ここは……どこだろう。
わたしは真っ暗な世界から目覚めると、まずそう思った。
「あら、起きた?」
「…………?」
顔を少し横に傾けると紫の瞳をした綺麗な女の人が居た。
その隣には眠っているらしい小さな女の子。
わたしはこのままでは失礼だと思って起き上がろうとしたけど、身体のあちこちが痛くて起き上がれなかった。
起き上がろうとしたのが分かったのか、女の人に優しくわたしの肩に手を置いて、使っているお布団に寝かされる。
「あの……」
「ん?何かしら」
「ここはどこですか?わたしは一体……?」
「ああ、此処はね…「母ちゃん」ん?」
ふと、襖の向こうから男の子の声が聞こえてきた。
「どう?あの子、目が覚めた?」
「ええ、目が覚めたよ」
男の子だけど入れてあげてもいい?っと聞かれたので、こくりと頷くと、ありがとうって言われた。
襖が開いて入って来たのは綺麗な赤い髪で赤い目の男の子。
女の人の隣に座ってわたしを見つめてきた。
なんだろう……。初めて…初めてだよね?会ったのに、胸がとくとくと早く打ってる感じ。
顔も熱くなる。なんでだろう?
「おはよう」
「あ……おはよう」
「君は川の端に流れ着いてる所をおれが見つけたんだ。流された時に身体を打ってるかもしれない。大丈夫?」
ああ、だから起き上がろうとしたら身体が痛かったのか……。
でも、この男の子に悟られたら心配をかけてしまう。
それがなぜか申し訳なくて、半分だけ嘘をついた。
「うん……大丈夫」
起き上がらずに寝ていれば痛くないので平気。っと言うと
男の子はきょとんとした顔をした後、じっと私を見つめて
「本当?」
すごい真剣な顔をして見つめて来るから恥ずかしくって掛け布団を顔の半分まで持ち上げる。
「本当だよ?」
そんなわたし達の様子を見ていた女の人は
「炭治郎、そんなに女の子の顔を見つめないの」
そう言われて男の子は顔を赤くしてごめん!っと言うと慌てて視線を逸らした。
わたしの顔も自分でも分かる位、熱かったからなのか、女の人はわたしの頬を撫でて、額に手を置いた。なんだろう?
「顔が赤いね。熱は……ちょっとあるかしら?」
「え?あの、えっと……」
多分、原因は男の子……。でも、何故か恥ずかしくって言えなかった。
「え!大変だ。母ちゃん、確か戸棚の一番上に薬あったよね?」
「うん、炭治郎、悪いけど念の為に取って来てくれる?」
「わかった」
そう言うと男の子が立ち上がって部屋を出て行こうとした時、切ないというか寂しくなった気がした。
「あ……」
「ん?」
そのわたしの小さな声が聞こえたのかな?男の子が振り返って、改めてさっきと同じ場所に座って、私の手を握ってくれた。
「大丈夫。おれはどこにも行かないよ」
だから、そんなに寂しがらないで。
そう言ってしばらく微笑んでいた男の子はわたしが落ち着いた様子を見て部屋を出て行ってしまった。
なんでわかったのかな?わたしが寂しいって感じた事。
えっと、こういう時、えすぱー?っていうんだっけ?……誰から教えてもらったんだろう……思い出せない。
そんなわたしの様子を見ていた女の人は、あらあらと、言って微笑んでいた。
「そういえば、名前を教えてなかったわね。私は葵枝。寝ているこの子は禰豆子っていうの。貴女の名前はなんていうのかしら」
そう言われて、ふと思い浮かべてみる。でも……
「あ、あれ……?」
「どうかした?」
名前、名前、名まえ、なまえ、な ま え……。
「わたし、なまえ、なんていうの……?」
そして、最後に私は意識を失う時に同時に思った事は
わたしは……だぁれ?
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襖がそっと開かれる。
「薬持ってきたよ」
そう言って部屋に入った炭治郎は、また眠りについている所を見て、見つけて来るのが遅過ぎたかな?と眉を顰めて母親の葵枝に顔を向けた。
「あ、炭治郎。大変」
葵枝が炭治郎に気が付くと少し慌てている様だ。
「ど、どうしたの?」
その様子にビックリした炭治郎は聞き返す。
「この子、記憶喪失みたい」
「え」
ええー!!っと炭治郎の驚いた声が山に響き渡ったのであった。
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あの男の子の絶叫の後に目が覚めて、葵枝さんがちょっと出てるわね。っと言って部屋を出て行った。
「あの大きな声って貴方の声だったのね」
「あははははー…、驚かせてごめん……」
でも、まさか記憶喪失だとは思わなかったよ。って言われた。
そう、わたしはどうやら起きた時から前の記憶がないみたい。
それはなぜなのかと、考えると頭が痛くなるので止められた。
「でも、名前も分からないのは不便だね」
「うん、どうしよう」
二人でむむーっと悩んでいると襖が開かれて葵枝さんが入ってくる。
「あら、二人共同じ様な格好して、仲良くなったのね?」
ふふふっと笑われて思わず顔が熱くなる。ちらっと男の子を見ると目が合った。
直ぐに視線を下に向けたけど、見間違いかな……男の子も顔が赤かった気がする。
すると、また葵枝さんの笑う声が聞こえたけど、葵枝さんが持っている物を見て固まってしまった。
どこかで見た事がある着物。なんだろう……懐かしい様な気がする。
「この着物は貴女が着ていた物なのよ?」
ああ、だから懐かしく感じた訳だと納得した。
「後、ここを見て?」
そう言われ葵枝さんの手を借りて起き上がり、覗き込む。
「ほら、ここに”四季森調”って縫ってあるでしょう?貴女の名前じゃないかしら?」
しきもりしらべ……四季もりしらべ……四季森しらべ……四季森調!
名前をしっかり心に刻むと、一瞬だけ頭痛がしたけど直ぐに収まった。
そうだ。自分の名前は四季森調だ!
「はい、”私”の名前です。そっか。四季森調っていうのね」
今度は無くさない様にとさっきよりも強く名前を刻む。
「そうか、君の名前は四季森調っていうのか。良い名前だね」
「ありがとう。あの、貴方の名前はなんていうの?」
そう言うと男の子はまたきょとんとした顔をして、あれ?っと首を傾げた。
「あれ?言ってなかったか」
「うん」
「”俺”は竈門炭治郎っていうんだ。よろしく、調」
これが私と炭治郎の出会いだった。