ドラえもん のび太の境界防衛記   作:丸米

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剛田武③

 そうして。

 のび太は柿崎と照屋と向かい合う。

 

 タイミングを見計らい、のび太は銃口を向ける。

 軽機関銃型の突撃銃を構え──狙うは柿崎。

 

「──文香!」

「はい!」

 

 のび太の射撃が開始された瞬間、柿崎はシールドを展開しそれを防ぐ。

 

 その瞬間。

 照屋がのび太の左側に移動しつつ──。

 

 四角形の陣を、展開した。

 

 ──グラスホッパー! 

 

 彼女は。

 高速移動を可能とするグラスホッパーを使用していた。

 

 彼女はのび太の脇を横切りながら、ハウンド突撃銃を撃ち放つ。

 

 鳴り響く射撃音と共に、追尾弾がのび太の側面から襲い掛かる。

 

 その瞬間、

 柿崎が弧月を構えながらのび太に斬りかかる。

 

「く.......!」

 のび太は。

 旋空を警戒し、ハウンドをシールドで処理すると同時斬撃を避けつつ、突撃銃を撃ち放つ。

 ハウンドの間隙を突く形でタン、タン、と照屋に放ち、斬りかかる柿崎にも同様に牽制目的の銃弾を放つ。

 

 放たれた弾丸は照屋の左足と腹部を貫き、柿崎へ向かう弾丸はシールドで防がれる。

 これでいい。

 両者の足がここで止まった。

 

 のび太はシールドを解除し、片手に拳銃を呼び出す。

 

 柿崎に向け突撃銃の銃弾を出来るだけ広範に散らし、シールドを拡げさせる。

 そうして拡大したシールドの中心点に、拳銃を向ける。

 いつもの戦術だ。広範に散る弾丸でシールドを拡げさせ、威力の重い弾丸でそれを打ち破る。

 

 その狙いに気付いたのだろうか。

 照屋は突撃銃をのび太に向け、撃つ。

 

 ──ここまで、狙い通り。

 

 のび太は柿崎に向けた拳銃を身体を捩じり照屋に向けながら、銃弾を避けるようにステップする。

 銃弾が放たれ、照屋に向かうその瞬間。

 

「今です、隊長!」

「おう!」

 柿崎が。

 ステップを敢行したのび太の背後に──ワープしていた。

 

「──テレポーター!」

 のび太が驚きと共にそう言葉を放つと同時。

 背後から襲い来るアステロイドの弾雨により、──のび太は全身を穿たれた。

 

 

「柿崎先輩がテレポーターで、照屋先輩がグラスホッパー」

 はえー、とのび太は呟いた。

「今回のラウンドで色々と反省点が見えてきてな。その対策として、俺と文香は新しいトリガーに挑戦しようという事になって」

「その中で私がグラスホッパー、隊長がテレポーターという事になったの」

 柿崎隊において長年頭を悩ませていた問題が、

 ①合流するまでの時間の短縮

 と

 ②合流した後に地形を利用され射線を切られ強制的に連携が崩されるような場合はどうするのか

 

 という二点が存在していた。

 合流して近中どちらも高いレベルで連携できる隊だからこそ、その形を中心に据えつつ別の引き出しも追加していきたいと考えた。

 その解答が、このトリガーの追加である。

 

 ①に関しては照屋がグラスホッパーを利用しての高速移動により合流時間の短縮を図る、という解決策を打ち出し

 ②に関しては照屋の高速移動と柿崎の瞬間移動を組み合わせ地形の利を取る事で解決する事を目論んだ。

 

 配置が悪く隊員同士の距離が広がっている場合は照屋側から迎えに行き合流の時間を短縮する。その上で、狙撃手の位置が判明した場合や、浮いた駒がいた場合も照屋がその始末にかかる。

 更に固まった状態からそれぞれがある程度の距離を散開しながら連携する手段として柿崎のテレポーターを利用する。

 

 照屋が高速移動しそちらに視線を誘導させつつ、柿崎がテレポーターで移動し挟撃をかける連携や。

 柿崎が弾幕を張り敵の足を止めつつ照屋がグラスホッパーで急接近し仕留めるという形も出来る。

 

 戦術上の引き出しをある程度増やす形で、柿崎隊はこれまでの課題を解決する事を目論む。

 

「──まあでも、そう簡単に上手く行くとは俺達も思ってないさ」

 柿崎は鼻先を掻きながら、そう苦笑する。

 

「新しい引き出しを増やすって事は、その分隊の練度をさらに向上させなきゃいけないからな。それが一日二日でどうにかなるものとは思っていない」

 

 でも、と柿崎は続ける。

 

「──けど、何も挑戦しなかったら、ここで隊は止まってしまうからな」

 

 挑戦をしなければ、停滞したまま。

 その言葉は、──のび太の胸の内に、すぅと入り込んできた。

 

 その姿を見ながら。

 照屋もまた──笑った。

 

「私も。多分野比君の所の空閑君や草壁隊の緑川君みたいなグラスホッパーの使い方は今のところ使えないけど──でも、いつかは必ず追いつくから」

「文香......」

「だから。私も、隊長も頑張っていくから。──野比君も、頑張ってね」

「......はい」

 

 日々。

 どの部隊も常に、強くなろうと努力し続けている。

 

 それは何処であっても同じ事。自分だけがそうやっているわけではないのだ。

 

「.....」

 

 のび太は、その時に。

 変えるのならば──徹底して変わらなければならないと、思った。

 

 

「──度胸は悪くねぇ」

 

 一方。

 影浦隊隊室でも訓練が執り行われていた。

 

「いいかぁ、ジャイアン。踏み込んで振り回すだけじゃすぐに仕留められるぜ。スラスターの慣性をうまく使え。じゃなきゃ仕留められねぇ」

「慣性.....?」

「──スラスターの勢いをうまく使えってんだ。お前が近接で仕留めるような状況は限られる。最低でもゾエがバックで援護できる位置。そんで相手が地形利用して引っ込んでいる場合とかに限る。そうでなきゃ、お前はアステロイドぶっ放してる方が強いからな」

「......うす!」

「近接に関しては、ここまでかね今のところ。──ほんじゃ、交代。あとよろしく頼むわ」

 

 影浦が隊室から出ていくと。

 代わりに別な男が入室してきた。

 

「はじめまして。俺は村上鋼という。──君にレイガストの使い方を教えてほしいとカゲに頼まれたんでね」

 眠たげな眼に、伸ばされた背筋。

 何処か武士然とした男──村上鋼が、ジャイアンの眼前に立つ。

「うっす、村上さん! よろしく頼むぜ!」

「ある程度記録で動きは見ていたけど。ちゃんと自分の目で動きを知っておきたいから。──まずは五本程度、手合わせをさせてもらおうか」

 

 

「俺が教えるのは、レイガストの盾モードの使い方だ」

 

 五本中。

 五本とも、ジャイアンは負けた。

 

 レイガストであらゆる銃弾を防がれ、寄り切られて敗北。実にシンプルな負け方だった。

 

 その単純さゆえに、ジャイアンでもその敗因は解っている。

 この男の、凄まじいまでの防御能力故だ。

 

「レイガストは盾モードにすればシールドよりも強度は遥かに上だ。それにシールドのように範囲の伸縮で強度が落ちる事もない。硬さ、で言えば最も強度の高いトリガーの一つだろう」

 

 村上は、淡々としつつも落ち着いた口調で説明を続けていく。

 

「だが。シールドと違い目視範囲に自由に出現させる事は出来ない。基本的にこの盾で防げるのは、握り手の可動範囲だけだ。なので、自然とこいつを装備しておくと前に出ることになる。──そう考えれば君のトリガーとこいつは合っている。射程切り詰めて威力を増大させている訳だから、自然と前に出ることは多くなるだろう」

 

 なので、と村上は言う。

 

「君がこれからやってもらうのは、的確な防御をする事。それだけ。まずは俺が基本的な防御するうえでの動きを指導するから、その動きを覚えてくれ」

「動き?」

「ああ。今言ったように、レイガストでは自分の腕の可動範囲しか守れない。だが案外、腕の可動範囲と言うのは広いものでさ」

 

 村上はジャイアンにアステロイド突撃銃を持たせると、自身はジャイアンと斜め後ろに身体を向ける。

 撃ってみろ、という言葉と共にジャイアンはアステロイドを撃ち放つ。

 それと同時。

 村上は背中側に腕を回し、くるりと盾を背後に持っていき──その弾丸を防いだ。

 

「で」

 そこから正面に向き直る体制の動きから、居合斬りの如くジャイアンの上半身に旋空を叩き付ける。

「げえ!?」

「こういう感じで、扱いに慣れてくれば、腕っていう自分の身体の一部を動かして守っていくぶん、攻撃にもある程度転じやすい」

 

 ジャイアンは、おお、と唸った。

 カッコいい。

 ひたすらにその動きがカッコよかった。

 

「という訳で。訓練内容は簡単。俺がある程度距離を取りながら攻撃していくから、ジャイアン君がそれを防いでいくんだ。防ぐために弾幕使ってこっちの動きを制限していくのもアリ。で、その都度動きを修正していくから」

 

 

 その後。

 村上との訓練は三時間にも及んだ。

 

 肩の可動域を意識しつつ、あらゆる体勢からでも反射的に防御が取れるように反復の繰り返し。村上は正面からだけではなく、側面からの斬り込みも行い、体勢移動しながらの防御もジャイアンに叩き込んでいった。

 

「攻撃手に慣れてきたら、銃撃防ぐ訓練もゾエ辺りに協力してもらってやるからな」

「うっす。あの、村上さん」

「ん?」

「その──いいんすか。同じB級チームなのに、俺達に協力なんかして」

 

 村上が所属する鈴鳴第一は、影浦隊・玉狛第一と入れ替わりで中位に落ちた。

 いわば、自分たちを上位から叩き落とした存在であるというのに──何故協力するのだろうか。

 

「そこのところは気にしなくて大丈夫。──近界民と戦う分には、俺も、君も、勿論カゲも。皆味方だ。味方は強ければ強いほど、頼もしい。例えランク戦ではライバルであってもな」

「でも.....」

「──って言葉を、隊長に言われてな。その言葉に俺も救われたんだ」

 

 村上は、ジャイアンの大きな頭に掌を乗せる。

 

「それに。カゲが俺に珍しく頼み込んだんだ。君の世話をしてくれって。──アイツは気難しいけど、根はいい奴だからな。そんな奴が頭を下げてこっちにお願いするなんて、珍しいんだ」

 え、とジャイアンは声を上げる。

 頭を下げたのか。

 あの、影浦が。

 

「アイツが人に頼るのは本当に珍しい。──それだけアイツも切羽詰まってるんだ。助けられるものならば、助けてやりたい」

 

 だから、

「礼を言うなら、俺じゃなくて、影浦に言ってあげな」

 

 そう。

 村上は言い──そして、ジャイアンもその言葉に大きく頷いた。

 

 

 そして。

 次回ランク戦の対戦相手が決定される。

 

 ランク戦、第三試合、昼の部。

 

 ──玉狛第二、影浦隊、二宮隊、東隊による四つ巴戦となった。

 

 




地獄の組み合わせ、再び。

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