイントは空閑によるもの。試合全体で空閑のエースとしての能力が、残る二隊よりもはるかに上回っていた結果だったように思いますね」

 木虎の言葉に、鳥丸も言葉を足していく。

 途中で氷見が何とか「あ、あの」と言葉を放とうとするが、木虎がその役を奪ってしまっている格好だ。

 

「烏丸先輩は、勝負のポイントは何処だったと思いますか」

「第一は日浦が落ちた所でしょうね。間違いなく」

 

 日浦茜はこの試合におけるキーマンだった、と烏丸は言う。

 

「日浦はこの試合における唯一の狙撃手。彼女がいるかいないかで、残る二隊の自由度が大きく異なる事になるでしょう。個人的に、那須隊がこの試合で勝利するためには日浦を最後まで生かし切る事であると踏んでいました」

「日浦隊員は、序盤に野比隊員の足を削り、空閑隊員に仕留められました」

「ここで野比を仕留め切れなった時点で、大分那須隊は苦しい展開となったと思いますね。二人がそこで足止めをされている間に、空閑が日浦を狩る時間を与えてしまった。逆に言えば、ここを凌ぎ切った野比の粘りは素晴らしいものがあったと言えます」

「――玉狛第二も、野比隊員が那須隊に囲まれている状況で、空閑隊員を彼の援護に向かわせるのではなく狙撃手である日浦隊員の撃破に向かわせていました」

「それもかなりリスキーな行動ではありますが、ここは取れるポイントを優先すると同時、野比が生存できることを信頼していたのでしょう。実際、ここで日浦を落とせたことが後々玉狛第二にとって非常に大きな影響を及ぼしますので、個人的には取るべきリスクであると感じています」

 

 烏丸は、そう言い切ると、各隊の勝ち筋についてを説明し始める。

 

「那須隊は日浦を生かしつつ那須隊長と熊谷先輩で浮いた駒を狩る事が出来るかどうか。柿崎隊は他の二隊より先に合流が出来るかどうか。そして玉狛第二は野比を生かしつつ日浦を仕留める事が出来るかどうか。その中で、勝ち筋に乗れたのは玉狛第二だった」

「那須隊は、その条件を初動で失敗しているんですね」

「はい。序盤にスパイダーを張っていた野比はまさしく浮いた駒で、ここで前衛中衛の二人が連携して仕留めにかかった訳ですが。ここで野比が粘りに粘った為、日浦が援護せざるを得ない状況になった。この時点で、那須隊の勝ち筋は非常に薄くなったように思えますね」

「そして、柿崎隊は照屋隊員が大きく離されるマップ配置となっており、合流が遅れる事となり、那須隊に合流が先んじられてしまいました。烏丸先輩の言う勝ち筋が、初めからなかった」

「柿崎隊は玉狛第二と那須隊がぶつかっている中で、この二隊を囲む陣形も取ることが出来ました。合流地点を交戦地区付近に設定し、那須隊と野比がぶつかっている地点で横やりを入れられる立場にもありました。――けれどそうはしなかったし、そうしない事を玉狛第二・那須隊にも見抜かれていたように思います」

「烏丸先輩が、見抜かれていたと思われたポイントは何処でしょうか?」

「一つ。玉狛第二の動きが合流の阻止ではなく、相手が合流した後に妨害する策を取っていた事。野比のスパイダーですね。二つ。那須隊の撤退のタイミングが割に遅かった事。この二つですね」

 

 玉狛第二の初動は、マップ中央地点にいたのび太がスパイダーを張っていきその周囲を遊真が索敵するというもの。

 その中で那須・熊谷にのび太が見つかり交戦。そして釣り出された日浦が狩られる。これが序盤での玉狛第二・那須隊の動きである。

 

「狙撃手がいない上に、完全に部隊が合流できていない状態で張るスパイダーの効果は、移動の妨害以外の効果は然程ありません。それでも野比はスパイダーを張っていった。柿崎隊が合流を優先して動くことを予想した動きであると思います。そして、その場所に襲い掛かる那須隊もギリギリまで野比と交戦し、撤退したのも空閑と三雲が野比の援護に来るタイミング。柿崎隊の横やりを警戒するそぶりはなかった」

 

 事実。

 柿崎隊は二隊の交戦地区を迂回しての合流を目指した。

 この動きの中、日浦が狩られ、野比が遠距離射撃の配置に付き、そしてスパイダー地点に追い込む準備が整えられた。

 合流した後に、しっかり連携を崩す策が形作られていた。

 

「柿崎隊は、合流してからが強いです。なので合流を優先するのは何も間違ってはいないです。ただ、それが読まれているという現状に対する答えが今のところ見つかってません」

「序盤を総括するなら――勝ち筋を整えられた玉狛第二と、勝ち筋を得ようとして失敗した那須隊と、勝ち筋を得るには時間が足りなかった柿崎隊、という事でしょうか」

「それで間違いないですね」

 

 注:氷見実況は何とか各解説員に話題を振ろうとはしております。役割を木虎にとられ涙目になって言葉に詰まっているだけです。悪しからず。許して。

 

「そして、中盤から終盤にかけて、怒涛の展開でしたね。那須隊長VS野比隊員の一騎打ちと、残る隊員による乱戦」

「那須隊長と野比の戦いに関しては、お互い見事としか言えませんね。まさしくお互い全ての手をかけて戦い抜いていました」

 那須のバイパーと、のび太の壮絶な弾丸の応酬。

 思わず解説員すらも言葉を失うほどに壮絶な結末となったこの一騎打ちは、最終的に相打ちという形で終わった。

 

「お互いの本領が出ていた試合でしたね。機動力は那須隊長が勝り、攻撃の速度は野比が勝っているという前提があって、那須隊長は機動力を活かし障害物で射線を切っていき、野比は最終的にグラスホッパーで機動力を埋め合わせながら攻撃を続けていた」

 

 障害物の間を自在に動き回る那須と、それに追い縋りながら銃を撃ち続けてきたのび太。

 この戦いは――のび太の動きを想定した上での那須の大技と、のび太の早撃ちによる相打ちで終わる。

 

「自分の強みをぶつけ合い、最終的な読みあいがお互い噛み合って、お互い倒れた。そんな印象です」

「ここで野比隊員が那須隊長と戦う事で、もう一つの区画では一気に乱戦となりました」

 

 のび太の射撃と、それに連動した修・遊真との連携によって、柿崎隊を完全に封じ込めていた玉狛第二。

 だが、そののび太が交戦に入った事で柿崎隊が動けるようになり、そして那須隊熊谷の乱入によって一気に乱戦と化した。

 

「ここでは、とにかく空閑の乱戦での強さが際立っていた印象です」

「ここだけで、空閑隊員は3ポイントを獲得していますものね」

「乱戦は、攻防入り乱れる中、一瞬浮いた駒がどうしても出てきます。それを察知する能力と、それを狩るための道筋を一瞬で作り出せる判断力がとにかく高い」

「例えば、どのような所でしょうか?」

「序盤。熊谷先輩による乱入という不測事態においても、その状況の変化をいの一番に察知し真っ先に体勢の崩れた照屋を狩った動きもそうですし、その後全員が全員攻撃態勢に入っている中襲い掛かってくる巴にグラスホッパーを踏ませ、全員の動きを封じた上で柿崎隊長を狩りだした動きなんかですね。――乱戦における判断力の高さが、ここに詰まっている」

 

 各隊員が、別々の敵に攻撃せんとする中。

 遊真は、

 ①巴にグラスホッパーを踏ませ、自らの身を守る

 という一つの行動から、

 ②熊谷の動きを巴をぶつけることで封じる

 ③柿崎の銃撃が熊谷に当たる事を封じる

 

 これらの効果を発生させたうえで、

 

 ④銃口を既に別方向に向けている柿崎を狩る

 

 という動きに連動させている。

 

「恐らくは、自身の安全を確保した上で、一点でも多くポイントを取るためでしょう。一つの行動から、この乱戦で自分だけがポイントを取れる状況を整えていた」

「……末恐ろしいですね」

「全くです」

 

 その後は。

 三雲と連携して巴を狩り、そして熊谷を狩り――玉狛第二の勝利となった。

 

「那須隊が、熊谷先輩と那須隊長でそれぞれ人員を分けた意図を、どう烏丸先輩は見ますか?」

「あくまで一位を取るためでしょう。那須隊長が野比を撃退して、熊谷が乱戦を引き起こしてそれぞれの部隊を消耗させたうえで二人が合流出来れば一位が見えていたからでしょう。――しかし、那須隊長が倒れたことでその見込みが潰えてしまった」

 

 那須と熊谷が連携してのび太を撃破しに行った場合。

 のび太を撃破できた可能性は非常に高かっただろう。

 だがそれと同時に、柿崎隊がのび太の動きが制限されている間に大通りに逃げられる可能性もまた高かった。

 そうなると、のび太との戦いで消耗した那須・熊谷コンビで合流した柿崎隊と対戦する可能性があった。それに玉狛第二にも狙われるとあれば、勝ち切る可能性は薄かった。

 それ故に、二人を分けた。

 

「玉狛第二は、この試合で大まかなチーム戦略が見えてきましたね。野比のスパイダーと射撃で相手部隊の動きを封じ込め、封じ込めた場所に空閑を投入しポイントを稼ぐ。今回はその戦略が綺麗に嵌ったように思えます。そしてこの戦略に、初見という事もあるのでしょう。二隊が対応できなかった」

 そう烏丸は、この試合を総括した。

 この言い方には、烏丸なりの隠された配慮がある。

 この試合で、仮に今休んでいる狙撃手が加われば――という部分をしっかり無視したまま玉狛第二の戦術に関して語っているからである。

 

「それじゃあ氷見先輩――第二試合終了時のランキングの表示をよろしくお願いします」

 そう、木虎に言われると、涙目のまま、無言で電光掲示板にランキングを掲載する。

 

 そこには――。

 

「――凄いですね。影浦隊と玉狛第二がもう上位ランクに入りました」

 

 影浦隊が5位。

 玉狛第二6位。

 

「上位ランクに殴り込みをかけた二隊――次もまた、俄然楽しみになりましたね」

 

 

「...」

 柿崎は。

 解説を聞きながら、項垂れていた。

 

 ――柿崎隊は、合流してから強いです。なので合流を優先するのは何も間違ってはいないです。ただ、それが読まれているという現状に対する答えが今のところ見つかってません。

 

 その通り。

 本当に...その通り。

 

「――強かったですね。玉狛第二」

「完全に動きが読まれてましたね。それに野比君だけじゃなくて、もう一人の空閑先輩も...」

「いやー。正直言って空閑君に関してはあの動きをあの場面で対応しろってのが中々難しいでしょ」

 

 同じように項垂れながらも、残る隊員は対策を立てている。

 

「結局、烏丸君が言っていることがすべてだと思います。読まれている戦術以外の引き出しを提示していかないといけない」

 

 照屋のつぶやきに、柿崎はまた胸が刺さる思いを抱く。

 自分が。

 自分の判断が。

 読まれているにもかかわらず、合流に拘った作戦が。

 

 この部隊をここまで徹底した敗北に叩き込んだのだから。

 

「――じゃあ、隊長」

 そんな自分に。

 照屋は、笑いかけた。

 

「話しましょう。――次はこういかないように」

 その笑みは、まるで落ち込んだ自分の心に、一つ波紋を投げかける石のようで。

 

「一緒に考えましょう。――失敗は、するつもりでやっちゃ勿論ダメですけど。それでも、こうして新しい発見をすることは重要な事ですから」

 

 その笑みに、柿崎は思い出した。

 かつてこの年下の女の子に言われたことを。

 

 ――支え甲斐がありそう、と。

 

 かつて柿崎は、現A級の嵐山隊隊長、嵐山准と共に記者会見に出たことがある。

 彼が持つ、異質なまでの覚悟。

 家族さえ無事ならば、後は全力で皆を守るために行動できる。

 そう偽らざる笑みの中言った言葉に――気圧され、眩しすぎると感じたあの日。

 

 その中。

 照屋は、自分に目をかけてくれた。

 照屋だけではない。虎太郎も。

 

 自分の隊員は、自分で選んだ人間じゃない。

 逆だ。

 選ばれたのだ。

 そして、試されている。

 自分は隊長として相応しいのか。

 照屋の眼が間違っていなかったと。そう言って貰えるほどの人間に成れているのか。支えで成長できているのか。

 

 そうだ。

 この部隊は。

 文香は。虎太郎は。それを率いる自分だって

 

 ――こんな所で足踏みしていい存在じゃない。

 

 照屋のその言葉に、

 もう一度気合を入れなおす。

 

「ああ」

 だから、考えよう。

 今度は、チームを生かすためだとか、そう言うのは抜きで。

 勝つために。

 上に上がるために。

 遠慮も要らない。心配も要らない。

 

「よろしく頼む、――文香。虎太郎」

 

 ただただ、進んでいこう。自分の全てをかけて。

 

 

「どぅわ~! すみません!」

 その頃。

 那須隊の面々の中、そこでは元気な泣き声が響いていた。

 狙撃手、日浦茜の声が。

 

「ううん。――烏丸君の言う通り。悪いのは、初動で野比君を狩り切れなかった私だから」

「折角茜が足を削ってくれたのに...もう少し、玲が攻撃できるよう立ち回れたら...」

 

 熊谷の眼には――涙すら浮かんでいた。

 今回、のび太を二人で囲んだ場面。

 熊谷と那須の連携の中――熊谷は那須のシールドの援助を多く受けていた。

 のび太の放つ高威力の弾丸を防ぐため。那須が持つキャパシティーを熊谷の防御に割かせてしまった。

 もしその分を、攻撃に回せていたら? 

 受けた援護の分、自分がもっとうまく立ち回れていたら? 

 結果も違ったものになるのではないか。

 そう――試合の時から後悔が渦巻く。

 

「――もっと。もっと。変わっていかなくちゃいけないわね。私達も」

 そんな二人を見て。

 那須はそう言って微笑みかけた。

 

「――ここにいる、皆で」

 

 日浦茜がいられるのも、今年度まで。

 だから。

 せめて。

 ここで。このチームで。

 上を、目指す。

 

 

 そして。

「...」

 のび太は。

 不思議な感覚を覚えていた。

 

 あの那須との戦いの中。

 何かを。

 相打ちに至るまでの記憶の経緯を辿る。

 

「――何だか」

 

 根拠はないけど。

 自分もこのままではいられない、と心のどこかに感じていた。

 

 変わらなければならない。

 そんな予感を。

 


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