理由といたしましては、感想欄で「遊真はこの時点においてグラスホッパーを持っていないはずだ」という読者様のご指摘があった為であります。
本当に申し訳ない。
前回に引き続き、このようなミスをしでかしてしまい、本当にすみません。また同じようなミスがございましたら、遠慮なくご指摘いただければ嬉しいです。
そして、ご指摘いただきました読者様。心より感謝申し上げます。今の段階だからこそアップし直す事が出来ました。本当にありがとうございました。
なので、バトルの内容もシチュエーションもすべて変えてラウンド2からスタートとなります。すみません------。
第1ラウンドをのび太の勝利で終え、続くラウンド2。
「――やぁ、のび太。今度はここからのスタートだ」
転送場所は――お互いが視認できる、正面同士で向かい合う形で始まった。
互いの距離は、およそ六十メートルほど。
広い道路の上、障害物は何もない。
遊真は、走り出す。
のび太は、遊真との機動力の差を鑑み逃走は不可能と判断。
――戦うしかない。
のび太は二丁の拳銃を構え、銃弾を走らせた。
「――お」
側面から、速度のあるバイパーが直角の軌道を描き襲い掛かると同時に、正面からは高威力のアステロイド。
これが、基本的なのび太の戦法なのだろう。
バイパーで敵の足を止め、シールドを広く展開させる。広く展開し、薄まったシールドをアステロイドで仕留める。
シンプルだが、故に攻撃手に対して有効な戦法であろう。攻撃手と銃手との戦いはいかに距離を詰めるか、詰めさせないかの戦いとなる。足を止めさせる手段と仕留める手段が同時存在する銃手に対して、攻めあぐねてしまうのも仕方がないのだろう。
「――射角が取りやすい場所だと中々厳しい。だったら」
遊真はすぐさま、道路の脇へ飛び跳ね、建物との間にできた脇道へ入る。
のび太はその動きを視認すると同時、壁際に寄り遊真が入っていった脇道を確認しようとして、
「――ぐ!」
壁から、刃が生え出た。
のび太はすんでのところで身を翻し、刃が脇腹を掠めていく。
「捕まえたよ、のびた」
壁ごと斬り裂き、現れた遊真が―ー一瞬にしてのび太との距離を詰める。
翻し、背中を向けたのび太の背中へ向けスコーピオンを走らせる。
のび太は―ー死の気配を如実に感じながらも、振り返らない。振り返る一瞬の間に仕留められてしまうのは確実だろうから。
だから、そのまま振り返らずに撃つ。
銃声が響く。
のび太が身を翻しながら撃った弾丸が、壁に反射するように軌道を変え距離を詰める遊真の正面に向かう。
ほぅ、と感心したように声を上げ、遊真は正面へ向かう自身の身体を腰の回旋で横に軌道修正し、避ける。
その一瞬遊真がのび太から視線を切る間に、のび太は遊真を見据えんと正面へ振り返り、ほぼ同時に遊真へ銃弾を撃ち込む。
一発。
二発。
撃ち込む弾丸は、アステロイド。
遊真は一発を収束させたシールドで防ぎ、二発目は体軸をずらすことで避ける。
威力と射程に多くトリオンを割いているのだろう。速度はその分だけ抑えられている為、防ぐのは難しくない。
-------防がせる。当てようとは思わない。
この距離感から、あと一歩詰められると自分は仕留められる。
実際に対峙して解る。空閑遊真という少年の強さが。軽い身のこなし。急所を正確に狙い突く疾風のような攻撃。彼そのものが弾丸のように速く、鋭い。
以前戦った村上とはまた違った強さだ。彼は重厚かつ堅牢な防御力を前提とした強さがあるが、空閑遊真は身のこなしの柔軟さと、機動力――そして、何よりも高い状況判断力によって支えられている強さだ。
何ものも弾き返す力というよりかは、何ものもいなしすり抜ける力といおうか。
だから。彼に勝つためには―ー足を止めることが、まず大前提。
アステロイドを撃ちながら、バイパーを足元から放つ。
弾丸の軌道を自由に変えられる特性を生かし、アステロイドの銃口へ意識を集中しているであろう遊真の視線に映らぬよう。足元を這うような軌道から、弾丸を向かわせる。
「それは予想できたよ。のびた」
遊真はシールドを二つに分割し、一つを足元へ生成する。バイパーをはじき、遊真は更に踏み込んでいく。
アステロイドを放つ。
踏み込んだ足を起点にくる、と足先を変え遊真は弾丸の軌道から身を逸らす。
逸らし、流れた身体の力を利用し――遊真はのび太の斜め横側へ跳躍する。
跳躍し、地面へ足を接地するその瞬間を狙いすましたようにのび太はアステロイドを放つ。
それをまた、狙いすましたように遊真はスコーピオンを解除し、フルガードでそれを防ぐ。
―ー凄い。
全部、読まれている。
いや。読まれている、というより―ー対応している。
状況に合わせ、のび太が取るであろう行動を察知し、対応する。行動の察知からそれに対応する動きがセットで反射行動として身に沁みついているのだろう。
これから、のび太が手札を出せば出すほど、きっと遊真はそれに対応していくのだろう。新しい札を新しい形で組み込んで提示していかなければ―ー遊真には、勝てない。
生唾を飲む。
これが―ー傭兵として生きてきた者の強さなのだろう、と。
一方、遊真もまたのび太の土壇場の底力に驚いていた。
第一ラウンドで見せた、スパイダーを組み合わせての射撃戦で敗北を喫したことから―ー基本線は距離を開け、罠を張っての戦いを得意とする人物なのだろうと推測していた。
だが―ー実際に罠を張る間もない距離感での戦いでも、のび太は実に強い。
射撃の正確さに目がいっていたが――それよりも異様なのが、射撃までの速さだ。構えて引鉄を引くまでの動きにタイムラグが一切見当たらない。攻撃手が銃手に対して有利に立てる点の一つは、攻撃の初動の速さだ。武器を構え、振るだけで攻撃が成立する攻撃手に比べ、銃手は銃を構えて、狙いを定めて、引鉄を引くという三つの動作が必要になる。それ故に、距離を詰められると銃手は途端に不利になるのだ。
だが―ーことのび太においては、狙いを定めるという行為が全くない。構えて撃てば、もう弾丸は標的の急所に向かっている。
攻撃の速度、という部分においても――のび太は銃手として異様なまでに抜きんでている。
だから、中々距離が詰められない。
前に行けば行くほど、弾丸の到達時間は短くなる。反応も次第にシビアになっていく。更に言えば、足を削られた瞬間まず間違いなくゲームオーバー。足元への注意に、意識をどうしても割かざるを得ない。対応が非常に難しい。
厳しい条件なのは、遊真も同じだ。
だからこそ―ー遊真は、楽しかった。
――さあ、考えろ。
相手は、凄腕の銃手。
攻撃を繰り出す速さは、ほぼ互角。射程では無論負けている。距離を離されればバイパーで足を止められアステロイドで仕留められるあのパターンに入る。だから、足を止める訳にはいかない。距離は詰めていかなければならない。
機動力では、勝っている。それ故に、何処かで隙を見つけて距離を詰めなければならない。
―ーいや、待て。
その発想が、もう守りに入っている。
隙を見つけるんじゃない。
隙を―ー作り出すんだ。
よし、と遊真は一つ心の中で声を上げた。
のび太への方針が、固まった。
――この前、迅さんに教わった技を有効活用しよう。
遊真は、一瞬。一瞬だ。――足を、止めた。
のび太はそれを見て―ー反射的に、銃を構える。
足を止めたならば、いつもの戦い方をすればいい。バイパーによる多角攻撃と並行してのアステロイド。これで仕留められる。
しかし。
銃を構えたその瞬間―ー足元が、ぐらついた。
「え」
足元を一瞬見る。
足先に、刃が生えていた。
――もぐら爪か。
地面にスコーピオンを伸ばし、相手の足先に刃を届かせるスコーピオン独自の技。
されど、それがどうした。足が削られようと、遊真はもう足を止めた。
このまま弾雨を降らし、仕留めればいい。
しかし―ーその時には、遊真は既にこちらの懐に踏み込んでいた。
「のびた程銃を構えるのが速かったらさ、どうしても他の身体の動きも銃を構える瞬間には一定の動きをするんだ」
ざくり。
胸に、一閃。
「足の動きとか、腕の動きとか、目の動き。全部一致しているからそれだけ速く射撃ができる。だから―ー一つ動きが狂えば、射撃はそれに連動してどうしても一瞬、遅れてしまう。だから―ー」
引鉄を引くよりも早く。
空閑遊真は、のび太の胸を穿っていた。
「今回はおれの勝ちだ。のびた」
※
「---------」
現在、1対1。
互角の結果は残せている。
だが―ーのび太はそれ以上の地力の差を、遊真と自分との間にあると感じていた。
あらゆる動きが対応されていく。後半に行けば行くほど、きっと自分が不利になっていく。思考の柔軟さと、判断力と、そこから生み出される引き出し。その全てに、どうしようもない差が生まれているように感じられる。
だが。
「-------」
それでも。
のび太はブースへ歩を進める。
諦める訳には、いかないから。
どうでしょうか?前回のバトルと比較しながらお楽しみいただければ。
------すみません。本当に。