あれから大変だった。
隣の山まで山椿さんは確かにゆっくり走っているのに全く追いつかない。
何度も転んだ。ブーツも脱いで、はしたなくても裸足になって走った。
もう息も浅く吸って吐いてを繰り返す。気力だけで走ってた。
そうして山まで着くとへたり込み、息を整えていると山椿さんは言った。
「へぇ?意外や意外。ただのお嬢様かと思ったら根性あるじゃないか」
顔はニヤニヤと見つめて来ているのだけど、その目は見定めようとしているみたいだった。
息を整えていると、私達家族を襲った”鬼”について教えてもらった。
ヤツらの主食は人間。食べれば食べる程強くなる。
普通の刀等で切り付けても、心臓をつぶされても、直ぐに再生してしまうんだとか。
チートか!これって人間には無理ゲーというモノでは??
なんて思っていると、鬼は基本夜にしか活動しない。
何故なら日の光はヤツらには猛毒、消滅させられる天敵なんだそうだ。
だからこそ、特別な太陽の力を宿した金属で作る【日輪刀】という刀で弱点である頸を切れば良いらしい。ふむふむ。
そして、山椿さんは私にこの修行に付いてこれたら最後にあるモノを教えてくれるんだって。
絶対にやり遂げて見せる!……とにかく今は息を落ち着かせないと。ぜひー。
「もう少し休んだら、ちょっと特殊な家に入ってもらうよ。まぁ、あんた位なら明日の昼には出て来れるだろう」
そう言って、言葉通り少し休んだ後、山椿さんに付いてきな。っと言われて付いて行く。
しばらく歩くと古い一軒家に着いた。
「ちょっくらごめんよ」
そう私に声をかけて腰に手を回され抱き上げられて、二階の開いていた窓まで飛び越えていた。
物凄い腕力と跳躍力である。
「さ、入った入った」
そこはミラーハウスさながらの造りになっていた。
どこを向いても鏡、鏡、鏡。
この時代の鏡って貴重じゃないの?なんて思っていたら、山椿さんはいつの間にか消えていて、窓の外を見ると既に外に居てこちらを見上げていた。
「じゃぁ、私は帰るからー。初めてな訳だし、窓のすぐ横に長いしめ縄や、おはじき等あるから考えて使いなー。夜はちゃんと明かりを付けに来てやるよ。とりあえず明日の昼にはこの家を出る事。わかったかい?」
じゃぁ、がんばれー。っと私に後ろを向いて立ち去ってしまった。
……マジかよ。
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あれから半年経った。
最初は山椿さんの言う通り道具を使ってミラーハウスを脱出した。
翌日の昼ギリギリである。この特訓は半日使い、後は体力作りの為の柔軟や、走り込みをした。
ん?そんな月日が経っているならミラーハウスは脱出も簡単だろう?いやいやいや、そんな訳あるかい。
あの家、玄関の横にある歯車を回すと中の鏡の位置が変わるんだよ。
しかも使っていた道具も日にちを置いて一個づつ無くなっていくし、最後は自分の直感等で何とかしないといけない。
何より最悪に感じたのはハズレがある事。
ハズレとは勿論罠。
殺傷力はあまりないけど、おちょくってんのか!っていう罠ばかり。
タライが落ちてきたり、明らかに罠!っていう紐を見つけて避けると、釣り糸で吊るされたこんにゃくが顔面を直撃とか。
最初はええい!邪魔ぁー!ってムカムカしてたら、落とし穴に嵌まるとかね。
正になんでやねんだったよ。
まぁ、おかげで予想外な事に強くなったというか、直感も鍛えられたというか。
ミラーハウスに慣れてきたら柔軟の他に、刀を持って素振りをしたり、瞑想したり。
なんだか剣道部に入ったような気分になったよ。
まぁ、剣道部みたいな健全なモノではないけれど。
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もう半年経った。
刀の使い方や、山椿さん相手に稽古したりした。
むむむー、流石山椿さん強い。
そりゃぁ、簡単に勝てるだなんて思いあがった考えはしてないけど、一撃くらい当てたい。
それに慣れてくると相手の動きも分かって来た。
山椿さん、一か所の場所から片足が動いてない。
漫画みたいな事本当に出来るんだ!ってちょっと憧れた。
山椿さんにそういう事は、どうすれば出来るようになるか聞いてみた。
「ははは、それはまず、その片足を動かせる様にさせてから聞くんだな」
なんて言われた。ですよねー。
それから二か月程経つと、私は初日に教えてもらった最後のあるモノ、【呼吸】を教えてもらえるようになった。
この【呼吸】は鬼を倒すため、身に付ける操身術なんだそうだ。
あれ、でも私はまだ山椿さんの片足動かせてませんけど?
そう言うと
「いや、あんたは呼吸も覚えないと、私を動かす事は一生出来ないだろうからね。いやー、私が強いばっかりに!ごめんね!」
煽ってる、煽ってるよ、この人。なんていうか子供っぽい所あるよね。
はぁ、へーじょうしん、平常心。
仕方ないなぁ、もうこの人は。
そうして、私は呼吸の方法を教わるのでした。
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あれから四か月経って山椿さんと出会って一年と半年。
いきなり出かけるから用意するように言われた。なんだろう?
出かけた先は霧に覆われた空気の薄い場所。
なんだか遠くでドコンバコンって聞こえるけど、何々??
思わず冷や汗を掻いてしまったけど本当になんなんだろう。
しばらく歩くと一軒の家が見えて来た。
山椿さんが声を掛ける。
「おーい、鱗滝さん。居るんだろ?山椿が来たよ!」
鱗滝さん?山椿さんのお友達だろうか?
そう思って待っていると中から天狗のお面を付けた男の人が出て来た。
「相変わらずの様だな。山椿」
「相変わらずじゃない私は私らしくないだろう?」
それもそうか。っとため息を吐く鱗滝さん?なんで天狗のお面なんてしてるんだろう?
ふと私と視線が合う。
「その子は?」
「私のこどもだよ」
へあ!?
「いえ!私は決して山椿さんから産まれた訳ではなく!!」
「「そんな事は分かってる」」
「え……」
二人一緒にハモって言われてしまった。恥ずかしい……。
「弟子って意味だ」
なるほどー。
「で、鱗滝さんのとこのはどこに?」
「今、山の中を走っている所だと思う。本当は”岩”を切るように言ってあるんだがな。恐らく気分転換だろう」
え?岩を切る……?岩って切るモノだっけ?
「ああ、最終選別に向けてだね?」
「ああ」
二人で話してたのにまた二人で私を見る。な、何?
「鱗滝さん、この子にも挑戦させてみたいんだ。仲間にいれてくれるかい?」
「別に構わんが、そこまで強くなっているのか?」
「意外や意外。呼吸の特徴を事細かく聞いて来るからね。理解は出来ているハズさ。後は実際にやらせればいいんだが……コツさえ掴めたらって感じだね」
「なるほど、つまり、刺激が欲しい訳か」
「そういう事」
うう?なんだか私にとって雲行きがヤヴァイ感じ?
「さぁて、楓。一丁その根性を見せてもらおうかね?」
ああ、調。お姉ちゃん、何をさせられるんでしょう?怖いです。
…………運命の出会いはもう少し。
まだ水の呼吸兄弟弟子達が出ません。
はよ出てこーい!