「たんじろー」
「!!」
たったったったった
近くでそんな足音がした。
これは炭治郎は近くにいたんだろうなって分かる。
でも、あんなに一緒に居たのに、最近なんだか避けられてる気がする。
いつからだろう、そう思った時、あの時からだと気付いた。
名前を呼び捨て出来る様になってからだと。
試しに戻してみた事があるんだけど、すっごい悲しそうな顔してた。
それからまた呼び捨てにしてみたけど、また避けられてる。
本当にどうしたんだろう?炭治郎。
………そういえば顔も赤かった気がする。風邪でも引いて移さない様にしてるのかな?
炭治郎ならありえる。とても優しい炭治郎の事だから、それが理由で避けるかもしれない。
でも、長引きすぎるから違うのかな?大丈夫かな……炭治郎。
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「……お兄ちゃん、いい加減にしないと調姉さん悲しむよ?」
「……うん」
「もう!しょうがないんだから」
俺こと、炭治郎は今、非常に困っていた。
俺のお嫁さんになる約束をした女の子、調から逃げているのだ。
なんで逃げているのかって?
調が俺の名前を呼び捨てにして呼びかけて来るのが凄まじく胸にくるのだ。
こう、込み上げてくる気持ちが一体なんなのか、最初は分からなかったけど、少しづつ気付いて来た。
母ちゃんにも聞いたけど、多分あってる。
これが”恋”なんだって。
俺の名前を二回目に呼んだ時の調はとても綺麗で、可愛くて、甘い匂いがした。
あの笑顔は正直反則だと思う。なんていうか、つつじの花の蜜を吸った時みたいな、甘い匂いが俺を包んだような、もしかしたらつつじの花なんかより甘いかもしれい。
……俺、本当にどうしたんだろう?本当は調の近くに居たい。傍に居て笑い合いたい。傍で……傍で……。
「お、落ち着け俺!俺は長男だろ!?しっかりしろ!」
調の近くに居たいのにあの声で、あの表情で笑い掛けられたら俺はどうしようもなく、恥ずかしいというか、ムズムズするというか、苦しいというか、我慢できないのだ。
それで調の匂いが近付いてきたら最近は逃げてしまうようになった。
何、逃げているんだ俺はぁー!!
禰豆子の言う通り、このままでは調の心が傷ついてしまう!!
優しい調の事だから俺が理由も無しに逃げているとは考えないだろう。
多分、風邪を引いて移さない様に避けてるとか思っているかもしれない。(その通りである)
そんな調を俺は今、避けている。物凄い罪悪感でいっぱいである。
俺は……俺は……このままじゃダメだ!
パァーンッ!!
俺は自分の両頬を引っ叩いた。
このままじゃ本当にいけない!何より、調に嫌われたくない!!
俺は長男なんだからしっかりしないと!こんなんじゃ竹雄や、茂の見本になれない!
そうだ!今なら梅の花が綺麗に咲いている場所があったハズだ!
炭を売りに行く途中に見かけたから間違いない。
そこに調を連れて行ってあげよう。そして、今の俺の気持ちを伝えるんだ。
そう決心して、俺は相部屋に向かった。確かそこで花子と茂におとぎ話と言うのを話してあげているハズ。
大体この時間は調がそうしたいからそうしてるって前に言っていたから。
そうして相部屋に着く。とにかく深呼吸して心臓を落ち着かせる。
竈門炭治郎!行きます!!
「あの!花子、茂。調、居るか?」
そう言いながら襖を開ける。
するとそこには居るハズの花子と茂が居なかった。
そこに居るのは調だけ。どうやら眠っている様だ。
壁に寄り掛かってひざ元にはひざ掛けがかけてある。眠っているからかけてあげたのだろう。
今は縁側から春になったばかりの優しい日差しが調を照らしていた。
その光景がとても調を輝かしく、綺麗に見える様にしているかのようだった。
元々、調は整った顔立ちをしている。笑いかけられるとホッとする様な、ほわほわとするのだ。
調の近くによってスンと匂いを嗅いだ。
やっぱりというか、調からは優しい花の香りがする。前に通りがかりで見かけた山百合の様な匂いだ。
ふと、俺は調の口元を見た。化粧をするのに早い年だと思うけど、調の口はほんのりと桃色の様な色をしている。
俺は自分では分からなかったが、その口を見つめていると唾が口の中で溜まってしまい、ごくりと飲み込んだ。
そして、無意識に……調の頬に手を添えて、自分の口と調の口を合わせた。
ふにっと柔らかい感触にビックリして慌てて離れた。
すると調が起きる気配がして改めて姿勢を正す。
調が少しずつ目を開けて俺をその目に移した。すると……
「あ……たん、じろ……?」
ふにゃりと微笑む調。甘えている様な、嬉しいような匂いをさせて俺を見つめながら俺の名前を呼んだ。
「調……」
そっと膝に置いてあった手を掴む。
「今までごめんな。ちょっと俺の気持ちというか、色々あって調に顔を合わせられなかったんだ」
「…………」
そう調を見つめていると調の目から水滴が一筋、流れた。
「……あ」
「たんじろ……」
スンと調が鼻をすすった音がした。泣いている。
「た、んじろう……さびしかった」
「!!」
思わずまた唾を飲み込んだ。こんな、泣くほど寂しがらせていたなんて!!
「調、ごめん!ごめんな!」
「ううん、もう、良いの。だって……」
今こうして会いに来てくれたから。そう言って。
もうそんな言葉を聞いてしまったからなのか、俺の思考はどうなっていたのか、今では分からない。
「調、俺。俺は、調が好きだ」
「え?」
こつっと額をお互いにそっとくっつける。
握っている手から、額から、調のぬくもりを感じる。
目線を合わせると調が笑いかけて来た。俺も釣られて微笑む。
一度、額を離して見つめ合うと、調が
「私も、炭治郎の事が好きよ」
そう言ってぎゅっときつく目を閉じ、調から香る幸福と愛おしいと想う気持ちを感じ取り、言いようのない幸福感を得ながら、お互いに目をつぶる。そしてまた口に柔らかくて温かい感触がした。
ちゅ。
そんな小さな音さえ聞こえる静かな空間。
お互いに顔が熱くなっているのが分かる程近くで少し離れたけれど、もう一度口を合わせる。
ちゅ、ちゅ。
口を合わせる度そんな音が聞こえるが、とても幸せな気持ちになる。調もそう感じてくれたら嬉しい。そう思う。
どの位時間が過ぎたのか分からないけれど、ずっとついばむ様に口を合わせた。
そうして顔を離した。お互いを見つめ合っていたら、まるで熟した林檎の様な赤さだ。
何故だか言葉はいらなかった。そっと調を抱き寄せてもう一度だけ伝えたくて言った。
「調、好きだ」
「……私も、好きです」
二人でそう言って抱き合う。凄まじい程の幸福感が俺達を包んでいる気がした。
…………だけど、そんな幸福感って意外と続かないんだなって思った。だって
「あーのー、もしもし?」
「「!?」」
バッと勢いよく離れる。するとそこには……
「炭治郎?場所をちゃんと選ばないとダメよ?」
「お兄ちゃんも調姉さんも……大人なのね……」
そこに居たのは母ちゃんと禰豆子だった。どうやら俺達の様子が気になって来たとの事らしい。…………。
「い、いつから居たの!?」
「それを言ってしまったら調が可哀相だから言わないわ」
俺が母ちゃんたちと話していると途端に花の香りが離れて行った。
それに気が付いて後ろを振り向くと、調がいつの間にか縁側近くで土下座の様な恰好をしてこちらに向いていた。
「ご、ごめんなさい!」
そう言って調は小走りで去って行ってしまった。そんな姿も可愛いと思ってしまう俺はきっと重症だろう。
「気持ちは落ち着いた?」
「……うん」
恋って正直、最初は分からなかったけど理解と言うか、感じた事は愛おしい人の傍に居たい、いつまでも。そう思う。だけど……
「もっと早く声をかけてくれ!」
「かけてほしかった?」
「うっ」
恋ってやっぱり難しい。
きっすする10歳くらいの子供達……。
お前ら年齢考えろ!!年にふさわしい恋愛しなさいよ!!
なんなんだよ!書いてるこっちが恥ずかしいわ!!
これだから炭治郎は!これだから!!チキショーめ!!